CLOSE

地球環境と宇宙太陽発電 ~宇宙から地上へエネルギーを送ろう~(全7記事)

人工衛星はどうして墜落しないのか? JAXA研究員が、知っているようで知らない衛星の仕組みを解説

2017年8月3日、東京ウィメンズプラザにて、公益財団法人 日本環境教育機構が主催するセミナー「地球環境と宇宙太陽発電〜宇宙から地球へエネルギーを送ろう」が開催されました。講師を務めるのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて宇宙太陽発電の研究を行なっている田中孝治氏。未来の発電システムとして注目を集める宇宙太陽発電の仕組みと、その可能性について解説します。宇宙太陽発電とは、宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げ軌道上で発電をし、その電力を地球に送るという壮大なスケールの発電システムです。はたして、実現することは可能なのか? ロマンあふれる宇宙工学の世界を紐解きます。

宇宙に作る発電所、太陽発電衛星

田中孝治氏:JAXA、宇宙航空研究開発機構の宇宙科学研究所から来ました、田中と申します。よろしくお願いします。

こういう機会を与えてくださり、日本環境教育機構様、どうもありがとうございます。

今日のお話はこちらに書いてあります、「宇宙環境と太陽発電衛星」に関してです。太陽発電衛星というのは聞いたことがありますでしょうか? 宇宙に作る発電所になります。この紹介をさせていただきたいと思います。

今日のお話の内容なんですが、最初に少しJAXAの紹介をさせていただきたいと思います。その後、人工衛星の説明をさせていただき、次に、なんでわざわざ宇宙に発電所を作らなければならないのだろうか、なぜそういう研究をしているのかというその背景を説明させていただいて、その後に、太陽発電衛星の説明をさせていただきたいと思います。

まず最初に、JAXA、宇宙航空研究開発機構の紹介をさせていただきたいと思います。JAXAは2003年に宇宙3機関と言われている、筑波にありましたNASDA、ご年配の方はわかると思うんですが宇宙開発事業団のNASDAと、あと相模原にありました宇宙科学研究所、それと調布にありました航空技術研究所ですね。

この3つの機関、宇宙3機関ということで統合して、独立法人として2003年にJAXAが発足いたしました。そして2015年に国立研究開発法人となりまして、こういう経営理念を掲げて業務に取り組んでいるということであります。

どんなことを行っているかと言いますと、1つは宇宙科学に関する技術研究、人工衛星等の開発、人工衛星等の打ち上げ、追跡、運用、あと研究者、技術者の養成や大学院教育などを行っております。

こちらの日本地図は、JAXAのいろんな拠点を示しております。たぶん、一番有名で大きなところとしましては、筑波にある筑波宇宙センターです。あとは、北は秋田から沖縄まで、いろんなところに施設があります。その中で有名なところとしましては、種子島にあります種子島宇宙センターです。これはたぶん、時々ニュースにもなるのでみなさんご存じではないかなと思いますが、写真にありますように、H-IIAロケットの打ち上げ等を行っている施設であります。

JAXAにあるさまざまな施設

それと、日本には人工衛星を打ち上げる施設が2ヶ所あるんですが、1ヶ所は種子島宇宙センター、もう1つは何県にあるかご存知ですか? ご存知の方、いらっしゃいますでしょうか? もう1ヶ所も実は鹿児島県にあります。

もう1ヶ所は、「イプシロンロケット」というのが最近よくニュースで取り上げられていると思うんですけど、イプシロンロケットの打ち上げを行う打ち上げ所が、ちょうど種子島の向かい側に。大隅半島の端の方に内之浦というところがあるんですけれど、そこに内之浦宇宙空間観測所というJAXAの施設がありまして、そこでも人工衛星等の打ち上げを行う拠点があります。

あと、ちょっと変わった施設としましては、長野県の臼田というところに64メートルの非常に大きなパラボラアンテナがあります。こういう大型パラボラアンテナを用いて、例えば、はやぶさですとか、あかつきですとか、非常に遠くにいる探査機と通信を行ったりする施設もJAXAにはあります。

あと、私が勤務している相模原の施設をちょっと説明させていただきたいと思うんですけど、宇宙科学研究所という部門は相模原のキャンパスにあります。なにをやっているところかと言いますと、飛翔体を用いた宇宙科学が1つ、もう1つは大学院教育ということも担っております。平成15年度から総研大に参加しまして、大学院生を受け入れ、教育活動も行っているという部門であります。

飛翔体を用いた宇宙科学ということなんですが、具体的にどんなことかと申しますと、これはイプシロンロケット、あるいは気球を使ったり、小さなロケットなんですけど、人工衛星を飛ばすのではなくて、高度100キロあるいは300キロくらいまで飛んで行って、科学観測を行うというような観測ロケットを使って惑星探査機や科学衛星を打ち上げて、飛翔体と言われるものを使って科学を行う、こういうことを宇宙研では行っております。

ということで、ここまでがJAXAと宇宙研の紹介で、ここから本題に入っていきたいと思います。

人工衛星が地球の周りを回っている理由

まず最初に、人工衛星についてご説明させていただきたいと思います。みなさんよくご存知だと思うんですけれど、人工衛星はなぜ地球の周りを回っているのかご存じでしょうか。もし地球が平らだったとしたら、地面と平行に物を投げた場合に、例えば大谷投手が160キロの剛速球を投げたとしても、いつかは地面に落ちてしまいます。

それは、「万有引力の法則」にしたがって、地球から下向きに引っ張られているからですね。どんなに速い速度で物を投げたとしても、地表が平であったら放物線を描いていつか落ちてしまいます。ですが、みなさんご存知のように、地球は球形をしています。

(地球の模型を持ったスタッフがスライドの前へ)

地球は球形をしているんですけど、ちょうど上手い具合にある速度で打ち出してあげると、地球は丸いので、物体が地面に向かって落ちてくるんですが、そのちょうど落ちてくるのと、この地球の曲面が合うような速度で物体を投げてやると、放出された物体というのはいつまでたっても地面に落ちることはありません。

ちょうど上手い速度に調整してあげると、地球の周りをグルグル回る、ということになります。それで人工衛星は地球の周りを、地面に落ちることなくグルグル回っている。これは月も同じですね。

それがどれくらいのスピードかというと、例えば国際宇宙ステーションの場合ですが、国際宇宙ステーションは高度400キロメートルくらいのところを回っている物体なんですけれど、400キロメートルくらいのところで、秒速7.67キロメートルのスピードで物を投げてあげると、グルグルと周回することができます。

そして、約36,000キロメートルのところで秒速3キロメートルくらいで物を投げてあげると、その場合も36,000キロメートルくらいのところでグルグル回るんです。そのとき地球の周りを回る時間、1周する時間が約24時間になります。約24時間というのは地球の自転速度と同じということになりますので、地面にいる人から見ると、あたかもこの36,000キロメートルを飛んでいる物体は、いつも自分の真上に止まっているように見えます。こういう軌道を「静止軌道」と呼んでいます。

静止軌道の衛星の特徴

人工衛星はここに書いてありますように、いろんな軌道を飛んでいます。例えば、地球を観測するような人工衛星というのは、地球の表面をくまなく撮影したり観測したりするために、極軌道と言われる北極や南極上空を通過する軌道を使います。

(田中氏、地球の模型を使って説明)

こちらが北極ですね。こちらが南極です。こういうふうに極軌道と言われるような軌道を、観測衛星はとります。

これに対して静止軌道を使う衛星は、赤道上空36,000キロメートル、だいたいこれくらいですね。地球の半径の6倍くらいのところですね。赤道上空にあって、グルグルと回転はしているんですが、地球と同じ速度で回転しているので、地面の人から見ると同じ位置にあるように見えます。さらに、地球の地軸は23度傾いています。

傾いているとどういうことになるかと言いますと、例えばこちらにお日様があったとします。お日様の光が当たると、こちらの面は昼間ですね。人工衛星も昼間ですから、人工衛星にも当然、お日様が当たるんですけど、これがぐるーっと回って向こう方に行ったとしますと、こちら側は地上夜でお日様の光は当たりませんが、静止軌道上の人工衛星には届きます。

(別のスタッフが田中氏から模型を受け取る)

(会場笑)

こちら側から光を当てますね。するとこちらの面が昼になって、先ほど昼だったところが夜になります。

地軸が傾いていないと、このように人工衛星も地球の影に隠れてしまうんですけど、地軸が傾いていますので、地球の影から人工衛星が出ていることになります。そうすると、静止軌道を回っている人工衛星というのは、常に日照が得られるという特別な環境になるます。常に自分の頭の上にあって、いつも日照を得られる。そういうことが静止軌道の特徴ということになります。

昔の人工衛星と今の人工衛星

それで、もう少し人工衛星の紹介をさせていただきたいと思いますけ。人類最初の人工衛星、これはみなさんご存知だと思うんですけれど、1957年に打ち上げられた「スプートニク1号」です。球形で、だいたい60センチ、先ほどの球体より1回り大きいくらいですかね。それにアンテナが付いているような形をしているものです。

この人工衛星には通信機が積まれているんですけれど、この通信機を動かすために、スプートニク1号の場合は一次電池といわれるもの、一次電池というのは乾電池みたいなもので、1回使うと終わってします。一次電池しか積まれていなかったので、この衛星に搭載されている装置というのは20日くらいしか動作しませんでした。

わざわざ人工衛星まで打ち上げて、たった20日しか動かないというのはなかなか大変なので、その翌年打ち上げられた「ヴァンガード1号」、この衛星が世界で最初に太陽電池を搭載した衛星なのですが、太陽電池を搭載することによって、6年以上も長く搭載機器を動作することが可能になりました。人工衛星が打ち上げられた次の年から、宇宙で発電をして、その電気を使う、というような仕組みが使われています。

現在の人工衛星はどうなっているかって言いますと、昔の人工衛星はボディマウント方式と言いまして、人工衛星の構体に直接太陽電池が貼られていました。ですけど、太陽電池を取り付ける面積が限られてしまいますので、最近の衛星ですと太陽電池を貼る専用のパドルが用いられます。これは小型衛星の例なんですけれど、小型衛星でも、ソーラーパドルという太陽電池専用の板を用意して、この衛星の場合は自分で姿勢制御をして、この太陽電池パドルを太陽方向に向けて発電をします。

大きな衛星になりますと、この太陽電池パドルを動かす回転軸がついていて、太陽指向するソーラーパドルを装備して、電力を発生する装置が組み込まれている衛星が主流です。これは特殊な衛星でリフレクターというものがついていて、世界初じゃないんですけど、一応日本で一番最初の反射板付きソーラーパドルです。これは私も参加して実験を行いました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!