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クックパッド株式会社庄司さん講演(全1記事)

「エンジニアのための制度」は作りたくない クックパッド技術部長が人事を兼任してまずやったこと

2017年2月17日、人事とITをキーワードに、エンジニアリングやテクノロジーに関する理解を深めるためのイベント「人事 to IT カイギ」が行われました。第1回目のテーマは「エンジニアのキャリアパスとしての人事」。本パートでは、クックパッド技術部長の庄司氏が人事部長を兼務することになった経緯について紹介しました。

クックパッドで技術部長と人事部長を兼任

庄司嘉織氏(以下、庄司):藤本(真樹)さんのありがたいお話のあとで恐縮ですが、自己紹介から。庄司嘉織といいます。だいたいGitHubやTwitterやFacebookで「yoshiori」で検索すると出てくるので、よろしくお願いします。

技術部長と人事部長を兼任しています。今日は人事部長の立場として来ました。藤本さんがやらなかったのでこれをやるのは恐縮なんですけれども。(挙手をしながら)クックパッドを知っている人? 

(会場挙手)

良かった。藤本さんのときと違って、僕のときはみんな手を挙げてくれるよ。

(会場笑)

一応クックパッドについて説明すると。だいたい知ってると思うんですけど、258万品のレシピが載っていて、今、月次利用者数が6,300万人を超えているサービスです(2017年2月時点)。課金していただいている有料会員さんが192万人(2017年2月時点)みたいな感じで、このへんの数字はよく目にすると思うのであまりおもしろくないんですけども。

実は世界にクックパッドが進出しているのはあまり知られていない気がしていて。一応それを紹介しておくと、17の言語で60の国に対応しています(2017年2月時点)。実は。

これ、言葉と国を分けているのにはちゃんと理由があります。普通のWebサービスって、言葉だけ対応すればいいんですよ。でも、レシピというか「食」って、言葉を対応しただけだとだめなんですよね。同じ英語を喋っても、アメリカ人とイギリス人はぜんぜん違うもの食べているんですよ。

とくに中東のほうにいくと、同じ言葉を喋ってても、その人たちには豚肉の料理とかお酒が入ってる料理を見せてはいけないとか、けっこう国によって違いがあるので、国単位とか言語単位で出すレシピを分けたり、いろいろやってます。

じゃあ、世界に展開してるってどんな程度なんじゃいというと。imilarWebというので、「cooking and recipes」「worldwide」……つまり「世界」で調べると、一応トップはcookpad.comだよ、というぐらいは世界進出してます。

会社の現状は人事の当事者になってはじめて変えられる

という感じでそれを踏まえて人事部長の話です。

キャリアという話で藤本さんがめっちゃ前向きな話をしてるなか恐縮なんですけど、僕、人事部長を打診されたときに最初は断りました。理由はすごい単純で、僕、エンジニアなので。

エンジニアやってるとき、エンジニアわかんない人が急に上に立って偉そうなこというと、だいぶムカつくじゃないですか。同じように、人事わかんない人間が人事の上に立つのは、絶対ムカつくよな、それやだなーって思って。

さらにそういう違う畑の人が入ってきて、なんかやったら、「前の体制の否定か」「前やってたことの否定か」とか言われるし、なんにもやんないと「こいつ結局なんもしてねえな」って言われるし。「あれ? これどっちにしてもマイナスなんじゃね?」と思ったんです。

あとは、やはりエンジニアなので開発がしたいなと思って。すごく悩んで、実は何回か断ったんです。

結局なんでやったかというと、「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞)のサイトで、任天堂の岩田(聡)社長のインタビューがあって、それを読んだんですね。任天堂の岩田社長って、実はすごいハッカーなんですが、みなさん知ってます? まあいいや、その話は長くなるから。

その岩田さんの記事ですごい感銘を受けて、「かっけーな」って思ったのがありました。

どういうことが書いてあるかというと、誰かの役に立ったり、誰かが喜んでくれたり、お客さんがうれしいと思ったり……それはなんでもいいんですが、「当事者になれるチャンスがあるのにそれを見過ごして『手を出せば状況がよくできるし、なにかを足してあげられるけど、大変になるからやめておこう』と当事者にならないままでいるのはわたしは嫌いというか、そうしないで生きてきたんです」と言っていて、かっこいいな岩田さんと思ったんです。

よくよく考えてみるとけっこう状況似てるなとも思ったんです。

やっぱり「うちの会社は最高だぜイエーイ!」「なにも問題ないぜ!」「文句ないぜ!」という人って少ないと思うんですよ。「会社にいろいろ不満あるな」「ここをこうしてくれたらいいのにな」というのを、人事部長になるのって変えられる、まさに当事者になれるんだな、と思いました。

「自分が変えていけるというのに、“大変になるからやめとこうという決断を、今俺は本当にしようとしてるんだな」と思って。そして結局、当事者になる決意をして、人事部長になりました。

日本のHRTechはけっこう発展している

エンジニアが人事部長になるって話だと「もう絶対欠かせない!」という話題があって。先ほどもちらっと出てきたと思うんですけど、「HRTech」というものがあるんですが、みなさんご存知ですか?

HRTechは、実は最近けっこう聞くようになったんだけど。実は1998年あたりからHR Technology Conferenceというのが開かれてたらしいです。僕は人事やるまで一切知りませんでした。

たぶん採用系の有名どころでいうと、IndeedとかWantedlyさんとか。あと労務管理系だとSmartHRとかそういうのがあると思うんだけど、日本だと。あと2015年には実はリクルートが海外のHRTech分野への投資に特化した合名会社を作ってたり。日本は「日本はまだまだ後進国」「ガラパゴス」とか言われているんですけども、実際はけっこう発展してる。

Indeedとかただの採用ツールって思ってたんですけど、そうではなくてけっこういろいろテクノロジーを使ってるなって思いながら。

「でもただの人事のIT化では? HRTechとか言ってるけど」「なんかかっこいいこと言ってるけどただのIT化では?」みたいに思ってたんだけども、1つ、すごくかっこいいのがあるんです。IBMの「Kenexa」って知ってる人?(挙手をしながら)

(会場挙手)

お、けっこういた。これ、けっこうすごくて、本当にHR系のやつなんですけど……。日本語でいうと愛社精神的な言葉になって、なんだか胡散臭くなるので、エンゲージメントってそのまま書いたんですけども……その強化とかですね。

あとリーダーの育成。「この人実はリーダーに向いてますよ」とか、人事データの分析とかをあのWatsonでやってるんですよ。それで「これはけっこう楽しそうだぞ」と。実際にこれを本当に導入して、社員のエンゲージメントも売上も実際に上がったデータも出てるんです。「これ、HRTechっぽいな、かっけーな」って思いました。

「エンジニアのための制度」は作りたくない

そして「実際お前はなにをやったの?」って話でいうと、2016年6月から人事部長になり、最初は本当になんにもわかりませんでした。「とりあえず人事部長です」っていったんだけど、なにやったらいいんだろう……みたいな状況だったんです。

一応断っておくと、今から発表するものは僕だけがやったわけじゃないです。人事部のメンバーとか周りの人たちの協力があったから実現できたことです。

とくに僕は人事のことは本当になにも知らなかったんで、周りの人がいろいろ教えてくれたから実現できました、全部。今からいうんだけど「半年でそれだけかよ」って言われるとつらいので言わないで、という。

なにをやったか、だーって挙げてくと、コアタイムの廃止、リモートワーク(トライアル)、海外チームとの連携や新卒通年採用、エンジニアの面接官の拡充、Rubyのコミッター採用など、いろいろやってます。

「海外チームとの連携ってなに?」って話なんですけども、先ほど紹介したようにクックパッドって実はすごく世界展開してるんですよ。なので世界中のエンジニアを雇わなきゃいけないんだけれども、今まで人事って、そこにあまり絡んでなかったんです。それで「これはまずいな」と思って、実際に行ってきました。

(スライドを指して)これ僕なんですけども、ベトナムに実際に行ってきて、Googleのカンファレンスがあったので実際に行きました。

「ベトナムのエンジニアってどんなもんなんじゃい」というのを自分で見てこないとわかんねえなと思ったんです。僕、英語はぜんぜん喋れないんだけども、がんばってなんとかコミュニケーションしていろいろやってきたり。上の方は僕じゃないんですけども、人事部のメンバーがインドで学生の採用をやる。

インドってなんだっけな……カースト制度かなにかがあって、生まれてから就ける職業って決まってるらしいです。でもIT系の職業ってカースト制度ができたときには存在してなかったんで、誰でもなれるんです。

だからインドでのし上がるにはエンジニアになるしかないみたいな感じで、けっこうみんな野心的で勉強家なエンジニアが多いみたいな話だけ聞いてたんで。「じゃあ実際に行ってみて確認しようよ」と行ったら、「なんかすごいところを歩かされたりして大変だったよー」って言われました。本当にありがとうございます、という感じです。

コアタイム廃止なんですけども、これ、けっこう考えてやりました。実はこのへん考えるときに、藤本さんに「ちょっと飲みに行きましょうよ、おごってください」といって、いろいろ相談したりしたんですけども。

よく「なんで裁量労働制にしないの?」という話を聞かれます。昔、クックパッドに全社的にコアタイムが導入される前にはそれっぽかったんですよ。当時はエンジニアとデザイナーだけフルフレックスだったんです。その後、全社的にコアタイムが導入されていました。

コアタイムが9時半からのフレックスになったんだけども。これまた「コアタイムをなくそう」って思ったときに、裁量労働制って特定職種しか適用できないと言われたんですよ。だからエンジニアとかデザイナーとか、あと企画職は裁量労働制にできるけども、バックオフィス系とかは裁量労働制にはできません、となりました。

だったらもう、みんな……コアタイムのないフレックスタイムにすればいいんじゃないのって思いました。エンジニアだけとか、そういう制度を作りたくないんですよね。

そういう制度を作りたくないというのは、その恩恵を受けてる側の人間が言わないといけないと思っているんですよ。エンジニアじゃない人がそれを伝えようとしてもあまり説得力がない。エンジニア側で、「いやエンジニアを特別扱いしちゃいけない」と言わなきゃいけないなと思って、裁量労働制にしなかったんです。

エンジニアに遠慮しすぎる問題

もう1つ、よくあるのが、今のものにも通じるんですけども、わからないことに対する恐怖ってすごく多い。エンジニア不在のままいろんな制度とか決めると、エンジニアに遠慮しすぎるんですよね。

「こういうの入れるとエンジニアさん嫌がるのでは?」「いやエンジニアはなにもそこ気にしてねえから」がけっこうあるので、変にエンジニアを特別視しない意味でも、エンジニアが人事部に入るというのはけっこう大事だなというふうに思います。

もう1つ大事なのがエンジニアの採用。エンジニアの採用って、先ほど藤本さんも言ってたんですけども、社内にエンジニアの方が多いんで「手伝ってください」と言われることが多いと思うんですけども。実際にやってみても、それはあくまでも手伝いしかできないんですよね。みんなの意識的にも。

人事部にいて当事者になってないと、やっぱりただの手伝いしかしないんです。「はい、じゃあ書類見ますよ」「面接やりますよ」「採用のフロー自体を変えるよ」とかって、実際に自分が当事者にならないとできない。けっこう、そういうところでも役に立っているかなと思ってます。

例えば、今やっている2018年度の新卒採用選考のエントリーをどういうかたちに変えたかというと、GitHubで公開してます。エンジニアの採用のものを公開しているんです。採用フローをエンジニア目線で考えてどういうふうにしたかというと、そのポートフォリオを作るための構造と、自分の実際のポートフォリオを書くためのYAMLを提供してます。

その2つのYAMLを使ってHTMLを吐き出すプログラムを書いて、それも含めて一緒にGistで提出するように伝えています。

これ、利点がすごくあって。そのGistを見るだけでみんなのプロフィールがわかるし、コードがわかるし。要するに、1ページ見るだけで実力が全部わかるんです。Gistで上がってきてるから、そのまま見にいって、GitHubでどういう活動してるかも全部見れるんです。

そういったことがいきなり書類審査でできるという便利なものとか。これはおそらく、エンジニアが人事部にいなかったらなかなか思い浮かばないですよね。エンジニアが人事部にいるというのは、けっこうおもしろいんじゃないかなって僕も思い始めてます。

人事は大変、だからこそ他業種を巻き込むことが大事

逆にできなかったことの話をすると、いろいろつらいんですけども、システムの入れ替えですね。みんな思ってると思います。

ある基幹システムが使いにくいなって、もちろん自分も思ってて、入れ替えたいんですけども。今それを入れ替えるというプロジェクトチームは作っていて、実際もう動いてるんですけども。やっぱり、基幹システムの入れ替えにはけっこう時間がかかる。

ただ、口を出せるのはいいなって思っているんです。入れ替えるときにまた変なのに入れ替えられてもしょうがないし。とりあえずシングルサインオンに対応してるものにしてくれとか、必ずいじりたくなるから絶対API提供してるものにしてくれ、みたいなものはエンジニアだからこそ言えるし、口を出せるのはけっこういいかなと思ってます。

学んだこととしてはですね、みなさん、人事は大変なんですよ。ミスは絶対に許されないですよ。みんな当たり前のように毎月振り込まれている給料や人事異動をやるときに、ちゃんとみんな異動する場所があって「あ、この人どこに行くか決めてなかったね」なんてことが起きないのは当然なのですが……。

(会場笑)

けっこう大変なんだよね。そういうミス起きたら本当大変なので、正常に遂行して当たり前。ミスするとすごい怒られるんですよ。もう本当にびっくりするくらいすごく怒られる。

だからやってみるとSREとかの文脈でいうインフラに近い感覚なのかなと思っていて。なので最近はDevOpsとかInfrastructure as Code的なものの思想的な部分はけっこう参考になるんじゃないかなと思っています。

一緒に人事部じゃない人も巻き込むとか、そういうところが大事なんじゃないかなって思い始めてます。

はい、以上です。ありがとうございます。

(会場拍手)

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