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「ビジネスvsエンジニア」の構造に持ち込むな チーム内外の信頼を勝ち取るマネージャーの処世術

2016年8月30日、これまで2社のCTOと5社の技術顧問を経験してきた一休の伊藤直也氏による「1人CTO Night」が開催されました。主催は転職サイト「DODA」を運営する、株式会社インテリジェンス。開発知識に加え、マネジメントスキルも求められるプロダクトマネージャーが最速・最高のアウトプットを生み出すにはどうすればいいのでしょうか。本パートでは、伊藤氏がマネージャーがまず始めたいこと、そして言ってはいけないNGワードについて語りました。

「周囲の信頼を勝ち取っておく」大切さ

伊藤直也氏(以下、伊藤):このへんは、トップマネジメント向けです。CTOやステークホルダーに近いマネジメントをやっている人に対して、すごく重要なことです。

マネージャーをやるとき、自分のチームをきちんとマネージしていくことも大事なんですけど、もう1つは、自分たちのチームが外からの信頼を得ておくこともすごく重要です。

これをやっておかないと、エンジニア都合の「工数取りたい」といったときに、いちいちロジックを組み上げなきゃいかないんですよね。

でも、「あの人が言うんだったらそうなんだろう」と思わせておくと、だいたいどんなことも、懇切丁寧に説明しなくても「まあ、任せるよ」とスッと通るようになるので、ここをきちんとやりましょう。

エンジニアの良くないクセですが、すぐ「エンジニアとビジネス」の対立構造に持ち込んで、「営業がうらちのことわからないからダメなんだ」みたいな話をし始めることがあります。

あれをやっているとだいたい信頼を失って、「またあの人、めんどうくさいことを言ってるね」となって、いざリファクタリングしないといけないときに「それをやったらどういう効果があるか説明してください」と揉めます。

基本的にはそういう対立構造に持ち込まず、きちんとトップマネジメントやステークホルダと自分の信頼関係を築いて、一方で、ステークホルダばかり見ずに現場で構造を作る、1on1をくり返す。

「文化」「ビジョン」ワードに要注意!

最後に、「マネージャーがよくこういうことに陥りがちなので注意しようね」というアンチパターン集を持ってきました。ここは笑って……笑えないかもしれないけど、聞いてください。

まずは、これは僕の中で「文化改革症候群」と呼んでるんですけど、組織でうまくいかないことがあると、すぐ「文化を変えよう!」と言い出す人たちがいるんですよね。

だけど、文化とは基本的に企業の意思決定の積み重ねであり、結果なんですよ。みんな勘違いしているけど、文化は作り出すものじゃないです。いろんなことの結果の集合体なんです。そして結果は、コントロールできないんですよね。もう出ちゃっているから。

とはいえ、文化のもとになってるものは、当然、コントロール可能です。そして、わりと地味なことです。ふだんの意思決定でアグレッシブにやってるか、保守的にやっているか、みたいなことです。結局、「文化を変えよう」と派手なことを言っても変わらない。やらなきゃいけないのは、そういった「地味なことを変える」なんですよ。

会話の中で「文化がイケてないね」「ビジョンが見えないね」といった、なんかモヤッとしたテーマの話が出てきたら、「変な方向に行っている」とブレーキをかけたほうがいいです。文化やビジョンという言葉を持ち出せばそれっぽく聞こちゃうんだけど、結果、具体的な問題が見えなくなりますからね。

これもよくあるんですけど、「じゃあ、俺も組織改善やるぞ!」となったとき、いきなり現状否定から入ることもよくあります。

これもさっきの岩田さんの記事に、その通りに書いていたんですけど。組織を変えたいとき、なにか変化を起こしたいときに、いきなり「今のこういう状況がクソだから変えたいぞ」と言うと、当たり前だけど、そこにいる人みんな怒りだしちゃうんですよ。

「なんだよ、クソって。俺、今一生懸命がんばってやってるんだけど」「イケてないのは十分わかってるけど、なんとかしたくてもできなから、今こうなっているんでしょ」となっちゃう。そりゃあ、そうですよね。

現状はあまり否定しないで、「今こういう状況なのは、この5年間これでやってこれ。だけど、これからは変化をしていかないと、むこう5年に対して足りない部分があるよね」と言って、冷静に変化を加えていけばいいんです。いきり立って、「あのレガシーがいかにダメか」みたいな話をしないほうがいい。

これ「Rebuild.fm」というポッドキャストのエピソード123を聞いてもらうといいんですけど、「サーバント型リーダーシップ」というのがありましてね。

「サーバント型リーダーシップ」という言葉を最近よく聞くじゃないですか? マネジメントとは、アメとムチのマネジメントじゃなくて、召使いであれ……みたいな。

それを文字通り受け取ると、とくにエンジニアは細かい仕事よりも実装に集中したいので、「じゃあ僕、雑用全部やるし、バグも直すし、運用もやっておくから、君たちは新機能開発がんばってよ」となったりする。

これをやると、最終的には、その人が雑務に追われることになる。そして、細いことばかりで大きいことを考えていないので、大きな方向性をリーダーが示せなかったり、あるいは、いざというときに意思決定できなったりするんですよ。

この(スライドの)「聖杯問答」がなにかというと、僕の好きな『Fate/Zero』とうアニメがありまして。その第11回に神回があるんですけど、そこで出てくる話で。

(会場笑)

それは、3人の王様が自分たちの国の治め方を議論するんですよね。そのときに、そのなかで主人公みたいなきらきらした「セイバー」という登場人物がいて。

(会場笑)

そのセイバーさんはとても正義感が強いんですね。そして「私は民のことをすごい思って、こんなにがんばってる」って言う。けれど、その議論相手の1人は略奪王で、もう1人は帝国の王様みたいなすごいわがまま王様で。

一見すると、セイバーさんが正しそうに見えるんですよ。自己犠牲の精神で、民のために身を削って働いている。もう、圧倒的なサーヴァント。

けれども、他の2人はセイバーの持論を聞いて笑うんですよね。「貴様はそういうことをやってるのはいいけれど、そんな王様に誰がなりたいと思うんだ?」と。わかります? 「王とは、それについてくる民が焦がれる存在でなければいけない。国がどちらに進むべきかを指し示さず、ただ身を犠牲にしているだけの王に、そんな王に誰がなりたいと思うんだ?」。そして聖人君子かと思われたセイバーが略奪王たちに論破されるという、それがすごくおもしろい内容なんですね。

これを聞いて、けっこうドキッとするマネージャーは多いと思うんですよ。今日の質問の中に、「マネジメントの仕事にみんなに就いてもらいたいけど、おもしろいと思ってもらえないんですよね」が確かあった気がする。

それは間違ったサーバント型のマネジメント、つまりセイバーをやっているからおもしろくないのであって、ライダーとかギルガメッシュになればいいんじゃないか……と。まあ、いいや(笑)。

(会場笑)

多様な考え方を許容したほうが、組織は強くなる

最後もう1つ。散々「マネージャーとは、みんなの力を集約して1つの方向性に向かわせる」「そのゴールをコントロールするんだ」という話をしました。

よくある勘違いなんですけど、プロジェクトがうまくいかないと、「みんなが同じ方向を向いてない」「同じふうに考えてくれないからダメなんだ。だから、考え方揃えよう」と言うんだけど、揃わないですよね。考え方って人それぞれなので。

これも今日の話に出てきたコントロール可能・不可能の話です。ゴールをどこに設定するか、ゴールをどうやって、どういうフレームで捉えるかはコントロールできるんですよ。

ですが、「自分は遅くまで働きたくない」「こんなサービスのこういうところがやりたい」、そういう価値観はコントロールしたくてもできないものです。ここをコントロールしようとしないで、コントロールできるところをコントロールしようとしたほうがいい。

逆に、ここの価値観をコントロールしようとすると、よくない宗教みたいになってきて、だんだん嫌な感じになってくる。それは避けたほうがいいでしょうね、というのがあります。

組織とは、多様な考え方を許容するほうが強いんです。

即効性があるのは1on1、フレーミング、技術的課題の解消

最後、一応「お悩み相談」ということなので、「どういうところからマネジメント始めたらいいですかね?」という人もいるかと思うので、「即効性のあるHowTo」を紹介します。

本当はもっと中長期に見ていったほうがいいですけど、「まずここから始めると、すぐ改善が見えるよ」を並べて見ると、やっぱり1on1ですかね。

とくに現場で最初やるとき、ちょっと恥ずかしいと思うんですけど、1on1で面談しましょう。「本当にやってよかったな」と思うはずなので。

それから、あとは「壁打ち相手」。これはKaizen Platformでよくこの単語を聞いたんですけど、リクルートさんの人たちの言葉なのかな。自分の会話の相談相手じゃないですけど、会話の相手になってくれる人を会社のなかで探して、その人とよく会話すること。

よくあるんですけど、プログラムが動かなくて「ここがよくわからないんですけど」と話してるうちに「あ、すいません。ちょっと、わかりました!」と帰っていく人は多いですよね。これは、実際に話して、自分で自分の声を聞いてるうちに思考が整理されていくというフィードバック効果があるらしいです。

それを自分自身で引き出すために、別に相手がその問題のことをまったく知らなくてもいいので、「今日こういうことあったんだけどさ……」と壁打ち相手に聞いてもらって、だんだん物事を整理していく方法があります。これはとてもいいです。

これをやらないと、「しんどいな」と1人で悩んで、わりとドツボにはまって視野狭窄に入っちゃうので、マネジメント初心者こそ壁打ち相手を探すといいでしょう。

壁打ち相手は、壁打ちをしてもらっている間に問題を共有するので、場合によっては、その人が困ってるときに助けてくれたりすることも多いです。

そして、フレーミングですね。

今日は「技術の問題は瑣末な問題であることが多いので、あまりそれをやっててもしょうがないよ」という話をしました。でも、技術の問題は解消しやすいんですよね。例えば、バージョン管理を全然していない会社に「バージョン管理するシステムを入れましょう」「クラウドに移行しましょう」と提案するのは、誰が考えても正解です。

こればかりやっちゃうと、技術プロセスはすごくイケてるけど、プロダクトは全然イケてない変な会社になっちゃいます。

一方で、マネジメントをやり始めたばかりで「もっとチームを良くしたい」ときには即効性があります。これをやっていると「うまくいってるな」という感覚をみんなで持てるようになり、空気がポジティブになります。カンフル剤っていうんですかね。

そして「技術プロセスを解消すること」「人の問題や組織の問題を解消していく」の両輪を回すと、短期的には技術の問題解決が進んで、組織の問題解決が中長期的に効いているように思うので、バランスがいいですよね。このへんから始めてみるといいんじゃないかなと思います。

すいません、若干時間オーバーしちゃいましたけど。組織マネジメント、ヒューマンマネジメントのちょっとしたコツを今日お話ししました。

本質的なことは、「構造に着目する」「コントロール不可能なものをマネージしようとしないで、コントロール可能なものをマネージするように頭を切り替えよう」「問題を発見することにフォーカスして、その問題発見に集中できる環境を自ら作り出す」が、マネージャとしての1つの到達点だろうと思います。ありがとうございました。

司会者:伊藤様、ありがとうございました。

(会場拍手)

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