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元CTOだからこそ言える、あの時〇〇したから今がある(全4記事)

「自分よりできるエンジニア」「コード書きを離れる恐怖」CTOが受け入れるべき、技術者→経営者への変化

Infinity Ventures Summit(IVS)とアマゾン ウェブ サービス ジャパン 株式会社の共催によって行なわれた、CTOおよび技術責任者のためのテクノロジー・カンファレンス「IVS CTO Night & Day 2016 powered by AWS」にカーディナル合同会社・安武弘晃氏、East Ventures・衛藤バタラ氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社・松尾康博氏が登壇。「元CTOだからこそ言える、あの時〇〇したから今がある」をテーマに、会場に集まったCTO100名の実態調査を行いました。

CTOのイグジット経験

松尾康博氏(以下、松尾):もう1つ、(Q6のCTOの経験社数と)似たようなグラフになってるんですけども、イグジット経験ですね。

こちらもイグジット経験なしの方、たぶん1社目CTOの方も多いかと思うんですけど8割超。イグジット経験1回の方が13パーセント。「2回やった」という方が3パーセントといったかたちになってます。

若いBtoC向けだと、こういう傾向が多いんですかね。やはりさっきのCTOの回数と同じ感じになるんですかね。CEOは知り合いのアントレプレナーの方が多いようなイメージがあるんですけども、CTOはそういった知り合っていく数は、日本ではあんまり……。

安武弘晃氏(以下、安武):確かに、同じアンケートをIVS側で取ると、円グラフの感じがぜんぜん違いそうですね。

松尾:なるほど(笑)。確かにそうですね。アンケートの結果は以上になるんですけども、なにか今のアンケートを眺めてみて、会場に聞いてみたいことはありますか?

安武:やはり設問からして作為的だと思うんですよ(笑)。

(会場笑)

松尾:いやいやいや、そんなことないですよ(笑)。ちょっと生々しい状態を知りたいなと思いまして。

安武:でもやっぱり、もっとエクイティを握って、もっとガンガン攻めて、イグジットも経験して、というのが日本のマーケットにおいてももっと回るといいな。

やっぱりシリコンバレーと比べると数が少ない。それはもう数字から見ても感覚的にも事実だと思いますので、それはやっぱりこの数字を見たときに改めて「そうなんだな」と思いました。

衛藤バタラ氏(以下、バタラ):たぶんこれはCTOだけじゃなくて、一般的に日本は株とかストックオプションってあまり出回らないんですよね。

それはあまりエコシステムによくなくて、例えばアメリカでは年間50ビリオンぐらいの累進投資と20ビリオンぐらいのエンジェル投資があるんですよ。

このエンジェル投資のお金はどこから来てるかというと、やっぱりイグジットした人たちがまた再投資してるから。そのイグジットの数がけっこう多いと。

例えば、Zyngaとか一時期10ビリオンの会社だったんですけど、1社だけIPOしたらミリオネアクラス、要するに1億以上の資産持ってる人はたぶん云十人ぐらい、下手したら100人ぐらいはいると思うんですけど。

日本だと同じくらいのクラスでIPOしても、たぶんそれぐらいは出ないと思うんですよね。CTOの話だけじゃなくて。なので、やっぱり株の割当がなかなか平等ではないというか、下にいかないかなという感じはします。

技術者目線から経営者目線への変化

松尾:わかりました。前半はアンケートの話をお二人にコメントをいただきました。

後半は、元CTOということで、やはり安武さんもバタラさんも最初にCTOになったとき、まだ1回目というのが必ず誰でもあったと思うんですけれども。

今、安武さんは楽天を辞められて、これから会社を立ち上げていくというフェーズですし、バタラさんも投資側に回って、いろんなスタートアップを支援するかたちになると。CTO時代にいろいろと悩みがあったり、試行錯誤をされてたと思うんですけど。

今につながっている、「あのとき、こういうことをしてすごくよかった」とか、「あのときに、こういう考えをした」とか、なにかそういったことを。

とくに今1社目のCTOが8割いますので、「あのときああだったな」というお話があるといいかなと思うんですけども。雑な振りですみません(笑)。

安武:一番最初に会社の金を使って、自分がここで使う決断をしていいのかどうか悩んだときというのは、データセンターを増やすときだったんですよね。場所が足りなくて。

アプリ側のマネージャーをやってたんですけど、インフラ側に行ったら新しいデータセンターを作った直後で。現場の人の話を聞くと、マイグレーションをして新しいほうを活用していくのか、それとも既存のものを動かすのが面倒くさいから使っていくのか、あんまり方針が決まってなかったんです。

何億も使って、しかもその当時の会社にけっこう大きなインパクトがあったのに、その方針を誰も決めなくて、なんていうか、As-Isでやってるのがやっぱりおかしいんじゃないかなと思っていて。

そのときに、技術的に正しいかどうかじゃなくて、経営的に正しいかどうかというので、お金をどう回すのかを真剣に考え始めたのがあのときで、あの経験がなければ、自分の興味・関心、技術的なものだけで決めてたかもしれないですね。

松尾:そのデータセンター、まあそれなりの額が目の前に問題としてあったときに。

安武:そうなんです。ある意味、IPOをしてお金があったのが逆によくなかったんですよね。なので、足りなければ追加すればいいという状態になっちゃうんですけれども。そのお金を使わなければ、みんなの給料に回せるかもしれないじゃないですか。

なので、お金というのは使い道が幾通りもあるんですけど、本当にその使い方が正しいのかどうかを誰が決めるんだろうって、フッと思ったんですね。そのときから、スイッチが切り替わった気がしますね。

松尾:いわゆる技術者というか、技術のリーダーから経営者側に、肩書ではなくて気持ちが変わった瞬間?

安武:気持ちが変わった。そうですね。やはり真剣に、本当は単純に「サーバー足せ」って言われたら、プロダクトを動かす仕事だけだったら、プレッシャーが強いのでスペースいっぱいあったほうがいいし、バッファいっぱいあったほうがいいんですよ。

でも、お金を考えたときに「それでいいんだっけ?」と思ったんですね。ほかに人を雇ったりとか、給料とか、職場環境の改善とかにも使えて。「お金の配分のバランス考えなきゃ」って思ったときにスイッチが切り替わって。

そのときから経営者という視点に動いていったんだと思います。なので、億単位のお金を使う決裁権を誰が持つのかというのを考えたときですね。

松尾:ありがとうございます。バタラさんはそういうエピソードありますか?

自分よりできるエンジニアを雇う判断

バタラ:そうですね。僕は、自分よりも技術がわかる人を雇ったんですよね。mixiも僕が作ったときに、その前にハイトラフィックのWebサイトの経験があるかというと、そうでもなかったんですよ。

普通にPerlで、CGIで、普通にmod_perlもなくて、ガリガリ書いてただけで、なにも使わずという感じでやってて、やっぱりそれだとすぐに壁にぶち当たっちゃうんですよね。当時だったら「mod_perlとかどうにかしないと」と思って。

でも、「自分だとちょっと時間かかるな」と思って。そこはやっぱり判断しないといけなくて、自分よりもすごい人を雇わなくちゃいけない。

当時、「誰を雇おうかな?」と思ったときに、mod_perlの本があったんですよ。小山(浩之)さんという人が書いたんですけど。小山さんに連絡して、小山さんを雇ったんですよね。それでめっちゃ手伝ってもらって。

その後は、mixiのコンテンツを検索しようと思ったら、当時、日本語対応の検索エンジンってなかったんですよ。それで、めちゃめちゃネット調べてたら、誰かなと思ったら、平林(幹雄)さんの名前が出てきて、富士ゼロックスにいて、口説いて入ってくれて、それを作ってくれたりとか。やっぱりそこが一番よかったなという感じですね。

松尾:自分よりできるエンジニアを雇う判断をしたとき、ということですね。

バタラ:はい。

松尾:なるほど。CTOはいわゆる技術のトップというイメージがあって、自分が一番でありたいという気持ちもあると思うんですけど、それに対しての葛藤とかは?

バタラ:そうですね。たぶんそれって、プログラマーかCTOかの違いかなと思っていて、自分がやりたいからやるというよりも、そのプロジェクトを成功させたいからというところだと思うんですよね。

あとはやっぱり、先ほど言ったように、経営陣に立ってるかどうかという部分だと思うんですよね。CTOって「会社の中で一番技術をわかってる」という定義じゃないと思うんですよ。「経営陣の中で一番技術をわかってる」という。

例えば、会社が「これ発注したいんですけど」「これって何週間でできるか?」と。経営陣側にそういう人がいないと「誰に聞けばいいんですか?」という感じですよね。プログラマーに聞いたら、「いやー、これ1週間かかりますよ」って。たぶん3分ぐらいでできるものなのに。

(会場笑)

安武:バタラさん、この間、「『CTOが一番技術力が高い』と思っている会社には投資したくない」みたいなことをおっしゃってましたよね。

バタラ:確かに(笑)。

(会場笑)

安武:そこ、もう少しつっこんで(笑)。

バタラ:いや、単純にあまりスケールはしないだろうなって。自分が一番すごいと思ってたら、雇った人はどんどんどんどん下になっちゃうじゃないですか。会社はそれ以上は伸びないじゃないですか。けっこうこれは大事です。

松尾:自分が知らない技術の領域をすごいかどうか判断するのって、けっこう難しいかなって思うんですけども。そういうところって苦労されたりしましたか?

バタラ:そうですね。それはやっぱり勉強するしかないと思いますね。

松尾:勉強して、ある程度知識をつけたうえで、この人ができるかどうかを判断すると?

バタラ:そうですね。

松尾:それは今でも、投資側に回ってもやっぱり見方は変えてない?

バタラ:そうですね。やっぱりCTOほど判断量はないんですけども、多少、基礎技術とかわかんないとなかなかできないと思います。

安武氏が楽天を離れた理由

松尾:安武さんもM&Aやられてるときって、どんな感じでしたか?

安武:そうですね。楽天の場合は幅が広すぎるので、そもそも理解するのをあきらめたのもあったんですけども。

(会場笑)

安武:ViberのようにフルAWSでかなりイケてる最新のシステムから、まだCOBOL(注:事務処理用に開発されたプログラミング言語)が動いてるカードのシステムまで。金融業界の常識では、「ホストのマイグレーションは1000億から2000億使うのが常識です!」って言われたりするんですね。まったく理解ができない(笑)。

(会場笑)

安武:ただ、やっぱり勉強する姿勢で、本質が何かというのを膝突き詰めて考えないと、やっぱり全部を把握して正しい判断ができる1人の人間はいないと思ってましたね。それでいいかなと思ってました。

松尾:今日はいらっしゃってないですけども、クラウドワークスさんなんて別のCTOさんが来られて、自分がCTOを外れるという、そういったこともやられてましたけども。

CTOを辞めたから誰かがCTOになるのと、自分自身がCTOを誰かに譲るっていうパターンが、僕の観測範囲だと見受けられるんですが。

そういったことはほかの国ではめずらしいことだったりするのか、それとも、そうやってライトパーソンをちゃんとCTOに当てがうのが普通なのか、どう考えられますか?

安武:それは私が楽天を離れた1つの理由でもあるんですけども、私は生まれも育ちも日本で海外に住んだことがなくて。でも、海外に何十拠点もあって、マジョリティが日本人じゃない人たちで、私は英語が流暢ではないわけで。

やっぱりそういう人間が昔からいただけで、全員の中で一番リスペクトされてちゃんと組織を動かせるかというと、そうじゃないと思うんですよね。

組織のステージによって、適切なスキルとかバックグラウンドを持った人は変わるべきなので、そういう意味で自分は絶対その先、それをやり続けることはないと思ってました。

コードを書かなくなることへの恐怖

松尾:なるほど。あとはタイミングの問題という感じですか。バタラさんとかはどうですか? ほかの投資先の会社とか。

バタラ:個人の経験を言わせてもらうと、プロダクトを作るのが好きなので、mixiを辞めたときも、ある程度大きくなったので、仕事が変わったのかなと思って、それでシード、アーリー投資に変わったんですよね。

松尾:経営に頭が切り替わったときの話をいろいろ聞いたんですけども、切り替えた後ってどうでした? 技術に対しての距離感とか、ちょっと遠くなると思うんですけど。それに対するさびしさとか、スッキリしたとか。ちょっと個人的に興味があるんですが(笑)。

安武:やっぱりコードを書かなくなる、触らなくなるというのは、最新のものについていけなくなるし、すごい恐怖感ですよね。そもそも楽しくないですよ。

松尾:なるほど。

安武:やっぱりそれは割り切らないとプロじゃないかなと思って。経営者ってプロフェッショナルな職業だと思っていて、私はやっぱり経営者というプロフェッショナルな職業の人は年収も高いべきだと思うんですけれども、プロ野球選手と同じなんですよね。

選手生命はそんなに長くないし、限られた時間にちゃんと成果を出して、成果を出せなかったらそっからいなくなるべきだと思うんですよ。限られたシートなので。

なので、そういう環境下において、好き嫌いでやってる場合じゃないなとは考えてました。でも、さびしい(笑)。

松尾:さびしい(笑)。バタラさんはどうでした?

バタラ:僕はもともとそんなに技術にこだわってたわけではなくて、サービスが立ち上がればいいので。たまたま経営陣の中で一番技術がわかっていただけで、CTOをやらせていただいたという感じですね。なので、そんなに違和感もなかったですね、普通にコードを書かなくても。

松尾:そうなんですね。人によって技術との間合いがあるんですね。わかりました。ありがとうございます。

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