2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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──村上さんがエナリスに参画した背景を教えていただけますか?
村上憲郎氏(以下、村上):昔、日立電子に勤めていました。そこでは、福島第二と中部電力の浜岡の2つの原子力発電所の建設時の振動試験を一部担当していました。
当時は、オイルショックの直後で、日本はエネルギー資源小国であるなかで、今後は原子力に頼るほかないという時代でしたので、月に200時間残業も経験しながら、なんの疑いもなく勤めました。
そういう経験もあり、原子力に対する複雑な思いもあるなかで、今回、自分の人生の最後の仕事になるかもしれないタイミングで、また改めてエネルギーの仕事をさせていただくというのは、なんとも言い難い、運命の巡り合わせのような感覚を抱いております。
エナリスに参画する以前のGoogle時代のことです。2008年8月に少しばかり身体を壊して入院をし、9月には退院したのですが、免疫系のこの病気は完治しないということがわかったので、Google日本法人の次期社長候補として入社していただいていた方に代行をお願いして、3ヶ月ほど自宅療養し、年度末である12月31日付けをもってGoogleのアメリカの副社長と日本の社長を退任いたしました。
2009年に入って、お医者様に「免疫も戻ってきたので、社会と接点持ってもいいですよ」という言葉をいただき、仕事をしていいことになりました。
それを聞きつけた、当時GoogleのCEOだったエリック・シュミットから、「ノリオ、名誉会長というポジションで、日本でスマートグリッドの普及をやってくれないか」との言葉から、私の仕事復帰は始まりました。
この、スマートグリッドというのは、実はちょうど2009年初頭に誕生したオバマ政権が打ち出した「グリーン・ニューディール」という施策のなかの、ITにかかわる3本柱の1つに入っていました。
ITというのは弱電とも言われ、それに対して電力系のことは強電と言います。スマートグリッドは重電力などの強電であると認識していました。しかし、ITの中に分類されていたという驚きが当時にはありました。
今考えるとITに分類されていた理由はIoT、いわゆるInternet of Thingsということであったことがわかります。
つまり、スマートグリッドは、簡単に言うと電気機器がインターネットにつながる端緒となるものなのですが、それをきっかけとして、モノがインターネットにつながってくるという時代を切り開くことが、すでに6年前にして、アメリカは国家戦略としてわかっていたということだと思います。Googleはスマートグリッドが日本においても、普及して行くことを望んだのですね。
元来、私は通産省時代の「第五世代コンピュータプロジェクト」以来、なにかと経産省のお手伝いをさせていただく立場で仕事をしてきました。
なので、「スマートグリッドの普及を行いたい」とご挨拶にうかがうと、経産省は非常に優秀な人が揃っているので、「では、日本も遅れをとらないようにスマートグリッドに取り組みましょう」とご理解いただき、私の日本でのスマートグリッド普及というミッションが動き出しました。
それから1年ほど後にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が事務局、スポンサーは経産省というかたちでスマートコミュニティ・アライアンスが発足しました。
いろんな日本の産業界の方たちが入られて、スマートグリッド、そして今回の電力システム改革につながるような動きが、そのあたりから本格的に始まるわけです。
そうして、2年経った2011年の3月11日に不幸にして東北大震災と、それに起因して福島の原発事故が起こり、計画停電等を経験するなかから、犠牲になられた方々には大変申し訳ないですが、そのことがスマートグリッドの必要性と日本の電力システム改革の必要性の認識の背中を押すというかたちになりました
これまでの日本の電力システムというのは、絶対安定供給体制と言います。1日の電力需要曲線の時間軸に対しての大きな波打ちに対して、その最大需要の、それも年間の最大需要も賄える設備を用意して電力を作っています。電力を需要したい人は好きなだけ勝手に使えるということです。
でも、これはよく言われる笑い話で、需要曲線が最大になる時間は年間にせいぜい10時間あるかないかなんですね。年間でもピークと言うのは、8月の最初の週の甲子園野球の準決勝と、決勝の時間くらいです。
その10時間にしか到達しない最大ピーク電力量を守れるような設備投資を、確実に準備しておくという話です。この経済合理性に合わない仕組みを日本の電力会社は、着実に続けてきました。
国の方針として、絶対安定供給体制を守れと言われているので、設備投資を十分にして、その方法を続ける他ありませんでした。
なので、年間にわずか10時間しか使わないような過剰設備を抱え込む仕組みで日本は歩んできました。
ですが、3.11をきっかけとして、これは経済合理性に合わないことであると多くの人が理解したと感じています。
このような状態になると、需要曲線の縦軸である瞬間の電力量(キロワット)をどううまくコントロールしていくかというデマンドレスポンス、あるいは、節電を行ったらその節電量は、単に当然ながら請求されないだけでなく、ネガワット発電が行われたとみなして電力会社が買い取るネガワット買い取り制度や、そのネガワット発電量を取引するネガワット取引市場の創設。これらを日本においても取り入れていくほかありません。
その流れのなかで、エナリスと私は出会いました。そのようなことができる会社が日本ではエナリスのほかありませんでした。
デマンドレスポンスの仕組み、メガワット発電への払い戻しなどを行える会社を国として探していた際にパッと手を上げたのがエナリスでした。
そしてエナリスがマザーズ上場にあたり社外取締役を探しているというご相談をいただいて、このような背景のもとにお引き受けいたしました。
──村上さんご自身がエナリスで達成したいことはどのようなことでしょうか?
村上:私の思いを言いますと、電力システム改革です。電気事業法改正案は、2015年4月1日から施行され、新しく電力広域的運営推進機関が設立されました。
一部の電力会社が絶対的な供給責任を持っていた時代から、形的には半官半民の広域機関が電力の供給責任を持ちます。しかし、持っていると言ってもまだ形のみです。
私たち、エナリスも含めた民間企業600社が手を携えて、絶対供給体制に匹敵するような安定供給の仕組みを作っていく5年間が、これから到来いたします。
昔の経済合理性に合わない仕組みではやっていけないと多くの人が理解したわけですから、今後需給バランスをどのように形成していくのか、その部分でエナリスが果たせる役割を、期待されていると感じています。まずは、その期待を十分に果たしていきたいと考えています。
さらに、その先には2020年に東京オリンピックが開催されます。これは国として、スマートジャパンを見せつけなくてはならない機会だと感じています。
なので、それまでにきちっとした上で、更にスマートな電力システムを仕上げていくという面で貢献したいです。
また同時に、IoTは本当にそこから花開くと思っています。IoTの発展のなかで、エナリスがある一定の役割を果たせるような会社に社員と一緒に育て上げていくつもりです。
エナリス前社長の池田さんが「エネルギー情報業」という言い方をしていました。「エネルギーを切り口とした情報業を」ということですが、今後IoTの時代になり、エネルギーに関しての情報業がオリンピックから先にさらに花開くと感じています。
エナリスとしてはそこを目指していこうと、社員の人たちと様々な作戦を練りつつありますね。電気事業法の仕組みの中で貢献しながら、そこに留まらずに「エネルギー情報業」としての先行きをしっかりと見据えた企業という点を、再構築していく所存です。
一方で今回、不祥事を引き起こしてしまい、コーポレートガバナンスに関する問題として、しっかり対応していかないといけない事が山ほどあると考えています。その点はもちろん誠心誠意行っていくつもりでいます。
──村上さんの長期的なビジョンを教えてください。
村上:私は、長期的なビジョンほど、誰にも見えていないと思います。
それは、ちょうど30年前に、電電公社が民営化されましたよね。その後、携帯電話がこんなことになろうとは、インターネットがこんなことになろうとは1986年には、誰も思っていなかったはずです。
そういう意味合いにおいて、長期ビジョンと藤岡さんがおっしゃいましたが、私は「誰も持っていない」と、正直思います。
なぜかと言うと、この電電公社の民営化以来、30年間で起こったような事が、これからの30年、いや10年ぐらいで、電力システムの周辺で起こると思います。
電話が携帯になりましたとか、インターネットの時代になりましたとか、このようなことに匹敵することが、電力システムの周辺でも、遅くとも東京オリンピックの前後から見えてくるはずです。そのなかでも重要な役割を、エナリスが果たしたいと思っているわけです。
例えば、電電公社の民営化でよく話題になるのは、稲盛和夫さんがDDIという会社をお作りになりましたよね。
第二電電ということで、電話会社としてお作りになったのですが、その後さまざまな会社と離合集散を繰り返した結果として、今はKDDIです。
KDDIさんは電話会社でもあるし、携帯の会社でもあるし、インターネットの会社でもあるわけです。それに伴って、本来のNTTさんも、景気が良くなりましたね。片側では、ソフトバンクさんのような会社が生まれ出ているわけです。
もう、何が起こるかわからないという意味合いにおいて、「長期ビジョンを持っています」と発言するのは、不遜極まりないですよね。「何が起こるかわかりません。でも、今後とんでもないことが起こるでしょう」と。
とんでもないことが起こるビジネスチャンスを、その都度しっかり掴みながらこのエナリスという会社は、現在は電力システムの面で貢献する会社として歩みつつあります。
東京オリンピック前後に、本来のエネルギー情報業と呼んでいる実態が、きちんと絵に描けているとは言いません。
ですが、電電公社の民営化から30年間かけて起こったことが、これから10年ほどで起こるということを想定しつつ、エナリスという会社を育てていきたいと思っております。
──渡部さんがまだ少人数のエナリスに参画した当時、どのような成長ストーリーを描いていたのですか?
渡部健氏(以下、渡部):非常にニッチな市場ですが、PPSのニーズがゼロではないと感じていたのと、同時に自分自身も非常に小さな業界の中でしたが、経験を積んでいた人が少なかったというのもあり、この業界では自分はそれなりに経験やノウハウがある方だと自負していました。
そこにニーズがあることは確信していましたが、それを知らない人が多いという課題が存在していました。
布教活動のように説いて回るところから動いていけばなんとかなるかなという気持ちで、住友商事から当時数十人のエナリスに転職いたしました。
電力システム改革が、当初はいろいろ揺れ動きながら、少しずつ進んでいたのですが、大きな変化がなく、大きな一歩を踏み出すことはできないでいました。
そこに不幸にして震災が起こったことで、エネルギーの世界観は、我々が一つひとつ啓蒙していくことよりも、日本に大きなインパクトを与えました。
おそらく多くの方が停電というものを初体験したと思います。大きな発電所を作り、大きな送電システムを作り、電気を供給するという仕組みは、戦後70年経ちましたがずっと変わっていません。
その中で、大きい発電所が1個やられたらもう電気が来ないという事を多くの方が理解したでしょう。
我々は専門家なので知ってはいましたが、それをマネジメントするという意味では雑駁としか対応できません。
このエリアを停電させますとした時に、病院など絶対に電気を使わなければいけない施設がそのエリアの中に含まれている可能性はある。しかし、停電するしかない。そうすると、あとは、自分で守ってくださいという話になってしまう。
今、私がやりたいなと思っているのは分散電源の仕組みです。一つひとつがすべて究極的に繋がっていて、ここは絶対に電気がいるから電気を送る、しかし、その隣の家は普通の家なので、例えば今は電気はいりませんと。
そのように、1個1個がすべて繋がるようなかたちで管理できていたとしたら、計画停電というのはおそらくなかったことだと思います。
分散電源と言われる再生可能エネルギーの普及は国も含めて注力しているところだとは思うのですが分散電源はエネルギーコストが高いと言われています。
私は「コスト低減×技術革新×サービス」で、イノベーションは起こると考えています。携帯電話も、最初に比べると、本体は実質的に安くなり、通信コストもだいぶ安くなり、その上にコンテンツが乗ってきています。これと同じ変化が電力に起こってくると思っています。
大規模電源から分散電源に変わっていくという過程は、パソコンや携帯電話で起きた事と同じです。
大きな汎用機器が元々あったものが、今はもう1人1台パソコンを所持している。肩掛けの重たい携帯からスマートフォンに代わっている。電気も同じで、そのうち一家で1台太陽光発電設備ということになると電気は家で作るのが当たり前になる。
そうなるとエネルギーの単位当たりのコストは下がって効率が上がってくる、そのような方向で考えると、電気を供給する仕組み自体が、逆になくなっていくわけです。
結果、分散型エネルギーの仕組みがあり、安定供給する大規模な仕組みがあり、大規模と分散の協調的な制御を行う、いわゆるスマートグリッドの話に繋がります。
そのような社会への変化が、今起きかけていると思っています。自分たちで電気を作る時代が到来すると、それに伴い我々のようなエネルギーをマネジメントするサービス事業が今後増えてくるでしょう。それも見越して、発送電分離という方面も見えてくるのかなと思います。
分散電源になると家の中の器具が全部繋がってくるので、そこに情報が生まれます。電気や環境だけではサステイナブルな社会が形成しにくいなと思ったのが、愛知県豊田市でトヨタさんやドリームインキュベータさんとスマートコミュニティ実証試験に参加した時です。
あのときは、環境負荷の低い街を作るというテーマで、いい取組みだと思いました。「だけど誰がこのサービスにお金を払うの?」という話になったときに答えは出なかった。
やはり経済性は必要で、環境性に加え経済性と社会性のバランスが成り立たないとサステイナブルには絶対にならないと感じています。とてもいい経験でした。
経済性というと、少し堅くなりますが、柔らかく言えば、何か便利であったり、豊かであったりという価値が提供できるようなかたちにならないとサステイナブルな社会というのができません。
そこで、上手にエネルギーの情報を使うことが必要になってきます。エネルギー単独の情報だけでも、さまざまなことがわかります。例えば、在宅しているのかいないのかなど。
IHクッキングヒーターでは、使用される電気の量を記録することで、「この人はIHを持っているのにほとんどIHを使っていない、家でご飯食べずに外で食べているのかな」など、電気の使い方だけを見ても生活パターンはわかります。自分の家でもモルモットになり実験してみました。さらに、その電力の情報の上に購買情報などの他の情報とかけ合わせる。それは、ビッグデータと言われる世界です。
ですが、これまでのエネルギー情報というのはほとんど蓄積されていません。今まではそれを捨ててしまっていました。電力会社も請求するだけのデータとしての活用がほとんどだと思います。
単独のデータとしても、ほかの業種とかけ合わせることでもさまざまなことが可能になります。そして、さらに進化して新しいサービスを作っていく事がスマートグリッドの次のステップです。
ステップとしては、3段ステップを考えています。第1ステップは、リアルな電力システム改革です。これはエナリスが現在取り組んでいるビジネスの延長線上にあります。
第2ステップでは、エネルギーインフラが変化し、分散電源になるでしょう。当然、IoTがあって、情報が生まれ、ビッグデータができます。その解析をしていく。
次の第3ステップは、何が起こるかまだわからないけれども、これまでにないサービスの部分が生まれてくると感じます。
ここに誰の何が入ってくるかという点に関しては、まさに誰も知らない世界だと思いますが、いまGoogle、Amazon、Appleが狙っている世界はおそらくこの世界です。それを日本で作るというのが、私の1つの夢かなと思います。
現状のままでは、おそらくアメリカに全部やられてしまうと思います。日本からアメリカに対抗できるような企業が生まれないというのも、少し関係ありますよね。最後に一番いいとこを取られてしまうという。
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