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2016年のドローン産業の展望(全5記事)

3年以内のドローン配送は可能か? Amazonの“夢”実現のために必要なルールづくり

ドローンにとって画期的な1年となった2015年。この年に起こったさまざまな出来事は、ドローン業界にどのようなインパクトを与えたのでしょうか。また、今後ドローンにはどのような変化が起こるのでしょうか。デジタルハリウッド ロボティクスアカデミーの主催で行われたシンポジウム「2016年のドローン産業の展望」。ドローンの第一人者であるプロフェッショナルたちが、2015年を振り返りつつ、今後の展望を語ります。

ドローンの未来を語りつくす90分

高橋伸太郎氏(以下、高橋):今日の進行役を務めさせていただきます、デジタルハリウッド ロボティクスアカデミー研究所の高橋伸太郎です。今日のセミナーに関しては、約90分間進めさせていただくかたちで、主な目的は3つあります。

1つ目は、2015年の無人航空機産業の動向を振り返った上で、2016年の展望について考察を行うことです。

2つ目は、デジタルハリウッドにおいて行っている無人航空機関係の教育研究活動についてご紹介させていただくことです。

そして3つ目は、「空撮コンテスト」についての告知と、「ドローンを使った映像コンテンツは今後どのような可能性があるか」ということについて、共有ができればと考えています。

登壇者は今回3名の方にお願いしました。1人目は、JUIDAの理事長でもあり、東京大学大学院教授でもある鈴木先生。そして2人目として、デジタルハリウッド及びデジタルハリウッド大学大学院の杉山学長。そして3人目、ORSO社長でもある坂本(義親)さんです。

それでは、早速1人目のキーノートとして、鈴木先生に登壇をお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。

2015年は「ドローン元年」

鈴木真二氏(以下、鈴木):高橋先生、ありがとうございます。みなさん、こんばんは。遅い時間にお集まりいただきまして、ありがとうございます。デジタルハリウッドさんで「ドローンのコースの解説」ということでお世話になっております、JUIDAの理事長の鈴木と申します。

「ドローン」というのが今年の流行語のなかに入っていた、というのがニュースに出ておりました。今年度(2015年度)は「ドローン元年」と言えるんじゃないか、ということで、この1年を振り返ってみたいと思います。

このドローン、実は昨年、一昨年ほど前からいろいろな使われ方をし出しました。それはDJIのドローンが日本に入ってきて、多くの方が使えるようになってきたことが背景にあります。

2014年からいろいろな……事件とまではいかないんですけども、落下事故とかということもあって。それは海外でもあったんですけども、いろいろ話題になってきたところだったわけです。

こうした状況のなかで、私どもの関係者で「(ドローンに)関係する方々がディスカッションできるようなネットワークが必要なのではないか」ということで、JUIDA(日本UAS産業振興協議会)という一般社団法人を設立いたしました。

そこでセミナーやシンポジウムを行っていたんですけども、一番大きな計画としては「安全に使っていくためのガイドラインをつくろう」ということで、2015年、今年の1月ぐらいから検討を開始して、何回か会合を重ねていました。

ここには国土交通省の航空局、経済産業省、そして総務省の方もオブザーバーとして参加いただいて、会員のみなさんと「安全にドローンを使っていくためのガイドラインをつくろう」ということで議論していたわけです。

そうしたなか、2015年4月22日だったと思うんですけども、首相官邸の屋上でドローンが見つかったことで、急遽状況が大きく変わりまして。政府内で「ドローンの規制を強化する」という検討が始まったわけです。

これはもともと、私どものほうから「ドローンを有効に使っていくためには、きちんとしたルールがないといけない」ということで。本来は飛ぶものですから、海外でも航空局がこういったものを監督しているわけなんです。

「我が国でもきちんとした法規制を」と働きかけてはいたんですが、(政府が)すぐに動く気配もなかったんです。けれども、この官邸ドローン事件をきっかけに、こうした動きが急速に進みました。

事故を防ぐための法整備

ちょっと前後しますが、9月11日。これは私の誕生日でもあるんですけども、航空法の一部改正が国会で成立しました。

こうした状況のなかで、いろいろな方々から「ドローンを安全に開発できる環境が欲しい」という要望がありまして。JUIDAの会員企業から遊休地を提供していただきまして、飛行試験が十分できるような飛行場を、つくばに開設いたしました。

本来、国がこういったものをきちんと用意してくださるといいんですけども、まだまだ時間がかかりそうですので。まだ規模は小さいんですけども、JUIDAのほうでこういうのを用意した次第です。また10月には、京都でも専用の飛行場を、「JUIDAの飛行場」というかたちで開設いたしました。

またデジタルハリウッドさんとは、夏ぐらいからお話を進めまして。今年(2015年)の10月にJUIDAが「ドローン操縦」「安全運行管理者」等、ドローンに携わる重要なスキルを持った人を養成しようということで、養成スクール7法人を認定しました。

デジタルハリウッドさんは既に、かなり具体的な計画をされておりました。ほかの6法人も併せて、「JUIDAとして共通のカリキュラムをつくって、そこで認定をしよう」というようなことで話を進めてまいりまして。それが具体化にこぎつけることができた、といった状況になります。

先ほどの航空法の一部改正は、12月10日に実際に施行されます。みなさんご承知のように、人口密集地域では飛ばすことができないということになりました。例えば大学でも、本郷のキャンパスの野球場なんかを借りて、ドローンの実験等をやっているんですけども、それも認められないということになります。

ちょっと窮屈にはなるんですけども、やはり「不必要な落下事故を防ぐ」という意味で、そうした法律にのっとってやっていくということが、これから求められるようになってまいります。

こうしたなか、11月5日に首相官邸で「官民対話」というのが行われました。このなかで安倍首相が、「早ければ3年以内に小型無人機ドローンを使った荷物配送を可能にする」ということを述べられました。

この会議にはAmazon.comのポール・マイズナー副社長も出席しておられ、こういった日本の積極的な姿勢を支持していただいている、というところであります。

官民が協力してルールづくりを

先ほど「航空法の改正」と言いましたけども、3年以内にドローン配送を行うためには、飛ばしちゃいけない空域を決めて、それから飛ばし方も(決めなくてはならない)。昼間、目視範囲内、そして人や物に近寄ってはいけないと。

そういった安全に飛ばすルールを、緊急で決めたということになります。が、これを物流とか荷物配送に使おうとすると、「もっと遠くまで飛ばさなきゃいけない」とか、「日が沈んだ後も飛ばさなきゃいけない」ということになってまいります。

その申請というか、そのためのルールを、まだこれから作っていかなきゃいけない。「官と民が協力してルールをつくろう」ということで、実は来週の月曜日なんですけど、第1回会合が開催されることが予定されております。

要はそういったリスクがあるというか、高い安全性を要求される飛行のために、機体の機能や性能、そして操縦者の知識やスキル、こういったものをどうやって保証するのか。そのための制度設計が必要である、というのが1つありまして。

そのために「製造、開発、利用する民間団体等が、積極的にルールづくりに参加する必要がある」ということで、こうした会合が催されることになりました。政府の方針としては、来年(2016年)の夏の国会中に、その第2弾の法律を制定する方向で進めたい、ということで。今後、盛んな議論が行われると思います。

海外でも進む法整備の現状

また海外の動向ですけども、「ホワイトハウスでドローンが落下していた」とか、似たようなことがアメリカでも起きている。それからパリの市街、本当は飛んじゃいけない空域を、ドローンが飛んでいた、とか。

世界じゅうでいろいろなこと、「安全な利用」という意味で懸念が示されるような動きがありまして。アメリカ連邦航空局(FAA)は2007年から、公的な使用やホビーで使う以外の、商用利用ドローンの利用は原則禁止しているわけなんです。

これを改正するように準備が進められておりまして、今年(2015年)の2月に「25キロ以下のドローンに対する規制案」が公表されました。今後こういったやり方で法律をつくっていこうと、その案を出しております。

さらに11月には、250グラム以上のドローン、ですからほとんどすべてのホビーのドローンが入ってしまいますが、これに対して「登録制度を検討する」ということが公表されております。これはアメリカなんですけども、欧州は各国ですね。イギリス、フランス等、既に早くから無人機のルールづくりを進めております。

けれども、欧州全体の統一的なルール。これは欧州航空安全機関(EASA)という組織があるんですけども、そこが今年(2015年)の9月に「欧州全体でのドローン規制案」というのを提案しておりまして。現状では各国でバラバラに規制が行われているんですけども、「統一的なルールをつくる」ということで、提案がなされています。

そして、もっと大きなサイズの無人機。例えば貨物を運ぶカーゴ便、FedExとかDHLとかあるわけなんですけども。このカーゴ便、荷物しか載せていないわけですので、「パイロットレス(無人)で飛ばせないか」ということが検討されておりまして。

そのためのルールづくりが、国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)という組織で行われているんです。そのガイドラインが今年(2015年)の3月に発表されまして、2019年とか2020年の国際ルール制定に向けて、急ピッチで検討が進んでいるという状況であります。

また、アメリカのNASAは、Google等の民間企業らとコンソーシアムを組んで、「小型無人機を航空管制するシステム開発を行う」ということを宣言しております。海外もこういった意味で、「2015年というのがドローンの実用化に向けた大きな時期である」といっていいかと思います。

「危ないからやめましょう」ではなく

今後、さらにそういった細かい規則をつくりながら、技術も磨き上げて、ルールを開拓して、ドローンがいろいろ便利に使えるようになっていく、というところに向かっていくわけであります。けれども、こうしたドローンを使う際のルールづくりに関しては、いくつか提言したいこともあるわけです。

1つは、「落ちるから、危ないからやめろ」といったら、もう既にドローンを使えなくなってしまうんですけども。実は飛行機も、飛び出した当初はしょっちゅう墜落していたわけです。

「危ないからもうやめてしまおう」というのではなくて、「事故の原因を究明して、その対策を立てて、安全に使えるようにしていこう」ということで、現在、飛行機を自由に使えるようになってきている。ドローンも、これからリスクに基づいたルールの制定が求められるかと思います。

また、既にたくさんのドローンが実用化されているわけであります。そういった経験に基づいて、民間と協議してルールをつくるとともに、民間の企業を活用するといったようなことが求められる。ということで、JUIDAのようなところが重要な役割を担えるんではないか、というふうに判断しております。

安全はもちろんです。「お金をかければどんどんよくなっていく」というのはあり得るんです。けれども、簡単に使えるというのがドローンですので、そのコスト、そしてこれが生む利益ですね。

利益というのは、単に「儲かる」だけではなくて、「その利便性も提供できる」という。いわゆる「便益」という言葉を使いますけども、こういったものを総合的に判断してルールづくりが必要になっていくのではないか。

そして一番重要なことは、単に腕がいいだけではなくて、「何かトラブルが起きたときに、どのように対処していくのか」ということを、ちゃんと管理していく、マネジメントする。そういう能力が、使う人には求められてきます。「安全管理システム」というものをどうやって築き上げていったらいいのか、というところが最大の焦点になるんじゃないかと見ております。

公開・特例・認証

これはEASAさんの例なんですけども、欧州の共通ルールとして今提案されているのが、リスクに応じてオープン(open)とスペシファイド(specified)とサーティファイド(certified)という、3つのクラスに分けようということで検討されておりまして。

オープンというのは、リスクが非常に小さいと考えられる非常にオープンな場所で、小さな無人機を飛ばすということは、落下してもそれほど大きな被害がないわけですので、これはゆるゆるでいいでしょうと。

スペシファイドというのは、もうちょっとリスクが高まって。小さな無人機ですけども、街なかで飛ばすと、やはり落下するとリスクが出てしまう。ということで、これはなんらかのきちんとしたルールづくりが必要です。

さらに先ほど言った、荷物を運ぶような大きな無人機を使うということになりますと、これは有人の飛行機と近い考え方で、きちんとした安全の対処をしなきゃいけない。サーティファイド(認証)ということです。

こうしたことが必要である、といった提案をしておりまして。こうした考え方が世界的にも普及しております。我が国でも、こういった方針をこれからの規則づくりに取り入れていければ、というふうに思っております。

「1年振り返って」ということで、以上で私からの発表を終えさせていただきます。ありがとうございました。

(拍手)

高橋:鈴木先生、ありがとうございました。鈴木先生からは、今年(2015年)1年間の動向を振り返っていただいた上で、「今後のドローン産業について、どのような発展が望ましいか」という点を踏まえてお話しいただきました。

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