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「人類補完計画」で全人類がプログラミングできる社会を作る(全8記事)

「自分より優秀な人しか雇わない」社員の能力を引き出す、すごいチームの作り方

メンバーの能力を発揮させつつチームをまとめていくことは、大変に難しいことです。株式会社UEI代表取締役社長兼CEOである清水亮氏は、自分にできないことをやってくれる人たちの時間を貸してもらって、働いていただいていると考えています。そして、社員の能力を引き出せるように、社員の意思ややりたいことを尊重していると語ります。

自分より優秀な人しか採用しない

清水亮氏:チームビルディングは非常に難しい問題ですね。いろんなものを解決しなきゃいけないし、いろんな報酬を与えなきゃいけない。報酬っていうのは、1つはお金ですけれども、ただ、お金だけでは人は動かないです。それは間違いない。特に優秀な人はお金だけでは動きません。もちろん、お金をあげなきゃ動かないんですけど、お金だけではやっぱり動いてくれない。

僕がいつも心掛けているのは、これは全社員に対して言えることなんですけど、僕より優秀な人じゃなきゃ採らないんですよ。どの部署であっても、どの仕事であっても。僕より優秀であってほしいし、僕より優秀であるべき。その優秀っていうのが、領域の問題だと思っていて。すべてにおいて、僕より優秀な人を探すのはめちゃくちゃ難しい。それは、僕の能力が高いからではなくて、ジャンルが違うからですね。

けれども、例えばプログラミング能力。Javaのプログラミング能力については、僕よりできるって人はいっぱいいるわけです。もしくは、いろいろです。料理が僕よりできるとか。時間管理が僕よりできるとか。いろんな職種があります。僕より根性あるとか、僕より真面目とか。僕より神経質だとか。

社員に働いていただいている

まずは、よく言っているんですけど、僕は社員の人たちに、働いていただいていると思っているんですよ。それはなんでかというと、会社っていうのは、実に人生80年のなかの半分ですよ。20歳から60歳まで。40年間働くわけじゃないですか。人生の半分のなかの、さらに1日の大半の時間を会社で過ごすわけですよね。僅かなお金をもらって。人間の人生、その時間の持つ価値に比べたら、その対価として会社が払えるお金なんていうのは、全部、はした金なんです。いくら払おうと、働く側にとってはすべてがはした金になっちゃうんです。だって、人生のほうがずっと価値が高いんだから。

その人は、どんなことにも時間を使えるんですよ。自分で会社作ってもいいし、もっと給料がいい会社に行ってもいい。もっと楽な仕事に就いてもいい。早く帰れる仕事に就いてもいい。どんな仕事でもそうやっているわけです。その人たちの時間を、僕らは、すごく安いお金で貸してもらっているっていう考え方が、まず第一。しかも、僕より能力が高い人。僕にできないことをやってくれる人。だから、まず、そこが大事です。

お金では人材を集められない

僕としてみれば、社員の人たちからしたら、「働いてやっている」って思ってほしいんですよ。「清水のために働いてやっているんだ、おれたちは」と。間違っても、「働かせていただいている」って思ってほしくないんです。「本当にあいつはどうしようもないヤツだし、この会社の給料安いし、ろくでもないんだけど、おれはあえて清水のために、あえてこの会社のために働いてやっているんだ」と。

なぜか。おもしろいことやっているから。おもしろいことさせてくれるから。人に自慢できることをさせてもらえるから。たまに批判もされるけど、それでも、新しいことやらせてもらえるから。まず、そこが大事です。そこが大前提で。極端な話でいうと、どんな大金払っても優秀な人は来ないです。もう何千万円払っても、来ないです。

例えばですよ、どうしてもこの人が欲しい、と。「おれよりも高い給料払います」と。「年収3,000万円払うから来てください」と言うとするじゃないですか。来ないですよ。来るかもしれない。でも、来たところで、働いてくれないです。その人は金目当てなんだから、所詮。金目当ての人を雇ったってしょうがないです。

だから、僕はどうするかというと、「あなたのやりたいことをやりましょう」と。「あなたがやりたいことを一緒にやりましょう」と。「僕はこういうことをやりたい。あなたはこういうことをやりたい。その折り合いをつけて、ここを一緒にやりましょう」と。そういうふうに口説くわけですね。

「あなたの生活を脅したくないから、あなたが今貰っている給料と同じか、それ以上払いますよ」と。でなかったら、大きな会社からヘッドハンティングはできないですよ、うちみたいな小さな会社に。そうやって家族を説得してくるんですよ。

うちの、特にenchantMOONを作っているチームにも僕が出向いて行って、頭下げて、「奥さんもこうやって説得してください」とか、「給料これだけ出しますから」と。「働いてください。一緒にやってください」と頼まないと働いてくれないです。だから、チームビルディングって、まずそこからだと思うんですよね。

自分が雇った人を信じる

そのときに、僕が大事にしているのは、まず、働いてもらっているっていうのが一番大事なんですけど、もう一つは、決してセコいことを言わないってことですかね、経営者としては。自分がお願いして雇ってきたわけですから、今更、「給料高い」とか、「有給休暇取り過ぎなんじゃないか」とか、絶対言わない。

僕はむしろ、「休暇取ってない人は全部取ってくれ!」と言っています、僕の部署では。ほかの部署は知らないですけど、僕は「とにかく休暇は全部取ってくれ」と。「残業もなるべくしないでくれ」と。ちゃんと家に帰ってほしいんです。

それはなぜかというと、ちゃんと休んだ人が一番ちゃんと働けるんですよ。人間って休みすぎると、「こんなに休んじゃ、まずいんじゃないかな」と思って、働く気力が湧いてくるんですよね。僕は何度もそういう経験しているんで。

僕はドワンゴっていう会社でサラリーマンやっていたときに、裁量労働制だったんで、会社来なくてもよかったんですよ。あまりにやる気なくなったとき、無断で5日間くらい実家帰っちゃったんですよね。実家に帰って、「あんな会社やってられっか」とかって言って、1日ビデオずっと見ていたら、さすがに3日目ぐらいに、「おれ働かなくて大丈夫なのかなぁ」みたいな(笑)。「 働きてーな」みたいな感じになって戻ったっていう経験があるんですけど(笑)。

ちゃんとした人って、そうだと思うんですよ。プライドがあるから。自分が生きて、無為に時間を過ごすのが、すごくプライドが傷つけられるから。遊んでりゃいいと思うんですよ、基本的に。遊ばせてればいいというか。その人を信じて、任せる。自分が連れて来たんだからね。というのは、まず大事かなぁと思います。

おもしろいことで人材を集める

もう一つ。もっと大事なのは、あとの話にもつながるんですけど、例えば、enchantMOONの開発の場合、東浩紀さんという高名な哲学者さん。あと、樋口真嗣さん。ゴジラの映画監督。そして、安倍吉俊さんっていうイラストレーターさん。とかが参加してくれているわけですけど、普通こんな人たちって、いくら払っても参加してくれないです。忙しいから。

こういう人たちを口説くっていうのはどういうことかというと、「おもしろいことをやっています」ってことしかないわけですよ。この人たちに頼んだときのギャラっていうのは、言えないぐらい安いですよ。だけど、「おれがこんなおもしろいことをしようとしているんだ」と。「一緒にやんない?」って言ったら、それは乗ってくると。

これって、結局、イベントを企画するのと一緒で、「こういうおもしろいこと、おれ考えているんだよね」って。「一緒にやろうよ」と。「そうしたらもっとおもしろい。一緒に悪だくみしようよ」と。一味を増やすっていうかね。海賊団みたいなもんですよね。

社員が成長するように仕事を与える

そのとき、いつも思っているのは、僕、社員によく聞くんですけど、ある社員がいるじゃないですか。うちの社員は、だいたいみんな素晴らしく優秀なんです。1人でいくらでも働けて、1人で何倍でもレバレッジ効いて、普通の会社の何十人月も働けるやつ、いっぱいいるんですね。こういう人たちに、僕がいるじゃないですか。僕なんかヘナチョコなわけですよ。

だって、平日にこんなところで喋っているわけですから(笑)。働いてないわけですよね、言ってみりゃ。この時間も、みんな働いているんですよ。でも、これ残業じゃなくて、朝が遅いから今働いているんですけど。ここ大事ですよ(笑)。朝が遅いから働いているだけです。朝早く来た人は帰っています。(注:本講演は平日19時より行われた)

この人たちの能力が100だとするじゃないですか。僕がなにか仕事を頼むじゃないですか。この人たちの能力、100使ったら駄目なんですよ。なんでかっていうと、この人は、「清水とやっても、おれ成長しねぇな」みたいになっちゃうんですよ。

人間って常に変化するから、この人に頼むとき、150のこと頼むんですよ。「それは無理だ」って思うんだけど、じゃあ120、じゃあ110って落としていくと、「じゃあ110ならやってもいい」って言って、110やるじゃないですか。「ここまでできたなら、ここすぐ10だよ?」みたいな。「あと30じゃん」ってやると、気がついたら、その人の能力は1.5倍になっているわけですよ。

力を引き出すことが上司の役割

これはドワンゴの頃からそうだし、その前、僕の上司の森(栄樹)さんって方がNTTデータにいた頃からそうらしいんですけど、すごいプログラマーのことを「スーパーカー」って呼ぶんです。普通の車が時速100kmしか出ないところを、スーパーカーは300km出せると。ところがどっこい、スーパーカーだけでは300km出せないんですよ。ドライバーが必要。凡人が乗っても、300km出したら死んじゃうでしょ? 僕はスーパードライバーを目指す、というのをずっと昔から言っていて。

僕はいつも、古株の社員とかプログラマーとかに、時々確認しているわけですよ。「あなたの能力がちゃんと引き出せていますか?」と。「あなたが与えられた仕事は、つまらなくないですか?」と。「おもしろいですか?」っていうことを、常に意識しています。おもしろい仕事を与えている限り、人は働いてくれますし、自分の能力以上のことをしてくれます。

社員のwillを大事にして能力を引き出す

これは、コンピュータと普段向き合っているからこそ思うことで。コンピュータも買って来たら、ただの機械なんですよ。当たり前ですけど。ところが、僕は、同じ機械なんだけど、ほかの人と違う使い方をすることによって、その機械の性能を何十倍にも引き出すことができる。だからプログラマーなわけで。

これをわかりやすく言うと、例えば、ゲーム機ってあるじゃないですか。ゲーム機のプログラムって非常にわかりやすくて。なんでかというと、ハードウェアがまったく一緒だから。誰が作っても同じハードで動くんですよ。ところが、差が出るわけですよ。「この会社のゲームはすごい」と。「この人のプログラムはすごい。この人はイマイチ。この会社は全然駄目」。大会社だろうが、ベンチャーだろうが、関係ない。プログラマーの能力だけで差がつくんですよ。こんなおもしろいマーケットはないですよね。こんなおもしろい場所はない。

iPhoneもそう。「この会社が作ったゲームは良くできている。綺麗に動く、速い。気持ちいい。こっちの会社はイマイチ」。これがソフトの力なんですね。だから、そういう意味では、彼らがハードだとして僕がソフトだと。つまり、こっちがコンピュータだったり、わかんないけど、ぼくを操る社会の裏の存在だったりとかがいて(笑)。

たぶん、これがループしてる。ある時は、この人に実は僕が操られているかもしれないし、いろいろあるんですけど、この人がやりたいことしかやらせないですからね。だから、僕はとにかくwillを一番大事にする。この人はなにやりたいのか。将来どうしたいのか。自分はどうなりたいのか。

最初に必ず面接のときに聞くのは、「将来の夢はなんですか?」。簡単なやつだったら、「すぐ叶えて来い」って言うんですよ。例えば、うちの会社に「就職してもいいよ」って言ってくれる人がいて、「将来の夢はなんですか?」と聞いたら、「パリに行くこと」って言うから、「じゃあ1ヶ月後でいいから、パリにとりあえず行って来てくれと(笑)。そのほうがきっといいと思うよって。後回しにする必要ないから、行ってきなさいという感じで、パリに行ったことで夢が広がりますから。次の夢が出て来るから。今度はパリに永住したい、と。「じゃあ、うちの会社で働くの間違っているよ」と。

(会場笑)

そんな話も実際ありました。

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