2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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清水亮氏:要するに、今日のテーマというのは、誰でもコンピュータを表現手段として使いこなせるようなプログラミングができたほうがいいよという話なんです。
僕が思ったのは、キーボードを使うのは相当難しいんですけど、子供なんて放っておいても、ペンを渡しておけば、家のそこら中に落書きするじゃないですか。しかも、ただの落書きだけじゃなくて、絵本とかマンガとか、勝手に作るんです。
子供の持っている、クリエイティビティに対するポジティブな欲求って、すごくいいなと思っていて。自分たちなりの方法論として、マンガとか絵本とか作るじゃないですか。
我々も子供の頃、紙で迷路作ったり、鉛筆飛ばし合ったりとかしませんでした? なんか勝手にやるんですよね。だから、極端な話、僕はenchantMOONで鉛筆飛ばしをしてもいいと思うんですよ。実際、それで遊んだことあるしね。
落書きからマンガや絵本に発達して、さらに発達したときに、ちょっとゲームみたいなことができたらいいなと。そこで、我々は、ここにハイパーテキストという手法を入れたわけですね。
ただ、当初はenchantMOONがなんなのか、僕らもよくわかってなかったんですよ。(両手で盛り上がりを示すジャスチャーをして)モチベーションはこうだったんですけど、手書きって大人もなぜか使いたがるじゃないですか。
(会場にあるSurface Bookを指して)これ、足して40万円くらいしますから。最上位機種ですから、これだけで34万円するやつです。40万円オーバーの機械をいつも持ち歩いているかといったら、持ち歩いていないわけです。重いから。重いっていうのと、もう一つは、とにかく使い道がないんですよ! 残念なことに! なんでかなぁと。
(観客笑)
enchantMOONの場合、僕は結構持ち歩いていたんです。enchantMOONがないと困るなぐらい。
ところが、なぜかiPad Proがないと困る場面ってなくて、むしろ、どっちかというと、iPad miniを持ってくるべきだったなみたいな。ニコニコチャンネルのうしじまいい肉のブロマガとか読んでいるところを、電車のなかとかで人に見られたら、ちょっと恥ずかしいわけですよね。でかいが故に隠せないという、このジレンマ! 人が見ていると思って、ちょっと変えようとすると、キニ速とか出てきて、もっと恥ずかしい。だから、ちょっと使い道が少ない。授業とかでは使いやすいんですけどね。生徒に「でか過ぎますよ!」ってずっと言われてましたが。
アラン・ケイに会った時に、すごく言われたことがあって。皆さん、知らないかも知れないけど、マックには「Automator」って簡易プログラミングツールがあるんですね。これは誰のマックにも最初から入っているんです。
ちょっと(パソコンの画面が)見づらいですけど、これだけいろんな機能が使えて、いろんなことがめちゃくちゃできるんですよ。けど僕ね、使い方がわからない。
僕は、過去に何度もAutomatorでプログラム書いてるんですけども、例えばなにができるかというと、デジカメで写真撮るじゃないですか? 撮った写真を、USBにつないで、そのままその写真を縮小して、どっか別のフォルダに自動で送るとかができるんですよ。
結構便利なんですけど、(肝心の)使い方がまったくわからない。例えば、「iTunesのプレイリストを再生」っていつ使うのよみたいな(話ですよ)。だって、それを自動化したいことってあります? 「俺が再生したい時にしろよ」みたいな話じゃないですか。
なんか、誰のために作ったのかわからない機能が多いんですよね。インターネット(ライブラリの中のアクション)とか。まあ、FTPとか便利ですけど。すごく高度なことをやっているのに、(ユーザーの立場に立った時に)全然使いたくならない。そして使い方もわからないっていう、二重の苦しみがあって。
アラン・ケイは、やっぱりこの失敗をちゃんと他山の石とすべきだと。Automatorはなんか、すごいことができるんだけど、(こちら側としては)しない、したくならない、やり方もわからない。(とどのつまり、作り手が)なんのためにやるのか考えていないっていう話をしていました。
なぜ、品女の子たちはこの壁を超えることができたのか。ハイパーテキストまではいけるんですけど、普通、この先にある「じゃあ、プログラミングしよう」(という発想)にならないんですよ。
(ホワイトボードの「プログラミング」と「ハイパーテキスト」との間に線を引き)ここにものすごい壁がある。(続けて、ホワイトボードの「マンガ・えほん」と「ハイパーテキスト」との間に線を引き)ここにもあるんだけど。
ここにいるプログラマーじゃない普通の人たちって、多分せいぜいパワポで絵本作って終わりじゃないですか。21世紀って恐ろしくて、世界中の大人たちが、毎日毎日パワーポイントで「紙芝居」を作るっていう仕事をしていますよね。「黄金バット」かなんなのかわからないですけど。
(会場笑)
だから、実は(ホワイトボードの「マンガ・えほん」を指して)ここ止まりなんですよ、皆さん! 品女(のレベル)までいってないわけですよ! でも、実はPowerPointでもKeynoteでもできるんです。ハイパーテキスト機能、付いているんですよ。
(手でページ遷移を表現しつつ)このボタンをクリックしたらこっちいくとか、このボタンをクリックしたらこっちいくとか。「なんでやらないの?」と。(答えは)やりたくならないから。
つまり、機能があるだけ、簡単にできるだけではダメなんです。さっきのAutomatorは、まさに簡単にできるだけ。パワーポイントも機能があるだけ。そこに置いてあったって、実際に使わなかったら意味ないわけで。
では、品女の子たちは(どうして壁を)超えられたのか?
一つの仮説としては、それ以外、なにもできなかったからでしょうね。だって昔、Windows 95が流行った時に、ずっとみんなソリティアやってたみたいな話があるじゃないですか。その前はマインスイーパーかな?
ずっとゲームをやってて、ほかになにもしていない状況ってあるじゃないですか。Windowsは、きっとあれができちゃったからダメだったんですね。
(会場笑)
それはマイクロソフトの巧妙な戦略だったかも知れない。そうすることによって、ほかのことができない、ダメな人間たちを世界中で何十億人も量産してやるという強い意志だったかも知れないですね。
マイクロソフトは、本当にソフトウェアを開発する人を特別扱いしますから。ソフトウェア開発キットは、昔、何十万円もしましたからね。今はもう、タダになってきましたけど。(品女の)彼女たちがすごいのは、ハイパーテキストをさらに乗り越えて(いった点ですね)。
ハイパーテキストまでだったら、大学生でもいけるんですよ。でも、品女の子たちは、さらに、そこからプログラミングにいった。なんでいったのか。よくみると、すごい単純な動機なんですよね。
例えば、自分が紙芝居を作りましたと。その時に、次のページにいったら、例えば、次のシーンに合わせて雪を降らせるにはどうすればいいの? 星を降らせるにはどうすればいいの? 開いた瞬間音が鳴るようにするにはどうすればいいの?
パワポでは、もとからある機能でできるわけですよ。でも、(enchantMOONでは)敢えて用意しないことによって、自分で作る楽しみをそこで獲得していったと考えることができます。ひとつの仮説ですけどね。
同じ話が、HyperCardという、マッキントッシュに昔付いていたソフトにもあって。アラン・ケイが「なぜHyperCardは成功して、Automatorは失敗したのかってことをよく考えなさい」って話を僕にしてきて。ひとつの仮説としては、こういうことなのかなと。
(enchantMOONの開発で)なにが困難だったかというと、最初、自分たちもこれがなにをしたいものなのかわからなかった(ことですね)。さっき、大人も買いたいって言ったんだけど、じゃあ、大人はなにを期待してenchantMOONを買ったんですか。ブギーボードのような、もっと安いものでもいいじゃないですか。ブギーボードも、ほかの手段もあるなか、enchantMOONになにを期待して買ったのか。多分、買った人もわかってらっしゃらなかったかも知れないですよね。「なんか新しいことができそう」と思って買ってくれた。それならば、僕らもなにか応えなきゃいけないなと思って、長年、研究を繰り返してきました。
「出会い」という意味では、品女が大きかったですね。品女(の子たち)ほど、これを使いこなした人はいないので。
(この場って)方法論について語る会なんですよね。僕が常に意識しているのはなにかっていうと「浴びる」ことですね。僕は「浴びる」っていう言葉をよく使います。今日も使いましたけど。
新しいことをやる時に、「情報のシャワーを浴びる」みたいな。もしくは、「浸かる」とか液体表現が多いんですけどね。
例えば、アメリカやフランスでモノを売りたいと思う。そういう時、どうするかというとなにも考えずにそこに行く。釣りゲームを作ろうと思ったら、釣具店に行ってみる。
英語を学びたかったら、アメリカに行く。フランス語を喋りたかったら、フランスに行くと。中国語をやりたかったら、中国に行く。一番簡単なんですけど、みんな意外とやらないですよ。忙しいのか、なんなのかわからないですけど。
僕は、今回の話でいうとenchantMOONというものでなにができるか知りたかったんで、もう徹底的に、それこそスウェーデンからロサンゼルス、MITといろんなところに行って、いろんな人の考えを聞いて、いろんなことを集積して、そこから感じ取ってきました。
やっぱり、よく言う話ですけど、自分がファーストユーザーじゃなきゃダメだと思うんですよね。自分が一番たくさん使っているユーザーじゃないといけない。
開発者そのものって、なかなかそれができないです。自分で作っているモノだから、なんかバグがあっても、もう慣れているんで、見なかったことにしちゃうんですよね。「あー、はいはい、出るんですよ、このエラー」って。そこで「いや、ダメだろ、そりゃヘンだろ。なんでヘンだと思わねぇんだよ」ということがあってね。
品女の前に成蹊大学の子たちにenchantMOONを使ってもらった時に、「こんなふうに使うのか」って勉強になりましたね。
実際、あの時使わされた側になってみれば、「こんなもん、使わせやがって!」って感じかも知れないですけど。おかげで僕らにとってはすごい知見が得られました。
だから、ユーザーとも実際に触れ合うしかないなと。来月もやりますけど。僕の実家がある新潟県長岡市のほうで、小学生の子どもたちにenchantMOON使ってプログラムを教えると、小賢しいことに「三角関数の入れ方教えろ」とか言ってくるんです。
「あぁ、なんか故郷に戻ってきたな」と。世界中どこでやっても、小学生はもちろんのこと、大人からも「三角関数どうやって入れたらいいんだ」なんて聞かれないですから。でもそこはそういう街なんです。
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