2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
『クックパッドのデータ分析力』刊行記念トークショー(全1記事)
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司会:本日はお足元の悪い中、『クックパッドのデータ分析力』刊行記念トークショーに、足をお運びくださりありがとうございます。
さっそくですが本日ご登壇いただくお二人をご紹介させていただきます。著者である、中村耕史さんはクックパッドに転職後、前職の経験を活かして、データ分析サービス「たべみる」のリニューアルに尽力されました。
今回のゲストで聞き手をしていただきます松浦弥太郎さんは、「暮らしの手帖」編集長としてご活躍された後、2015年4月にクックパッドに移籍され、7月より「くらしのきほん」というメディアの編集長としてご活躍中です。
本日は、「たべみる」の可能性や、データ分析からみる食卓の未来など、様々な角度からお話しいただきたいと思います。
松浦弥太郎氏(以下、松浦):僕は4月に入社して、7月に「くらしのきほん」というメディアを立ち上げました。中村さんがリニューアルされた「たべみる」というデータ分析サービスを、「くらしのきほん」をつくるうえで、いつも参考にさせていただいています。
なぜかと言うと、前職の紙媒体でのデータを分析する場合、作った本の何が喜ばれたのか、読者の傾向はどうなのかということがわかるのは大体3カ月から半年経ってからなんですよね。3カ月後にデータをもらっても、実際に反映するのはなかなか難しい。
そうすると、何を手掛かりにするかというと、自分が一読者になって「どう感じたか」とか、「フィーリング」というもの。けれど、そこにはなんの根拠もない。
しかし、今は「たべみる」があるおかげで、今日、明日という未来の生活者のニーズをデータで知ることができる。それに僕はすごく感動したんです。そして今回、中村さんがお書きになった『クックパッドのデータ分析力』を読んで、こういった質問の機会をいただきました。
中村さんは、色々と話していると、非常にしっかりされているというか、情熱家ですよね。
司会:書籍を作っているときも、中村さんの情熱はすごいものがありました。原稿の作り方などは、しつこいほどというか。
松浦:(笑)。仕事でも暮らしでも、日々のいろいろなことでも、僕もつくづく思いますけど、しつこさって大事ですよ。
しつこいって言うと、言葉があんまりよくないかもしれないけど、諦めないってことじゃないですか。僕は中村さんと接していて、諦めない感じというのが非常にいいなと。そこが、「たべみる」を作っているんだと思うんですよね。
松浦:まず、初歩的な質問ですけど、中村さんが思う、たべみるの面白さってなんですか?
中村耕史氏(以下、中村):「一番は食の面白さ」を知るってことなのかなと。ここにいらっしゃるみなさんで、朝に大根入りの味噌汁を食べた人っていますか?
松浦:大根入り。いまだと食べている人がいそうですね。
(参加者50名中、1名挙手)
中村:そうですね。いまは大根が旬なので、いるかなと思うのですけれども、旬の食材を取り入れて、朝が和食っていう人……、ここでは1人しかいない。それくらい、みなさんの食卓の中身ってバラバラなんですよね。
自分が食べているものって、あたりまえだと思って食べているんですけれども、実はそれって隣の人とか、隣の隣の人とは少し違うものを食べているんです。
「じゃあ、実際、みんなは何を食べているんだろう?」ということを見ることができるのがたべみるの面白さかなと。
さらに地域や年齢による違いなどを、かなり細かく見ることができるのが面白さかなと思います。
松浦:すごくわかります。
僕がたべみるを見ていてつくづく思うのは、キーワードとして知っている料理名や食材が検索されてるのって意外と少ないんですよね。
それはつまり、僕の知らないたくさんの言葉を、生活者がニーズとして検索しているということ。だから、こんな言葉をこんなにたくさんの人が検索しているのかという、出会いや気づきも、楽しみの一つですよね。
中村:そうですね。そういうのは見ていて多いですね。
松浦:それぐらい、料理なり、日々の食事というのは、多様性というか、自分が想像している以上に種類もあるしニーズもたくさんあって、それをいろんな角度から見ることができるのが、たべみるの楽しさなんですね。
それとは別に、中村さんが個人的に興味を持って見ている部分はありますか?
中村:そうですね。仕事柄どうしても、「流行りものって何?」と聞かれることがあるので、何が次に流行るのかとか、今年は何が流行ったんだとかは注目しています。
松浦:あー、みんな中村さんに聞くよね。たべみるをきちんと見れば良いのに(笑)。中村さんに聞くと、大体わかるってことで、聞きにきますよね。
中村:そうですね(笑)。
松浦:僕なんかも、その内の一人で……、初心者向けの「たべみる」の画面の見方ってありますか?
中村:そうですね。では、実際の画面を見ていただきましょう。まず、皆さんの中に、お仕事で食品関連のお仕事をされている方って、どれくらいいらっしゃいますか?
(ほとんどの方が挙手)
中村:ほとんどですね。でしたら、実際に仕事でどのように使える、という視点からお話ししたいと思います。これがたべみるというサービスのログインをした時の最初の場面です。
(「たべみる」トップ画面より)この画面では「いま、何が流行っているか」が一目でわかることを意識しているのですが、上にある単語ほど去年より検索されていて、右にいけばいくほど、毎年この季節に検索されています。
たとえば、この中で、「ミニオン」という言葉をみなさんご存じですか? 食事でいうとなじみがないかと思うんですが……、ミニオンを調べてみると、検索がすごく増えているなというのがわかるんですね。
そして、クックパッドでミニオンを検索した人が何を作ろうとしているのっていうことを、あわせて見ることができます。
松浦:ミニオンってキャラクター?
中村:はい、ユニバーサル・ピクチャーズ製作のアニメ映画『ミニオンズ』に出てくる主人公のキャラクターです。
松浦:そんなことすら、僕は知らないんですよ。だから、たべみるを見て、「何?ミニオンって、食べ物かな? 料理かな?」って調べると、キャラクターで、そういう気づきにもなることが、たくさんあるんですよね。
中村:まず、そこから入っていただいて、自分が気になる単語ですとか、あるいは食品関連の仕事をされている人ですと、ご自身が担当されている領域の単語、メニューですとか、食材とか、調味料といったものを検索していただくといいと思います。
そうすると、その単語について、生活者の方がどういうことを知りたいのか、それって季節によって違うんだろうかとか、そういったことが簡単にご覧いただけるようになっています。
松浦:僕はいま、「くらしのきほん」というメディアを作っていますから、「きほん」という言葉を、検索に入れたいですね。
中村:では、いれてみましょう。
……「きほん」はですね、検索自体は増えています。では、どういう単語が一緒に検索されているとみなさん思われますか?
みなさん「きほん」というと、味噌汁とかアイスクリームとかハンバーグとか豚汁とか、こういったものの基本的な作り方というものを知りたいという方が多いみたいですね。
クックパッドってレシピが220万品以上あって、アレンジされているものが多い。だから、却って「きほん」という単語をいれている方が多いのだと思います。
松浦:「きほん」というと味噌汁があったり、ハンバーグ、餃子、カレーライスは想像できるんですけれども、あくまでそれは僕の主観の想像なんですよ。その主観の想像と実際の生活者の方のニーズというのは、かなりいろいろなところで差がでてくる。
その差はこのように、調べてみないと全然わからない。さらに僕みたいな初心者がね、こうやってデータ分析に向き合ったときに、知っていた方がいい基礎知識はどういうものがありますか?
中村:そうですね。たべみるの場合は、実はあんまり基礎知識というものはなくても使えるようにしています。クックパッドをお使いいただくのが一番かなと思っておりまして。
よく、クイズを出すんですけれども、クックパッドで一番検索されている単語ってなんでしょう。
実は……「かんたん」という単語が一番、検索されているんですよね。クックパッドを普段から使われている方ですと、「かんたん」は確かに自分もよく入れているなとリアルに感じることができます。
このように、普段からクックパッドを使っていただくということが、基礎知識じゃないですけど、たべみるを使ううえでの基本的な補助になりますよね。
松浦:クックパッドの検索を使いこなすのと同じように、たべみるで検索することで、さらに深くたくさんの発見があったり、知ることができたりするということですね。
先ほども言ったように、僕が日々、おもしろいなと思うのは、感覚的にあれがいいだろうこれがいいだろうと情報収集するんですけれども、確かめる機会がなかなかないじゃないですか。でも、たべみるを見ることで、そうなのか、と確かめることができる。自分の仕事の進め方が変わり、役立っているなと思います。
では、もっとマニアックな「たべみる上級者」は、どういった使い方をされるんですか?
(「たべみる」キーワード検索画面より)中村:そうですね……。キーワードを探す機能なのですが、たとえば、「サラダ」っていれると、「○○サラダ」で検索されているものが一覧で出てくるんですね。これを地域で絞り込んだり、年代で絞り込んだりとか……。
そこから、去年に比べて伸びているサラダってあるのとか、北海道で流行っているのはどんなサラダかとか、かなり細かいレベルで検索できます。
松浦:いまだから言えるんですけれども、食に関わる編集者のほとんどは、必ずどこかのタイミングでクックパッドを見ていますよ。クックパッドの何を見ているかというと、ランキング。
クックパッドのランキングを見て、今こういうものに興味をもっている人が多いんだなとか、あれも一つのデータ分析ですね。検索で出てくるランキングって価値がありますよね。
中村:ありがとうございます。そうですね。商品やお店は、年齢や地域によって、買って頂きたい対象者が変わってくると思うので、それに対応する形で実際に使っていただくということができるようにしています。
松浦:使いこなせば使いこなすほど、どんどん深堀りができるというか、確かめる深さが変わってくるということですね。日々、たべみるを観測する場合、何かをルーティーンで見ていくと、面白さが増したりしますか?
中村:そうですね。先ほどご覧いただいた、ログインに表示される注目キーワードでしょうか。週単位だと、1位や2位はあまり変わらないんですが、テレビにとりあげられるなどしたものは、それが急にランクインしたりします。
松浦:検索の上昇のきっかけは、テレビの影響が大きいですか?
中村:テレビは大きいですね。普段そんなに検索されていないものであればあるほど、一気に順位があがります。
最近だと、ココナッツオイルとか。あれもブームのなりはじめにテレビで紹介され、一気に検索が増えました。
松浦:本の中でたべみるのデータから、数時間後の未来がわかると書かれているのですが、これはどういう意味ですか?
中村:クックパッドが使われる時間帯は、夕ご飯前と、お仕事が終わって帰宅している途中が多いんです。なので、仕事が終わって、スーパーに行って、今日は何を食べようかな? というときにクックパッドは利用されている。そして、買い物をして料理ができるまでに数時間かかるので、ここで検索したものが、数時間後に食卓に並んでいる。そのデータを見ることができるのがたべみるだと考えています。
松浦:つまり、たべみるで出てきたキーワードは未来というよりも、いま以降ということなんですね。
中村:そうですね。あと、毎日作りなれているものって、調べないと思うので、料理を調べるのは「はじめて何かをするとき」だと思うんです。そうすると、はじめてのデータが集まるということは、そのデータが示すものは、これから流行するかもしれませんよね。そういう意味で、近い未来が見えるといった書き方をしています。
松浦:検索データというのは、いわゆるユーザーや消費者のニーズであると書かれているんですが、このことにまつわるエピソードはありますか?
中村:そうですね、たとえば「ダイエット」って毎年、同じ時期に検索されていて、みなさんがご想像されるように夏前が多いのですが、さらにそれよりも多いタイミングがあって、それは1月5日。
年末年始に飲み会があって、おせちを食べたり……そして、さあ今年こそやせるぞ!という、タイミングなのでしょうね(笑)。
松浦:なるほど(笑)。みなさんご存じでしたか? ダイエットの検索が一番多い時期というのが1月5日。これはだれも想像していなかったんじゃないですか?
中村:雑誌社とかメディアだと、このタイミングでダイエット特集とかされると良いですよね。
松浦:冬の号でダイエットというのは中々、思いつかないです。このように生活者の方のニーズが見えてくるわけなんですけども、「たべみるのここを見ておけば、確実にニーズをおさえることができる」というポイントってありますか?
中村:キーワードを毎日見るのも大切なのですが、見ていて面白いと思うのは、ランキングの中の「その他」。そこには「かんたん」とか「フライパン」とか「炊飯器」などが入っています。こんなのも検索してるんだというのがわかるのは面白いですね。
松浦:「その他」を見るのって、楽しいですね。
中村:そうですね、実は「その他」に分類される検索自体が増えているんです。「ふわふわ」「がっつり」といったニュアンスの言葉などがその例ですね。
松浦:思いもよらない言葉で検索されていて、人って面白いですね。クックパッドにある膨大なデータに新しい価値を見出したのが中村さんだと思うんですけれども、たべみるを使われる方に向けては、その価値をどう伝えていますか?
中村:1番は、たべみるのデータって面白いんだということを伝える。食品関係の方とお話をしていると、真面目で、食べることが好きな方が多い業界で、そういう方々に、このデータって面白いでしょということを伝えるのが入口です。何か面白いことを始めるきっかけとして使っていただければいいのかなと。
松浦:私は「暮らしの手帖」という雑誌の編集長をおよそ9年間務めましたが、雑誌を作っていると正しいことや確かなことを真面目に伝えればいいと思うときがあるんですけれども、そういうものってたいてい部数が伸びなかったりするんですよね。
だから、どんな仕事で何を表現するにしても、それを読者やユーザーが面白いと思うかどうかが大切ですよね。それが、一つのサービスとしての新しい価値なのかなと思います。
松浦:中村さんはデータ分析の畑で、10年仕事をされてきています。データの役割とか、面白さってなんですか? データって事実じゃないですか? だから、良いことだらけじゃないですよね。
中村:データっていうのは、事業が飛行機だとしたら、滑走路のようなものかなと。長ければ長いほど、上手く遠くに飛行機を飛ばせる。最後は飛行機を飛ばすことが滑走路の目的なので、飛ばせることができなければ意味がないかなと思います。
なので、仕事を進める上で都合が悪いデータもあるとは思いますが、データは切り取り方によって、結果が変わってくるものですし、データでわかることには限界があるので、それだけを過度に信じすぎないことが大事だと思います。
松浦:中村さんもデータを疑うことってあるんですか?
中村:疑うほうが多いですね。疑わないとそれが真実だと思ってはまってしまいます。集計などで間違いがあっても、思い込むと間違いに気づかないので、こういう結果になるんだろうなと見当をつけながらも、疑いながらデータは見ていますね。
松浦:データは飛行機を飛ばすための大切なものであり、かつデータだけじゃないというバランス感覚も持ったほうが良いということなんですね。
中村:それがないと、あんまり人間が仕事をする意味がないのかなと……。データで決めるだけでいいのであれば、ロボットがすればいいわけですし。
松浦:僕はいつもそれを悩みます。「たべみる」や新聞などからデータを収集しますが、最初に自分がこれいいなと思ったことが、データでは違うと出ている。でも、人間だから、自分はこれをやりたいとか、これが絶対にいけると思う気持ちも捨てきれない。そういうとき、どうしたら良いかのアドバイスをいただきたいんですよね。
中村:そもそもデータと人、どちらにウェイトを置くかは人によって違うのかなと思います。たとえば食品メーカーの営業の方は、データに重きを置かないと商談が成り立たなかったりしますよね。それに、「誰」が発信するかも重要で、たとえば僕と松浦さんでは、たとえデータと違う同じようなことをいったとしても説得力がだいぶ違うわけですよ。
松浦:結局、データ無しでは、いろいろなことを確かめられない、知ることもできないし、新聞やテレビを見る感覚で、データを見ようと思っているんですけれども、そこのバランス感覚やセンスはその人それぞれなんですね。
最後に、開発者である中村さんが、みなさんに「たべみる」を今後どのように、使ってもらいたいか、お話しいただけますか?
中村:「たべみる」には生活者の方の「これがほしい!」という情報が集まっています。売り場の方は、それを見て商品を並べたり、もっと簡単においしくつくる方法を提案したりできる。そうしたヒントを、たくさん届けたいと思います。
松浦:では、これからも中村さんにはもっとたべみるを面白くしていただきたいです。いまでも素晴らしいんですけどね、さらに! では、今日はどうもありがとうございました。
中村:ありがとうございました。
(会場拍手)
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