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挑戦する人生(全4記事)

ドラッカーに学ぶより役に立つ--経営者たちの暗黙知

IVS 2015 Springの本セッションに日本交通・川鍋一朗氏、オプト・鉢嶺登氏、投資家兼DeNA顧問・川田尚吾氏、KLab・真田哲弥氏の若手経営者4名が登壇。モデレーターを務めるじげん・平尾丈氏の進行で「挑戦する人生」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、平尾氏による「しくじり社長 俺みたいになるな!!in IVS」という裏テーマのもとに、経営者として振り返ったときの最大の失敗談を紹介。セッションの締めくくりには、事業の中で失敗を認識する基準や上場後の資産運用など、数多くの失敗を経験してきたベテラン経営者ならではの実用的なノウハウが語られました。

事業における失敗の認識

平尾丈氏(以下、平尾):今日のお話で「失敗とは何か」ってあったじゃないですか。特に真田さんがおっしゃった「ゆでガエル」っていうのも、実はチャンスロスかもしれないし、それは失敗かもしれないし。

投資の大きさ・小ささみたいなところも、もしかしたら結局死なないで拡大できて、それこそピボットがうまくいったDeNAさんは大成功事例でいらっしゃると思ってまして。

成功の再現性というのもあると思うんですけど、「失敗とはなんぞや」みたいなときに、後からわかるものであるというところはわかってるんです。

でも、各社皆さまで失敗の定義は違うと思いますし、どういうふうに失敗を……先ほどの真田さんのところだと、各業界の中での比較とか、ベンチマークしていらっしゃる会社との比較みたいなところから「今は失敗である」というのを導き出されてるのかなと思ったり。

失敗を皆さんがどうやって認識されるのか、どういうふうにコントロールされてますか? 

お時間が残り10分くらいになってきてるので、ひと言ずつ最後にいただきながら。質問は1つ2つに絞ろうと思います。全員にいかなくても「私はこれだ」みたいなのがあれば、ぜひ教えてください。自分の場合は「自分の目標との差分、ずれたこと」が失敗です。

目標設定をデジタルにする

真田哲弥氏(以下、真田):やっぱり僕も同じで、目標設定をいろんなKPI単位でやるじゃないですか。目標設定を明確に、デジタルに。デジタルに目標設定するって、売上数値とか経常利益とかがわかりやすいですけど、それ以外にいかにデジタルに目標設定するかだと思います。

平尾:デジタルに。なるほど。もうひとつくらい、親分の皆さまの口から聞きたいなと。

川鍋一朗氏(以下、川鍋):とりあえず生き延びてる限り、失敗もネタにできるからいいと思ってるんですけどね(笑)。死なない範囲での新陳代謝。

私も、もう1社デイサービス事業を始めて「3年で50拠点つくるぞ!」って言って、1年でスパッと終わりにして。前回が4億5000万円の赤字だったのが、今回が2500万円で済んだっていう。

平尾:失敗のバーってどういうふうに決めてらっしゃいますか? さっきも(基準は)赤字だとかありましたけど。

川鍋:結局その拠点は赤字だったし、その事業での成長のポイントを明確に外したなという実感があったんです。したがって、そのストライクに入らなかったことが失敗だし。ストライクに入る球をもう1回投げようとすると、次は5000万円くらいかかりそうだなと。

実際、介護施設って、僕が1年間やった経験では「意思決定者が全員女性」なんですよ。要介護認定を受けてる人も女性が多いし。男性だと「おじいちゃん、要介護認定受けたら」って言われても「いや、俺はまだ大丈夫だ」みたいな。

そのおばあちゃんを世話するのも、どっちかというと娘さんが多くて。なおかつ、介護保険の点数を振り分けるケアマネジャーという人たちもみんな主婦なんですよ。施設も、入ったら意外と「間接照明でアロマが……」みたいな(女性向け)、そういうのがわりと意思決定を後押しして。

(自分は)どっちかというと男性的なのをつくっちゃったんですね。それがわかった時点で、最後は「やっぱり、これは俺燃えねぇな」と思ってやめた(笑)。本当はずっと10年くらいできるんじゃないかと思ってたんです。

僕はITには全然弱いけど、労働集約産業は規制産業だから、タクシーとデイサービスは近いと思って。いつかはやりたいと思っていたけれども、やって1年で(撤退した)。でもなんか今はすっきりしてますね。

平尾:デジタルとはまたちょっと違う観点ですよね。今のお話は。

川鍋:そうですね。でも自分の心の中の引っかかりを1個終えたという面では、金額としては失敗だったけど、自分としてはすごくすっきりした。

新聞を読んでて介護事業のネタが出ても、今は心が揺れないというか(笑)。以前だと「ちくしょう、俺もこれやんなきゃいけねえんじゃねえか」とか思ってたんですけど。そういう意味では心の平安を得ましたね。

平尾:ありがとうございます。鉢嶺さんですね。

絶対に達成できない目標が原動力になる

鉢嶺登氏(以下、鉢嶺):僕が印象的だった会食が、日本電産の永守(重信)さんとのもので、そこで川鍋さんがおっしゃった(ことも含めて)2つ教わったんです。1つは「とにかく失敗をいっぱいしろ」と。決断の数だけ経営者は伸びるから、会社をつぶさない範囲内で、できる限り大きな失敗をしたほうが、それだけ経営者としては伸びるぞと。

もう1つは……当時は売上が300億円くらいだったかな。それで「まさか目標を1000億とか言うんじゃないだろうな?」と言われたんです。

「え?ダメなんですか」って言ったら、「目標1000億で1000億達成するのと、目標1兆円で5000億しかいかないのとどっちがいいんだ」「そりゃ5000億ですね」「そうだろ。ちっちゃくまとまるんじゃないよ」って言われたんです。

そのときにグサッときて。「そうだな。自分の中でワクワクする、絶対今のままじゃできない目標って設定できてなかったな」って。そこなんです、発信源は。

そういう意味で言うと、さっきの川田さんもそうですが、大きな目標を設定すると、今の「広告代理店オプト」だけではその目標は絶対に達成できないわけです。そうすると、違うビジネスモデルとか「どうやってやるか」という発想が全然変わってきます。

それによって「絶対に成し遂げてやるぞ」と。「見てろよ。今は失敗して全然無理だけど、絶対あとで見返してやるんだ」みたいなのはあります。

真田さんなんかも、僕は本当に昔からの知り合いですけど、常に大きいことを言っています。まだ成功する前、サイバードやる前からね。だからそういうのが原動力になってるんじゃないかなって、見てるとすごく思いますね。

忙しいときに限ってよく遊ぶ

平尾:なるほど。勉強になります。お時間のほうが残り5分になってきましたので、「これは今日聞かなきゃ絶対帰れない」という方がいらっしゃればぜひ。1人か2人くらいしか聞けないと思いますが、手が挙がれば……挙がりましたね。ではそちらの方お願いします。

質問者:今日はすごく貴重なお話、ありがとうございました。「失敗」「しくじり」というところから連想して、今日なかった視点で「プライベートと仕事とのリンク」というのが気になりました。

ついこないだ『成功者の告白』という神田(昌典)さんの本を読んで、それが経営者の意思決定において、精神的なところですごくポイントになるんじゃないかと思っておりまして。ぜひ、ターニングポイントになるようなところがありましたら教えていただきたいと。

平尾:これはどうですかね。真田さんが今日で一番真剣な顔をされてたんで。

真田:……(笑)。プライベートと何? もう1回言って?

質問者:プライベートで精神的に不調のタイミングとかがあったときに、それが仕事上の意思決定にどれくらいの影響をもたらすかとか。もしくは逆でもいいんですけど。あとは、仕事にのめりこみすぎてプライベートが悪くなるみたいなリンクは絶対あると思ってるんですけど、聞きたいです。

真田:ありますね。ログミーさん、止めてくださいね。違うか(笑)。

基本(仕事とプライベートの)アルゴリズムって一緒で、忙しいときに限って遊びたくなりますよね。仕事が絶好調でガーッといくときに限って「24時まで仕事して、そこからまた飲みに行くんかい!」みたいな。

仕事がうまくいかない、自分の中で下降調子のときは、そんなに飲みにも行かないし遊びにも行かないっていう。僕の場合はそれが一緒に来ます。

忙しいときは睡眠時間を削って遊びますね。そのほうがうまくいったりするというか、過去はそういう流れでやってきてますね。こんなこと、何かの役に立ちますかね(笑)。

平尾:大丈夫でしょうか。ありがとうございます。じゃあ最後の……。

一番の投資は、自分の会社への投資

鉢嶺:僕もいいですか? もう1個あるのは、資産運用系の話です。上場すると必ず「お金がある」ということで、いろんな人がいろんな提案を持ってくるんです。やれ仕組債だ、不動産だ、株だっていっぱい持ってくる。

僕が上場したときに、アスキーの西(和彦)さんに最初に言われたのが「お前、キャピタルゲインは冷蔵庫の中に全部しまっとけ」と。「この人何を言ってるのかな?投資するに決まってるじゃん」と思いましたが、まあ見事になくなるんです。周りの経営者を見ても、運用で得してるってあんまり聞いたことないです。

だから、一番の投資はやっぱり自分の会社への投資。あと、とにかく流動性を意識して資産運用をすること。海外のファンドや不動産を買ってしまうと、換金できないです。こういうので痛い目にあうことがあるので、流動性を持った資産運用をしていただきたいなと。

平尾:大変勉強になりますね。

川鍋:そこの欲望に打ち勝つってどうやればいいんですかね(笑)。本当に冷蔵庫を買って入れとくしかない。または失敗してネタにして。

真田:金庫じゃなくて冷蔵庫なんだっていうところがね(笑)。いや、金庫のほうがいいんじゃないですか?

平尾:開けちゃうから(笑)。

真田:冷蔵庫は開けちゃいますからね。

教科書に載ってない経営者たちの暗黙知

平尾:すいません。もうお一方いらっしゃるんですけど、お時間の関係もありまして。またぜひ交流会だったり夜の部とかもありますので、そこでお聞きしていただければと思います。

残り時間が1分ちょっとでございますので、一言ずついただこうかと思ったんですが、私のほうでいったんまとめさせていただこうかなと思っております。

最近はIT業界も『HARD THINGS』であったりとか、マスメディアでも『しくじり先生』『大後悔時代』と、皆さんの失敗から学んでいこうというテーマが、2015年はかなり流行っております。

どこまでのレベルを共有していただけるか、私も今日はヒヤヒヤしながらやってたんですけども、今日はかなり話していただけたのではないかと思います。

資本のお話もそうですし、資産形成の話とかも……今、私のところにかなりいっぱいプライベートバンクの方が、決算説明会をするたびにいらっしゃいます。今日ももしかしたらいらっしゃるかもしれません(笑)。

私も経営学部ではないんですが、環境情報学部にいながら、経営学を専攻しておりました。ですが、マイケル・ポーターを学ぶより、ドラッカーを学ぶより、やっぱり教科書に載ってない暗黙知としてある事例を瞬間的に教えていただけたというのが、今ここに座っている要因なのかなと思ってます。

今日は私のモデレート不足で切り込みづらかったところもありましたので、そこは引き続き私のほうも切り込んでまいりたいと思いますし、次も呼んでいただけるのであればこれを、もう1回実現したいなと思っております。

川田尚吾氏(以下、川田):モデレートはめちゃめちゃうまかったですよ。

平尾:本当ですか? ありがとうございます。盛大な拍手で終わりたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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