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新しい子どもの教育機会を創る!(全3記事)

教育業界にはヒーローがいない--LITALICOが目指すベンチャー企業の成功事例

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、LITALICO・長谷川敦弥氏が登壇。スマートエデュケーション・池谷大吾氏をモデレーターに迎えて「新しい子どもの成長機会を創る!」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、長谷川氏と池谷氏が教育問題に取り組むきっかけとなった原体験と問題の解決をビジネスとして成立させることの難しさについて語りました。

IVS特別番組「新しい子どもの教育機会を創る!」

池谷大吾氏(以下、池谷):皆さん、こんにちは。株式会社スマートエデュケーションの代表の池谷です。

今日は、IVS特別番組として「新しい子どもの教育の機会を創る!」という壮大なテーマのもと、非常に有名な株式会社LITALICO代表取締役の長谷川さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

長谷川敦弥氏(以下、長谷川):よろしくお願いします。

池谷:まず初めに、簡単に会社の紹介等をいただいてよろしいですか。

障がい者に就労支援や教育を提供するLITALICOの取り組み

長谷川:LITALICOは2005年に創業した会社で、社会問題をビジネスを通してどう解決していくのかというところにチャレンジしている会社です。始まりは、障がい者の就労支援ですね。

障がいのある方の就労支援からスタートしていって、全国で就労支援をさせていただいているのと、就労支援で気付いたことをきっかけに、今は発達障がいの子ども一人ひとりに合った教育を提供したりですとか。

あとは最近、発達障がいの子どもの強みを伸ばしていこうというところで、「ITモノづくり教室」で、4歳ぐらいの子から、子どもたちがプログラミングを楽しんだりとか、3Dプリンターでモノづくりするような環境をつくっています。

あと最近は、ITを通して社会課題をどう解決するのかというところもチャレンジしている段階です。

教育問題の解決はビジネスとして成立するのか

池谷:ありがとうございます。始まる前にお話ししたんですけど、僕たちも教育というテーマをしていて、ただ少しビジネスのつくり方が違うと。我々は本当にインターネット前提で教育現場を変えたいというバックエンドがあったり。

一方で、長谷川さんは本当の障がい者をなくすという観点から、実際のスクールを開かれて、拡大されて最終的にはインターネットに。ちょっと上り方が違うと思うんですけど、同じ業界にいるとは思っていて。思うんですけど、こういった業界をやっている起業家って非常に少ないじゃないですか。

長谷川:そうですね。

池谷:ゲームとかソーシャルネットワークとか、そういうテーマのベンチャーは結構多いわけですけど、何でこんなにやる人が少ないんですかね? 可能性があるのに。競合がふえちゃうから言えないとか、そういうことなんでしょうか(笑)。

長谷川:そういうことではないんですけど、個人的にも社会問題に取り組んでいく起業家をもっと増やしていきたいと思うので、そういう流れづくりはしたいなと思うんですけど。

やっぱり社会問題を解決して、ビジネスとしても成立しているとか、教育の問題解決、本質に迫って、ビジネスとして成立しているロールモデルというか、ヒーローがまだいないというのが大きな問題点なのかなと思います。

誰か最初に突破する人たちが出てきたら、それに続いていく人というのはだんだん増えてくると思うんですけど、まだ誰も突破できてないというのが、流れづくりができてない要因なのかなと思います。

ITイノベーションの流れはもう止まらない

池谷:あえて地に足が着くという言い方をしたいんですけど、やっぱり業績とか数字も必要じゃないですか。

教育というのは崇高なテーマなので、いくらでも掲げられるし、社会問題を解決することも掲げられるんだけど、結局みんな長くもたないというか、マネタイズも含めて市場的な問題解決になっていなくて「ダメだね」というのを、僕も結構見てきたんですね。

長谷川さんは何でそこが有意義に感じられたのか、参入のきっかけはどういうところなんですか?

長谷川:僕自身は、もともと学生時代からITの会社にいたんですね。ITの会社で3年間ぐらい働いていて、ITを使って世の中が変わっていくのを本当に間近で見ることができて、すごいおもしろかったんです。

ただ、大半の会社っていうのは、ITだったらノンテーマでOKみたいな、IT使えば何でもありみたいな形で挑戦していくところが多くて、そういう大きな意味でのITイノベーションというのは、もう止まらないと思ったんです。

仮にビル・ゲイツさんがいなくなっても、孫正義さんがいなくなっても、ITによる広義のイノベーションというのはもう止まらないと思うと、自分がその流れに身を投じて、「ITだったら何でもやろう」みたいなところにはあまり意欲がわかなかったんですね。

やっぱりせっかく20年、30年、40年情熱を注いでいくんだったら、自分にしかできないイノベーションを起こしていきたい。

僕らがやらないと20年、30年変わらない世の中の文明や文化というものを、チャレンジすることでもっと何十年、何百年という単位で前進させることができる。そういうことだったら頑張りたいと思えたんです。

障がい者の問題に取り組むようになったきっかけ

そういう中で、医療の問題とか教育の問題とか福祉の問題とかを見ていって、たまたま出会ったのが障がい者の問題で。

当時から教育の問題とか、医療の問題は、「IT使ってこうしたらいいよね」というのはわりかしビジョンが見えていたんです。

ただ、障がい者の方に出会ったときに困ったのは、ビジョンが最初見えなかったんです。子どもたちが幸せになる社会はこういうのっていう、イメージは結構できたんですけど。

障がいのある方で、持って生まれた状況によって全く施設から出られないとか、親もなかなか会いに来てくれないとか、働いたこともないという人たちがちゃんと幸せになれる社会がどんな社会なのかというのを、きちんと自分の中で描いて、それをまず実現するところから自分はスタートしたいなと。

それだったら自分は頑張りたいと単純に思えたんですね。

池谷:これが自分の生涯を尽くしていくテーマなんだというのは、何か衝撃的な出会いやきっかけがあったんですか。

大学生のときに目の当たりにした現実

長谷川:最初、大学生のときなんですけど、重度身体障がいの方の入所施設があって、そこを見に行ったんです。

そのときに、たまたま20歳ぐらいの女の子が入所生活を送られていて、当時は毎月2,000円ぐらいのお給料をもらいながら、データ入力の仕事をしていたんです。脳性まひの方だったので、頭にヘッドギアをつけて頭で入力するんです。

貯めたお金を「どうするの?」と聞いてみたら、「お母さんが来てくれたときにプレゼント買いたい」と言ってて、めちゃめちゃすてきな子だなと思ったんです。

僕も当時近い年齢で、「世の中を変えるためには家族と過ごす時間は少なくなってもしょうがない」と思っていた人間だったので、すごくすてきだなと思って。

施設の人に「お父さん、お母さん、いつ来るんですか?」と聞いたら、「お母さん来ないんですよ」と言われて、それが結構ショックだったんです。

何か変な正義感として、そういうきれいな心を持っていて、ひたむきに頑張っていく人というのが、当たり前に幸せになってほしいと思ったんです。

彼女はすごく前向きに生きて明るい子ではあるんですけど、今の自分にはどうしようもない、何もできない現実を目の当たりにして。

自分自身の人生を通して何をやるんだというところでいったら多分、福祉や医療や教育問題の解決や、「これはやるべきだ」と思ったことに対しては生涯チャレンジし続けるんです。

まず第1歩目は、「もうここから目を離すのはやめよう」と何か彼女が決断させてくれたなという感じはありますね。

起業を志したときの原体験

池谷:僕もいろんな教育業界でやられている方の創業のテーマを聞くと、原体験を持ってる人って大きいと思っていて。僕は35歳になってから起業しているので、原体験は自分の子どもにあるんですね。

僕は起業が先だったので、何をしようかと家でぼーっとしていたときに、息子が教えてくれたんですよ。

僕の息子がスマートフォンを触っていろんなことを学び始めたというのがテーマで、そこで教育に興味を持つようになって、自分の娘とか息子の先生たちに話していると、すごい変化のないというか、思考されてないところにすごく焦りを感じて。これが勝機じゃないかと思って起業した。

あえて質問しにくい話をすると、さっき言った事業をやっていく中で、そこから収益を得ていかないといけないじゃないですか。何かそのポイントで「ここからは目が離せない」「これが儲かるんじゃないか」みたいなポイントは感じられてるんですか。

それとも関係なくて、やることは絶対どんなことでもちゃんと対価を得られて、ちゃんと従業員雇ってやれると思っているのか。その辺の金勘定的なところはどんな感じだったのかというのを伺いたい。

長谷川:金勘定はあまりなかったですね。自分自身のスタイルとして、ミッションありきでしか頑張っていかない人間なので。

とにかく「何が一番やりたいのか」というのが重要で、まず今は、「障がい者」として括られている彼らがちゃんと幸せになれる社会をつくりたいし、つくれるはずだという強烈な思い込みがあるんです。後の方法はそれから具体的に考えていくというのが、流れとしてはありましたかね。

教育事業には挫折がつきまとう

池谷:その思いを持たれて、今、何年目でしたっけ。

長谷川:僕自身が社長になったのがちょうど6年前なので、2009年から。

池谷:今伺っていると、強い思いがあって人も集めて、実際に健全な会社をつくられたと思うんですけど、何か挫折みたいなのはないんですか? 

強い思いを持っていてもできない人って結構いると思っていて。特に教育とかをやっていると、資金が尽きちゃうとかお金とれないとか、たくさんいるじゃないですか。

うちも何とかやっていますけど、本当にエデュケーションというカテゴリーでベンチャーってすごく少ないと思っていて、何か成功事例をつくらなきゃいけない。尽きちゃう人は思いが小さいというのはあるかもしれないですけど。

ただ、長谷川さんの中で何か挫折があって、それをどう乗り越えたかというのは結構皆さんのヒントになるんじゃないかと思って。いかがですか?

長谷川:挫折はですね……。

池谷:ない。

長谷川:あるかもしれないんですけど、気付いてないかもしれないですね。

池谷:そういうタイプですね(笑)。

長谷川:多分、気付いてないんでしょうね。諦めが悪いのと、必ず結果オーライにするという。絶対にできるし、頑張ったらできるはずだという思い込みでやり続けるじゃないですか。

そうすると、他の人から見ると挫折してると思われる瞬間はあるかもしれないですけど、多分(自分は)挫折というふうに気付いたことがないです。

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