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Eコマースの今(全2記事)

日本のEコマースはまだ穴だらけ--人気ネットサービスの仕掛け人たちが今後のトレンドを予想

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、GMOペパボ・佐藤健太郎氏、BASE・鶴岡裕太氏が登壇。「Eコマースの今」というテーマのもと、ANRI General Partner・佐俣アンリ氏をモデレーターに、GMOペパボが運営するハンドメイド雑貨を購入・販売できる「minne」と誰でも簡単にネットショップを運営できる「BASE」のサービスと今後の国内Eコマースのトレンドについて語り合いました。

IVS特別番組「Eコマースの今」

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):IVS特別番組としてインタビューをお届けしたいと思います。テーマは「Eコマースの今」ということで、今回はお二人の方にお話を伺いたいと思います。GMOペパボの佐藤健太郎さん。

佐藤健太郎氏(以下、佐藤):よろしくお願いします。

佐俣:BASEの鶴岡さん。

鶴岡裕太氏(以下、鶴岡):よろしくお願いします。

佐俣:はじめに、簡単な自己紹介と会社のご紹介をいただければと思います。

ハンドメイドマーケット 手作り作品の通販サイト「minne」

佐藤:じゃあ自分から。もともと「ロリポップ!」というレンタルサーバーをメインでやっていまして、サーバーホスティング事業とEコマース、「カラーミーショップ」というASPのサービス、あとはコミュニティのサービスという3つくらいの事業をやっています。いま一番力を入れているのは「minne(ミンネ)」というハンドメイド・CtoCのマーケットプレイスになります。よろしくお願いします。

鶴岡:BASEという会社で「BASE」というカートシステムと、あとは7月の頭から「PAY.JP」という決済システムを提供しようとしていて、今は2個のサービスを作っています。鶴岡です。よろしくお願いいたします。

佐俣:よろしくお願いします。ちょうどこの動画の収録直前に、IVSの本セッションのほうでお二人はプレゼンされたと思うんですけど、ざっくり言うとどちらも調子がいいと。

鶴岡:minneが……(笑)。

佐藤:いや、BASEもいいじゃないですか(笑)。minneももちろん伸びてますけど、BASEも勢いあるし。

佐俣:minneはどうなんですか?

佐藤:minneはCtoCのハンドメイドマーケットというくくりで展開してきたんですけど、もともとPCベースのサービスだったんです。今年は結構「アプリのほうに注力していこう」となって、プロモーション等いろんなことをやっていって、今はどちらかと言うとPCよりもアプリベースでの流通が伸びてきている、ユーザー数も増えてきているという感じですね。

佐俣:今年はCMも開始されて。

佐藤:そうです。水川あさみさんを。

鶴岡:それは健太郎さんのアレですか?

佐藤:ちょっと好みは入ってるけど(笑)。

鶴岡:最悪だ(笑)。

佐藤:でも、いろんな人をリストアップをして候補を絞って残った人の中で「誰がいいかな」となったときに、「じゃあ一番好みの」という。

鶴岡:なるほど。そこまではフラットに選んだんですね。

佐俣:結果、CMは好調……?

佐藤:ハンドメイドにチープなイメージを持たれてしまうとよくないなと思っていたんで、「安かろう悪かろう」のイメージを持たれないCMを作らないといけないなと。でも我々がCMに思いを抱きすぎて、作家さんっぽいタレントさんとか女優さんを使ってしまうと意味がないなと。どちらかと言うと「クオリティのいいものを買いそうだな」という女性を……。

佐俣:かつ好みの?

佐藤:……好みの(笑)。結果的に「ハンドメイドってこういうもんだよ」っていう世界観や良さを伝えられたかなと思ってますね。

「minne」に創業以来最大規模の投資を実行

鶴岡:minne自体は「いきなりいくぜ」みたいな感じじゃないですか。それってどういう経緯でminne推しに開発して……。

佐俣:いいですね~(笑)。そのへんをゴリゴリ質問していきましょう。

佐藤:もうそんな話にいっちゃうんですね(笑)。いいですよ。ウチはいろんなサービスをやっていて過去に40本くらい作ってるんですけど、いま生き残ってるのは約20本くらいで。

鶴岡:ECとかサーバーとかいろいろ。

佐藤:はい。その中のひとつがminneだったんですね。会社でプロダクトポートフォリオを組んで、「今ここは伸びてるな」「ちょっとやばいから撤退しないとな」と検討していく中で、minneはユーザー数とか会員数、作家数が一番伸びてて。投資がしたいなと思ったのは、そこが伸びてたからというのがありますね。

佐俣:客観的に見ると、投資額というのは創業以来最大の規模なんですよね。

佐藤:そうですね。過去にいろんなことをちまちまとやってきたんだけど、ちまちまのレベルでしか成長しなかったというのがあって。結構そこはジレンマで、勢いよくやりたいんだけど、我々は上場企業でもあるので、マーケットに対してのコミットだったり、株価のことも気にしたりしちゃうと、なかなか大掛かりな投資はできないというのがあったんです。

でも一方で、我々とは違うスタートアップの鶴岡くんみたいな人たちって、一気に人を増やして一気にマーケティングしてスケールできてるっていう現状がある。それを見ると上場企業でそれができないのは意味がないし良くないなと思ったので、「だったら踏み込んでやろう」ということでやった感じですね。

鶴岡:株式上場されてるじゃないですか。そういう意味では解約側のリスクも想定されてやられたんですか? それとも一切見ずにアッパーだけみたいな……。

佐俣:鶴岡さん、結構切り込みますね(笑)。

鶴岡:いや、僕らからしたら決算ってなかなか……。僕ペパボ大好きなんでアレですけど、ペパボの株主としては安定的な会社が好きだったと思うんですよ。ずっと積み上げてきたっていう。その中でまさかのオールインっていう。

佐藤:そうですね。でも株価が極端に下がるイメージは当初からしなくて。我々は事業が安定的過ぎるから、株価も安定的過ぎちゃってたんで。ある程度ニュースがあったほうが、たぶん株価が動く可能性があるかなっていう。あんまりネガティブな発想はしなかったですね。

佐俣:信頼感ですよね。ずっとちゃんとやってきているっていう信頼があるから。

佐藤:そのかわり「こういうことをします」というのは全部出さないと信用を失っちゃうと思ったので、そこはちゃんと(情報の)開示なり投資家さんとの対話はしてましたね。

佐俣:なるほど。さんざん聞いてましたけど、BASEは今どんな状況なんですか?

誰でも簡単にネットショップが作れる「BASE」

鶴岡:創業2年くらい経って、BASEというサービスで見ると今までは「店舗を作る」というほうに比較的注力して、予算的にはほぼそっちに突っ込んでいました。そろそろ「購入者さんに対してどうアプローチするか」というフェーズに入りたいなと思っていて、今月からチャレンジしているっていうのが1個目の大きい軸です。

もう1個、僕自身がずっとPayPalを作りたいというのがあるので、どうやってPayPalを作るかというのがビッグテーマです。その2軸という感じですね。

佐俣:「BASEってEコマースの事業ですか?」って聞かれたときに「YES」って言うんですか?

鶴岡:IT健保(関東ITソフトウェア健康保険組合)ってあるじゃないですか。IT健保にヒアリングされて、できれば入りたいと思っていて。社員も入りたいと。でもいろいろ提出したら、IT健保側からは「BASEは金融の会社です」って言われて入れなかったんですよ。就業的に。

そういうのがあったりするんですけど、僕的には一応「決済の会社です」というほうに振りたくて。カートはそれこそ健太郎さんのところのカラーミーショップとかは10年くらい前からやられている事業ですし、BASEに関してはどちらかと言うと「決済をすぐに使えます」というのが、市場に対してはイノベーティブだったのかなと思ってます。

なのでそっち側はすごく意識しているのと、昔から決済が大好きなので、決済に対して「ここイケてないよね」と思ってずっと見ていたという感じですね。

佐俣:GMOさんも、Eコマースも決済も持ってますよね。

佐藤:そうですね。やっぱりコマースの部分って、極端な話をするとASPのサービスの部分は我々はいま固定料金を取ってるけど、ゼロでもいいと思うんですよね。そのかわりトランザクションの部分で絶対に手数料を取らないといけないと思うんで、そっちのほうがたぶん儲かると思うんですよ。……まあ、絡みがなくなっちゃいそうな言い方をしちゃいましたけど(笑)。

鶴岡:(笑)。

佐俣:「Eコマースの今」なのに2人とも決済をやりたいよねっていう(笑)。

佐藤:本当に決済っていいよなあ(笑)。

日本のEコマースはまだ穴だらけ

佐俣:投資家観点から見ると、Eコマースってこの1年くらいでおもしろい動きがいっぱい出てるなと思うんです。お二人的に注目してるトレンドとかサービスとかってありますか?

鶴岡:先々週にAndroidアプリを出したんですよ。僕はiPhoneユーザーなんですけど、Androidには「ショッピング」というカテゴリがあるじゃないですか。そこを見ると、ぜんぜん日本のECのアプリがないんですよ。Amazon、楽天、最近はminneとFrilとメルカリがあって、あとはそれこそTaobao(陶宝)とかがランキングに入っちゃうみたいな。

でもアメリカを見ると、例えば赤ちゃんECがあったり、メガネECがあったり、イケてるアパレルブランドとかも根こそぎアプリでやってる。そういうのは結構大きい課題というか、最近はこんな現状なんだなと改めてわかりました。日本のECを見ると、どこかに特化する(必要がある)ということも含めて結構「穴だらけだな」と思いましたね。

その中でBASEは今15万くらいのマーチャントがいるので、それをどうやって世の中に出していくのかというのと、比較的大きい予算も使ってみたいなと思ってます。そういう意味では、アプリのほうで見るとECは結構スカスカでチャンスはあると思ってます。全体的にアメリカと比べると空きまくってるという印象なので。

佐俣:なるほど。穴だらけだと。

BASEが目指すゴールとは

佐藤:BASEは今までモールの動きがなかったじゃないですか。それをアプリとしてもだし、オウンドメディア的な感じでもやり始めている。心境の変化ってあったんですか?

鶴岡:僕は「EC=コンテンツの質」だと思ってて。Amazonと楽天は露骨にそこがイケてるし、それこそさっき言った赤ちゃんECとかメガネECとかはコンテンツが普通にイケてると思うんです。そういう中でただひたすらコンテンツが欲しかったというのと……何回も言いますけど、僕はぶっちゃけ決済が好きなんですよ。

(BASEで)簡単ECをやったじゃないですか。でも僕の中では簡単ECを世の中に広めたいっていうミッションじゃないわけですよ。会社の戦略的には、店舗数を集めてマーチャントを集める(のが正しい)。メディア的には「マーチャント支援」ってずっと言ってますけど、僕には決済まで行き着くことが重要だった。

ぶっちゃけ売り主側・買い手側にすごくこだわってるというわけではぜんぜんなくて、結果的にそういう順番が僕がやりたい決済に近づく道筋なのかなと。

佐藤:やっぱりゴールは決済を増やすことだから、そのためのツールとして。

鶴岡:そうなんです。ボリュームが欲しいっていう。そういうのがあって、ようやくコンテンツ的にはちゃんとしたものが揃ったかなというのがあります。

佐俣:長い構想ってことですね。鶴岡さんがやりたいことは。

鶴岡:そうですね。PAY.JPで見ると10年くらいかかるかなと思ってて。それこそカスタマー側の環境が変わるところまでやりたいので、ウチがどうやってVISAとかMasterとかの並びになるかというところで見ると、そんな感じです。「Paypalを作るためにeBayを先に作った」みたいなのがBASEということになります。

佐藤:ほおー。今の喩え、すごくわかりやすかったですね。

佐俣:結構しゃべれますね。

佐藤:ねえ。(鶴岡氏を見て)腕、持ってる(笑)。

鶴岡:(笑)。

今後のEコマースのトレンド

佐藤:さっき鶴岡くんが「ECが穴だらけ」という話をしたじゃないですか。たぶん、今まではPCでECサイトを検索して価格比較して、その中で一番安いとか評価が高いものを買うという行動だった。でもスマホから検索するのって誰もがめんどくさいじゃないですか。だからそのジャンルに特化したバーティカルなアプリから、商品を買うっていう流れしかないのかなと思ってて。

キュレーションみたいな感じだったらまだ大丈夫だと思うんですけど、単純にいっぱい商品が並んでるモールってたぶん誰も使わないし、それをスマホのアプリで見ようとは思わないと思うんですよね。スマホブラウザからも検索するのは結構難しい。

Amazonは、比較をするというより「その商品を買いたいから」という行動のほうが多いじゃないですか。スマホになってくると、モール型はそこが危ないんじゃないかなと思ってるんですよね。なので、バーティカルなコマースのアプリはこれから先、増えていくんじゃないかなと。

佐俣:「メガネ買うならこれ」「靴を買うならこれ」というのがどんどん出てくると。みんな靴が買いたいなと思ったらそのアプリをダウンロードして、ザッと見て探すという消費者行動に変わっていく。

佐藤:たぶん、そのときの第一想起のアプリになったほうがいい。minneも「ハンドメイド=minne」だと思わせないといけないと感じていたので、アプリ訴求のCMをしまくるっていう戦略でした。

佐俣:ハンドメイドのものが欲しくなったら、検索とかじゃなくて「minneだね」っていう。このトレンドは強いというか、弱まらないトレンドだって気がするんですよね。

鶴岡:そうですよね。世の中の流れ的にはモバイルでアプリっていうのが正解だったんですよね。一時的な流行ではない感じがします。

佐俣:「とりあえず検索」というのに帰ることはないんだろうなっていう。いろんな産業でその流れは来てるけど、Eコマースで本格的に始まったなと。アメリカはやっぱり早いんですけど、日本にも来た。本当に最近ですよね。

佐藤:日本のEC化率が低いじゃないですか。海外の投資家さんと話をしてるときに「なんで日本は低いんですか」って聞かれて、明確な答えが出なくて。何なんですかね? 聞いちゃいますけど(笑)。

佐俣:よくある一般的な話だと「アメリカは店が遠いからネットで何でも買う習慣がある」っていうけど、本当なんですかね。

佐藤:でも、その人が言ってたのは「中国の北京は東京と同じくらい人口密度があってお店もあるんだけど、EC化率は北京のほうが高いんだよ」って。となるとその話も違うのかな。

鶴岡:クレジットカードの普及率は関係ないですかね?

佐俣:あー。あるかもしれないですね。

鶴岡:銀行振り込みってダルいじゃないですか。中国も国レベルで決済をやってるし、TaobaoもまさしくAlipay(アリババグループの決済サービス)の存在がすごくでかいだろうし。インターネットでお金を払うっていうのは、オフラインに比べると障壁が高いというのが日本人にはあるのかなと思ってますけどね。

佐俣:でも、日本は世界で一番大きいスマートフォンゲームのマーケットだったりするので、「払う」という行動が絶対に無理かと言うとそうでもないわけですよね。

鶴岡:確かにそれはありますね。

佐藤:……わかんないなあ(笑)。

佐俣:識者インタビューのはずなのに、誰も答えが出ないっていう(笑)。

佐藤:明確に答えを持っている人はもしかしたらいるかもしれないですね。

鶴岡:でも、露骨に上がっていくトレンドは出てますもんね。

佐俣:自分たちでやってても、「風が吹いてるな感」というのはあるんですか?

佐藤:ハンドメイドってくくりで言うと、風が来てるなというのはあります。逆に言うとブームを作りたいなというのもちょっとあったので、それはじわりと。メディアにも露出しまくってますし、その効果も出てますね。

佐俣:今日はちゃんと、minneのマーケットで買ったものを……。

佐藤:うおっ、マジですか! (靴を見て)この「New Balance」ですか?(笑)

佐俣:これがハンドメイドだったらビックリしますよね(笑)。この靴下。夏向けですごく気持ちいいんですよ。

佐藤:ありがとうございます。

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