2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×吉田浩一郎(全1記事)
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尾原(以下、尾):こんにちは、吉田さん。本(『ITビジネスの原理』)はいかがでしたか? 吉田さんの事業領域であるクラウドソーシングの話もばっちりと書かせていただきましたが、特に面白かった、響いたところなどありますか?
吉:あえてクラウドソーシングと違う論点で、第三章の情報がフローからストックへ、また今フローに戻り始めているという話が超響きました。自分の身近なところでいうと、私はGyazoというデスクトップでもWebでもどこでもすぐにキャプチャをして、URLを発行して、人にシェアできるというサービスを最近多用しています。なるほど、これが尾原さんの言う「フローからストック」かと思いました。
つまり、ストックといえば昔はリンクやURLをたくさん持っているプレイヤーがいちばん重要で、これまではGoogleが最も重要だったんです。でもGyazoではURLを貼る度にURLの中から重要なものを抜き出して、その人の文脈で新しいURLを発行してシェアする。この流れは、まさにストックされていたURLのなかから「このページのここの部分に共感した」「この写真がいい!」という個人にとっての文脈を作り出して人にシェアするという新しいフローが生まれているのだと思いました。
尾:なるほど。
吉:同じように動画のキュレーションサービスが結構立ち上がってますよね。「Upworthy(アップワーシ―)」や、国内だと「dropout(ドロップアウト)」「What's(ワッツ)」あたりがまさにそうです。今までは情報をストックすることができるYouTubeが偉かったけど、そのYouTubeから今の社会の文脈に合ったものを導くというキュレーションがすごく重要になってきている。新しい時代の流れを感じますよね。
尾:Facebook、Twitterなどソーシャルで繋がることが当たり前になり、情報がフローする。このソーシャルのフローの源泉は結局のところ人が「すごい!」と思うかどうかですからね。なぜInstagramが破壊力を持ったかといえばカメラに「ワォ!」をプラスして再発明したからなわけで、基本的にInstagramと同じように人をワォといわせるための共有を前提としたびっくりさせる再発明がいろいろなところで起こると思うんです。
吉:さらにいうと「Snapchat(スナップチャット)」で送った写真は閲覧後に消える。そもそもデータをストックしない点などは、次の文脈になっていますね。
尾:そうやってコンテクストを凝縮させることだと思うんですね。人を驚かせることをフロー化すると色んなものが再発明できる。これが次の流れでいくと面白いよねとけんすう(古川健介氏)とも話していたところです。
吉:けんすうもブログで今後はURLも不要になるのではないかと書いてましたね。あえてすごいボールを投げてみると、貨幣経済が終焉に近いのかもしれないと思っていて……。
尾:さすが(笑)。
吉:なぜかといえば、貨幣経済は常にお金を貯めたヤツが偉かった。Googleに置き換えるとURLや情報がお金です。クラウドワークスでも2015年の新卒のリクルーティングをしていますが、今の若い人はお金の多寡(多いか少ないか)は重要ではなく、そのお金をどう使っているのかが重要だと考えています。
つまり、億万長者がうらやましいのではなく、億万長者がお金を使って社会貢献をしていることや、自分の家族を幸せにしていることが重要だと考えています。人そのものに対して価値が出来つつあるという感じがしています。
尾:フローでモノが簡単に繋がるようになると、もっと直接的にモノ自体を交換することができるようになる。行き着く先は、何を売るかよりも、人を売るという話になるんですね。本の中でも「物ではなく物語を売る」という楽天の話をしましたが、本当の最後の最後は物語ですらなく、自分という人生、自分というストーリーを売っているんですね。
吉:なるほど。もっとマクロで見ると、石器時代あたりはその日に食べるものを採って食べる、その日暮らしだった。ここに貨幣経済が持ち込まれることでストックが可能になったわけですよね。今は貨幣経済の次が来ているという話です。以前、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんと対談させていただいた時に、これからは小商いの時代になるとおっしゃられていました。
戦後は誰もが自分の家の軒先で自分の家に紐付いたものを売って、他の人とそのストーリーをシェアしながら生活を融通し合っていた。今の状況も似ていて、eコマースの仕組みが無料で使えるようになり、簡単に始められるようになったので、一人ひとりのストーリーを売ることができるようになった。インターネットが浸透することで、戦後の姿が今また生きている、という話です。
尾:面白いですね。
吉:この話と尾原さんが情報はフローからストックになり、またソーシャルメディアによりフローになったという話が繋がっているんじゃないかと思いました。これからは人々の個人のストーリーや喜怒哀楽、感情をネットやウェブ上でいかに表現できるかがトレンドになる気がしますね。
尾:まさにそうですね。吉田さんのクラウドワークスは自分のスキルを交換するマーケットなので、そのトレンドが顕著に出てくるのではないでしょうか。
吉:クラウドソーシングもまず第一の要素としては時間や場所にとらわれず空いているスキルを売る、あるいはシェアしていくことがあります。「Airbnb(エア・ビー・アンド・ビー)」が自分の部屋という空間を取引し、「Uber(ウーバー)」が空車の枠をマッチングするならば、クラウドワークスはスキルの空き枠をシェアする。まずはその文脈で尾原さんの言う「第一のカーブ」のストーリーにはまっているということですね。
尾:本の中ではインターネットが登場してからネットワーク社会に突入した今までの20年を「第一のカーブ」、人が幸せになるためにネットやITを使うこれからのことを「第二のカーブ」と表現していますが、まず「第一のカーブ」では徹底的に効率化を図り仕事を細分化して価値を高めているということですね。
吉:そのとおりです。そして「第二のカーブ」でクラウドワークスが行っている試みは「ありがとうボタン」です。金銭のやり取りだけではなく、感謝をやり取りする。たとえば思ったよりも納期が早い、思ったよりも質が高い、良い提案をくれたけど採用できなかった、などの時に押すボタンですが、今のところ40万回ほどありがとうが押されています。ここがインターネットの面白いところだなと思っていて、5年、10年と経てば何万回ありがとうと言われたかが見える化されます。
尾:感謝の気持ちを可視化することで自己実現が加速する。つまりは信用がストックされていくということでもありますね。
吉:そうですね。この「ありがとう」により、単に仕事の依頼が多くたくさんお金を稼いでいる人ではなく、ありがとうをたくさん言われている人だから仕事を依頼したいというように、人と人との繋がりがインターネット上でもできていくのではないかと思っています。
尾:よくわかります。この「10分対談」も同じで、こうして人と人とを繋ぎ、新しい刺激を生み出すことをネット上でやっている。そうすると「尾原って知らないヤツだけど、何か新しい楽しいことをやってくれるかもしれないぞ」と自然に信用が蓄積されていきます。おかげさまで誰もこの対談を疑問に思わず「尾原だったらとりあえず対談してやるよ」という感じになっています(笑)。
尾:先ほどの小商いの話で思い出したのは、アメリカにおける子どものレモネード売りです。日本では小さい頃にアルバイトすることはないですが、アメリカでは小学校の低学年になると自分の家のレモネードを一杯30、40セントぐらいで路上で売るんですよね。
吉:それは超重要だと思いますよ。
尾:自分自身でどうしたら人に喜んでもらえるか、どうやってお金を稼ぐのかを実地で学びます。これと同じような学習や人の成長を含めた意味での小商いが増えていく気がしますね。クラウドワークスでも同じように、人が成長するわけですよね。
吉:日本では法律があるのでできませんが、やろうと思えばインターネットを使い10代でも働くことができる。もっと言えば、この本のとおり第二のカーブが来ているので、第一のカーブはさっさと体験しておかないと子どもが次のことを考えられないんですよ。その意味で、レモネード売りのようなことが求められていると思います。
加えて言うならばレモネード売りの場合、もちろんレモネード自体の価値もあると思いますが、子どもが売っているというストーリーを買っていますよね。本来、物の価格の源泉は製造原価だったはずで、たとえば本は印刷費や著者の印税、出版社の人件費などの製造原価から価格が決められていた。でも、インターネット以降、電子書籍だと全部で年間99.99ドルですというように本の定額制サービスも出てきます。もはや製造原価が価格を決定しているわけではなくなると。
そこで子どものレモネード売りのようなストーリーが重要で、ネットで話題の家入一真さんも銀行口座をさらして寄付を募ると集まるということが起きるわけですよね。クラウドファンディングも物を作る過程やストーリーに参加する人がいるから成立するわけです。
尾:いっしょに創り上げる内側にいるから、そこにお金を払いたくなる。
吉:さらにクラウドソーシングでいえば、スターバックスがアメリカでは「My Starbucks Idea(マイ・スターバックス・アイデア)」というサイトを作り、新商品のフレーバーやケーキのフィードバックをしている。ウォルマートも「Get On The Shelf(ゲット・オン・ザ・シェルフ)」というサイトでユーザーが提案した商品を実用化しています。すべてが第二のカーブにあり、私たちクラウドワークスも同じですが人の共感が集まっていないとダメで、サービスや商品が売れない。こうしたことが一つの繋がりの中にあると思いますね。
尾:すばらしいお話をありがとうございました。
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