2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
尾原和啓×仲山進也×佐々木伸一(全1記事)
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尾原(以下、尾):ヨナーイさん、仲山さん、こんばんは。 今日はありがとうございます。本(『ITビジネスの原理』)はいかがでしたか?
佐々木(ヨナーイ)(以下、ヨ):この10年間、パソコンがわからないところから楽天で店舗を回し始めましたが、その間の自分に何が起こったかを解説してくれる本だと思いました。
仲山(以下、仲):僕は15年間、楽天の店舗さんに「お客さんと面白いことをやりましょう」と言い続けてきまして、15年前は「いいね!」と言ってくれた人たちが多かったのが、ここ10年ぐらいのEC成長期に入ってきた人たちからは「あの人、古いよね」と言われるようになったんです。なんでかってここ10年ぐらいは「ネットってそんなことをしなくても売れるよね」という雰囲気だったからです。
でも、ここ2、3年ぐらいでAmazonにかなわないぞという感じになり、SNSの使い方を解説する最近のセミナーを見ると、僕が15年前に言っていたようなことを言っていて、逆に懐かしく思いました。昔なつかしいものがなぜ今復活してきたのかが、この本で流れを踏まえると、いろいろなことが理解できるなと思います。
ヨ:僕だって10年前は地方の中小企業にいましたし、本当にぜんぜん有名でもないし影響力も何もないサラリーマンだったわけですが、10年経った今では急に有名店長扱いされることが多くなりましたからね。この本のキーワードで面白かったものを言うと「純粋想起」と「ハイコンテクスト」です。「純粋想起」は自分がよく使う言葉で「マインドシェア」がありますけど、ようするに商売は覚えてもらってナンボでしょ。
尾:そうですね。
ヨ:検索でいちばん上に出てくるよりも先に、検索すらしないで「酒を買うんだったら、あいつのところで買いてえな」「あいつのところで酒を買おう」といちばん最初に思い出してくれる人が一定数いればそれでいいや、というやり方を僕もずっとしてきましたので。インターネットはすごく楽しいツールではありますが、便利な分、すごく難しい。
根っこにある「純粋想起」がどこで起きるかといったら、実はインターネットというツールの部分ではないんですよね。情報発信者と受信者のインタラクティブ(双方向)のやり取り、あるいは「あーオレなんか、こいつの言っていることわかる」「こいつの言うこと共感できるわー」というすっごく泥臭いところで起きているということを僕は10年間の体験で得てきたわけですが、本を読んでて「あーなるほど、こういうことだったんだ」とあらためてわかったなと思いました。
尾:マジメな話、ネットはどこからでも入れるから、どこから入っていいかわからない、だから人に覚えてもらうのが大事なんです。たとえばリクルートはブランディングをめちゃくちゃ大事にしていて、「転職する」という言葉で検索されると当たり前ですが「転職」のページがヒットする。だから女性が転職することを「とらばーゆする」という言葉にしてしまえば、みんなが「とらばーゆする」と言ってくれるようになるわけですよね。
ネットがないころだったので書店に行き、「とらばーゆください」と言ってくれる。女性が転職したいときに「とらばーゆ」って言葉が出てくれば勝てるわけです。ネット時代でもリクルートのブランディングは強くて、一時期まで「結婚」のキーワード検索回数よりも「ゼクシィ」の検索回数が多かったわけですよ。ここまでいけばスゴイ競争付加価値になる。ヨナーイさんはそれをふざけたメルマガでやってるわけですよね(笑)。
ヨ:まあね(笑)。こうやってうちみたいに日本の端っこでたいして人も住んでいない、野生のカモシカが歩いているような場所に住む人間と、東京にいて何でもある人たちとの時間・空間の距離をインターネットが縮めてくれたと。それはそれで便利なんだろうけど、そんなに何でも出来ますよって言われても選べねえっていう人が多分、世の中の大多数なわけですよ。
尾原さんの言葉を借りるならばキュレーターの存在が絶対に必要になるし、だったら自分がやろう。要は簡単に言うと、世の中の人たちにとっての顔なじみの近所の酒屋にいるおっさんになろうと思ったんですよ。酒屋のおっさんって顔なじみだから商売以外のことを話すのが面白かったり、「あーそこの家の息子さんが……」みたいな事情通だったりして、酒のことだったら酒屋のおっさんに聞くのが当たり前だけど、「あいつのところに話に行くか」「あいつの話を聞こう」と思われるおっさんになってしまえば、それで一定数の常連さんがつくわけだから、それでいいと思っていたわけ。
尾:まさに「純粋想起」は「あのおっさんに聞こう」ですね。キュレーターならば「あのおっさんが言うことだったら、とりあえず聞いてみよう」となる。こうやって「あのおっさんが薦める酒だから」と言いながらお客さんが酒の違いを学んでいくことで、より酒の違いがわかるようになっていく過程で「ハイコンテクスト」になっていくわけですね。仲山さん、ヨナーイさんが想像以上にいい話をするので、ちょっと茶化し役でも入ってきてくださいよ。
ヨ:あのね、ぶっちゃけ日本酒なんて生活に必ず要るものじゃないんですよ。需要だって40年間ずっと下がり続けてるようなものだからさ。インターネットだから何でもモノは売れるみたいな言い方はちょっと違う。きちんとマッチングされているから売れていくだけの話だから。
尾:おっしゃるとおりですね。
ヨ:田舎の「あさ開(あさびらき)」というさして著名でもない、価格が特別に低いわけでもない酒蔵には、そもそもニーズが存在しないんですよ。だからね、インフォメーションとコミュニケーション。あとはあえてエデュケーションという言葉を使いますが、情報を発信してお客さんとやり取りをして知ってもらう、お酒についてレクチャーをする。そこで初めて価値伝達がなされて、その瞬間に「ニーズ」ではなく「ウォンツ」が生まれるんだ。
尾:おお!
ヨ:「そんなんあるんだったら、ちょっと飲んでみてえ」ってなる。「そんなにうめえの? 」みたいな。ハイコンテクストの話をすれば、阿吽の呼吸は簡単に言っちゃえば相互理解が進んでいる人ほど生じるものですよね。初見の人間とは阿吽の呼吸なんてほとんど生じないわけです。じゃあ、どこが肝になるかと言うと、僕の場合はコミュニケーションという一つの強みを全開にした。とにかく俺の話を聞いてくれと。だから僕のメルマガって日記であり私小説ですよね。
尾:そうですね。
ヨ:こんなことがありました、俺はこういうことに対してこういうことを思っています、でもこっちの方がいいと思うけど美しくないから俺はやりたくありません!……みたいなことを酒屋のメルマガがあーだこーだと言う必要はどこにもないけど、僕は単純に自分自身や自分の地元を色んな人に知ってもらい受け入れてもらいたい欲求がそもそもあるから、隠さない方がラクなんですよね。なんせ僕が12月に投稿していちばん「いいね!」がついた画像は「ミニスカサンタの絶対領域」だからね。「男でミニスカサンタが嫌いなやつなんかいねえよっ!」って言ったらみんなが「いいね!」って。「だろう?」みたいな。
尾:そのハイコンテクストから何が生まれるんですか?(笑)
ヨ:えーっと、何だろうね(笑)。まあね、ゲンゾウさんという知人の言葉でいいものがあるんですが、「共謀共同正犯」なんですよ。ほとんどお客さんといっしょに雰囲気を作っているようなものなので。簡単に言えば「こういうのやってんだよ」「何それいいじゃん。わかってるね〜」「わかってるでしょ( ̄ー ̄)ニヤリ」みたいなハイコンテクストの状態です。店長の僕がフルオープンでコミュニケーションした次のステージは、お客さんも呼吸がわかってくるから、すべてのことを説明しなくても「言わなくてもわかるだろ」という距離感がある。見方によれば甘えともとれるけど、この部分が非常に大事なわけです。
尾:すっごくよくわかります。「阿吽の呼吸」から「ニヤリの呼吸」に変わるってことですよね。実は茶道における茶室の空間も全部そうなんですよね。
ヨ:へー。
尾:一般的に茶道は習ったことだけをちゃんとやるものだと思っている人も多いかもしれないですけど、本来の茶道は主客、メインのゲストをいかにもてなすか、なんですよね。その“どうもてなしているか”が茶室のちょっとした草木の置き方、器の選び方、主菓子の出し方等のコーディネートにある。
でもね、ホスト側はどうもてなすために配置したかを語ってはいけないわけですよ。それに対して主客が「このおもてなしは多分、俺のこれのことを見てるな、ニヤリ」とする。しかも、主客はおもてなしに対して直接に答えてはダメで、比喩でホストに返します。こうやってニヤリとニヤリが生まれる、濃密な空間を楽しむのが茶の考え方です。「阿吽からニヤリの関係が人をハマらせる」、いいコピーですね。
ヨ:まさに尾原さんの本でいう“非言語コミュニケーション”ですよね。「俺のことをわかってくれている人間がいる」ということは人間の潜在的な欲求としてものすごく強い。あと、もちろん茶道のように様式的な部分もあるのだろうけど、本来的に人間はもっと直感的に阿吽やニヤリを嗅ぎ分ける能力があるのだと思っています。お客さんがなぜ僕のテキストのメルマガを堪能してくれているかと言えば、要するにいちばん宣言があるものが相手のイマジネーションを最も刺激するからです。
尾:たしかにそうですね。今の話に関連して面白いエピソードを思い出しました。GoogleでYouTubeを担当する友人がYouTubeのクリエイティブ性をどう上げていけばいいのかを悩んでいた時に、その子は三姉妹の末っ子なのでお姉さんに相談したという話です。いちばん上のお姉さんはジャーナリストだったので「言葉にできることの幸せ」を語ってくれて、二番目のお姉さんは絵本作家だったので「言葉にしてしまうことで失われてしまう哀しみ」を語ってくれた。
つまり、どちらにも失うものがあるので、だったら言葉であれば行間、絵であれば文字に出来ないことを伝えるというように、阿吽やニヤリのコミュニケーションに変えていくことで双方にメリットあることができるんじゃないかという話をしていました。
尾:仲山さんの話が聞きたい!という会場の声もあるので、ぜひお願いします。
仲:尾原さんの本にネットの特性がいくつか書いてあって、時間と空間を超えられる、コミュニケーションは非同期でも出来るし同期でもコストが劇的に下がったなど、この基本を押さえた使い方が出来るようになることがECでもすごく大事だと思っています。
尾原さんに聞きたいことでもあるのですが、自分の周りに価値観の合うコミュニティを作って楽しく過ごして、そこに商売が成立するならば誰とも戦わなくてもいいからいちばん賢い方法だなと15年も前から思っているのですが、ここにはコミュニティ・ファシリテーション(コミュニティの活動に中立的な立場から支援を行うこと、またはその手法や技術)の能力が必要ですよね。
尾:コミュニティ・ファシリテーション能力をもう少し分解するとどういう意味ですか?
仲:基本的にコミュニティは3種類あると思っていて、1つはコアなリーダーがいて周りに人が集まってるパターン。2つ目は全員がフラットな関係で集まっているパターン。3つ目はある一つのコンセプトに集まっているパターンです。この3つの要素のどれでもいいのですが、自分の得意な形でコミュニティを耕すようなことがネットとリアルを行き来しながら出来る人が増えると、楽しい商売も増えると思っているんですよね。
尾:わかります。昔は観客を集めることがお金になる時代でしたから、とにかく10万人の敵を作ってでもネットで炎上させて1万人の観客を集めて広告で儲ける、または10万人の敵を作ると1,000人は味方ができて、そこからお金をとるということが多かったと思います。でも、仲山さんは15年前から考えていたとおっしゃっていましたが、最近は一人の魅力や一つのコンセプトにボトムアップで仲間が集まってくるなど、炎上を起こさなくても仲間が集まってくるコミュニティも増えてきましたよね。
仲:そうですね。僕が楽天でずっとやってきたのは店長同士の横のつながりをつくることでしたが、この前の年末年始に、店長の仲間同士で互いに買い合った商品を写真に撮って「これ◯◯さん家の◯◯◯」とFacebookにアップされていたのを見て、僕の周りにもコミュニティができてきたなと思いました。「これ◯◯さんとこの◯◯◯なんだよね」と言えるものに囲まれている暮らしって、とってもいい感じがしますよね。
尾:あ~幸せですね。
仲:でも「これ◯◯さんとこの◯◯◯なんだよね」と言える人はまだ少なくて、僕や店長仲間のコミュニティで始まったばかりのことなので、一般の人にはまだまだ届いていないと思います。店長とお客さんがそんな距離感になれる店舗はまだまだ少ないですし、あんまり見つけられないですから。でも、店舗さん同士がメルマガやFacebookで自分のお気に入りのお店を紹介し合うことなどによって、少しずつ増えていくんだと思います。
尾:ですね。コミュニティやCGM(消費者が内容を生成するメディア)が盛り上がるコツは文化や気風のようなものを、とにかく濃度を高く集めるのが大事ですから。「百匹目の猿」じゃないですが、ある臨界点を超えると突然に跳ね上がるんですよね。
なぜかと言えば、情報がどんどん飛ぶようになると阿吽の呼吸やニヤリの呼吸が合う人と出会う確率が高まり、参加者も遠くに電波を飛ばせるようになるからです。濃縮して濃縮してヨナーイさんのような濃いおっさんになって、パーンと飛ばしたらなぜかマスにつながってしまったということもあるわけです。
本日はありがとうございました!
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