2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×松村太郎(全1記事)
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尾原:松村さん、今日はありがとうございます。本(『ITビジネスの原理』)はいかがでしたか?
松村:ちょうど今、僕も『モバイルネイティブの時代』という本を書いているところなのですが、この本の冒頭部分で、何か印象に残るような時代背景の定義をしてみたいなとずっと思っていました。アフターインターネットは「AI」ですが、このIが小文字になった「Ai(アフターアイフォーン)」という時代が定義できるんじゃないかなと、尾原さんの本を読みながら整理ができました。
ビフォーインターネットとアフターインターネットの境目である1995年から、2007年にiPhoneが登場する。そこから小文字の「Ai」が始まった。そして僕が今書いている本で強調しないといけないのは、日本はそれよりも7,8年も早くモバイルネイティブだったということです。
尾原:そうなんですよ! 小文字のiであるdocomoのiモードが始まったのは1999年ですから。
松村:このAiという時代をアメリカや世界は2007年に迎えましたが、日本では99年から起きていた。なんでこのアドバンテージをもっと活かせないのかということですから。そこを僕も次の本で伝えたいですね。
尾原:KDDIの高橋誠さんがiPhoneやAndroidのスマートフォンを日本でローンチするときに、コンテンツプロバイダーさんに言っていたのがまさに今おっしゃられたような言葉でした。つまり、日本はモバイルユースケース先進国だということです。日本人はモバイルが日常の中に浸み込むとどんなふうに人を豊かにするかということを、世界の誰よりも知っているんだから、それを発信していこうよと。日本のゲーム業界も同じようなこと言っていますが、他にもいっぱい同じ話がありますよね。
松村:同じような話として、今、シリコンバレーの企業リーダーたちは東京に来たがっているんですよね。もちろん、食が美味しいとかシステマティックだとか……。
尾原:女の子が綺麗だとか?(笑)
松村:(笑)。いろいろありますけど、やっぱり東京で認められるモバイルアプリは本物だっていうブランドがあるんですよ。
尾原:日本のアプリが世界で最高のアプリだから、その最前線で作らなくてどうするのと。
松村:日本人としては、特にモバイルのテクノロジーをポジティブに受け止めて、あらゆるレイヤーで使っていかないといけないと思っているんですね。よく言われるようにテクノロジーは破壊的イノベーションをもたらすわけですが、いろいろなレイヤーがある中でいちばん遅れてやって来るのが教育だと思います。
2007年まさにAiのタイミングから、僕はキャスタリアという会社でモバイルと教育というテーマに取り組んできているところで、今長野県にあるコードアカデミー高等学校というプログラミングが必修の学校を作っています。しばらくはITがいちばん成長率の高い産業であり続けると思いますし、ITの知識やスキル、ノウハウやリテラシーを持たない状態で社会に出てしまうと、絶対に機会損失を受けてしまいますからね。
尾原:おそらくそうですよね。
松村:ITの教育をきちんとやりましょうというのが学校を建てるときのコンセプトになっています。ITを操れるということはもちろんコードを覚えるということですが、全員がプログラマーになる必要はないと思っていて、プログラミングは言語ですからコミュニケーションがとれればいいんですよ。
尾原:そう、結局はツールなんですよね。僕も高校生の頃からプログラマーとしてのバックボーンがありますが、今はプログラマーサイドではなくビジネスサイドにいますから。ただやはりビジネスサイドにいても、コードというものがどういうインプットとアウトプットの関係にすると動きやすいとか、こういうところはプログラムで解決できるけどここはオペレーションの方が解決しやすいということがわかっていると、現実世界を最速で解決しやすくなるんですよね。
松村:すべてITが前提となっていきますよね。ビジネスを考える人もデザインをする人も、エンジニアやプログラマーに実現してもらうためにはどう伝えて理解してもらうのか。共通のエンドを持ち合わせないと話が始まりませんし、非効率ですし、インパクトが起きないものしか出来なくなってしまいますから。
尾原:必須ですよね。
松村:読み書きそろばん、そしてコードだと言うようにしています。
尾原:楽天でも強制的に「イングリッシュナイゼーション」をして、おかげさまで今では英語化人材が増えてきましたが、次は「ジャバナリゼーション」と言っていて、今の時代は全員Javaが書けないといけないんじゃないかという話もしています。あともう一つコードを書けることの大事な点があって、評価がすぐに返ってくる、フィードバックの速度による進化の速さというところがITの利点ですよね。
松村:学校を作っていて矛盾を感じたことに「評価のために行動してしまう」という逆転があると思うんですね。面白かったのは、コードを書くというのは「結果」のためにクリエイティブが働きますよね。この「結果」のためにクリエイティブが働くのが大事で、評価する側がクリエイティブになることができる。
評価する側が変わらないと教育はクリエイティブにならないという気づきが、僕の中でいちばんショックを受けたことなんですよね。自分たちの学校でまず実践しますが、そのカリキュラムやコンテンツをオープン&シェアすることで、日本中の学校で使ってもらい速度的にも追いついてもらおうと思います。
尾原:評価のつけ方が現状でこうなっているのは、残念ながら昔の中学、高校の評価システムが1人の先生に依存していたからでしょうね。残念ながら1人の先生で評価をつけるためには、どうしても◯×で評価しないと回らないというシステムのキャパシティ論です。たとえばブラジルの小学校でのIT教育は、まずお絵かきをインターネットにアップして地元の人たちからいろんなコメントをもらうというところから始めるそうです。ネットから多様な意見をもらう喜びを知ることは大事なことだと思います。
ニコニコ動画から誕生した楽曲がカラオケのトップ10を占拠する時代、今までのアーティストは歌ってレコードやCDとして売れるまで評価のフィードバックが見えなかったことが、ネットだとアップしてすぐに評価が来る。ニコ動は盛り上がる瞬間で「わー!パチパチパチ」と弾幕が発生するので、「あ、ここがウケるのか!」とわかる。じゃあそこをブラッシュアップしようと部分最適化が行われやすいわけです。教育で同じことが起これば、また違った進化があると思うんですね。
松村:そういう意味で、フィードバックが得られるようなデザイン、そのフィードバックをどう評価するかという部分によってよりクリエイティブになるということは、尾原さんが本の中で書いていらっしゃるように一つのインターネット的思考のパターンだと思います。こうしたことをITに関わらない人にも知ってほしいですし、IT業界以外の人にこそ、尾原さんの本を読んでほしいと思います。というのも、サンフランシスコで昨年、コーヒーの本を書いたんですけど……。
尾原:『サードウェーブ・コーヒー読本』でしたよね。
松村:コーヒーやチョコレートなど食の分野に対して、インデックス・ベンチャーズなどのベンチャーキャピタルが投資をしており、広がってきているんです。
尾原:へえー!
松村:たとえば、NASAのエンジニアがTCHO(チョウ)というチョコレート工場を建てて30人ぐらいでプラントを回して、アメリカン・ニュースタンダードっていうチョコレートをすごい生産量で作っているんですよ。しかも、カカオの生産地であるガーナに行って工場とクラウドで繋ぎ、味のレシピを共有しています。農家の人たちはカカオを作るけど、実はチョコレートを食べたことがなかったりするわけです。
尾原:すげぇー! 面白い! 農家にはフィードバックがないので、そこにフィードバックを入れていこうというわけですね。
松村:はい、「みんなで良いカカオを作ろう!」ということです。しかも、味の点数をつけて、その評価システムもクラウドで必ず全員で共有する形にしています。テクノロジーやインターネットの考え方がライフスタイルである食にも影響を与え始めている。
尾原:根源的な生活そのものに浸み込んできているんですよね。
松村:アメリカの一部の人たちは完全にアフターインターネット脳で、効率的にやりたいゴールを最大化しながら、どんどん面白いことにチャレンジして実現し始めています。アフターインターネットの考え方、あるいはリーン・スタートアップの考え方を人生に適用しよう、こちらに適用したらどうなるだろうといったように、ある程度パターン化して当たり前のものとして彼らは身につけている。また、それを実直に出来てしまうところがすごいなと思いますけども。
尾原:実際に革命が起こっている。だからこそ、ITやインターネット的な戦い方や原理をちゃんとわかっていないといけないということなんですよね。
松村:この本を本当に多くの人が読んで、自分の脳を「Ai脳」にしましょうというのが最後に伝えたいことです。
尾原:どうもありがとうございました。
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