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尾原和啓×草野隆史(全1記事)

ビッグデータ自体には価値がない? 草野隆×尾原和啓 世界を最適化するデータの未来

「ビッグデータ」という言葉がもてはやされてすでに久しい感もあるこの頃だが、現状では言葉だけが先行してその実態がなかなか見えてきていない。ビッグデータをどのように活用し、その結果どのようにリアル世界が変わっていくのか。データ活用の最前線で活躍する草野隆氏と、ITビジネスに詳しい尾原和啓氏が、その未来について語りました。

国民みんなでデータ収集 ITを活用したオランダの農業革命

尾原:どうも、草野さん。こんにちは。本(『ITビジネスの原理』)いかがでしたか?

草野:楽しく読ませていただきました。特にオランダの農業革命の話が面白かったですね。インターネットを使って国内の農家のデータを一斉に収集し、国全体で農業を改良してしまうという。自分の仕事や今後のイメージにも重なるところがあって。僕らの会社(ブレインパッド)はデータ分析をしていますけど、問題意識として大量にあるデータをもっと活用して、社会の効率を上げていかないといけないと思っていますので。

農業はデータ収集に時間がかかり過ぎてしまうというネックがあるので、同時にいろんな実験をしてしまうのがいちばん効率いいというのはそのとおりだと思いました。もう始まっているんだから、早くやんなきゃって感じですね。

尾原:おっしゃるように、農業はデータ化するところが大変です。ポイントは3つあって、センサーをどうやって作るのかという話が1つ。2つ目はデータに基づいて、たとえばオランダの農業革命では液体窒素の配布量をどうのか、温度管理を根元と葉先でどうするのかというように、アクチュエーター(作動させるもの)としてのアウトプットをどう精緻化するのかという話があります。

3つ目は条件を同じにした実験環境をたくさん作るということです。インプット、アウトプット、最適化環境の整備の3つ。これを意識的に作るようになってきているので、すごく面白いですね。

草野:オランダの農業革命は国が牽引しているんですか?

尾原:はい、国がいくつかの研究所やラボラトリー的なものを作ってサポートしています。農家の人たちが昔のイメージとはぜんぜん違うんですよね。まず朝起きたらパソコンで農業の管理画面を見て、今日は温度や湿度管理をどうしようかなと調整する。感覚的にはヘッジファンドのファンドアナリストみたいな、そういうイメージです。

草野:重要ですね。人口は増え続けるけど資源は有限という状況なので。でも一方で、世界的に見て生産された食料の3分の1ぐらいがゴミになってしまう状況もあり、どこで何を生産して、どう配分するかという全体で最適化できないといけない。一国の問題とは限らないんですよね。本質的には。

尾原:たしかに。ネットの原理には細かく分けて最適化できるということと、さらにもう一つ違う原理があると思います。泊まりたい人と空き室を貸したい人をマッチングするAirbnbや日本の印刷通販のラクスルのように、余っているリソースを効率良く再配分するというネットの原理です。今おっしゃったように、食料についても同じことが言えますよね。今だとホームレスの支援をNPO(非営利団体)ベースでするなどしかないですからね。面白い視点です。

より細かい情報が取れるようになってきたビッグデータ

尾原:草野さんがやられているビッグデータ関連は今いちばん広がっているところだと思うのですが、最近の傾向などありますか?

草野:僕らの仕事は、日々お客様のデータ分析をやるということなので、そんなに先のことまでは見えていないというのが難しいところですね。

尾原:その分析も、ここ1、2年ですごく変わってきていませんか。認知と購買の結びつかなかったところが見えてきたり。

草野:そのとおりですね。実は個々のお客様の細かい家計情報はあるようであまりとれていません。まして品目ベースで何を買っているかという情報はありませんよね。家計簿をつけていても「食費」と括っているでしょうから。オンラインの家計簿ソフトでもそこまで細かい品目だと入力する負担が大きすぎて難しい。だったらスマホでカシャッと撮って簡単に入力できますよというのが「ReceReco(レシレコ)」といううちのアプリです。レシートには電話番号も入っていますから。

尾原:場所もわかるし、どこでいつ買ったかもわかる。

草野:先ほどの食料問題じゃないですが、どんな消費の行動パターンがあって、どんなときに買われているのかがわかってくると、いろんな細かい粒度の消費行動が見えてきます。情報があると細かいユーザー像もわかってくる。単にデータをそのまま誰かに売りますという話ではなく、将来はO2Oのリアルな行動などにつなげていけるといいなと思います。ユーザーの行動が見えると作れるサービスや世界があるのかなと。ただ、今はその情報収集のためにお金を垂れ流している感じになっていますけど(笑)。

尾原:(笑)。流行ってますよね、あのアプリ。

草野:インストールベースで言えば、あっという間に100万DLを超えて、ご評価をいただいているのかなと思います。

ビッグデータ自体にはあまり価値はない

尾原:話を聞きながら思ったのは、ビッグデータって勝手にすごいデータが現れると勘違いされている人が多いんですけど、そうじゃないんですよね。昔でいうインデックスインタビューやグループインタビューなどの代わりにデータを見るということで、行動観察日記のようにユーザーの行動をつぶさに見るからこそ仮説が生まれてくる。実はそこらへんがきちんと語られていなくてもったいないなと思います。

草野:僕らがやっている同じようなアプローチは、Kinectに代表される3Dセンサーをスーパーの天井などに設置して、センサーのカーテンのようなものを作ることです。実はスーパーの新商品購買は8割ぐらいが非計画購買です。お客様はみんな店の棚の前で悩みながら決めているんですよ。この“買おうか悩む”プロセスはこれまでデータ化されていないんですね。

たとえばPOSデータならば、シャンプーAとシャンプーBがそれぞれ10本売れています、AとBはいい勝負ですねということになる。このデータだけ見ればそう思いますよね。ところが棚の前でのお客様の行動を分析してみると、Aは12人が手をとって10人が買って2人が棚に戻している、Bは30人が手にとって20人が棚に戻して10人が買っている。こういうデータが見られたらどうでしょうか。急にシャンプーのブランドマネージャーがやるべきことが変わってきますよね。

尾原:すごく面白い話ですね。

草野: このデータからわかることは、Aというブランドは棚ではなく、店の外にお客様がいる時点でおそらくある程度の勝負は決まっていて指名買いもされている。でも逆に12人にしかリーチできていない。Bは選択最小で30人に触れてもらっているので、インストアのキャンペーンやパッケージを変えるだけで、もしかしたらもっと売れるかもしれない。そんなことが見えてきます。

尾原:なるほど!

草野:こうしたことが今までは見えていなかった。だからセンサーのカーテンを作り、正面からのxy軸の情報、何の商品を手にとって戻したか、レジまで持って行ったか、そもそも棚の前を何人が通ったかなどを識別できるようにする。

尾原:ネットにおけるインプレッション(露出回数)、クリック数、コンバージョン(購入率)という行動のデータがとれるから、それぞれのプロセスにおける最適化ができる。それがリアルの店舗でもできるということですね。

草野:小売り店舗もいろんな意味で効率化をしていく必要があると思います。たとえばスーパーで夕方になっても生鮮食品を並べているけど、そもそも夕方には生鮮食品の前を通るお客様が少ないよね、インプレッションが取れていないよね、ということがあり得ます。

尾原:そうやって全部がデータ化されるから最適化がされるし、クリエイティビティが引き出される環境が、リアルの中にどんどん浸み出しているということですね。

おばら・かずひろ 楽天株式会社執行役員・チェックアウト事業長。1970年生まれ。京大院で応用人口知能論講座修了。マッキンゼーを皮切りに、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、KLab取締役、リクルート2回、Googleなどの事業企画、投資、新規事業など歴任。現職は11職目になる。「TED」の日本オーディションに従事するなど、IT以外にも西海岸文化事情にも詳しい。

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