2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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小野裕史氏(以下、小野):みなさんも「未来のプリウスを考えてください」とか「大ヒットするネットゲームを考えてください」とか言われたら、何をどう考えていいかわからないよね?
「64通りの方法をどう使いわけるの? 渡邉さんは天才なんですか?」とか「本質に立ち返る荒木さんの思考って、どうやって生まれるんですか?」とか、まだまだ聞いてみたいことがあると思うけど。
そもそも学生の頃はアイデアを考えるような経験はたくさんあったんですか? どのようにして今みたいな発想を生み出すスキルが身に付いたのかを振り返って頂きたいんですが、学生の頃はどうでした?
渡邉康太郎氏(以下、渡邉):僕はここのキャンパスに通ってまして、ものを作る授業をたくさん取っていました。デザインとかプログラミングとか電子工作、建築に関係したものが中心。
そういった中で、絵を描いたり基板を組んだりもしつつ、その前の「そもそも何を作ろうか?」というところにも時間を使っていました。
すごく良いアイデアが思い浮かぶこともあるけど、人のプレゼンを見て「何でこの人こんなに冴えてんだろうな?」と思うこともけっこうあった。そうなったとき「もし自分が同じアイデアに到達するとしたら、どういう思考の道筋をたどるだろうか?」と考えてみる。
これは「思考法のリバースエンジニアリング」というか、他の人の頭で起こったことを紐解いてみるトレーニングです。これはいつでもできます。
電車に乗っているときに広告を見て、おもしろいキャッチコピーがあったら「このコピーライティングをした人は、メーカーからお題をもらって考え始めたとして、なんで“看護婦さんのつぶやき”みたいなコピーにたどり着いたんだろう?」とか、発想を自分なりに再現してみる。
こういうのがトレーニングになると思って日々やっていて、今もやっているんですけども。他の人が作ったものに対して間違ってもいいから自分なりの仮説でアプローチしてみる。こういうのが脳のトレーニングとして有益だと思います。
小野:荒木さんは学生時代そういうことやってました?
荒木英士氏(以下、荒木):自然にクセが付いていたのは、渡邉さんもおっしゃっていた「何でこれはこうしたんだろう?」っていうのを考えるんですね。深読みする。あるいは解説するクセがすごい助かったかなと思います。解説といってもあくまで自分なりの私見ですけどね。
マンガでもゲームでも何でもいいんだけど「どうして作られたのか?」という解説をするのがすごく良いなと思っていて。僕の例をあげてみると『ワンピース』ってあるじゃないですか? マンガの。まとめ読みしたんですよ。65巻分くらい。
小野:ずいぶん、まとめ読みしましたね(笑)。
荒木:すでに頭がひねくれていたので、読みながら「ワンピースはなぜ、こういう構成になっているのか?」「ワンピースの何が優れているのか?」を考えるんですよ。
まず思いついたのは、少年マンガには『ドラゴンボール』などの流れや歴史があって、その中での学びや失敗がワンピースでは完全に解決されているんです。
最初に「ワンピースを探しに行く」という目的が提示される。それに対してドラゴンボールは積み上げなんですよ。最初の目的がないので、毎回毎回、目的を作らなきゃいけない。そうすると軸がブレてしまうんです。
一方ワンピースは最初から最後のゴールが決まっているので一貫した軸があるんですよ。
小野:「海賊王に俺はなる!」というのも。
荒木:そう! 海賊王になってワンピースを探す。ただ、そこにたどり着くと話が終わってしまうので、伸縮可能になっている。つまり目的にたどり着くというプロセスにおいて島をいっぱい出すことができる。島を5個出してもいいし、10個出してもいい、500個出したっていいんです。
マンガも人気が低ければ打ち切りになるじゃないですか? いつ打ち切りが決まっても話が終わらせやすいようになっているんです。
小野:なるほど(笑)。
荒木:というわけで伸縮可能なストーリー構成になっているのが1つ重要なことです。これはちなみに『神の雫』にも言うことができます。
さらにドラゴンボールの課題というのは、強さというものが「戦闘力」という1個の数値だったんですよ。だからインフレするしかないんですね。
(会場笑)
荒木:最初の頃は、1000とか2000だったものが100万とかになってくる。そうすると何が起きるかというと、ついていける仲間が減ってしまうんです。後半クリリンとか意味ないじゃないですか。
(会場笑)
荒木:最後は結局、悟空か悟飯しか戦っていない。それはやっぱり戦闘力という1次元の数値を使っていたからなんです。ワンピースはそこをどう解決したかというと、ドラゴンボールの後に『少年ジャンプ』では超能力ものが流行ってきたんですね。
どういうことかというと、強さが数値だけじゃないんです。「こういう敵にはこいつの能力が生かせる」という「組み合わせ」が重要になってくる。そうすることによって、仲間で戦わなければいけない必然性を生んでいるんですよ。
その流れはワンピースにも受け継がれて、一番戦闘力が高い悟空が出たらすべて終わっていたドラゴンボールとは変わって「それぞれの能力を生かし、仲間と協力して敵を倒す」というドラマになっているんです。
そういうことを勝手に考えて「よくできてる!」と思いながらマンガを読んだりするのも発想のクセにつながると思います。
小野:中吊り広告やマンガを見るところから発想につながっていくんですね。発想のテクニックというところで渡邉さんに「名前をつけることの意味」を話してもらいたいんですが。
渡邉:さっき発想法の紹介のなかで、アイコンをたくさん見せたと思うんですが、実は発想法1個1個に名前がついてるんです。
「Coin Flipping(コインの裏返し)」とか「Cross Pollination(他家受粉)」とか、名前をつけるのは非常に大事。自分の中にしかなかった発想手法を人に伝え、人の脳に埋め込むことができるんですよ。
一度チームで共有したなら、そのブレストに参加した人は他の場所で「実はCoin-Flippingって技があってさ」というふうに広めてくれる。アイデアだけじゃなくて、アイデア発想法の「流通しやすさ」を作るという意味では、名前を付けるのはすごく重要です。
こういう話をすると「発想法に名前をつけると、その手法にとらわれて、いつもそれしか使えなくなっちゃうのが不安」とか「技にとらわれちゃう」という人がいます。でもそれは、実は逆なんです。
もし自分の使っている技に名前をつけることができたら、それを客観視できるんですよ。1歩引いたところで技の限界を見ることができるので「あえて技を使わない」という選択を持つことができる。
さっき荒木さんが言ったことに「その通り!」と思ったんですけど、あらゆる人は自身の発想に無意識です。でも、必ず「思考の順路」にクセがあるんですよ。
そして、これが言語化できていない人の方が圧倒的に多い。あえて言語化することによって、技にとらわれるんじゃなく、己の思考法を相対化できる。結果「技を壊し、次に進む」こともできるんです。
これが非常におもしろいと思ってます。名前をつけ、流通させ、さらにその限界を超える。
小野:みなさんも必ず、自分なりの発想の仕方を持っているはずだけど、それに名前をつけるって難しいですね。名前をつけた瞬間に認識して、それ以外の方法を探したりするんだろうけども。
たとえば、荒木さんの「マンガを解説する」というのに「解説化」と名前をつけたとしたら「今の思考は解説化を使っているな」と意識できますもんね。そうなると他の方法にも意識が向いて、どんどん思考の幅が広がっていきそうですよね。
渡邉:そんな感じです。
小野:荒木さんは、技の名前とか持っていますか?
荒木:僕はこのセッションで「名前をつければ良かったんだ!」と学びまして。考え方は持っているんですけど、確かに客観視できていないと思ったので「名前をつけて技のとらわれから解放される」ということを実践したいなと思います。
渡邉:1個エピソードがありまして、とある企業と一緒に新規事業の企画をやったんです。医療機器メーカーの大きな企業があって、そこの新規事業室の10人と我々が「新しい医療のビジネスフィールドを立ち上げる」ことになったんです。
「今までにないアイデアを作りたいんですが、どうしたらいいですか?」と聞かれたときに技をいくつか使ったんです。その中で一番盛り上がった技が「Someone’s Shoes」というものです。
初めにこう言うんです。みなさん、想像してください。あなたたちは退職して違う会社に入りました。あなたはApple、あなたは無印良品、あなたは電通です。その設定で、ロールプレイしながらアイデアを出してください。どういう医療サービスを企画しますか?
そうしたらGoogleチームが盛りあがって「Google Medicine」というのを考えたんです。つまり無料のお薬配布サービス。
GoogleってよくWebサイトのデザインを変えるときにA/Bテストといって「こっちの50万人にこういうデザイン、こっちの50万人にはこういうデザイン」と、違うものを出して「どっちがクリックされるか」という市場を使った実験のようなことをよくします。
「Google製薬も市場を使った実験をしよう」と、壮大な(倫理的なことはひとまずさておいて)、いろんなアイデアが浮かんだんです。これが良いアイデアかどうかは重要じゃなくて「発想のタガが外れて無限にアイデアが広がる」というのが大事なんですよ。
Apple製薬でも「Apple Storeみたいな美しいジムがあって、心置きなくトレーニングできる。体を動かして休んでいるときにメディカルサービスを提供する」みたいなアイデアがポンポン出てくるんです。
その後は「あなたたちは、それぞれ退職して、改めて今の会社に再就職しました。そして先ほどのアイデアを引き継いでください」と。
そして「Cross Pollination」他家受粉をやりました。Appleからひとり、Googleからひとり、電通からひとり、というように、いくつかの混合チームを作って企画を精緻化し、プレゼンしてもらったんです。
そうすれば、うまくいくと思うじゃないですか? ところが、どのチームもおもしろくなくなってしまったんです。
現実的になっちゃって「役員がこういう性格だから、この順番で会いに行って、こう説明して」とか「他の事業部がこういうことやってるから、先に仁義を」とか急につまらない話になるんです。
小野:急にまた、タガにはまるんですね。
渡邉:そうなんです。それで最後に「takramさんの発想法はここまでは良かったけど、ここからなってないです」と言われたんですけど、ちょっと待ってくださいと(笑)。
小野:逆ギレされたわけですね(笑)。
渡邉:おもしろいなと思ったんです。「Invisible Shackle」というか「見えない足かせ」が付いている。みんな自分の企業とか置かれている立場という足かせをつけています。
でも自分がAppleや電通やGoogleだと思った瞬間に「足かせ」が外れるんです。だから自由に発想できる。
Apple社員になってください、というと、むしろそちらが新しい「足かせ」みたいに聞こえますよね。でも逆で、他人になりきることで、今まで気づかなかった自らの「見えない足かせ」を外すことができる。
で、自分の会社にもどった瞬間に今までの「足かせ」をまた付けちゃって、全然広がらなくなるんです。これに気づけたことが真の価値です。1個1個のアイデアは重要ではない。誰がやるかは関係なくて「自分たちが絶対やるんだ!」という意気込みさえ持って立ち上げれば、どんな企画でも絶対うまくいくんじゃないか。というメッセージを伝えました(笑)。
小野:みなさんも「この業界に就職したい」とか「ここに進学したい」とか、気づかないうちにいろんな「足かせ」を付けてるんでしょうね。それを1回外すために全然違う「足かせ」を付けるって、おもしろい発想ですね。
荒木さんは、そういう体験はあります? 自分の発想を大きく変えられたエピソード。
荒木:いわゆる「Yahoo!知恵袋」とかありますけど、過去にグリーでQ&Aサービスを作ったんです。みなさんはQ&Aサービスの価値って「質問をして、回答がきて、自分が知らないことがわかって良かった!」というものだと思うじゃないですか? 違うんですよ。
Q&Aサービスっていうのは「かまって欲しいサービス」なんです。世の中にあるQ&Aサービスを見ればわかるんですけど、いろんなカテゴリがありますよね? 「暮らし」とか「恋愛」とか。
でも一番盛り上がってるのは常に「雑談」なんですよ。
「雑談」を見てみると「眠い」ってQがあってAで「私も」っていう。
(会場笑)
小野:Q&Aになってないですよね(笑)。
荒木:超盛りあがってる(笑)。僕はそれを見てQ&Aサービスっていうのは「知らないことがわかる」というお役立ちサービスなんじゃなくて「かまってもらえるサービス」なんだというのが目からウロコでした。
さらに「グループインタビュー」をしたんです。そのとき年齢別にやったんですけど「10代女性」という属性のインタビューで、そのうちの1人がニートの19歳の女の子。彼氏と同棲中という子がいたんです。
彼女が言っていたのは「私はニートで暇なんだけど、Q&Aサービスで誰かの質問に答えると、ありがとうと言ってもらえる。人の役に立つのがうれしくてハマッてる」というのを聞いて、これは「自己承認欲求」なんだと。
質問する側はかまってもらえるし、回答する側も「誰かの役に立った」といううれしさがある。それで機能を1個つけたんです。それは「アリガト」という機能。
いわゆる「いいね!」と同じなんですけど、回答に対して質問者が「アリガト」を押す機能をつけたら、すごい盛りあがった。
さらに「アリガトランキング」を作っていくと、また盛りあがるんですよね。実際に人に話を聞くと、自分の思っていた前提が全く変わってしまうことがある。こういう人の話を聞いた上でサービス開発に生かすというのが、おもしろかったなと思います。
小野:Q&Aの本質っていうのは一般的に思うのとは違うところにあったんですね。本質が違うというところで、ここで「水筒」の話を頂きたいと思うんですけれども。
渡邉:依頼を受けて、とあるプロダクトを作りました。ドイツで5年に1回行われている現代芸術のイベントに「ドクメンタ」というものがあります。そのグループ展のテーマとして、あらかじめ与えられていた設定が「100年後の荒廃した地球」というものでした。
戦争などが起こって人口が激減し、地球環境も壊滅的なダメージを受けてしまった。これまでの文明的な生活を続けるインフラがほとんどないデストピアです。そんな中で、未来の人が使う「究極の水筒」をデザインしてください、と言われたんです。
それでステッキ型の水筒とか、野菜を使った水筒とか、アイデアをいろいろ考えるんですが、展示のディレクターに「ありきたりでおもしろくない」と全部ダメ出しされてしまいました。
そうやってあらゆるアイデアが殺され、だいぶ参った末、最後に気付いたんです。「ボトルの再発明をしてもダメだ。人と水との究極の関係というところまで問題を広げて、本当に100年後、人は水をどのように消費するかまで立ち戻らなきゃ」と。
で、最終的には6つの「人工臓器」を作りました。これは人が水を飲まなくても生きられるようにするための臓器です。
ちょっとマッド・サイエンティストっぽくて突飛に聞こえるんですけど。どういうことかというと、人が水分を失うのは4つのルートからで「小便、大便、呼気、発汗」なんですね。
1日に人は2500mℓの水分をとって2500mℓの水分をこの4つの経路から失っています。でも、砂漠地帯や乾燥地帯に生息している動物、たとえば「カンガルーラット」というネズミは、呼気から水分を失わない鼻を持ってるんですね。
特殊な剛毛が鼻の中に生えていて、呼気の中の蒸気を大半結露させ、また吸うときに肺に戻すことができるんです。
その他、犬は舌を出して体温調整をしているから汗をかかない。つまり、動物のそういう機能を人体の中に埋め込むことで、人間そのものを「歩く水筒」に変えられるんじゃないか、と問題の枠組みをとらえ直してみたんです。
この少し不気味な提案が良いか悪いかということは主眼ではなくて、ポイントは「水筒を作りなさい」と言われたときに、水筒だけのことを考えても、良い結果につながらないかもしれない、と気付くことです。
展示ディレクターにダメって言われるし(笑)。つまり、与えられた問いにそのまま答えるんじゃなく「そもそも問いが目指している究極の目的は何なのか?」と立ち返って、問いを勝手に更新してしまう、拡大解釈してしまうことも必要です。
もしかしたらビジネスの場面や学校の課題でも使えるかもしれない。「先生は何でこの問いを投げかけたんだろう?」と深読みすれば、いつもと違う、より深い返し方ができる。これを、問題の枠組みをずらすことから「Problem Reframing」と呼んでいます。
こういうマインドセットがあれば、問題にとらわれずに済むんです。態度のようなもので、心にそういうメンタリティを常に持っていると、あらゆる問題にエレガントに答えることができるようになるかもしれない。
小野:「Problem Reframing」は私も学ばせて頂きました。さっきのQ&Aの話にもあったQ&Aじゃないところに実は本質があったというところに似ていますね。
渡邉:まさにそうですね。
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