2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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シリル・エバースワイラー氏(以下、シリル):アメリカの経営ですごいことのひとつにストックオプションがありますね。スタッフ1000人ほどの会社で億万長者になることが可能です。アジアではその可能性が少ないですよね。
アーマン・ザンド(以下、アーマン):私からひとつコメントさせていただきますと、複数の投資家がいる場合、人々の意見は平等であり、意思決定が平等に行われると思います。特にアジアにおいては、会社の9割を所有するスーパースター経営者が1人ですべてを決めるのではなく、チーム全体で重要な決定を下すことが大切だと思います。
特にスタートアップ企業の初期段階ではたくさんのことを決めなければなりませんから、たくさんの人たちが意思決定に参加することが重要です。ですから、1人の人が多くを決断してしまうと成功率が下がると思います。
ケビン・ヘイル(以下、ケビン):同感です。(周りからの)プッシュバックがなければ良い製品を作ることも難しいし、良いチームを構成するのも困難です。1人の経営者にすべての答えを期待するのは不可能で、すべての答えを出せる経営者はすごく稀です。
田中章雄氏(以下、田中):ケビンはたくさんの出資要請を受けていると思いますが、このチーム構成については申請段階で見抜いてフィルターをかけることができますか?
ケビン:紙の上で所有割合が良くないからとか、シングル創設者だからなど単独の理由で要請を却下することはなく、大抵は複数の理由があります。
我々は、現在たくさんの出資要請を受けますが、他に優れた申請書があればその下に埋もれてしまい、フィルターがかけられるトップに上り出ることはできません。
勿論、今でも面接はしています。5000社のうち400社ほどと面談しました。実際に、良い会社の多くは平等の所有権があります。
社内外で所有権の話は必ず出ますから、もしも自分の所有権が他の人よりも低いことに気づいた社員がいるとすぐに会社の経営にひびいてきます。
問題なのは、こういうことが起業して2、3年目で浮上してくることで、会社が更に成長する段階でとても重要な時期です。ですから、怖いのは長期的視野がない会社です。
田中:所有権が平等でない企業にその点をアドバイスして、実際にそのアドバイスに従いますか?
ケビン:はい、そして多くの企業は(アドバイスに従い)所有割合を変えます。企業経営者にこの点について内部で話し合ってもらい、彼らもそれがベストプラクティスであるならばそれに従うと言ってくれます。
その結果、社員も幸せになり会社全体が良く機能します。
田中:(シリル氏に)あなたの業界ではいかがですか? 会社の9割を所有する経営者にみな従うという感じですか?
シリル:いろいろな形態がありますが、だいたいは平等だと思います。ハードウェア業界の経営者は、事業が軌道に乗るのに多くの時間と労力を要することを理解していると思います。ですから、責任感も強いと思います。
早期のうちに話し合いをしておくことが大切です。それから、誰がCEOなのかも決めておくことが大切ですね。3人のエクイティパートナーがいる場合、誰が本当のボスなのかということで、内部の政治もでてきますからね。
田中:ケビン、この点は問題ですか? 例えば、3人の平等の所有権がある場合ですが。
ケビン:私の会社は3人のエクイティパートナーがいましたが、問題ではありませんでした。でも、それは稀なことだったと付け加えておきます。
普通は、CEOが最終的な判断を下しますが、我々の会社は全く問題ありませんでした。
田中:ケビン、このセッションが始まる前に話しましたが、現在日本ではIPO(新規公開株)がとても増えています。懸念されているとのことでしたが、それについて少しお話しいただけますか?
ケビン:はい、私が懸念しているのは、アジアでIPOに踏み切るのはとても簡単であることです。
田中:これは、韓国においても言えることでしょうか?
ケビン:IPOは多くの企業がアーリー・エクジットとして選択しますが、残念ながら資産分割の課題もあって、あまり多くの人たちがIPOから利益を得ることができません。経営者1人がIPOで利益を得た場合、その人は会社にとどまる義務はありません。
もし、その経営者が新しい会社を設立していってしまった場合に、元の会社のイノベーションはそこで止まってしまいます。
残された社員はまた一から出直さなければならず、会社がそれ以上成長することができません。ですから、未熟な段階でIPOに踏み出す企業は、知的資産の損失となるだけでなく、短期的な視野でしか事業が行えなくなります。
GoogleやFacebookは、IPOの選択をできるかぎり先送りして、1つのイノベーションにフォーカスして真剣に取り組みましたが、それが彼らの利益となったのです。
田中:早期にIPOを行うとイノベーションを遅らせてしまうということですね。
ケビン:私は常にIPOには反対です。できるかぎり会社を成長させるのが第一で、そのためにあらゆる努力をすべきだとアドバイスしています。
田中:ジミー、韓国でも同じような状況ですか? 日本ではここ四半期に過去最大のIPOが公開されています。そのほとんどが小規模です。
ジミー・リム氏(以下、ジミー):先ほどのケビンと同じ意見で、私たちの(出資している)企業でも、上場してもいい会社はあります。でも、IPOを行う前にできるだけ会社を大きく成長させるようアドバイスしています。
実を言うと韓国でIPOに踏み切るのはそれほど簡単ではありません。少なくとも数百億ドルの収益をあげている必要があり、モバイルやWebサービスでそれだけの収益を上げるのは容易ではありません。
田中:モバイルゲーム事業はそうでもないですよね?
リム:モバイルゲームは例外だと言えます。モバイルゲーム以外ではIPOに踏み切るのは難しいです。3、5年目の会社でユーザーが百万人ほどいる企業であれば上場が可能なので、そういった企業にとってはIPOはよいモデルといえるかもしれません。
田中:では、残りの数分間をスタートアップ企業のチームについて伺いたいと思います。シリルやケビンの会社でもスタートアップチームを募集されて、日本からも応募があったと伺っていますが、なかなか適任が見つからないようですね。それは、なぜだと思われますか?
シリル:まず、それほどたくさんの応募があったわけではありません。今年の6月にほぼ1ヵ月日本で過ごしましたが、もともとハードウェアづくりの歴史がある国ですから、大きな可能性があると思いました。
実は私が期待しているのは、数年後に名前は出しませんが大企業が衰退することです。元ノキアやブラックベリーのスタッフが起業したように、そこから実業家が生まれることです。その時期を待っているところです。
田中:では、パナソニックやソニーが倒れて、そこのエンジニアが解放される時期を待っているということですか?(笑)
シリル:そうなれば助かりますね(笑)。起業家というのは、初日からグローバルな視野で物事を考えなければなりません。私が出会ったエンジニアにはそれが難しい人たちがいました。
田中:具体的にはどういうことですか?
シリル:(製品の)マーケットはどこか別の場所(国)になるわけです。いかなる企業も初日からグローバルな顧客に対応することになります。ですから、グローバルな視点で考えることが大切です。マーケットはアメリカに支配される可能性もあります。
またガラケー症候群に陥る可能性もあります。中国でガラケーに似た現象が起こりうるかもしれません。中国を恐れる人もいます。製造が中国で行われる可能性があるからです。
田中:中国を恐れている起業家がいるということですか?
シリル:(笑)。それは、未知を恐れているという意味です。語学の壁などもあります。中国は避けて通れません。既に消費者向け電子機器の世界最大の市場です。
とても成功している企業もあり、その中にはスタートアップ企業も含まれます。ですから、グローバルな視点でハードウェアの将来を考える必要があり、それが今欠けているのだと思います。
田中:ケビンはどう思う?
ケビン:ポール・グレアムが「良い投資家は本質的に楽天主義である」と言っています。ですから、我々もできるかぎり企業を支援しようと思ってますが、正直なところ何をやろうとしているのかわからないことがあります。
(会場笑)
アイデアがすぐにピンとこないと我々もそこから更に推定することが難しくなります。勿論、言葉の壁があるというのは十分理解していて、アジア系の企業には配慮しています。
もう1つ言えることは数字です。多くの会社は今現在の数字は良く把握していても、将来の成長率や収益率、ユーザー成長率についての細かい数字が出せない企業があります。また見た目の数字は良くても中身が伴っていないこともあります。
田中:それは日本でも言えると思います。数字の「スナップショット」は出せても成長率が出せない会社があります。
ケビン:私の目標は、将来的に大きな価値を生み出す企業であるかを見極めることで、スナップショットからはそれを読み取ることはできません。
そして最後に、経営者とそのチームに大きな目標があるかどうかを見ます。彼らは世界を買収できるだけの力量があるかどうかです。
よくあるパターンでは、ある問題を解決してそれを製品化し、その技術ひとつを売りたいというケースです。他に言えることは、ポイントを逃している企業が多いことです。あってもいいけれど今日の市場が必要としていて影響を与えるプロダクトでなかったりします。
また、現在たくさんの企業がマーケットプレイス事業に取り組んでいますが「鶏と卵」の課題に直面しています。いかに迅速に供給するかと同時に、需要の問題を解決する深い洞察力と戦略があるかどうかが問われます。
田中:ケビン、ありがとう。
田中:最後に、パネリストの皆さんからスタートアップを考えている人たちに、ご自身の人生経験をもとにアドバイスをいただけたらと思います。
では、ジミーから。ジミーはたくさんのスタートアップ企業を見てきていると思いますが、良い会社とそうでない会社など、会場の皆さんへアドバイスをお願いします。
ジミー:ケビンのお話しにもありましたし、私もすでにお話ししましたが、チームについてとても重要だと思うので強調したいと思います。
私は今まで沢山のスタートアップを見てきましたが、お互いをよく知らずに急いで事業をスタートさせるケースが多いです。
例えば、このような会場でエンジニアとデザイナーが知り合って、一緒に起業しようという話になったとします。大抵の場合、それはうまくいきません。もちろん例外はあります。
田中:では、昨日今日知り合った人たちではなく、既に一緒に仕事をしたことがある人たちのチームのほうが良いということですね。
ジミー:既にお互いをよく知っているとか、実際に仕事をしたことがある人たちで、しっかりしたチームができている企業のほうが、急いで製品化して市場に出そうとしている企業よりも成功します。
韓国では、市場に最初に参入した企業が勝者になることはまずありません。
通常、2番手、3番手で市場に参入したしっかりとチームが組まれている企業が成功するのです。ですから、チームの重要性について強調したいです。
田中:アーマン、チーム以外で何かアドバイスはありますか?
アーマン:私が起業家の方たちと会ったときに問うことは、その企業が参入している産業の5年後の展望です。驚くべきことに、多くの起業家は全く想像がつかないようです。
具体的な詳細を聞いているのではありません。大まかでよいので把握しておく必要があります。
もし将来の展望がないということは、今現在のためのビジネスを立ち上げていることになるからです。今日のために事業を構築しているのでは遅すぎます。
ビジネスが軌道に乗るのに2、3年はかかるわけですから、将来像を見据えてそれをターゲットに事業をスタートしなければなりません。
自分なりにでも将来の状況が見えていれば、ビジネスがスタートしてからも軌道修正が可能です。5~10年後の製品や市場の将来像が常に見えていなければ、市場をミスることになります。
田中:企業にしっかりしたビジョンが必要だということですね?
アーマン:その通りです。
田中:シリルはいかがですか?
シリル:2、3人でスタートアップを始めた場合に、自分たちが作った製品に惚れ込んで、会社を築くことを忘れてしまいがちです。
(会場笑)
田中:会社を築くことは製品を作ることよりも大変ですか?
シリル:そう思います。ハードウェアでビジネスをする場合、3つの段階を踏みます。まず、製品を製作することで、これが企業の重要なコアの部分となります。
次に、それを生産しなければなりません。最後に、セールス・マーケティングとなりますが、通常その段階が一番大変です。
このプロセスで大切なのがコミュニケーションで、社内外で彼らがいかに魅力的な企業なのかを売り込んだり、サプライヤーに値引きしてもらうよう交渉しなければなりません。
そして、マーケティングなど長期的な視野とそれに伴うスキルが大切でそれを磨く必要があります。
田中:シリル、ありがとう。ケビン、お願いします。
ケビン:わが社では「人々が欲しがるものをつくれ」というモットーがあります。我々のプログラムに参加する企業は秘密のテクニックを学ぶわけではなく、教えることはただ2つです。
「ユーザーに話を聞くこと」と「製品づくりに取り組むこと」です。
その他のことは気を散らすことになるだけです。資金集めをしたり、投資家と早期に話を進めたり、カンファレンスに行ったりすることです。
(会場笑)
初めて起業する人たちは、いかに時間が貴重なものかわからないのです。ですから、この2つをしっかりやっていないと、市場に見合う製品を出すことができず、今後の成長は難しくなります。
田中:ケビン、ありがとう。会場から質問がなければここでこのセッションを終了させていただきます。皆さんどうもありがとうございました。
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