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尾原和啓×平林久和(全1記事)

パズドラはなぜ日本で生まれたか? ゲーム文化で読み解く日米のIT観の違い - 平林久和x尾原和啓

欧米の文明を取り入れつつも、文化までは受け入れず、独自の進化をとげてきた日本。そのことがグローバルにおいては弱点となり、ゲーム市場においてもアメリカに後れをとっていると言われているが、逆にそれが強みにもなっているとゲームアナリストの平林氏は語る。ゲーム文化の日米比較をベースに、「日本的なIT」の発展について平林氏と尾原氏がその可能性をたぐる。

パズドラが日本で生まれたワケ

尾原(以下、尾):平林さん、どうもこんにちは。さっそくですが本(『ITビジネスの原理』)、いかがでしたか?

平林(以下、平):楽しく読みましたよ。特に気になったのは、「インターネットがアメリカで生まれた不幸」ってところです。なぜそこかという話ですが、僕自身がゲーム業界という場所に身をおいて、上流からゲームをいろいろと見ていると、アメリカという国について今もう一度考えるべきなんじゃないかと思っているんです。というのも、アメリカが誤解されていると思っていて、マーケットが大きい、大型ゲームを作るときの開発規模が大きいと言われますよね。

:実際、ゲームを作るプラットフォームとしてのゲームエンジンは、アメリカの方がオープンな開発でどんどん進んじゃっているというのが一般的な認識ですね。

:たしかにそうなんですけど、でもね、その「進んでいる」という言い方に対して、今かなり抵抗感があるというか、差異が鮮明になりました。尾原さんがまさに本で書いていたように「あうんの呼吸」でモノを作るのが大事なことなんですよ。

日本のゲームはどうかという話ですが、じゃあパズドラがありますけど、パズドラの特殊スキルを持ったリーダーの配置だとか、全体攻撃のエフェクトの付け方はやっぱりすごい。あうんの呼吸がないと、あの手のモノが出来ないだろうと思います。でも、逆にそのあうんの呼吸が得意だった日本の強みが弱みに出たというところがありまして。

:弱みですか。

:簡単にいえば、日本は100人、200人という大人数でモノを作ろうという時に「みんなわかっているでしょ」ってことを前提にするんです。アメリカだったらどうかと言うと、むしろ多宗教だし多言語で、「スケジュールに遅れる時は3日前には必ず言え。言わなかったら給料を下げるぞ!」とはっきりと言う。これがアメリカ流のプロジェクト・マネージメントです。

:面白い!

:日本だったら遅れたら自主的に言うのが当たり前だからわざわざ口に出さないし、言わなかった人の給料を減らすなんてことは失礼なことだという前提で作っているので。そもそも大規模開発には向いていないというのが僕の考えなんですね。

:だから、逆に言うとアプリみたいに今は開発人数が少なくていい。ソーシャルゲームやスマートフォンゲームの世界だと、また日本のハイコンテクストの良さが今は生きてるんだけどということですね。これがまた機能拡張が進んで大規模化すると、同じ道を歩んでしまうかもしれない。

日本のゲームは私小説的

:そうですね。ここから話が飛ぶのですが、アメリカというのは写真のようにリアルな写実の国なんですよ。日本は二次元。写実ではなく印象派的なというか。

:サブカルチャーもそうですね。

:ゲームを見ていても思いますが、こういう文化がちゃんと根付いていることを考えると、作り方だけではなく日本の独自性も認めていくべき時期だと思います。良い悪いの話ではなく。コールオブデューティー(戦争をテーマにした米国開発のゲーム)よりパズドラが遅れているとか、そういうことじゃなくて、マリオもソニックもドラクエも、そういうものが日本から生まれてきているわけですよね。

その原形をたどれば縄文時代かもしれないし、最古の漫画『鳥獣人物戯画』かもしれないし、浮世絵があり漫画になっていく。遠近法というよりも平面図の中で立体をいかに描くかというか。尾原さんが書かれた本には非常に重要なことが書かれています。

:そうですね。その中に主観が混ざっていくっていう。まさにその辺のことをチームラボの猪子寿之さんが最近研究していて、日本人が見ていた主観世界を3Dグラフィックスで再構成したらどうなるだろうかという話をしていました。主観や時間を全部混ぜこぜにした、自分から感じた空間ようなものがあれば感情が埋没しやすい。

まさにその辺がチームラボの猪子さんとすごく最近研究していて。気になっているのは、日本人が見ていた主観世界を3Dグラフィックスを使って、再構成したらどうなるんだろうっていう話をずっとやってるんだけれども。その主観とか時間が全部ないまぜになった、それが、自分から感じた空間みたいな。だからこそ、感情が埋没しやすい。

逆にお伺いしたいのですが、一方でアメリカもここ2、3年ぐらいでナラティブ(narrative)を大事に語るようになっていますよね。僕の解釈だと単純な物語(story)というよりも、自分を没入させることができる物語。日本が得意としていたものが、アメリカに浸透しつつある流れについてどう思っていらっしゃいますか?

:アメリカのナラティブ論もわからないでもないですけど、たとえばゲームの世界でいうとそのナラティブが銃をめぐるものだったりすることが多いんですよね。つまり、私小説的ではないんです。他者に相対することが多い気がするんですよね。だから物語も外に向かっているという印象があって、そこが日本と違うよなと。

:そうですね。今おっしゃられた私小説が、やはり日本の得意とする物語構造を作っていますよね。

日本は"文明"を取り入れ、"文化"は受け入れない

:さっき例に出したコールオブデューティーで言えば、まさに銃文化ですよね。アメリカは武器を持つ権利を修正第2条で認められている国であり、国歌でも「砲弾が赤く光を放ち」とか歌っている。民主主義で平和な国という教育はしてきているけど、実は戦いの歴史があり、自らの大国というポジションをどう取るかという歴史でもある。

そうやって自分の考えてきたことを、尾原さんの本を読みながら再確認をしたんですね。日本人が見るインターネットとアメリカのそれを切り分ける視点を持つ。つまり、文明と文化は切り分けて見た方がいいだろうなと思っています。日本は昔から文明を取り入れながら、文化を進化させずにはいられない人の集まりだった気がするんです。

:ほう。

:仏教でもいいし、鉄砲伝来でもいいし、車でも飛行機でも何でもいい。文明があったら、それをどんどん取り入れる国だと思います。

:たしかにそうですね。

:文明と文化がどっちがどっちという話もありますが、ゲームのマーケット分析をしていると、見えないものが浮かび上がってくる。尾原さんがいらっしゃったGoogleというものも、いってみれば文明の利器なんですよ。

:おっしゃるとおりですよ。

:文明の利器はどこの国のものであろうが取り入れる。アメリカという国を一区切りにしてしまうのではなく、文明発祥の地、あるいは西洋文明が日本に入ってくる窓口として位置づける。日本人はアメリカ文化が好きだ、アメリカのものが売れていると言う人がいますけど、実は日本人はアメリカの文明の利器を受け入れつつも文化そのものは跳ね除けているんじゃないのかなということを考えましたね。

:本で書いたアメリカは、自分がマッキンゼーやGoogleなどアメリカという国を背負うグローバル企業にいた感覚がベースです。一方で、アメリカという国を通すからグローバルというものが出てくるだけで、アメリカの国内でもローカルにいけば必ずハイコンテクストだと思うんですね。

:うんうん。

:グローバルでやろうとするから、アメリカだって抜けざるを得ないものがある。もう一つは検証途中ではありますが、そもそもアメリカのような一神教的な原理主義の国と、日本のように多神教的な文脈主義の国の違いみたいなところもあるかなと思うんですよね。

:同じ感覚がありますね。イノベーションやテクノロジーといったITのことをカタカナの言葉で語るという気分がここ数年間ずっとしていなくて。まさに原理について考えるならば、日本についてもう一度よく考えないといけない。「みんな日本のことをもっと考えなよ」とずっと思っていった時に、「インターネットがアメリカで生まれた不幸」と言われて「これこれ!」と思ったんですよ。

:ありがとうございます(笑)。保守回帰というか、これだけネットが普及して当たり前になったなかで、もう一度もともとネットが持っていた本質的なもの、たとえば人と人がつながることだったり、コピーが簡単になることだったりという原理的なことから、これから何が起こるんだろうということを考えなおすと次のヒントが生まれると思うんですよね。僕らのようにインターネット初期から知っている人間が、いまの若い人たちに語れば新鮮に聞こえるし、それがすごい進化を起こすだろうなと思っています。

おばら・かずひろ 楽天株式会社執行役員・チェックアウト事業長。1970年生まれ。京大院で応用人口知能論講座修了。マッキンゼーを皮切りに、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、KLab取締役、リクルート2回、Googleなどの事業企画、投資、新規事業など歴任。現職は11職目になる。「TED」の日本オーディションに従事するなど、IT以外にも西海岸文化事情にも詳しい。

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