2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×水口哲也(全1記事)
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尾原:本(『ITビジネスの原理』)はいかがでしたか?
水口:ジェットコースターのように一気に読めたというか、流れに乗って読めたので楽しかったですよ。
尾原:ありがとうございます。特にどのへんが面白かったなどありますか?
水口:中盤が面白くて「情報の粒度」という言葉があるでしょ。『情報の粒が小さくなることで、これまでは拾いきれなかった情報も拾えるようになった。これは革命的なことだ…』と書いていたところです。この「情報の粒度」という話が、僕が考えている「ウォンツ(欲求)」と「ニーズ」の関係性にすごく近いなと思ったわけ。
説明が遠回りになるけど、僕はどうやったらもっと面白いものが作れるか、人を感動させられるかというときにウォンツを考えます。人には感動する理由があるし、手を伸ばすものや惹きつけられることにも絶対理由がある。それがウォンツです。もうアフター・インターネット(インターネット後)の世界では、人の心を動かす要素をニーズだけで捉えることができないんだよね。
これは多くのクリエイターやデザイナーがこの何年も感じてきていることだと思います。じゃあ、ウォンツとニーズの何が違うのか。僕にとってニーズは“クラウド(雲)”みたいみたいなもので、虫眼鏡や顕微鏡で見ると結局のところ水滴です。1個1個が粒になっている。そして、その1個の粒がウォンツなんです。
尾原:ウォンツを群と捉えたとき、ニーズに見えているということですね。
水口:そう。ニーズは検証や確認にはなるのだけど、本当の意味でのクリエイションやイノベーションはニーズからでは出来ない。クリエイターやデザイナーはみんな肌で感じていることだと思います。アフター・インターネットではとても顕著です。
水口:尾原さんが「情報の粒度」と呼ぶものと僕の「ニーズ・ウォンツ」にはすごくアナロジーがあって、例えば映像がHDになり、それが4K、8K(解像度が高い)とどんどん細かいところまで見えていくように、インターネットやITが人間ひとりひとりの意識や意志を顕在化していくという話だと思うんです。
尾原:そのとおりですね。粒度が小さくなることで、より違いが鮮明に見える。将来はその違いが鮮明になることで、さらにその違いが楽しめるようになると思っています。現時点ではその情報の粒が小さくなることで速度が速まり、むしろコンテクスト(文脈)が失われてよくわからなくなるというような副作用が目立ってしまっていますけどね。
水口:情報の粒が小さくなることでコンテクストが見えにくくなる、とは?
尾原:はい、粒が小さくなることの弊害です。いちばんわかりやすいのはTwitterで、1個のツイートが140文字で分断されてしまうから、1個のツイートだけ見ても、その人がどういう意図を持ってツイートしているかがわかりませんよね。1個のツイートから、誤解が誤解を呼んで炎上するということは結構あります。
コンテクストがないからこそ、「NAVERまとめ」のように粒度の小さなツイートを集めて、情報の粒度をもう一度大きくすることで理解しやすくするという反復が行われているわけですよね。私もまさに先ほど水口さんがおっしゃったウォンツの1つ1つに厚さやベクトル(方向)があり、そこに寄り添うプラットフォームができるんじゃないのか。ウォンツが似た者同士が集まって切磋琢磨し磨き合うような世界があるんじゃないか、と思っているんですよね。
水口:ITはメディアとしても捉えられると思うのですが、メディアは人間の鏡みたいなものです。メディアが人間にもたらした変化とは何だろうか? インターネット以前のマスメディアの時代にもウォンツというものはあったんだけど、それが噴き出る場所や方法がなかった。
この本でもマズローの欲求ピラミッドが紹介されていますが、たとえば他人から承認されたい、認められたいという欲求は昔からあったわけですよね。アフター・インターネットでどうなったかといえば、クローズド・コミュニティの中だけではなく、まったく知らない人を含めて不特定多数の人にも「承認されたい」という欲求が満たされるようになった。
Facebookの「いいね!」ボタンです。この「多くの人たちに承認されたい」というウォンツは、別にインターネットが登場する前からあった。でも、インターネットでそれが実現可能になると、水が高いところから低いところに流れていくように、人間のウォンツも自然に流れていった。じゃあ次は、何が来るのかという話でもあるのですが(笑)。
尾原:そうなんですよね(笑)。
水口:マズローは、欲求のピラミッドの階段を、上がり続けると言っているわけじゃなくて、いちばん上にある自己実現に到達しても、上下を行き来すると言っていますよね。その行き来する面積が広がれば広がるほど、人間は幸せに向かうんじゃないかと思う。
尾原:ひとりひとりのウォンツの粒がより発揮されやすくなるということが、自分らしく生きるということであり、自己実現なのだと思います。ウォンツはベクトルですから、未来へのベクトルがあるように、過去から来るベクトルがある。ここで言う過去からのベクトルは自分の人生だったり、住んでいる場所だったり、もしかしたら祖先かもしれない。
こうしたベクトルの固まりが一つのコンテクストで、このコンテクストが活かされることが自分の強みを活かすことであり、喜びであり、自分らしさ、自己実現になるということですね。
水口:ITが人間のウォンツのベクトルの大きさや方向を変える、新しい循環や化学反応もたくさん起こっていますよね。たとえばFacebookが作ったクローズドな人と人とのつながりが、「アラブの春」のように中東の民主化運動を推進しました。
あれはFacebookやSNSによってもたらされたというよりも、オープンプラットフォームの中のクローズドな機能が生んだ副産物でしょう。この2年ぐらいずっとワークショップを通じて、いろんな立場、年齢、性別の人たちのウォンツを可視化していますが、やる度に、そこに何か発見があるんですよね。ITは本当に多くのウォンツのスイッチを入れはじめている。
尾原:離れた距離にいても、その場にいるように話をしたい。
水口:人間は時間すら超えたいと思っている感じが最近はするよね。タイムマシンとか単純なものじゃなくて、複雑でものすごくたくさんのコンテクストが同時に存在するような。僕らが100年後に生きている人間だとすると、過去100年間のいろんな先人の生きた話を訊けるだろうし。
尾原:こういう話をしていると、自分たちは無自覚であるけど過去のウォンツやコンテクストの集合体の上にいるということがよくわかりますね。そして、これからはもっとウォンツやコンテクストを伝えやすくなるし、ただ距離をつなぐだけじゃなくて、時間を超えてつなぐようになっていく。そんなことになるのでしょうね。
水口:ここで一つ言いたいのは、僕らの中には本能的に安全装置があるのだということです。ウォンツの可視化を端からやっていくと、ポジティブなものからネガティブなものまで、必ず両端があるんだよね。たとえば、1人でいたいけど、みんなでいたいとか。すごく大好きで大事に思っているんだけど、いじめたいとか。いろんな本能があるよね。その本能がある種の安全装置やバランスになっている。
そう考えていくとITが登場したのも、ネイチャーコール(本能的な欲求)のような気がしてきます。すごく複雑で粒度の高い民意というか意思によって、まるでDNAコードのようにつながって。ITもそうやって情報技術が生まれてきたと考えてもいいんじゃないでしょうか。
尾原:面白いですね。今までは粒度が高くなることで粒を楽しんでいたけれど、これからそのひとつひとつの粒がつながって何かを引き起こすようなものが出来てくるかもしれない。
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