2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×林信行(全1記事)
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尾原(以下、尾):のびさん、今日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、初めて書いた私の本(『ITビジネスの原理』)の感想、いかがでしたか?
林(以下、林):いや、読みながらびっくりしたんですけど、すごいわかりやすい本ですよね。パッと見ただけではわかりにくいITビジネスを丁寧に噛み砕いていて、何故こうなっているのかの裏づけや理由の説明がすごくわかりやすかったです。それに加えて、ときにはパソコン通信までさかのぼっていて歴史的経緯も踏まえて紹介しているし。もしかしたら高校生が読んでもわかりやすい本なんじゃないかなと思いました。
尾:ありがとうございます! そして何故に「高校生が読んでも」と思われたのですか?
林:最近、僕自身が大学はもちろん、高校などでも講演することが増えてきてるんです。今の若い人はみなデジタルネイティブだから、よほどITのビジネスセンスがあるのかなと思うのですが、話してみると実は最近の若い高校生はそうしたITのビジネスセンスを持っているわけではないんですよね。尾原さんはそういった実感はありますか?
尾:なるほど。たしかにそうした実感はありますね。ある意味、ITとビジネスのバランスを取れる人たちって、nanapiのけんすう(古川健介氏)世代、つまり「81(ハチイチ)世代」までで、逆にその後の世代はITやデジタルが当たり前過ぎて、自覚していないところがあると思うんですよね。
例えて言うならば、僕たちはファースト・ガンダムから体験してるからガンダム観を語れるけど、今の子たちはパロディ・ガンダムから入っちゃってるからみたいな。そういう、「出来上がったもの」しか知らない不幸ってあるのかなと思います。
林:基盤部分がどうなっているか知らずに、その上に建てられた建物だけ知ってると。
尾:そうそう。初めて本を書いた動機も、だからこそちゃんと最初からITビジネスの歴史を圧縮体験するというようなものが必要なんじゃないかなと思ったんですよね。今の若い子たちはネイティブ・インターネット・スピーカーというか非言語的というか、本当に自然にデジタルを使いこなすのでビックリすることがすごく多くて。
最近、Twitterで中学生をフォローしまくってタイムラインを見ているんですけど、ものすごく初めから情報をオープンにすること自体に慣れているし、その中で自己肯定感を見つけていくこともうまいと思います。それはそれで価値観として面白いと思うんですよね。
林:ほんとにそのとおりですね。
尾:多分、若い子たちにITの生きた歴史を伝えることって、僕らの責任だと思うんですよね。だって、僕らだけじゃないですか。パソコンが生まれた瞬間からワクワクしてきたし、もっと前から言うとアポロが月に着陸するとかSFでワクワクして、ずっと進化を一緒に見られてきた世代なので、そういうのを残したいと思ってて。ちなみに他に本で面白かったところありますか?
林:「ソーシャルゲームは北風と太陽」が比喩の表現も非常にわかりやすく面白かったですね。あと「アンバンドリング(分解)」の話ですね。自分の本では「マイクロ化」と表現していたんですけども、トレンド的なことはある程度みんなわかっているんですけれど、今あるインターネットのビジネスの説明がうまくできていなくて。
尾:そうですよね。ITって最新の技術ばかり追いかけていて、ネットがそもそも遠くにあるものを繋ぐことだったり、繋げられるから空いているキャパシティを組み合わせられるだとか、各バリュープロセスでバラバラにしてコラボレーションできるとか。そういうもともとの根っこをちゃんと語りたかったんですよね。
のびさんはテクノロジーだけじゃなくアートとか色んなものを見てらっしゃると思うのですが、去年(2014年)ぐらいから農業とか印刷とか、ITがリアルワールドにいっぱいしみ出してきていて。
林:まさに僕が講演するときに一番に押してるのがそのことです。これまではITというのは画面の中だけの世界という印象が結構あったんだと思います。でも、最近スマートフォンやタブレットなどの普及で、どんどん生活の中というか、今、尾原さんがおっしゃったような一次産業にまで、こういったITが広がりつつありますよね。
生活シーンや仕事のシーンを変えつつあるということを強く感じています。あと、日本のIT業界も何がシリコンバレーで流行っているのかとか、トレンドばかりを見ていて行き詰まっているところがある。実は今流行っていない向こう側にこそ結構チャンスがあるんだと思います。
尾:まったくそのとおりです。
林:たとえば、尾原さん、後半で「Pinterest」(写真共有サイト)のことも触れてましたけど、多分、それまでのインターネットって文字で表せることしか、ほとんどコミュニケーションしていなかったと思うんですよ。僕、Pinterestでほんとに感動したことが「言葉で表せないもの」のコミュニケーションが可能になったことです。
尾:ですね。
林:多分、インターネット業界の8割9割の人たちは、「言葉にできないものでどうやってコミュニケーションができるんだ、そんなところにビジネスチャンスがあるわけがない」と思っているんじゃないかと思います。でも、だからこそ残り1割の人にとって、こうしたエモーショナルなコミュニケーションにビジネスチャンスができるというか。まさに「Pinterest」がそれを実現しているのかなと思いますし。
尾:そうなんですよね。僕も画像や動画というものが今後面白いと思う理由の一つに、Androidスマートフォンの普及があると思うんです。これから英語をしゃべれない国にAndroidスマートフォンが普及していきますよね。そのときに、ローカルの人同士のコミュニケーションやコラボレーションがどういう風に起こるんだろうと思うと、すごく面白いんですよね。
そして、言葉を使わずにコミュニケーションする「あうんの呼吸」の気持ち良さって、絶対に日本人が長けているんですよ。そのスキルを海外に持って行きたいんです。
林:まさに「あうんの呼吸」を実現する環境が整ってきてますよね。例えば、今の世界中の若いジェネレーションはみんな子供の頃からポケモンやドラえもんを見て育ってますし。多分、今まで出来なかったのは、西洋人だ日本人だとバックグラウンドからカルチャーまで全部が異なっているから難しかったんだと思うんですよ。僕はアニメをあまり見ないのでわからないですけど、多分同じポケモンのジョークを言うと、言葉は通じないけどポーズの写真とか見ればわかると思うんですね。
尾:なるほど! 面白いですね。メイド・イン・ジャパンのゲームやアニメがある種のベース・コンテクストとして流通し始めていて、そこをベースに色んなものを乗っけていけるかもしれないということですね。
林:LINEが世界的に受け入れられていることも、そうしたベース・コンテクストがあるんじゃないかと思います。LINEのスタンプって、ちょっとヘンなキャラクターが多いじゃないですか。
尾:そうしたキャラクターの作りについてはLINEにいる人たちがものすごく考えていて、ちょっとした差異だとか、細かいズレみたいなものをすごく大切にしているんだと思います。ただ「OK」と送るだけでも、ものすごい数のスタンプがあるわけですし。
米国のFacebookやGoogle+も似たようなスタンプを作っていますが、やっぱり日本的な細やかさとは違うんですよね。そうした日本的な良さをどんどん伸ばしていけると絶対に面白いと思います。
尾:最後に、のびさんの方からこの本読んでインスパイアされたITビジネスの原理などあれば伺いたいです。
林:そうですね。先ほども言ったのですが、アンバンドリングというか、僕の言葉でいうマイクロ化がどんどん進み、「こんなところが最適化できるんだ」みたいな、今まで思ってもみなかったものが実は最適化できるんだということが進んでいくんだと思います。
インターネットでビジネスをやるときの攻め方は二種類あると思っていて、一つは顕微鏡的により小さいところにフォーカスしていくこと。もう一つは大局的に見るアプローチです。尾原さんの本を読んで、改めてこうなるんだなと再確認できました。
尾:話を聞きながら一つ思い出しました。Yahoo!の小澤隆生さんがやっていたことが実に面白いと思うんです。彼が出資している弁当宅配のベンチャーでスタフェス(スターフェスティバル)というところがあるんですけど、このビジネスをどうやって考えたかというと、電話帳を持ちだして、そこに掲載されている一つ一つの職業がインターネットの力によってどう変わるかを順番に議論していったんですよね。
林:おー(笑)。
尾:のびさん、今度それいっしょにやりましょうよ。電話帳に載っている業種から、マイクロ化できる事業は何かとか。
林:確かに、確かに。面白いですね。ちょっと話が脱線しますけど、僕はiPhoneなどスマートフォン登場以降に色んな会社を回ってワークショップをやっているのですが、愛知県の常滑に今はLIXILの一部になっているINAXでワークショップをやったことがあります。
そこでやったのは、スマートフォンは1人1台持っているものだから、スマートフォンをセットすれば便座の温度やシャワー・トイレのノズルの位置がぴったり自分にフィットしてマイトイレになる、というものでした。実は、ちょうど去年それが製品化されたんですよ。
尾:おーすごい! でも、まさにそういうことなんですよね。ニッチなんだけれど、フィットするとものすごいフィットしますよね、それ。
林:しかも、ワークショップのブレストの時には出てなかったアイデアが組み込まれていました。例えば、トイレの使用記録が残っていくとか、排便や排尿の記録が残って健康管理に使うとか。
尾:すごいじゃないですか! パーフェクト。普通に考えるとそうした記録をヘルスケア管理で使おうという発想から入っちゃうものですが、あえてパーソナライズから入ったという。最高ですね。
尾:今後もぜひ、マイクロ化を地方産業や匠の力に活かしていきましょう。
林:まさに。そここそが伸びしろが大きい分、僕はチャンスがあるなって思っています。だから僕、実は去年(2013年)を境にITから密かに遠ざかっていて、デパートの仕事とか、今言った話に近いことばっかりしているんです。例えば、フランスのエルメス本社の副社長で斉藤さんという方がいるのですが、彼が「日本で最も美しい村づくりプロジェクト」という地域活性化をすごく応援していて。
尾:へー。
林:なんで応援しているかというと、日本人の一番の強みである美的感覚は、日本の里山の風景に結びついていると彼は考えていて。でも、その里山の風景の背後には、必ず農業や漁業といった一次産業が結びついていて、これがうまく循環するようにしないと里山の風景が崩れてしまう。だから応援しているんだと。
話が飛びますが、ネットってある意味、世界を全部フラットにしちゃうじゃないですか。Googleは2015年までに5億人ぐらいインターネットのユーザーが増えるって言うし。つまり、その人たちと日本人が横並びになったら困るんですよ。日本人のアドバンテージが無くなっちゃうわけで。
その時に日本人の強みが何かって言ったらハイコンテクストの部分。例えば「美的感覚」がこのハイコンテクストの一番の根っこの部分にあって、日本にある四季の移り変わりや歴史、伝統だったり、里山の風景がこの「美的感覚」の根っこをつくっているわけです。そういったことをITでどうやって強くしていくかというのが僕にとって結構大事なテーマになっています。
尾:すっごくよくわかります。今度電話帳の話を含めて、地域の話などもいろいろとやらせてください。今日はありがとうございました。
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