2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×けんすう(全1記事)
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古川(以下、古):尾原さん、本(『ITビジネスの原理』)読みましたよ。面白かったです。意外とあんな感じでITビジネスの根っこから解説した本ってないのですごくいいなと思いました。
尾原(以下、尾):ありがとうございます。
古:一番良かったところを言うと、最後の方の「ITは人間を開放し、成長させ豊かにする」のところですね。Googleグラスのところで、料理がいちばん美味しいのは出来立てなのにFacebookやブログのために写真を撮ることで、ITが人間の本質的なところを破壊しているように見えるけど、実はそうじゃない。
今、破壊されているように見えるのは、実はテクノロジーが追いついてないだけで、すぐに解決していくだろうという話。最近、自分が考えていることに非常に近かったです。
尾:あそこで言いたかったことは、もともとテクノロジーが先にあるのではなく、ITやインターネットが持っている性質がテクノロジーによって引き出されるだけなんだということなんですよね。
じゃあ、テクノロジーによって引き出されるものは何だろうと考えると、実はITビジネスの激しい競争の中で先回りできるし、より楽しいサービスを作ることができるから。本の中ではGoogleグラスのコンセプトビデオの話を例にしてるけど、GoogleやAppleはコンセプトビデオをちゃんと作っているのに、日本ではきちんと解説されていないんだよね。
古:うんうん。コンセプトビデオってめちゃくちゃ大事で、確かに「こういう未来を考えてるんだよ」っていうところの説明が日本のITビジネスには足りていないかもですね。
尾:そうなんです。最近だとTwitterの創業者ビズ・ストーンが作った「Jelly」っていうQ&Aアプリのコンセプトが分かるビデオ。あれはいつもけんすうが言っていることにそっくりだよね。
古:あはは(笑)。そうですね、実は1月中に作ろうかという話をしていたんですけど、先にやられちゃいましたね。まさに今、おっしゃった「Jelly」に近いプロダクトをうち(nanapi)でも作っていて、「アンサー」というiPhoneアプリなんですけど、やりたいのが「検索の次」なんです。
尾:おお!
古:検索は自分の中にある問題を顕在化させて、そこから2つ3つの言葉・単語に分解して、そのあとに検索結果から必要なものを探しますよね。これって結構プロセスが複雑だと思うんですね。それを省略できないかなと思ったんですよ。
で、アンサーで何をやっているかというと、今はスマートフォンの単なるQ&Aサービスで、リアルタイムに人が答えを返してくれるというものです。でも、その質問や答えのデータを貯めいくと、だんだん会話の始まりぐらいから「この人はこういうことで悩んでいそうだ」とか、先回りしてわかってくると思うので、それに対してbotが回答するとか。そんなことができるかなと。
尾:なるほどね。
古:他にもずっとやりたいなと思っていたことがあって、脳波とか、ガジェットを握っただけで発汗しているかどうかがわかって、「あ、何かに悩んでいるな」ってところから会話を始めてしまうとか。顔認識もですね。顔の写真を撮ると、だいたい何で悩んでいるかがわかってしまうとか。
尾:あーはいはい。この前もメディア・アーティストの落合陽一さんと「マイクロ表情」という話をしてたんだけど。マイクロ表情が何かというと、人間の顔って表情を作る前に自然の反応で、一瞬だけ素の表情というものが出てしまうらしくて。
それが人間だと認識できないけど、コンピューターだと認識できると。例えばさ、けんすうはいつもすっごく愛想よく笑ってるけど、実は裏側にある表情って一瞬だけ出ちゃうものらしいんだよね。そういうことを含めて、ITがリアルを拡張するというか、凌駕していくということがすごくたくさんあるんだろうなと思うよ。
古:面白いですね、それ。
尾:さっきの話に戻るけど、思うのがけんすうのやっているQ&Aアプリの「アンサー」って、確かにビズ・ストーンの「Jelly」に似ているんだけど、ちょっと違うんだよね。新しい検索の形という意味では共通点があるんだけど、やっぱり日本的なハイコンテクストというか、すごい日本っぽくて、アジアっぽい感じがする。
本にも書いたんだけど、これだけスマートフォンが普及して人がインターネットに触るのが当たり前になってきた中で、ただ答えを求めるより答えをいっしょに探すプロセスが救いになるとか楽しいとか、そういったところまで踏み込んでいるという意味では、僕はけんすうの方が先を行っているんじゃないかと思うんだよね。
古:多分根底にあるのが日本的というか、「2ちゃんねる」とかに近いと思うんですよね。2ちゃんねるって実はすごい都市みたいなコミュニティを意識して作られてるんですね。2ちゃんねるのひろゆきさんが住んでいたところって、退役した兵隊の方がいっぱい住みついた場所だったらしいんです。
昔はすごい活気があったけれど、だんだん老人の街になっていくという様をひろゆきさんは見ていて。その姿を見た時に、古参が居心地いいとコミュニティは衰退していってしまうという考え方を持ったらしいです。一つのスレッドに投稿できる書き込み数が1000件に制限されているということも、(もともとはサーバの制限があったものの)それがベースの考えとなって作られていると(僕は思っています)。
尾:へー、初めて知った。面白い!
古:なので、2ちゃんねる独特の用語があったりユーザー同士しかわからない会話とかがたくさんあるハイコンテクストなサービスなのに、造りとしては文脈がなくても大丈夫なように設計されているんですよね。そういうところが非常に優れていて面白いんです。
尾:なるほどー。
古:コンテクスト(文脈)は強いのに、情報としてはどこから読んでもわかるようなものに実はなっているので、もう15年近く続いていると。
尾:そうだよね。当時のディスク容量の問題もあるけど、言われてみると確かに掲示板が1,000件までしかいかないとか、上げ下げの構造とかは自然と新陳代謝を促すんだよね。そういったところを含めて、コミュニティが縮小均衡になっていかないような仕組みを、ある程度自覚的に入れてたって話なんだ。
古:そうですね。ひろゆきさんは情報を蓄積する場として2ちゃんねるを作ったという風に発言されていますけど、その場合、10年後、20年後に見た時に、コンテクストがない方が情報価値が高いというところを意識してるみたいですね。
尾:うわーこぇーなー、やっぱあの人は。
古:すごいですよね。
尾:でも、nanapiの「アンサー」もそうだよね。わざとコンテクストを切り離してますよね。
古:はい、投稿も1時間ぐらいで消えちゃいますし。できれば匿名にしたいぐらいです。少なくても一切文脈がなくても分かるぐらいにはしたいと思ってます。
尾:コンテクストって2種類あると思うんですね。一つは自分のつながりとか歴史を含めてずっと長くやってくコンテクスト。もう一つは、一期一会でその瞬間を「パッ」と共有するからこそ濃くなるコンテクストです。後者はすごい色々な広がりがあると思うんですよね。Snapchatもそうだし。
古:そのへんは最近、「コンテクストの共有」と「情報」の二つがあると思いました。「React」というアプリが結構面白いんです。LINEのようなチャットなのですが、毎回投稿をする度にフロントカメラで自分の顔を映さないといけないんですね。なので「いいね!」と言ってても顔が……。
尾:「いいね!」になってないと(笑)。
古:はい(笑)。これって確かにコンテクストを共有しているのですが、だからといって前提の情報にはなっていません。つまり、情報量が多いもの(写真)でコンテクストを一気に共有しています。なので、同じハイコンテクストでも“一瞬に共有する”というのが、これからのキーワードかなと思います。
尾:結局その「いいね!」という記号の裏側にある色んなものを、そのたった1枚の写真によって凝縮して伝えちゃう訳だよね。
古:まさにそうですね。
尾:その一方でもう一つあると思うのが、人間ってフィジカルに動作をするとフィードバックもついてくる。例えば、自分が嘘で笑ったとしても、にこやかになっちゃうんですよね。だから、さっきのアプリみたいに、友だちに写真を送らないといけないから「すごい感動した」みたいな顔をしたとすると、実際はそんなに感動してなくても感動できちゃうみたいな、そんなコミットメントも増えるよね。そういうものが新しいエンゲージメントの装置になったら、すごく面白いね。
古:それ面白いですねー。無理矢理にでも笑うと幸せになるみたいな。
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