2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中村:最近の仕事事例を見てください。
これは、SANKYOさんで「涼宮ハルヒの憂鬱」のパチンコを出したときのものです。目標は、パチンコファンは黙っていても来るので、パチンコファン以外のアニメファンにパチンコ台が出たということをニュース化して盛り上げてほしいと。
今回、パチンコの大当たりムービーとして、ファンには堪らない「書き下ろしムービー」があったんですね。それをPR用として安易には出さずに、その映像のコマを全部分割して……707枚に分割したんですけど、日本中のありとあらゆるところに隠しました。
隠したり、いくつかは見せたりして。すごくミクロなものからマクロなものまで、グーグルのバナーとかコスプレカフェとか。スマホで撮ると、四隅(のマーカー)を勝手に解釈して台形補正して、ユーザーが撮ったものだけでコマ撮り映像みたいなのが作れる。
ユーザーが撮れば撮るほどその部分が解放されるみたいな、いわゆるARG(Alternate Reality Game)みたいなものですね。そういうものを作りました。
中村:企画が通ったあと、まず僕らが仕事をするときは「広告のウォーターフォール型の超典型」というのがあります。TVCMです。
TVCMはかなりやり方がガッチリ決まっていて、基本後戻りはしないです。まず、広告代理店のCMプランナーが企画コンテを出します。それが通ったあと、そこで初めて監督を呼んで、演出コンテを出し直します。企画コンテと演出コンテというのは、パッと見、似ていますが、全く違います。
企画コンテというのは「おもしろさの意味」だけがわかってもらえばいい。演出コンテは一方「設計図」なんですね。その設計図を基にして、撮影に必要なありとあらゆるものが全部入っている。さらに撮影の直前にPPM(Pre Production Meeting)ということを日本の文化ではやります。
これによって、クライアントさんに「この内容でいいですね? もう後戻りできませんよ」ということをやります。そのあと、いよいよ撮影に進みます。
そのあとは仮編集、ざっくりいうとファイナルカットです。そのあとはMAという音調整、本編集で色調整やCGを付けるというのがあって、映像制作ツールはInferno、いわゆるAfter Effectsの親玉版みたいなものですね。
こういう各フローは、基本逆行しないようになってるんです。だからウォーターフォール型。
僕は大体同じルーティーンだなと思って、これをWebとかキャンペーンでも中心に考えてやります。だけど、必要に応じて前の段階に巻き戻ることを許すということです。
中村:この「涼宮ハルヒの憂鬱」案件は、いろいろな事情で、企画を提出したあと、最終決裁まで時間があり、逆に企画決定後は時間がなかったので、つまり、演出を決める時間が異様に長くありました。この間に、技術仕様を全部作成しました。
たとえば、どうスマホで撮ったら四隅を検知して平行四辺形、四角形に直せるかとか。
また、世の中の映像は大体1秒が30コマなんですね。いろんなコマ撮りを確認しながら、8fpsが1番気持ちいいコマ撮りなのではないかということがわかってきた。
8フレームで分割して全部のムービーを見たら、大体700コマくらいだった。けどどうせなら、パチンコっぽく、707枚にしようか。ということで、7フレ増やした。
また、いわゆるミュージックビデオのフレームのような考え方で707メディアを、場所も含めて選定していきました。
あと、そもそものサイト。さっきの日本地図上にピピピピピってプロットされるようなものを作ったんですけど、ああいうのってなかなか「こういうふうにしたら気持ちいい感じで、シュッとしてビッとしてピピピピピ……」みたいな、ディレクション不可能ですよ。
なので、絶対に優秀な人に時間を渡さなきゃいけない。時間を共有しなきゃいけない。それをずっとやらせながら、現場の都合によって演出にまた戻る、また戻る……ってやる。後戻りしまくる。そして最終的なサイトモックまでいって、完成になるんですね。
こういう短期間の試行錯誤の集積が、(TVCMのような)ウォーターフォールとの違いなんだけど、これをしないとどうやら良いものができていかない。また、エモーショナルな部分は口頭で言えないなというのが今の僕の考えです。
中村:どういうことをやれば恒常的に良くなっていくんだろう、仕事のクオリティが担保できるんだろうと思ったときに、ピクサーの仕事のやり方とかすごく気になっています。
ジョン・ラセターがディズニーに行った途端、ディズニーに構造改革が起こって作るものがめっちゃ良くなったじゃないですか。
たぶん皆さんご存知だと思うんですけど、あれってこのブレイントラスト会議というのを導入したからなんですね。プロフェッショナルが集って。
みんな元々スキルはあるんですよ。それが率直に意見を言い合う場。日本のアニメーションとかスタジオの映像制作はウォーターフォール型だと思うんですけど、それをもう少しアジャイル型にした。
途中まで進んでるのに「やっぱりこれだったらシナリオから変えたほうがいいんじゃね?」みたいなことを言っちゃう。言ったら「うーん」ってシナリオアーティストが聞いて「変えてきたよ」って言って変えちゃうんですね。
たぶん、これを合議制でやったことがジブリと違うところかなって。ラセターは宮﨑駿を作ってるという。「トイ・ストーリー」以降、必ず4番目くらいにしかクレジットされないんだけど、要はラセターらしい。
彼がベースをつくって、宮﨑駿を8人生み出しているようなものです。
中村:というわけでまとめますと、ウォーターフォールとアジャイルのバランス、それはつまり秩序と自由のバランスだと言えるんじゃないかなと。プロジェクトマネージャーはワークフローで、全体的な脳みそで試行錯誤する。みんなで考えると。
一方、デザイナーと開発者には時間を与えて、作業で個人的に試行錯誤させる。この2つをいかに「集約拡散、集約拡散……」と短期間で効率的に回すかということなのかなと思っております。
中村:経営の話に繋げると、そうやってそれまで「自分の限界はここかな」と思ってた人は、自分の目標をチームワークによって超えられると「成長した」って思うんですよね。勝手に。
そうすると、仕事を通して勝手に自動的に社員のモチベーションが上がって「この会社辞めたくないな」と思うんですよ。結果、経営状態が良くなっていく、雰囲気も良くなっていくという。
今ディズニーとか、この前NHKでドキュメンタリーやってましたけど、すごく目がキラキラしてて。というのは、そういうスキームを取り戻したんだと思うんですよね。そういう仕事の仕方をしてますし、したいなと思っています。
(会場拍手)
林:じゃあ、パネラーを一巡してないんでちょっとアレなんですけど(笑)、3人目のパネラーは以前Launch Padでも「planBCD」というので出たことがあるので、記憶に残ってらっしゃる方もいるかもしれません。今はすごく素敵なKaizen Platformという名前になって、まさに名が体を表している会社だと思うんですけども。じゃあ須藤さん、よろしくお願いします。
須藤憲司氏(以下、須藤):どうも、Kaizen Platformの須藤です。前のお2人がいわゆるプロダクトの「0→1」のところをやってるとしたら、我々はその「1」をローンチしたあとの改善をお手伝いしている会社です。
須藤:ここに来てらっしゃる皆様はインターネットビジネスの中心にいらっしゃる方なんで言わずもがなだと思うんですけど、サービスをリリースしたあとのほうが重要な時代になってまして。これを回していくのがすごく重要だよね、というお話かなと思ってます。
須藤:我々が取り組んでるのは、改善プロセスが意外に大変だということに対して、どうサポートできるかというところです。それがLaunch Padでも出させていただいたあのプロダクトで、それでサポートしようということです。
小さい改善をするときに「何が問題なんだっけ?」というところを発見して、実際にマーケターとかデザイナーとかが具体的に解決策を落としこんで、それを実装していくみたいな。リーンスタートアップの「データ・アイデア・コード」のサイクルを回すって話なんですけど、これが意外に大変です。
大変な理由はいっぱいあるんですけど、シンプルな話でいくとそもそもこれを1人でやるのは難しいんで、チームでやっていきます。だけど、現実は改善よりも「新しい機能を作らなきゃいけない」とか、他のいろんなことの優先順位が上がってきて「やったほうがいいけどできない」みたいなことがたくさん起きていて。それをサポートするということを我々は事業としてやっています。
須藤:例えば「データ」で課題を発見することが遅れていれば、こちらから「ここのページがまずいですよね」とレコメンドする機能を作ろうとしていて、いろいろトライアンドエラーをしています。
あと、僕らの特徴はサービスの中にオンラインのデザイナーさんが、900名って書いてますけど、今は1300人くらいいて、彼らが自分たちのサイトの問題点を「こういうふうにしたらいいんじゃないですか?」と提案してくれると。あとは選んでいくだけでテストができるというのがポイントです。
須藤:我々はビジネスとして変わったことをやっていて、いわゆるツールをソフトウェアとして提供するのと、あと単純に「このページを改善したいです」という依頼もあって。最近すごく多いのは「外部に改善だけやっていくチームを作りたい」というニーズで、それを今は請けてます。なので、チームをお貸しするようなことをやってたりします。
須藤:それもちょっと変わった請け方をしてまして「1人ほしい、1人月発注」みたいな話を、実は「10人のチームで10%ずつ稼働する」というふうにやってます。かつ「女性向けのデザイナーさんだけ」とか「eコマースのデザイナーさんだけ集める」とか「スマホの案件ばっかりやってる人を集める」とか、そういうことをやってます。
なんでかというと、改善って毎日ずっと改善し続けるわけじゃなくて「これ問題だよね」とわかったときに起きる仕事なので、10人で請けたほうがそもそも改善案自体を作るのも速いですし、PDCAサイクルも1人で回すより10人で回したほうが絶対に良いんですね。
あとは納期の部分、アイデア・発想の多様性とかもありますし、知見も10人分貯まっていくんですごく良いということで、チームをお貸しするというビジネスを開始しています。
須藤:今は福岡にデザイナーさんがたくさん、400人くらいいまして、そういうアウトソースの仕事を請け負っております。
須藤:そういうことをやりながら、実際800社くらいのお客さんとお付き合いさせていただいているんですけども、テストもそんな感じで6000回くらいやっています。
いわゆるランディングページみたいなところだけじゃなくて、本当にサイトのありとあらゆるところをやっていて、例えば「eコマースの商品のテンプレートのページの、テンプレートって何がいいんだっけ」とか。
スマートフォンだと、例えばiPhone6とiPhone6 Plusが出たときに、いきなり画面サイズがでかくなったんで、指の届く範囲が変わってるんですよね。
そうすると、実はこれまでとちょっとセオリーが変わってくるとか、そういうことを細かく対応していかなきゃいけないんですけど、なかなか社内じゃできないですねということで、いま請け負っていろんなテストをしてます。
須藤:クリエイティブデザインの話ですけど、我々は結構おもしろいなと思っていて。実は、僕らの会社自体がクリエイティブをデザインしてるわけではないんですね。
その解決策をデザインしている会社でして、だから手段が目的化してるというか、目的が手段化してるのかどっちかわかんないですけど。今、サイトとかいろんなサービスのデータをすごくたくさん集めてます。
要は、どこが問題なのか、あるいはどういうところを直していくと良くなるのかというデータが貯まっていく。かたや、先ほどの1300人の人たちがどんなサイトでどんなパフォーマンスを上げてるかというのが全部数値化されていて、例えば「この人って女性向けのサイトにめちゃくちゃ強いよね」とか、才能が数値化されるのはすごくおもしろいなと思ってます。
最近我々が取り組み始めてるのは、データを集めてそのデータからクリエイティブのマッチングみたいなことをもっとできないかということを考えてやってます。
我々の事業のお話をしたんですけど、クリエイティブデザインの話なので……じゃあ、我々の中ではどんなふうに経営しているのかという話でいくと、前のお2人が話したことがめちゃくちゃ勉強になって。なるほどと思いながら(聞いていました)。
「クリエイティブディレクターって、確かにテクノロジーとビジネスがわかってないと。クリエイティブの話だけされても困っちゃうしな」というのはすごくあって、共感してるんですけど。
我々もそのときにやる手法というか僕が意識してることなんですけど「問いを大事にする」というのはすごくやってまして。例えば「Kaizen PlatformってA/Bテストの会社なのか」ということでいくと全然違って「サービスをもっと良くしていってお客さんのビジネスをglowさせる会社なんだ」って定義してるんで。
そのためにたまたま今はA/Bテストみたいなことをやってるんですけど、A/Bテストが必要ない会社だったら違うサービスを提供しなきゃいけないかもしれないし。
何を経営の中心に「問い」として置くのかということをずっと意識していて、当然会社の中ではいろいろもめるんで「これを優先したほうがいいんじゃないか、あれを優先したほうがいいんじゃないか」と意見が出るんですけど、そのときに立ち返るのは「そもそも我々は何をするべきなんだっけ」とか根源的な問いを中心に置くこと。で、いろんなステークホルダーがそこに取り組むみたいにできることを目指して頑張ってます。
できてるかどうかでいくと、僕らも途上で今朝もずっとボード会をやってて、めちゃくちゃもめてるんですけど(笑)。(会場で)笑ってる、参加してる投資家の方もいますけど(笑)。
まあ、問いを中心に考えるということが、クリエイティブデザインを経営に活かすということの最初のステップじゃないかなと思ってやらせていただいております。以上です。
(会場拍手)
林:ありがとうございます。最後に素晴らしい言葉をいただいたんですけど、問いとか問題をどうやって解決していくかというところからまさに生まれた、ビルドした会社なわけですね。
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