2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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孫:川田さんは日本に限らず色んなところに投資をなさっていると思うんですけれど、これから、来年とか「熱いな」って思う領域とかってどういうところなですか?
川田:この前泰蔵さんにですね、ヘルシンキで生のトナカイの肉をご馳走されて、すごい黒くて濃いお酒があって。あとKLab真田さんとかと皆でガバガバ飲んでぶっ倒れてたんですけど。ヘルシンキってすごいですね。北欧は非常にですね、泰蔵さんもSlushのイベントで話されてたんですけど。Slushというイベントがあって。ヨーロッパで最大ですよね。
孫:6000人来ていて。
川田:そこはオープニングでいきなりフィンランドの首相がやってきて、「フィンランドにとっていかにテック系のスタートアップが重要か」というのを完全に自分の言葉で30分くらいプレゼンして。そのあとはロシアの副大統領と、あとロシアのテック系のベンチャーのアントレプレナーが来て。フィンランドの首相自らがモデレーターになって3人でパネルディスカッションすると。これは日本に置き換えるとありえない(笑)。
孫:ありえないですよね。僕、あの首相はお聞きしたんですけど42歳だそうですよ。
川田:若いですね。あれはすごいですね。あのへんのバルト海地域の。あとエストニアの大統領も来てたじゃないですか。
孫:電子政府化が進んでいるんですよね、エストニアって。
川田:エストニアの大統領はもうちょっとシニアなグレーヘアーの方だったんですけれども。その彼も非常に「セキュリティが大事になる」という話を、インターネットのセキリュティについてひたすら語るんですよ、エストニア大統領。これはもう目からウロコでしたね。泰蔵さんはけっこうフィンランドにはよく行かれるんですか?
孫:いや今年の半ばくらいからなんですよ。ですから本当にまだ3回くらいしか行ったことがないんですが。
川田:向こうの政治関係の方、大統領ともお話しされたんですか?
孫:ええ、フィンランドの首相とはSlushの時にちょっとお話ができまして。本当に「どうしたらいいんですかね」と真剣に聞いておられて。色々申し上げたんですけれど、iPadに一生懸命メモっておられましたからね。首相がこうやって一生懸命iPadにメモって、よその国から来た人たちの話を聞くなんていうのは、やっぱりなかなか無いなあと思いましたね。
川田:あのモチベーションはどこから来るんですかね?
孫:フィンランドの人にお伺いしたところでは、「自分たちは国内の市場や産業が大きくないし、Nokiaもマイクロソフトに買収されたりということで、自分たちで新たな価値を生み出していかないと先がないという危機感がすごくある」というふうに仰ってましたけどね。
川田:ですよね、非常に本気な感じで取り組んで。
孫:それでいったら同じ危機感を日本も持つべきですよね。フィンランドだけじゃないですよね。
川田:政権が変わってかなり良いムードになってきてますけど。でもテクノロジーとスタートアップについて首相自らモデレーターで、パネルディスカッションをやるというのは驚きでしたけれど。
孫:僕が思うのは世界中のいくつかの都市がシリコンバレー化というかですね。エコシステムが出来てきてて。アクセル・パートナーズの、ロンドン在住のベンチャーキャピタリトが仰ってたのは、ヨーロッパだとロンドンとかベルリンとかストックホルム、それとヘルシンキ。そのへんがすごく熱いと。スタートアップがいっぱい出てきてると言っていて。
もちろんアメリカに比べるとバリエーション(Valuation=時価総額)もまだ低いし、でも非常にイノベーティブで遜色のないスタートアップが出てきているので。「アメリカに限らず世界を席巻するようなベンチャーが、アメリカ以外からもどんどん出てくるんじゃないかと思っている」と仰っていたんですよね。
川田:泰蔵さんかなり世界を周ってらっしゃるじゃないですか。例えばヨーロッパのムーブメントなんかに日本が絡んでいけるような余地というのはあると思いますか?
孫:全然あると思いますね。ヘルシンキの方々もむしろ「日本は隣人だ、ご近所さんだ」と仰ってたんですよ。「何でですか? 9時間かかるじゃないですか」と言ったら、「いやフィンランドと日本の間にはロシアしかない」と。確かにね、ロシアしかないですね。まぁ、長いけど。まあでも「隣の隣の国だから、僕たちは親近感を持っているんですよ」なんて仰ってましたね。
川田:非常に親日的ですよね。
孫:非常に親日的だと思いました。この間福岡市長がですね、福岡の色んな産業振興の関係の人たちとかベンチャーの人たちを連れてロンドンに行かれて、ロンドンの「Tech City」という政府がやっているベンチャー支援プラットフォームみたいなものがあって、それがロンドンの東側、Cityと呼ばれているちょっと金融街の寂れかけてたところをリニューアルして、スタートアップをいっぱい集めているらしいんですけど。そこと姉妹都市関係を結んだということで。お互いの交換留学的なことをどんどんやろうと仰ってたり。日本に彼らも逆に注目をしている感じがしましたね。
川田:アメリカのベンチャー業界ってある意味出来上がっていて、十分にインナーサークルで回っているという感じで動いていますけど、ヨーロッパとか日本ってまだこれからなんで、逆にすごい外に開いている感じがありますよね。
孫:そう思いますね。意外とシリコンバレーって閉じてますよね。
川田:閉じてますね。
孫:シンジケートっぽい感じがありますよね。
川田:シンジケートっぽい感じですね。でもああなっちゃうんですかね、やっぱり。色んな会社と会いたいものの、全部と会っている時間がなくて、信用ベースで人の紹介紹介で会っていくと必然的に中で回るみたいな感じで。アメリカだと、ニューヨークにこの前行ってきたんですけれど、ニューヨークも非常に閉じた世界で。日本はあんまり意識されていないというか。
孫:でしょうね。でもモバイルの世界だとそれこそDeNA もGREEもそうですし。ガンホーだってパズドラがけっこういいポジションにいたり。SupercellとかRovioとか。もちろんNokiaみたいなプレイヤーもいるし。けっこうアメリカ一局集中という感じでもないですよね。
川田:だからPCからモバイル、スマートフォンに移っていく段階にあたって、アメリカのインナーサークルだけで回っていたバトンの取り合いというものがもうちょっとグローバルサークルで取り合いになって、非常に面白いですね。
孫:僕は最近個人的に感じてるのは、アメリカのベンチャーのファイナンスのシリーズBとかC(ベンチャー企業の資金調達のラウンド(回数)を表す投資用語)のバブルだと思うんですよ。めちゃくちゃ高いなと。うちのスタッフがちょうどまとめてたんですけど、色んな指標で見ると、2000年のドットコムバブルよりも今バリエーションが高いんだそうですよ。
同じぐらいのユーザー数とか同じぐらいの売上規模の時のバリエーションが、ドットコムバブルの時よりも今のほうが高いそうで。あの時とか、あの前後にできたブロードバンドになったYouTubeとか、あのへんが出始めたころと二回山があるんですけれど、あの時に組成されて投資されたファンドのIRRってすごく良くないらしいんですよね。
逆にリーマンショックとか凹んでいるときにやってた投資は意外とリターンが良いと統計で出ていて。それで言うと来年とかアメリカで投資するとリターンが良くないんじゃないかなという気がするっていう。
川田:あそこは何か大人の世界というか。僕の知り合いのエンジェル投資家と話をして出てきた話が、日本は今IPOが盛んなんですけれどアメリカは逆にすごい難しくて。結局IPOマーケットって、要は資本を一般の投資家から集めるというメカニズムを提供しているわけですけれども、それってある意味、大きなVC(ベンチャーキャピタル)からするとマーケットとしては敵なんですよ。
だからVCはあまりIPOしてもらうというよりは、プライベート(未公開企業)でずっとやって、ものすごく大きくしてからバーンとFacebookとかTwitterみたいに行くと。もしくはものすごい高い値段でM&Aでイグジットみたいな。「IPOさせないで内輪で抱えて大きくさせてる」ということを言う人がいましたね。
孫:なるほどね、それはわかる気がしますね。これからますますクラウドファンディングとかね。IPOのニーズが企業側も含めて、あまり……。IPOしなくても資金調達できるし。もっと言えばプロダクトだったらクラウドファンディングでお金集められるから。VCの役割も変わってくるかもなという気がしますね。
いわゆる大きなVCはいらなくて、でもエンジェルはすごく意味があってますます重要になってきて、アーリーステージの。でもアーリーステージの調達さえできれば、ブレイクすればドカーンといっちゃうので。それだけでいいから、そんなシリーズのCとかDとかもういらないよみたいな。
川田:とくにWeb系とかアプリとかそんな感じですよね。ただ一方で、さっきも言ったんですけど電池とかはね、僕ハードウェアをちょっとやっているんでね。あっちはやっぱりまだまだお金かかりますよね。VCの業界がもともとは半導体とか、アップルもそうですけどいわゆるハードウェアをやっているようなところを育てるような感じで作られたのが、非常に世代変わりして。
昔は、それこそドットコムバブルのころは、「スターファイアー1億円」みたいな。バンバンと買わないといけないという世界だったじゃないですか。今ほんと安いワンボードで済む時代。もしくはクラウドで、そもそも設備いらないみたいになってくると、役割が変わってきていて。そこが今端境期にあるような感じがしますね。
孫:僕はついこの間出ていたAmazonのオクトコプター(参考:米アマゾン、無人機での商品配達サービス計画を発表)というんですかね。ヘリコプターみたいなやつで。あれすごい面白いなあと。もちろん、「あれで本当に実用性があるのか」とか、「規制が」とかっていうのはあると思うんですけど。あれって渋滞関係なく飛び交ってバンバンバンバン物を届けられるようになったらすごいことになるなぁと思って。トラックが減るっていう。
川田:すごいですよね、めちゃくちゃ本質的ですよね。
孫:だからやっぱり、ああいうイノベーションを起こしたり、そういうところに投資したいなと改めて思いました。
川田:ハードウェアはWebとかアプリで追求できる原価を超えたところまで可能じゃないですか。僕はもともと機械工学やってたので嫌いじゃないです、ああいうのは。すごく面白いなと思いますね。
孫:僕はむしろスマートフォンの中でどうするのかばっかり考えてたんですけど。あまりイノベーションがあの中だともうないんですよね。なのでそれを飛び出して、外部装置がついたハードウェアとセットになったやつとかは僕今すごい興味があります。
川田:最近のビジネスで言っても、リアルのビジネスとWebが紐づいたようなUber とかもそうですけど。普段だったら電話でやってきたことをスマホでもっと双方向で色んなデータが入ってきて……。
要はインターフェイス。ある種のスイッチ、リモコンとしてスマホがあるんだけれども、実際に受けるサービスはリアルだったりするような。まさにおざーん(「ごちクル」を運営するスターフェスティバルの投資家兼取締役・小澤隆生氏)の弁当屋とか。
孫:あ、おざーんの弁当が、Amazonのヘリコプターで花見しているところにウィーンって届けてくれたら感動(笑)。最高ですよね!
川田:しかもあの手のやつって一回使うと元に戻れないですもんね、体が。
孫:そうですね。今ふと思ったけど、それ最高だなあ。おざーん自転車じゃなくてヘリコプターで運んでこいよ、みたいな。
川田:ヘリコプター(笑)。非常に楽しいですよねえ。
孫:楽しいですね、そう考えるとまだまだイノベーションありそうですよね。
川田:まだまだこれからだと思いますよ。リアルってなかなか出てこないじゃないですか。面倒くさいし色々と。
孫:コンピューターもあんまりいないですよね。
川田:いないですよね。既存業界の人はあんまりITリテラシーないから。そこの擦り合せがなかなか面倒くさくて、それがすごい見えるから、企業家側からすると後回しにしたいんだけど、あえてそこに突っ込んでいった人たちが1~2年は楽しそうですけど。強いですよね。そこはまだ全然余地があるというか手付かずの場所がいっぱいあると思うので、そこは非常に楽しみですよね。
孫:問題はそういう分野はたくさんあるにも関わらず、日本にはその担い手となる企業家があんまりまだいないという。
川田:そうですね。まだアプリとかスマートフォンの領域、それからWebの中とかでもまだ全然余地があるから、手のかかるそっちになかなか行かないという。
孫:どうやったらいいんでしょうね。そういうところに起業家が挑戦するようになるためには?
川田:成功例が出てくるのと、人が増えてWebとかアプリの余地がだんだんと少なくなってくると、必然的に外になってくるのかなと。
孫:大企業中のそういう人がスピンアウトして、元いた会社のコンペティターになるというような可能性はあると思います?
川田:それはあるかもしれないですけど……。僕の経験ですと、一大決心して辞めて出てくる人って30代の終わりぐらいとか40代とかで出てくる人が多いんですけど、そういう人ってプログラミングが分からないというか、つまりエンジニアとの接点がないんですよね。特に上の世代は、プログラマーを下に見る的な悪い癖があって。
「そんなもんは外注に出せばいい」的な。あるじゃないですか。僕すごいよくわかるんですけど、昔ってプログラミングといえば「肉仕事」と呼ばれていて、「正社員はするな、そんなもんは下請けに出せ、ラインの仕事と一緒だ」と。すごくプログラマーって社会的地位がなぜか日本では低くて。だからそのカルチャーで育っちゃった40代の人たちって未だに分かっていないんですよ。完全に時代はエンジニアだって。
そこのブリッジがうまく出来ていないとダメですね。だから僕は40代の人が起業したいと言ってくると、「まずプログラマーを見つけて社長にしろ。あなたは副社長でいい」と、「彼を盛り立てていくような、そういうスキームを組んでからもう一回来てくれ」と突き返す。そこがなかなか難しいんですよね。そこの歯車がうまく噛み合うともっといいですよね。
孫:そうですね。それかあと5年、10年くらい経って、今20代30代で「今の感覚」持っていてプログラミングの素養のある大企業に勤めている子たちが、スピンアウトするのを待つ……ですかね。
川田:あとはビジネス系でバリバリやってる30代前半くらいの、もう飛び込み営業でも何でもOKみたいな人と、世代が若いからプログラマーと一緒に組んで、みたいなそういうチームが強いですよね。
藤田:ありがとうございます。お任せしてたらあっという間に来てしまいまして。もう最後の一言ということで。お話の途中にもあったかと思うんですが、やはりスマートフォンとかタブレットとか画面の中だけじゃなくて外の世界の課題を何か解決するというモノの見方のチェンジというか、そういうのも大事なんだなぁというのを感じました。
もしそれ以外にこの番組を見ている方や、この映像を将来見ることになるであろう方、主には営業とか企画とか現場の方が、経営者というより現場の方が多いようなんですけれども。メッセージを何かひとこと頂ければと思います。
孫:そうですね、普段からずっと言っているんですけど、とにかく会社辞めなくてもいいから、週末起業でもいいから、手を動かして仲間と一緒に集まって何か作ってみようとか、やってみようというのをぜひトライしてもらいたいと思うんです。
アントレプレナーシップってよく起業家精神って訳されますけど、アントレプレナーシップって本来は独立して会社を作ることではなくて、「何か新しい価値を生み出そう」というクリエイティブな行為、それで「社会に大きなインパクトを与えるようなものを」とか、そういう行為のことを言うんであって。
そういう意味ではフィンランドの首相だって非常にアントレプレナーシップを持った首相でいらっしゃったと思いますし。たとえ行政にいようが民間にいようがNPOにいようが、起業家精神を発揮して何か新しい価値を生み出すというのはすごく大事なことですし、まさに今の日本に求められていると思うんですね。
ぜひこれをご覧の皆さんも何か友達と一緒に。自分一人でというより友達と何かやるほうが、苦しい時は分散されますし、嬉しい時は何倍にも増幅されるんで。気の合う仲間とバンドを組むようなノリで何か新しい価値を生み出す取り組みをやっていただけたらなと思います。
川田:いいですね、何か感動しました(笑)。私もですね、その昔はエンジニアとか研究者を養成するような教育を長らく受けていたわけですが、そういうモノづくりとか、新しい知の最先端で活躍しているような人たちが、自らの価値を発揮する場って昔は大企業とか大学の研究機関とか、とにかく巨大な組織でしかなかったんですけども。
世の中どんどん変わってきていて、資本の仕組みが変わってきたので、ぜひそういった自分の培ったスキルとか能力で何か新しいものを作っていくという場として、ベンチャーというのを前向きに考えていただけたらと思っています。
昔はそれしかなかったんですよ、確かに。何やるにもすごいお金がかかったし。あと将来の身の振り方を考えると、終身雇用で基本的に転職難しいという中だと、やっぱり大きいところ入るというのが当たり前で。実際入ってみればどんな研究成果を出しても昔なんか手ぬぐい一本で終わりみたいな。会社に何千億円の利益をもたらしても手ぬぐい一本で「おめでとうございます、社長賞」みたいな。
そんな感じだったんですけど、そうじゃない新しい資本主義のゲーム、ルールというのがシリコンバレー発で出てきていて。それが普遍的なものとして世界中に拡散していて。さっきの話なんかでも、アメリカ以外でもヨーロッパや日本でもどんどん出てきているので。
ぜひ選択肢として、まさに「バンドやろうよ」というような感じで、何か始めてみる。ベンチャーというものが一つのvehicleとして、自分の価値観を、新しいものを生み出すための「乗り物」として使えるんだということを選択肢の一つとして考えていただければと思います。
藤田:ありがとうございました。
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