2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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岡島悦子氏(以下、岡島):川鍋さん、ありがとうございます。
川鍋一朗氏(以下、川鍋):こんにちは。
岡島:「日本交通の今」のインタビューということで、対談をさせていただこうと思います。IVSは初めてですよね?(笑)
川鍋:(創業)86年目のベンチャーでございますので(笑)。よろしくお願いします。
岡島:よろしくお願いします。早速なんですが、(インタビュー時間が)30分ということなので「日本交通の今」を伺っていこうと思います。Uber等々、世界的にもタクシー業界はいろいろ騒がしく、そして日本交通さんはすごい伸びで。私も毎日使わせていただいているんですけども。
川鍋:ありがとうございます!
岡島:ありがとうございます(笑)。ライフラインになっているので。今、まわりで起きていることを、川鍋さん的にはどういうふうに整理してらっしゃるかというところから伺わせていただいていいですか。
川鍋:ひとつには、ちょっと嬉しいんですね。タクシーがこんなにも注目を集めたっていうのは、私もタクシーを14年やってますけど初めてで、しかもアプリで呼ぶということによってお客様にすごく驚きを与えている。のみならず、世界各国で実際にリアルなお金がファンドレイズされて、たくさんのベンチャーが出ている。「タクシー業界ホットじゃん!」みたいな喜びって、ものすごくあるんですよ。
海外で、こっちは何百億円、こっちは何千億円っていうバリエーションがある中でふと足元を見ると、自分のところは全国タクシー配車アプリがおかげさまで日本で一番使われていて。全国の10%くらいのタクシーが繋がっているんですけど……。
岡島:すごいですね。
川鍋:「なんか俺、やり方間違えちゃったかな」って。
岡島:え? 何でですか?
川鍋:あんまりマネタイズできないんですよね。他はどうやってるのかな。まあ研究すると理由はあるんですけど、私の目線が「タクシー業界、タクシー産業の内側から良くしよう」というところから始まってるんですね。「アプリで儲かろう」って目線じゃないんですよ。ですから、アプリのみでマネタイズするってことじゃなくて……。
岡島:タクシーのオペレーションの生産性を上げるとか。
川鍋:そうなんですよ。そうすると既存のオペレーションに組み込んで、なおかつアプリ以外の、例えば無線の配車や他の配車の仕組みと組み合わせていくとか。既存のベースの上に立ってるものですね。
そうすると、(Uberのように)アプリだけで終われて、クレジットカードだけで決済するっていう美しいところだけでフォーカスされちゃうと、ちょっと「向こうのほうがかっこいい」とか、たまに自分でも思うことがあるんですよ(笑)。
岡島:でも、その新興企業の人たちはバリエーションがすごくついて、マネタイズは……。
川鍋:もしかしたらそんなにできてないのかもしれないですけど、そこを今後は我々としてどう取り入れていくかがすごく課題ですね。我々はとにかく圧倒的な台数……もちろん中にいる人ですので、「今こういうのが外から来るから、結束しようぜ」って言って。
岡島:仮想敵。
川鍋:「仮想敵が……」って言いますよ。「これをやらないと、俺たちの産業自体が骨抜きにされちゃうよ」って。だから黒船来襲ですよね。結束して戦おうぜっていうので、今ネットワーク張ってます。
岡島:そういう意味では、社員の方々もすごく危機感が醸成しやすいっていう。
川鍋:それは高いです。ただ、本当に全国津々浦々の……今47都道府県全部やってますけども、やっぱり地方の経営者の方とかはよくわからない面もありますよね。「何か川鍋にだまされたんじゃないの?」みたいな(笑)。
岡島:(笑)。
川鍋:そういう部分もあって。サンフランシスコとかに行く度に「やべえ! こんな新しいサービスができてる!(ガクガク)」って言って。帰ってきて「やるぞ!」っていうときに「そんなことまでしなくていいんじゃないの?」みたいな、そういうギャップ。
岡島:やっぱり、内にも外にも敵がいるというか。
川鍋:どうしても、外の最先端のシリコンバレー的な勢いと、内に戻ったときの我が国のゆったりした情勢との間ですよね。
岡島:しかも、外はわかるんだけど、中も日本交通さんという会社そのものもあるし、タクシー業界の会長っていう。
川鍋:今は、特に東京のタクシー業界(一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会)の会長で、全国(全国ハイヤー・タクシー協会)でも副会長をやってますので。Uberが来て日本交通だけ立ち向かって、他が全部倒れてもしょうがないという状況……。
岡島:それはダメなんですか?
川鍋:それはダメなんですよ。以前、尊敬する弁護士の清水直先生に言われたことなんですが、「やっぱりいくつものレベルがあって、初めて産業は成り立つんだよ」と。みんないきなり高級ブランドの宿に泊まれなくても、いつか泊まりたいと思って経験を重ねていく。やっぱり裾野がないとダメなんだと。
岡島:でも極端な話、近い未来にUberと日本交通だけが生き残るみたいな絵図はないの? これはオフレコなのかもしれないですけど(笑)。
川鍋:たぶんないでしょうね。少なくとも、もしかしたらマーケティング的に、フランチャイズ的に集う日本交通および……。
岡島:グループみたいに。
川鍋:(日本交通)グループみたいな、そういう戦いはおおいにあると思いますけども。
岡島:なんでそんなことを伺ってるかというと、47都道府県でかなりIT、テクノロジーとのところの温度差がおありだろうなと思っていて。正直、そのテクノロジーに乗らなきゃいけない気持ちは皆さんどこかにあるけど、でも未知のものってところでの……何だろう、説得していくことの工数がものすごくかかるなと思っていて。
川鍋:そうですね。例えば年2回、全国120社のパートナー会社が東京に集まっていただいて勉強会をやってるんですよ。そこではアプリのこともやりますけど、アプリ以外で例えば「東京で四大卒の新卒の人を運転手にするのが流行ってますよ」とか、実際にそのノウハウを提供したり。
要するに日本交通の、タクシー産業において必死にやってるノウハウを(教えて)一緒にやりましょうっていう。こういうところで信用してもらうしかないですよね。「あの人が言ってるから、Uberとかが自分のところに来たらまずいんだろう、だから一緒になって戦おう」っていう。
岡島:やっぱり業界として上がっていくっていう。
川鍋:どうしても私は業界として(上がっていくことに)こだわってる。特に日本は法人タクシーが中心の産業として成り立ってますよね。そこがやる気をなくして「どうでもいい」となってしまうと、全体として上がっていかないですよね。そこは私、結構こだわってるんですけどね。
岡島:一方で、将来仮説としては少子高齢化みたいなことで交通弱者の人もどんどん増えていくだろうし、そういう意味では……。
川鍋:まさにUberとかもそうですけど、純粋にアプリ配車にするとオペレーション的にスリム化されていくんですね。それで余った利益を、例えば「陣痛タクシー」ってやってるんですよ。
岡島:奥様が陣痛があるから作ったわけではないんですか(笑)。
川鍋:ちょうどタイミングが合っちゃったんですけどね(笑)。例えばそういう運転手を教育して、システムを導入するためのコストに使うとか。要するにUberという仮想敵を見ながらIT化を進めて、コスト削減というかオペレーションをスリムにして。その分で未来へ向けた投資、おもに人材への投資ですね。
運転手の教育、例えば観光タクシーをやろうと思ったら運転手に資格を取らせて。そして車両ももちろんで、パノラミックルーフっていう上が見える車両を導入して。
岡島:そういうのがあるんですね。
川鍋:これは東京ですごく人気なんですよ。スカイツリーがドーン、みたいな。車を降りなくてもね。そういうタクシー産業の中での成長の絵というか図式をみんなで共有していって、産業全体として生き残っていく。もちろんそうやってる仲間の中で、どうしても「跡取りがいないから株を引き受けてくれ」とか、そういう形はあると思うんですよ。
岡島:事業承継的なものですよね。
川鍋:でもそのオーナーの方にやる気がある限り、僕はやっぱり一緒に盛り立てていきたいんですよね。なぜかっていうと、タクシーという産業になかなかレベルの高い経営陣が入ってこないんですね。
岡島:やっぱり家業の方が多いんですか。
川鍋:家業の方が多いですし、逆に言うと家業だから優秀な経営者も入ってくる可能性があるんですよ。そこで入ってくる、何代目かの目が輝いてる人たちと一緒に組んだ。
岡島:フォロワーを作っていくというか。
川鍋:そうですね。
岡島:きっとIVSに来ている人たちからすると、今のお話でいうと「Uberが来た、新興勢力が来た、日本交通だけが生き残るんじゃないかな」みたいなことを思っている人もいるでしょうし、「ここから激しい戦いになるんだろうな」と思っている人たちも多いと思うんですけど。だから、今の話は面白いですね。日本交通さんだけが生き残ってしまってもダメなんですね、きっと。
川鍋:やっぱり市場ってそれなりに大きいんで、決してそれだけにはならないと思います。もちろん独占禁止法もありますしね。
岡島:一方で、タクシーという産業だけじゃないと思うんですけど、ホテルにしてもAirbnbみたいなのが出てきたりとか、やっぱりネットあるいはテクノロジーを使ってという、「レガシー VS テクノロジー」みたいなゲームがいくつか出てきているという現状だと思うんですよね。
そういう中で、ことタクシーについては新しい戦力と戦ったときに、国ごとに戦い方は違うのかもしれないですけど、やっぱり「オペレーションがあるから」みたいなことで現有勢力が強いとか、「そうは言ってもテクノロジーがある人たちは固定観念に縛られないから」みたいなことでいうと、競争ということで考えたときはどういうことを考えてらっしゃるんでしょうか。
川鍋:まず、第1ラウンドは新興勢力が圧勝な感じですよね。
岡島:それは日本? 海外?
川鍋:まあ海外、特にアメリカ・イギリス。でもこれは地域における元々のタクシー業界が小さい、弱い。もしくは個人。
岡島:さっきおっしゃっていた個人の方が多い。
川鍋:元々束ねる勢力が弱かったというのは背景としてあって。そもそも、呼んでもタクシーが来ないところに、移動というサービス自体をも提供した。シリコンバレーだったら、基本は自分の車で動き、これまでだったらタクシーなんて考えつかない。それなのにそこに移動サービス自体が生まれて、ものすごく大きなインパクトがあったと思うんですよね。
今はヨーロッパ、それから日本もそうですけどアジアの主要都市で、ものすごく反Uberの状況が続いてますよね。
岡島:第2ラウンドが始まってきた感じ?
川鍋:第2ラウンドは既存の勢力が殴り返す準備、ないしは殴り返しはじめたところだと思いますね。というのは、やっぱり圧倒的にアメリカとかロンドンに比べて法人が中心のところが多いですし、もっと人口密度が高くてすでにある程度のサービスレベルがあるんですよね。
そうなると、どっちかというとすでにタクシーはあるんだけど「あら、スマホで(呼んで)素敵に来た!」というところになるんですよ。しかも「アプリで払える」というところになるんです。この2つさえ追いつけば、あとは中身。運転手を磨き続ければ、これは勝てるんじゃないかと僕は思ってるんです。
岡島:何なんですかね? タクシーにこんなに毎日乗ってる私はストレスもなく……(笑)。
川鍋:超スーパー大ユーザーなので……(笑)。
岡島:ストレスなく呼んでストレスなく送り届けてくれて、しかも決済が楽みたいなことは、サービスレベルをどんどん……。
川鍋:大前提として「来る」ということ。まず(車両台数に)ボリュームがあって……「早い・安い・美味い」みたいなもんですね(笑)。早く来て、できれば品性が良いほうがいい。そしてできれば安い方がいい。たぶんこれくらいの順番なんですよね。アプリだろうが電話だろうが、これをきちっと満たすことが大事で。アプリは「早い」ってところを(満たすため)、ちゃんと在庫を見せるとか。
岡島:しかも来るプロセスまで見えるみたいな。
川鍋:そういうところは斬新だったんですね。でもテクノロジーは必死に勉強して追いついてます。「Uber、これ滑らかだな~。何とかなんない?」って言いながら(笑)。
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