【3行要約】・「10年続けた創業者の座」を捨てることは、敗北ではありません。むしろ、愛する会社と家族のどちらも「中途半端にしない」ための、攻めの決断でした。
・ラブグラフ元CCOのあんみつ氏は、第一子の出産を経て「仕事のインシデントで夫の誕生日を祝えない」矛盾に直面。大切とは「大きく切る」ことだと定義し、あえて退任して新会社MILYを立ち上げた真意を語ります。
・「二兎を追う」マッチョな起業家像に限界を感じた時、私たちはどう生きるべきか。孤立しがちな現代の育児を「拡張家族」で救う新プロジェクトの展望から、自分らしいキャリアと幸福のバランスを再考しましょう。
前回の記事はこちら 10年続けた会社を離れた2つの理由
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):そして、2025年の12月末には、退任のnoteを出されたタイミングだったかなと思うんですけれども。
村田あつみ氏(以下、あんみつ):そうですね。
稲荷田:きっと、いろんな変化があったからそういう意思決定をされたんじゃないかなと思うんですけど、あんみつさんはどう変わっていったんですか?
あんみつ:確かになぁ。(理由は)2つあります。1つ目は、ある種のコンフォートゾーンじゃないですけど、「10年(同じ会社で)やっていて、創業者で」というところです。それで、やはり自分のバリューが出づらくなっていたり、貢献できていることが少なくなっていたりするのかなとも思うようになった。これが1つ目です。
稲荷田:へぇ。ちなみにそれはいつぐらいから思っていたんですか?
あんみつ:初めから「自分なんかが」とは思っていたんです。それでもやり抜くことに価値があるとも思っていたので続けてはいたんですけど、ラブグラフだけにコミットしているからこそ、視野は狭いのかなと思っていたりしました。
自分はCCO(Chief Creative Officer)でクリエイティブの領域を中心に見ていました。今だと、グループインした後の30億円以下ぐらいの規模の会社を成長させていくのって、より非連続な成長が必要なんです。例えば買収やロールアップといったファイナンスのこともしていかないといけません。
その中で、もちろん自分はそこの経験がなく、理解も浅かったです。(なので、)「今のままだと、ラブグラフをもっと成長させられるかな?」という葛藤もどんどん感じるようにはなっていて、もう率直に「ちょっと外で一度修行してもいいのかな」と思っていました。
家族を持ったことで仕事の優先順位が変わった
あんみつ:もう1つは、やはり家族ができたことが一番大きかったです。2024年の夏に第一子を出産したんですけども、フルタイムで働きながら子育てもやるって、きついですよね(笑)。産んでから、「けっこう大変だな」と思っていました。
自分は家族の思い出を残すサービスをやっています。なので、そういう家族の記念日をすごく大切にしたいという考えなんです。けれども、やはり会社のインシデントが起こったり、大変なこともあったりします。なので、ちょっと仕事が忙しくて夫の誕生日も堂々と祝えなかったこともあって、自分の家族の祝い事をまともに祝えていない期間がちょっとあったりしたんです。
そういった葛藤もある中で、もちろん経営者だからいつでも会社のことを絶対大事にしないといけないというポリシーがあるからこそ、そこのバランスがやはり自分の中でうまく取れないようになっていました。
今しかできないのは家族だと考えて退任を決めた
あんみつ:冒頭に話したような、「リクルートとラブグラフ。今しかできないのはどっちなんだろう?」と考えてラブグラフを取った時と同様、「ラブグラフか家族。今しかできないのはどっちだろう?」と考えました。そうしたら、やはり家族だなと思ったんです。
結論として、ラブグラフにもブランド顧問というかたちで非常勤で残らせていただいてはいるんです。けれども、これまでの10年のように常勤でずっとフルコミットというよりかは、ちょっと緩急をつけながら(働くことになりました)。
今、娘はまだ1歳半ぐらいなんです。子どもなんてもうあっという間に大きくなると思うし、親と過ごしてくれるかけがえのない時間って10歳ぐらいまでとかって言われていると思うんです。なので、「その期間を大事にしたいな。優先したいな」と思って、今回の退任になりました。
大切にするとは 何を優先するかを選ぶこと
稲荷田:noteにもまさに書かれていた……。
あんみつ:そうですね、大切っていう漢字は「大きく」「切る」と書きます。それはいつでも頭にあって、「何かを大切にしたいって思うけど、大切にするって突き詰めると、何を大切にするかを選ぶことだよな」と思っています。なので、「ラブグラフと家族という超大事な2つのうち、今はどっちを優先すべきか?」とシビアに考えて結論を出しました。
稲荷田:もしもスタートアップの起業家的なマインドだけで考えるのであれば、「とはいえ二兎を追って二兎を得るんだ」みたいなマッチョな考え方もあったりします。たぶん実際にそうされていて、そういうアドバイスをされる方も場合によってはいたんじゃないかと思ったりするんですけど、そこでの葛藤はあったんですか?
あんみつ:めちゃくちゃありました。初めはそうしたいなと思っていて、1年チャレンジしてみたんです。けれども結論として、自分の場合はもう無理だなって思ったんですよ。でも、(両立)できている方もいるので、それはそれですごいし、自分もそれが理想ではあるんですけど、けっこう物理的な時間の問題なのでほとんどの人は難しい。
時間は増えないし……もちろん工夫して在宅ワークとかを組み合わせたり、役割を整理したりすればいけると思うんですけど、自分の場合はそういう選択をしたという感じです。
退任後に立ち上げたのは 家族を大切にする人のための会社
稲荷田:退任されたのが12月末。
あんみつ:はい。
稲荷田:今、もう1月末に近いぐらいのタイミングで収録をしています。けれども、(すでに)会社の設立も発表されたりしていて、「次はこれをやるんだ」みたいなこともたぶんちらほら考えたり動き出したりしている部分もあると思っています。結果的にすごく忙しくなっているとかは……?
あんみつ:そうですね(笑)。本当におっしゃるとおりで、もう耳が痛い指摘です(笑)。
稲荷田:(笑)。
あんみつ:「辞めたんじゃなかったのかよ」という感じです。なので冒頭に紹介していただいたとおり、株式会社MILYっていう……「family」の「mily」(から取った名前)なんですけど、家族を大切にする人のための会社というコンセプトで会社を立ち上げています。
ワーママ女子のご近所ラジオで両立のリアルを届ける
あんみつ:その1つの取り組みとしては、『ワーママ女子のご近所ラジオ』という、ワーママである起業家友だちであり、SHElikes(を運営するSHE株式会社)の代表の恵里ちゃんと一緒にポッドキャストをやっています。そこで育児と仕事の両立の難しさや、(そのための)Tipsなどを発信しています。
稲荷田:あれは全部拝聴したんですけども。
あんみつ:ありがとうございます。
稲荷田:クオリティや中身(が良い)のはもちろんですけど、やはり(お二人の)関係性がすごく良いと感じました。なので、聴いていてすごく心地いいですし、すごくうらやましいなというか、1つの理想形だなとすごく思いました。
あんみつ:本当ですか。へぇ。「友だち同士が仲良しで」みたいなことですかね。『ご近所ラジオ』は「日本中をご近所に」というコンセプトでやっているんです。
ご近所に頼れる人がいたらという実感から生まれた構想
稲荷田:そのコンセプトはどこから出てきたんですか? めっちゃ素敵だなと思っています。
あんみつ:本当ですか。ありがとうございます。深夜、新生児に授乳している時に突然降ってきました(笑)。
稲荷田:えぇ、すごい(笑)。
あんみつ:というのも、育休を産後2ヶ月取っている間に、お母さんに頼みたいなと思ったんです。けれども自分は大阪出身で両親は大阪にいるので(すぐには私の家に)来られないんです。だから、ご近所に親族がいたらなってめっちゃ思ったんですよ。
もう恵里ちゃんでいいから来てくれないかなって思っていました。でも実際に、恵里ちゃんとは家が近所なんですよ。
稲荷田:へぇ、そうなんですね。
あんみつ:だから本当にやばくなったら恵里ちゃんに赤ちゃんを預けようと思って、それを心の支えにがんばっていたんですよ。今、けっこうそういう家族って現代は多いだろうなと思っているんです。東京に出てくる人や(都会に出て)チャレンジされる方ほど両親や親族は地元にいるみたいな核家族がけっこう多い。
家事育児の知恵を 日本中のご近所さんに届けたい
あんみつ:だからそういった拡張家族のような、本当の家族じゃなくても気持ちは家族になれるような友だちや仲間が近くにいたら、もっと子育ても楽になるんじゃないかという仮説がありました。それと、子育てや出産などのセンシティブな話って、情報がけっこう一部に集まってしまうというか、出回っていないんです。インターネットにもぜんぜんなくて……。
稲荷田:(子どもが成長している)時期によってぜんぜん(情報が)違うこともありますよね。
あんみつ:そうですね。「何歳がどう」とかも違うし、リアルな出産の話とかもぜんぜん出てこない。検索してもなかったんですよ。でも、友だちが「スーパーに行くのとかはどうしている? ネットスーパーは使っていないの?」と教えてくれたんです。「え、使っていない。ネットスーパーを使えばいいとか、(どこにも)書いていなくない?」みたいな(笑)。
今はネットスーパーを使っているんです。けれども、「じゃあそれでスーパーに行く手間が省けるよね」みたいな話をもっと日本全国へご近所さんに話すような感じで届けられたら、みんな少しは育児や家事が楽になるんじゃないかなという思いでやっています。