誰かを幸せにする仕事がしたいと思い直した転機
稲荷田:え? なんでそこから、「じゃあ一緒にやろう」ってなるんですか?
あんみつ:私はそういう感じでスタートアップのデザイナーをしている中で、毎年どんどんクライアントのためにただ仕事をするみたいになっていったんです。「とにかくクライアントが納得するデザインを納品しよう」みたいな感じで、ユーザーに(意識が)向いていなかったんです。
「このサイトを通して誰かを幸せにできているか?」「このサイトはユーザーさんが使いやすいか?」じゃなくて、「お金のために納品しよう」「クライアントのために納品しよう」みたいになっていることがすごく不健全だなと思うようになっていました。
稲荷田:へぇ。自覚したんですね。
あんみつ:はい。「こんなことのためにデザイン(の仕事を)したかったんだっけ?」みたいな。(昔は)誰かを喜ばせたくてやっていたんです。幼少期は絵を描くのが好きだったんです。それこそ「お父さんの誕生日に切り絵でバースデーカードを作って、お父さんにあげたら喜んでくれた」みたいなのが好きだったんです。
それが原体験としてあって、そういうふうにデザインを使っていきたかったのに、今はそうじゃないなと気づいたんです。そうしたら、やはり自分が心から共感できるサービスに自分のこのスキルを使っていきたいと思うようになっていきました。その中で自分が好きなものというと、けっこうカップル(の話題)とかが好きだったんですよ。
稲荷田:へぇ。
あんみつ:普通の女子大生ですよね。当時から恋バナが好きで、タレントさんやモデルさんの結婚ニュースがめっちゃ好きでした。そういうほっこりしたものが好きだし、自分の家族もすごく仲が良かったので、例えば『ゼクシィ』とか、そういう結婚やカップル、家族にまつわるサービスに関わりたいなと領域を定めたんですよ。
Twitterのひと言からラブグラフが動き出した
あんみつ:「(その領域で良さそうなサービスは)何かないかな? このままいったらリクルートに就職かな?」と思っていました。そんな中、Twitterでこまげが、「友だちとカップル撮影をする活動を始めたい。誰か一緒にやりませんか?」みたいなことを言っていたんです。
なので、それに対して「それはめっちゃいいね。サイトにまとめようよ」とリプライしたら、「え、いいんですか?」と。向こうは無料でサイトを作ってくれるお姉さんが現れた感じだったらしいですけど。
稲荷田:神ですね(笑)。
あんみつ:そう(笑)。「なんでかわからないけど無料で作ってくれた」と言っていました。そういう感じでLINEグループができて、ラブグラフが始まったという感じです。
東京のスタートアップに憧れ 何度も挑戦を重ねていた
稲荷田:東京で活躍されている学生の方々からも刺激をけっこうもらって、起業にももともと興味があって?
あんみつ:そうですね。なので、就職もいいかなとは思っていたんです。美学生図鑑の会社もスタートアップだったので、「自分でもやってみたいな」という気持ちと、自分は京都の大学生だったので、東京への憧れがすごくあったんです。
その当時、ペロリという会社が運営していた女性向けメディアの「MERY」で働いている先輩がいたんです。そのMERYがめちゃくちゃ格好良く見えていて、「『ONE PIECE』みたいだな」(と思っていました)。
若いけど才能があり、私と変わらない同世代のメンバーで資金調達して、時にはみんなでケーキを食べたり、イケている写真を撮ったり、自分たちが信じている未来に向かって毎日全力を尽くす。こういった様子をSNSで見ていて、「まさに自分がやりたいことはこれだな」と思っていたので、そういうことをやれる仲間がいたらぜひ一緒にやりたいなとは思っていたんですよ。
でも、そんな簡単には見つからないというか、自分もラブグラフに出会うまでに、実はもう10個ぐらいチャレンジしていたんですよ。
稲荷田:そんなにですか?
あんみつ:はい。
数々の試行錯誤の末に ラブグラフだけが強い反応を得た
稲荷田:(実際に事業として)やったこともあるんですか?
あんみつ:スタートアップというか、その前身となるような事業の種みたいなものをちょっとリリースしてみたりとか。
稲荷田:へぇ。出してもいるんですね。
あんみつ:はい。出してみたりはしたけどぜんぜん伸びないと。ファッションスナップサイトをやっていたりとか、あとは「ロボグラフ」っていう、ロボットを使って自動で写真が撮れるものも作ったりしました。
稲荷田:だいぶ先進的な感じがしますね。
あんみつ:そうそう(笑)。Microsoftの大会にエントリーしたりしていたんですよ。だからそういうハードからソフトまで、けっこういろいろとチャレンジをしてみていたんですけど、やはりユーザーやフォロワーさんから反応があるようなものってすごく少なかったんです。
その中の1つがラブグラフだったんですけど、ラブグラフをリリースしたところ、1晩で3万PVもあったんです。
稲荷田:3万PVですか。
あんみつ:それって当時だったらすごく多かったんですよ。明らかに反響があったので、「ちょっとこのメンバーで、この事業でやっていきたいな」と思いました。
まだ市場がなかった時代に カップル撮影を提案した意味
稲荷田:カップルを撮影するカメラマンはいたかもしれないけど、そうやって旗を掲げてやる人はいなかった、みたいな感じですか?
あんみつ:そうですし、今だとけっこうイメージがつくと思うんですけど、当時はカップルをカメラマンが撮影するっていう絵自体が珍しいというか斬新で、意味がわからないという感じだったんです。プリクラとかならわかるけど、セルフィーもあんまりしない感じだったんですよ。
稲荷田:へぇ。そうかそうか。
あんみつ:TikTokもなかったし、インスタはちょっとはやりかけているぐらいの感じでしたけど全員がやっているわけじゃないので、自分たちの写真を残すというカルチャーがなかったんです。なので、「カップルを撮影するって新しいね」みたいな感じでちょっとバズったんです。
稲荷田:じゃあそこまでは、ある意味市場がなかったというか、誰も気づいていなかったわけじゃないですか。
あんみつ:そうですね。
写真で今ある幸せを見つめ直すという思想が共感を呼んだ
稲荷田:それでいくと、カップルで……でもお金はもらうわけですよね。そこのあたりって難しくなかったですか?
あんみつ:そうですね。めっちゃ難しくて、市場もなかったというか。カップルで写真を撮ってほしい人なんか、超イノベーターでした。そのカルチャーに対してかなり理解があって自分もやってみたいと思える人って本当に少なかったです。なので、ビジネスとしてはぜんぜん成り立っていませんでした。けれども、けっこうSNS映えするというか拡散性はありました。
それと、当時「リア充爆発しろ」っていう言葉がすごくバズっていたんですよ。「リア充=悪」みたいな感じだったんです。
けれども、私やこまげは、「え、なんで? リア充って良くない?」みたいな、リア充を全面的に真正面から肯定したいという思想を持っていました。「今、目の前にある当たり前の幸せを、写真に撮ることで再認識しよう。そういう思想をこのラブグラフの写真撮影を通して広めたいんだ」という思いでラブグラフを始めたんですよ。
そして、けっこうその思想に共感してくれたカメラマンの方はすごく多かったんです。カップルや夫婦でもずっと一緒にいたら(今ある幸せが)当たり前になるじゃないですか。写真を撮ったら、「あ、私って彼氏の前ではこんなに楽しそうなんだな」とか「私が子どもを見る目ってこんなに優しいんだな」と気づけて、今ある幸せに感謝できるみたいなことを伝えたかったんです。
それはすごくいいよねというので、やりたいというカメラマンさんの応募がサイトからけっこうたくさん来ました。カメラマンさんのほうが先に集まったかもしれないですね。
撮る場を求めるカメラマンたちが先に集まった
稲荷田:そうなんですね。やはり、腕はあって写真は好きだけど、いざ(そういう写真を撮ろうと思っても)、撮る機会がないんですかね?
あんみつ:そうです、そうです。カメラを持っていても被写体がないから、鳥や葉っぱ、花とかを撮っていたと思うんです。あとは、写真家になりたかったらけっこう弟子入りみたいな感じで……もう、すし職人みたいな感じです。
稲荷田:へぇ、そういう感じだったんですね。
あんみつ:はい。だからもう5年、10年修行してやっと独り立ちできるみたいな世界だったので、そういう意味では斬新だったんだと思います。
VCとの出会いが活動を会社へと変えていった
稲荷田:そして、最初は起業というよりかは事業的にやり始めて。
あんみつ:そうですね。
稲荷田:途中で法人化するんでしたっけ?
あんみつ:はい。
稲荷田:そのタイミングぐらいでVCとも出会い始めていたと思うんですけど。
あんみつ:そうですね。
稲荷田:さっきの状況でVCへ行って、どういう勝ち筋で投資をしてもらうかがすごく気になったんですけど。
あんみつ:確かにそうですよね。
稲荷田:どんな感じだったんですか?
あんみつ:法人化や起業するというイメージは、共同創業者のこまげは初めはなかったらしくて、「(このまま)ラブグラフという活動をやっていきたい」みたいなところだったんです。けれども、先ほども申し上げたように私はMERYに憧れがあったので、スタートアップとして海賊団のようにモメンタムを作っていきたいみたいな思いもありました。
なので、こまげに「ねぇ、VCって知っている? スタートアップにお金をくれる人だよ」って言ったら、こまげは「え、なんでお金を無料でくれるんですか?」とか言っていて、わかっていなかったんですけど(笑)。
稲荷田:(笑)。
あんみつ:「とにかく、East Venturesの(松山)太河さんという人がいるから会いに行ってきて」と言って、会いに行ってもらって、プレゼンしてもらったりしました。それとか、ジャフコさんにもわざわざ京都に来ていただいていた時にカフェで会ったりしました。
ちょっと投資家に会うようになって、ラブグラフの説明をしたりしていたんです。(その時に)「じゃあちょっと投資を検討させてもらうんですけど……というか法人化していますよね?」と聞かれたんです。「いや、まだ法人化していないんです」と言ったら、「えっ!? まずは法人登記を!」と言われて、こまげも「うーん、じゃあ法人登記しますか」みたいな感じでした(笑)。
稲荷田:(笑)。
あんみつ:「手続きみたいな感じで、どうやらしないといけないらしい」みたいな感じで起業することになりました。