【3行要約】・時価総額十数兆円の企業が日本から消えつつある今、VCに必要なのは「10年で回収する」というファンドの常識を捨て、何十年も寄り添い続ける覚悟かもしれません。
・北尾崇氏は、メキシコで日本車の信頼を目の当たりにした経験から、日本が再び世界で政治的・経済的交渉力を持つには「デカコーン級」のリーダー育成が不可欠だと説きます。
・人口減少を「必然のチャンス」と捉え、銀行融資では届かない壮大な挑戦をどう支え抜くか。世界を代表するソニーやホンダに続く、次世代の巨大企業を生み出すための「超長期の投資思想」を学びましょう。
前回の記事はこちら 人への確信から投資したソラジマ
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):ほかにも、この起業家のエピソードがすごく印象に残っているとか、出資のエピソードでもいいんですが、もしあれば教えてもらえますか。
北尾崇氏(以下、北尾):出資という意味で言うと、ソラジマという漫画をやっている会社があります。萩原さんと前田さんというお二人なのですが、最初はXのDMで連絡をもらったんです。ただ、その時は僕もかなりバタバタしていて、最初はその連絡を少しスルーしてしまっていて(笑)。その後、追いメールと追いXのDMをもらって、お会いすることになりました。
当時の社名は「Kaigo First」で、名前だけを見ると、どう考えても介護の会社なんです。でも「YouTubeアニメをやっています、これからやろうとしています」という話で。文章だけ見ると、まあまあ変わっているな、という印象でした。ただ、僕は基本的にXで連絡が来たら会う、というスタンスなので、とにかく会ってみようと思ったんです。
実際に会ってみると、介護とかアニメとか、いわゆるオタクっぽいイメージとも違いましたし、「介護で人助けをしたい」という感じでもなかった。むしろ、むちゃくちゃ強そうな2人が来たんです。「この2人、絶対死ななさそうだな」と思いました(笑)。
しかも、かなり大きなことをやりたいという意思に振り切れている一方で、コミュニケーション能力もすごく高くて、また泥臭いことも厭わないようなガッツがあって、バランスが取れているなと感じました。その時点でバリュエーションは2億円くらいだったと思います。Kaigo Firstという社名で、やっているのはアニメ。正直、意味はよくわからないんですが、ただ、YouTubeコンテンツの中でアニメ領域が来ている感じが少しあったんです。
とはいえ、ほとんどが人への投資でした。その2人に投資する、という感覚でしたね。それが結果的に、今はすごく伸びています。
その後、YouTubeアニメでもいくつかヒットを出したのですが、「YouTubeアニメだけでは世界は取れない」と言って、当時来ていたウェブトゥーンの領域に振り切り、漫画へと軸足を移しました。
アニメの会社から漫画の会社に変わるのは、かなり大きな転換だなと思いましたが、「でも、いいんじゃない」と言って進めたんです。結果として、今すごくがんばって急成長していますね。
組織の統制で惹かれたACROVE社
北尾:あと、今はACROVE社の社外取締役も務めさせてもらっていますが、ACROVE社の荒井社長も、投資のエピソードでいうと印象に残っています。
会ったのはコロナ禍の2020年秋で、最初はオンラインでした。その時は、EC領域で事業者さんの売上を上げていくという話自体には一定の手応えを感じてはいたものの、「投資したい」と思うところまでは、まだいっていませんでした。
ただ、僕はシードの段階でも、どれだけオフィスが小さくても、あるいは自宅でも、できるだけ現地に行くようにしているんです。そこで実際にACROVE社のオフィスへ行ったのですが、当時は国立競技場の近くにありました。
中に入ると、どう見ても20代前半くらいのインターン生のような子たちが、ものすごく真剣に会議をしていたんです。僕が入った瞬間に会議を止めて、全員がすっと立って、お辞儀をして、「こんにちは!」と挨拶してくれて。「すごく統制の取れた会社だな」と思いました。
しかも、当時の荒井さん自身も22歳か23歳くらいで、「この若さで、どうやってここまで統制を取っているんだろう」と驚きました。
さらに、僕への挨拶が終わった後、彼らはすぐホワイトボードの前に戻って、「お前、まだこのKPIだと今日のテレアポ数が足りてないぞ」とか、「今月、このままだと達成できないぞ」といったやり取りを、インターン生同士で本気でしていたんですよね。
稲荷田:うわぁ、そうなんですか。へぇー。
北尾:すごいなって思って、それで「あ、これちょっとこの会社めっちゃいいな」となって、投資をしたことはありましたね。
日本の未来を支える、十数兆円規模の企業を生み出したい
稲荷田:ありがとうございます。ここまで、いろいろな起業家の特徴的な部分や、生きざまのようなところも含めてうかがってきました。
最後に、今のThetaさんの話でもいいですし、北尾さん個人としてでもいいのですが、これからどういうふうに生きていきたいか、あるいはどんな物語を紡いでいきたいか、ということを最近『Startup Now』で起業家の方によく聞いているんです。北尾さんは、このあたりをどう考えていますか。
北尾:日本に生まれて、日本の食や街並み、コンテンツ、安全性も含めて、やはりこの国のことがすごく好きなんです。だからこそ、日本のためになるような存在でありたいという思いは、ずっと強くありますね。
このまま放っておけば、人口は減っていきます。2050年にはちょうど1億人くらいになって、その後は9,000万人、8,000万人と減っていき、今のタイくらいの人口規模になっていく。
日本にはこれだけの資源や観光産業、食といった強みがある一方で、世界では戦争や土地の奪い合いのようなことも起きている。そんな中で、日本が安全な国であり続けるためには、やはり一定の経済力が必要だと思うんです。経済力があるからこそ、政治的な交渉力も持てると思うので。
そういう意味では、日本がいかに経済的リーダーを生み出し続けられるか、世界に通用する経済的リーダーをつくれるかが大事だと思っています。そのためには、やはり1社でもいいので、本当に大きな会社が日本に存在しなければいけないと思うんです。
その意味で、目指すべきはユニコーンではなく、デカコーンでしょうし、もっと言えば十数兆円、数十兆円規模の企業も生まれてこなければいけない。そういうことは意識していますね。やはり大きな会社をつくるには、大きなお金が必要になりますから。
ただ、大きなお金が必要な時に、すべてが整った会社にお金を出すのであれば、それは銀行のほうが大きなお金を持っていますし、それは銀行の役割でいいと思うんです。大きなお金を必要とする会社というのは、むしろ中長期で育てていく必要がある。短期では、やはり小さな会社のサイズにとどまってしまう。大きなことを成し遂げたり、大きな会社をつくったりするには、中長期で考えなければいけないと思っています。
だからこそ、そういう挑戦を応援できるキャピタリストやVCでなければいけない。もっと言えば、VCというファンド業態の枠を超えて、10年というスパンではなく、何十年にもわたってその会社を応援できる存在にならなければいけないと思っています。そのためには、何億円ではなく、何十億円、何百億円、さらには何千億円という単位を、1社に投じられるようにならなければいけない。そういうことを実現するために、今がんばらなければいけないなと思っているところもあります。
今のファンドでも、そういう意味で、ユニコーンやデカコーンのような会社を本気でつくらなければいけないと思っています。その規模感で起業家の方々と対話させていただいたり、どのマーケットを選ぶべきかを一緒に考えたり、そういったことをやっています。
今の日本には、世界に勝負できるチャンスが来ている
稲荷田:ありがとうございます。もしよかったら、最後にメッセージをお願いできますか。今回は起業家の方が聞かれているケースも多いと思うので、起業家のみなさんへのメッセージをいただいて、締めにできればと思います。
北尾:僕がメキシコに行った時、日本人のことはよくわからない、という反応だったんです。そもそもメキシコには日本人があまりいないので。ただ、走っている車は、だいたい日産やスズキ、Honda、トヨタだったりする。日本の商品や製品はすごいよね、という感覚があるんです。食で言っても、キユーピーのようなブランドがあって、調味料などもたくさん入っています。
日本の人口はこれからどんどん減っていくかもしれませんが、日本はこれまで、1900年代に創業した企業の中から、世界を代表するような会社を数多く生み出してきました。
有名な創業者や経営者で言えば、ソニーの井深大さん、盛田昭夫さん、Hondaの本田宗一郎さん、藤沢武夫さんのように、世界に名を残す経営者が出てきています。インターネットの領域では、アメリカ、あるいは僕らより上の世代が世界を大きく盛り上げてくれたと思っています。
その中で、今の20代、30代の世代に、事業承継という大きな問題が来ている。これは偶然のようでいて、実は必然的に向き合わなければいけない、大きなチャンスでもあると思うんです。ピンチでもあり、チャンスでもある。課題でもあり、チャンスでもある。日本がもう1回、世界に勝負できるタイミングが来ていると思っています。
だからこそ、ぜひそういう視座でチャレンジしていただきたいですし、そういう会社は中長期で時間がかかるとしても、僕らはしっかり応援していきたいと思っています。ぜひ、いろいろ対話させてもらえたらと思っています。
稲荷田:特に、時間がかかる領域だからこそ、しっかり伴走しきれる存在が必要だと思いますし、そうしたプレーヤーがものすごく多いかというと、まだそこまでではない部分もあると思っています。
ぜひ概要欄に、Thetaさんのサイトや北尾さんのXなども記載させていただきたいと思いますので、気になった方はチェックしてみてください。
また、今回の配信を気に入っていただけた方は、ぜひシェアもしていただけるとうれしいです。加えて、最近『Startup Now』は映像化もしました。ぜひYouTubeのチャンネル登録や、Spotifyなども含めてフォローしていただき、応援していただけたらとてもうれしいです。長くなりましたが、北尾さん、今日はありがとうございました。
北尾:ありがとうございました。