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新設100億円ファンドから、日本を再興する起業家を生み出す物語/Theta Times Ventures 北尾 崇さん(全4記事)

【スタートアップ】日本で次の巨大企業は生まれるか 100億円ファンドが賭ける成長領域 [2/2]

複雑な時代の投資家に求められること

稲荷田:今いただいた3つは、どれもドラスティックな変化な気がしています。当然起業家に求められる素質も変わってきそうだなと思いつつ、ことVCや、投資家に求められる素質やケーパビリティも変わってくるんですかね。

北尾:
そうだと思います。これまでのツールやSaaSのような領域は、ある意味、アメリカのメトリクスを引っ張ってくるかたちでできていました。ただ、これからは事業自体も、経営自体も、かなり複雑になってくるので、VCにも、いわゆる事業経験や経営経験のようなものが、すごく求められるようになってくると思います。

また、そういう苦労や起業家の気持ちをある程度経験していると、一緒に寄り添って事業を伸ばそうとしていても、言葉の一つひとつに、ちょっとしたマイルドさというか、違いが出てくると思うんです。

評価者ではなく、一緒に伴走する立場であり、同じ方向を向いている。そういう感覚が、言葉の端々に乗ってくると思うので、より難易度の高い経営が求められるからこそ、そういった部分も投資家にかなり求められてくるんじゃないかな、と思ったりします。

稲荷田:そういう意味では、まさに、それらを兼ね備えたチームを今回編成しているのかなと思っています。出資者数も実は水面下で動いていたところがあって、もう14社とかですかね。

北尾:そうですね。

物流の実業とSaaSをつなぐ投資先に見る、現場起点の価値創出

稲荷田:言えるところで、例えばどんな会社がどういう理由で出していますとか教えてもらえますか。

北尾:はい。例えば、先ほど言っていた物流業界でいうと、まさに物流会社さんや荷主さんにSaaSを提供しています。そもそも荷主さんが「荷物を運んでほしい」ということで元請けさんに依頼を出して、元請けさんは自分たちだけでは運びきれないので、1次請け、2次請け、場合によっては6次請け、7次請けまで依頼が続いていくんです。

ただ、そのやり取りがすべて電話とファックスで、受発注も請求書も全部紙でやっている。そこをSaaSに置き換えていく、というところです。

この会社の社長は、長年物流のトラック運転手をやっていた経験もあって、物流会社さんからインターネットサービスでお金を取ることが、いかに難しいかをよく理解しています。なので、ここはかなり無償で、とにかく普及率を重視しつつ、本当に使いやすいものを意識して提供されています。

同時に、そういう社長さんだからこそ、トラックオーナーさんの心もつかみやすいというか、意気投合しやすいところもあります。実際、今は岡山の会社と大阪の会社を1社ずつ買収しています。
そうした実運送業とSaaSビジネスの両方をやっている会社として、大阪の会社に投資をさせていただいています。


ブランドやIPを世界に届ける、新しい勝ち筋も見えてきた

稲荷田:そういうロールアップや買収もどんどん進めていけるような、経営者や事業体の方々がやはり多いのでしょうか。

北尾:1つは、そういう会社さんです。もう1つは、まだリリースを出していないので詳しくは言えないのですが、世界で挑戦できるんじゃないか、という意味でのブランドビジネスやIPビジネスです。そこは今、意識してソーシングしたり、投資を実行させていただいたりしています。

日本の伝統的な素材や、地方にある伝統的なものを、単なる地方特産物としてとどめるのではなく、そこにアイデアを加えて商品化し、それをグローバルに出していく、ということです。

ただ、少しトレンドが変わってきているなと思っています。昔はこういうことをやる時、やはりマーケティングやブランディングがものすごく大事だったので、CMを打たなければいけませんでした。でも今は、若い人も含めてテレビをあまり見ていません。

そういう意味では、今はTikTokやInstagram、YouTubeショートが重要です。以前は、ここにはダンス動画が多かったですよね。高校生くらいの男の子や女の子が制服を着て踊るような動画です。ただ、今はTikTok Shopも始まってきていますし、各プラットフォームも、ダンス以外に、食やモノなど、そういったコンテンツを上に上げようという流れになっています。

ここは正直、投稿数やアイデア数、どれだけ気合いを入れられるかの勝負です。CMだと資本力の勝負になりますが、こちらはもっと泥臭いところで戦えるので、スタートアップのエネルギーがすごく向かいやすい領域なんです。

そこに加えて、リテールへの営業も必要です。コンビニでもいいですし、ドン・キホーテさんのような量販店でも、ドラッグストアでもいいのですが、そういうところは営業力で入っていく。

営業する時も、「こんな飲料や消費財、コスメは見たことがないですよね」だけでは、棚には載せてもらいにくい。でも、「うちの商品、TikTokで月に1,000万回再生されているんですよ」となると、「そんなに再生されているのか」「ああ、見たことあるわ」となって、棚に入ってくるんですよね。

稲荷田:確かに。

北尾:こういうことができるようになってきたのは、ブランドビジネスやIPビジネスにとってチャンスだと思っています。そこで地盤を作っていきながら、日本ならではの素材で世界の人たちにも意識してもらえるようになれば、これまた世界にも打っていけるんじゃないか、という感覚です。

DtoCというと、ちょっと違うよね、となるかもしれませんが、実はDtoCというより、もうリテールビジネスというか、小売やブランドビジネスなんじゃないか、というふうに、僕らも少し捉え方を変えてきています。そういった部分も投資先として見ていますね。


ロールアップ成功の鍵は、過小評価された価値を見抜くこと

稲荷田:ありがとうございます。今、後者の部分については詳しくお話しいただきましたが、先ほどの物流の話やロールアップモデルについては、北尾さんが前職でACROVEさんなどに投資されていた経験も活かされているのかな、と思いました。

そうしたロールアップを進めていきたいスタートアップにとって、押さえておくべきポイントや大切にすべき点があれば、エッセンスとして教えていただけますか。

北尾:
そうですね。1つは、多重下請け構造になっている産業は、やはりかなり改革しなければいけないということです。そういう意味では、M&Aのロールアップがすごく効きやすいと思います。

結局、M&Aで一番大事なのは、買ってくる金額を間違えないことです。ここを間違えると勝てないので、いかに低い金額で、つまり過小評価されているところに自分たちで価値を見出しにいくか、ということをやらなければいけない。

物流業界で見ると、6次請け、7次請けまであるんですけど、その分、5次、4次、3次のところで中間マージンを取っている業者さんがたくさんいます。ですが、トラックで荷物を運ぶという行為自体はみんな同じです。むしろ、6次請け、7次請けの会社のほうが慣れていて、もっと速いかもしれない。それなのに、中間で抜かれている分、給料や賃金が抑えられている、ということがある。

だとすると、7次請けや6次請けの会社を1次請けに持ってきてあげるだけで、ドライバーさんの給料も大幅に上がりますし、もっと言えば、荷主さんの発注コストも下げられるかもしれない。そう考えると、これは明らかにいいことです。

今は、長時間労働や重労働のわりに低賃金だということが、業界で人が長く続かない理由にもなっていますし、新しい人が入ってこない理由にもなっています。だからこそ、エッセンシャルワーカーの方々をどうもう一度盛り上げていくか。その時に、多重下請け構造になっている領域で、過小評価されているところにM&Aを仕掛けていくことが、1つのポイントかなと思います。

稲荷田:なるほど。ありがとうございます。そうした、過小評価されているけれど本来は価値があるところを探してくる必要もありますし、とはいえ、当然ながら実際に買ってくる必要もあるわけですよね。

シリーズAの厳格化で、シード投資にも大きな資金が求められる

稲荷田:投資という観点でいうと、やはりチケットサイズや投資額は、初期から大きめに取らなければいけなかったりするものなのでしょうか。

北尾:そうですね。やはり1,000万円、2,000万円程度のシード出資だけでは、なかなかシリーズAまで行きづらい、というのはあると思います。これは、M&Aをするようなビジネスだからこそ、お金が必要だという面もありますし。

もう1つ、「東証100億円の維持基準問題」もあって、ミドル・レイターの投資家はシリーズAをかなり厳しく見るようになっています。つまり、シリーズAのハードルが上がっているということです。1,000万〜2,000万円だけで、シリーズAで求められる売上や利益の期待値を出すのは、なかなか難しい。そういう事情もあります。

なので、どのみち、シード・アーリーで求められる金額感は、やはり昔より上がってきているのかなと思います。あとはもう1つ、銀行さんとうまく連携して、融資のお金をどう活かせるかというところも、M&Aを加速させていく上ではかなり大事かなと思います。


今の時代にこそ増す、ファウンダー・マーケットフィットの重み

稲荷田:そういう意味では、一概には言えないと思いますが、いわゆるIT・SaaSが盛り上がった時期のように、学生起業が次々に出てくるというよりは、ある意味、現場で経験のある方のほうが少し有利だったりする、という見方もあるんですかね。

北尾:やはり、ファウンダー・マーケットフィットの重要性は増してきていると思います。その産業や課題に深く根ざしていないと、M&Aやロールアップもそうですし、バーティカルSaaSも、本来それだけの知見がなければ提供できないものなので。そういう経験がある社長が、そこをやることに意味があると思います。

ブランドビジネスにおいても、やはりIPで実際にヒットを出している人たちに聞くと、24時間365日、寝る間も惜しんでそのIPのことをずっと考えているんですよね。成功させる人は、それぐらいキャラクターや製品のことを考えている。

だから、少し「やろう」くらいの感覚では難しい。やはり、そこには熱意に加えて、そのドメインの知識や経験がないといけない。そういうファウンダー・マーケットフィットの重要性が、やはり増してきているなと感じますね。

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