【3行要約】・「IVS 2025」にて、「漫画が紡ぐ物語とスタートアップの幸せな関係」をテーマにしたトークセッションが実施されました。
・漫画家の三田紀房氏は「マンガはキャラクターが10割」と説き、編集者の佐渡島庸平氏はビジネスでも創業者のキャラクターが企業イメージと結びつく重要性を指摘します。
・三田氏は築137年の洋館を拠点に、漫画家ネットワークを活かした原画販売など、クリエイターの強みを生かしたビジネスを模索しています。
前回の記事はこちら 漫画家・三田紀房が語る「キャラクター性」の重要性
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):なるほどな。三田さんが作品を作っていく時に、自分の好きという気持ちとかワクワクする気持ちは、どういうふうに大切にしているんですか?
三田紀房氏(以下、三田):連載を始めるぞという時には、やはりその主人公に対して自分も相当に感情移入して、世の中にたくさん知ってもらいたいという、そっちの欲求ですよね。
岡島礼奈氏(以下、岡島):キャラクラーのほうなんですね。
三田:キャラですね。こういうキャラクターが世の中に何をするか。で、きっとおもしろい物語が作れるだろうということで、やはりキャラクター、主人公が大前提ですね。これが出たらもう勝ったな、みたいな感じなので(笑)。
佐渡島:ストーリーと起業家の人のスタンスがちょっと違うと思うのは、起業家が投資家を説得する時はポジショニングが大事になるじゃないですか。それはストーリーでいうと設定かなと思うんですけど、漫画は設定がしっかりしているからといって勝つわけじゃないというか、ストーリーが浸透するわけじゃない。
三田:もうキャラが10割です。読者が「こいつがどうなっていくのか見たい、読みたい」というフックが1話目にガチッとないと、ほぼ100パーセント失敗します(笑)。本当にキャラですね。
世界的企業も創業者とセットになって記憶される
岡島:スタートアップは、たぶんシードとか初期だと「このキャラ、良い」と言って応援してくれる人がいると思うんですけど、シリーズBとかレイターになればなるほど、キャラがいらなくなってきますよね(笑)。
佐渡島:会社としての、法人のキャラに変わっていく必要がありますよね。だから個人のキャラから法人のキャラへ、ストーリーをどう広げていくのか。僕も自分で会社をやり出して「法人」という言葉はよくできているなと思って。
創業者が個人としてストーリーを作っている間はまだ法人じゃなくて、法人がキャラを持ち出した時に会社が伸び出すな、というのはすごく感じるんですよね。
三田:だから今はもうほとんど、世界のビッグカンパニーも創業者のキャラじゃないですか。ジェフ・ベゾスだったり、スティーブ・ジョブズだったり。
岡島:イーロン・マスクだったり。
三田:ええ。必ず何々という会社名と創業者がセットになっている。やはりそこがビッグになっていく、1つのファーストステップという感じはありますよね。
岡島:けっこうキャラクターは大事ということですね。
三田:世の中はやはりキャラだと(笑)。
「応援したい」という気持ちを引き出せるか
佐渡島:そこをどう見せていくか。キャラという言い方をするとけっこう「変な人」だと思われるかもしれないですけど、変じゃなくてどう記憶に残るかということですかね。
三田:だから、思い入れですよね。「この人を応援したい」「この主人公がどういうふうに成長していくかを一緒に追体験したい」みたいな。どうやって読者をそういう気持ちにさせるか、そこはものすごく重要なポイントかなと思います。
岡島:主人公は最初から何も持っていないんですよね。すべてを持っている人が主人公の漫画は見たことがないなと思って。
三田:ああ、そうですね。
岡島:すべてを持っている人が主人公の漫画はどうなるんだろうなっていう(笑)。
三田:最近トレンドが若干変わってきたんですよ。1970年代、1980年代ぐらいは、ものすごいスーパーマンを描くのが1つの(トレンドで)、とにかく男は強くて絶対くじけない、負けないみたいな。
岡島:
『北斗の拳』みたいな感じですかね(笑)。
三田:そうそう。だったんですけど、1990年代から2000年代に入ってだんだん、特に『ジャンプ』なんかはそうなんですが、「強いキャラなんだけど、必ず弱点を1個入れてください」みたいなフォーマットがあって。主人公にもどこかしら弱い部分を必ず入れるという、2000年代からそういう傾向にありますよね。
三田氏が挑む新たなプロジェクト
佐渡島:三田さんはずっと漫画作りを中心に何十年もやっていたのが、ここ1~2年は、みなさんに配らせてもらったテオドラ邸とか、「アジア甲子園」みたいな(ことをされています)。
三田:そうです。だから、僕も今まさにスタートアップ中なんですよ(笑)。

東京都世田谷区の豪徳寺に、築137年の洋館が建っているんですが、ほぼ作られた当時のまま残っているんですよ。
『不思議な少年』とか
『天才柳沢教授の生活』とか、超有名な漫画家の山下和美さんは僕のお友だちなんですけど、彼女がX(Twitter)で保存活動をやっているのを見て。
僕は「何をやってんだろうな、黙って漫画を描いてりゃいいのに」と思って(笑)、「どれどれ」と豪徳寺に見に行ったんですよ。そうしたらパッと見、すごくボロボロだったんです。きれいに修復すれば何かビジネスができるなと直感して。じゃあこれの保存をしようということで、山下さんと笹生那実さんが2人で土地を買って、全額じゃないですけど僕が修復費を出した。
うまくいくかと思ったら、途中からものすごく建設費が高騰しだして、ぜんぜん足りなくなって(笑)。
『うる星やつら』の高橋留美子さん、それから
『賭博黙示録カイジ』の福本(伸行)さん、あと
『土竜の唄』の高橋のぼるさんの3人のところに行って。
岡島:強い(笑)。
漫画家ネットワークを活かした唯一無二のビジネス展開
三田:みなさんにお金を借りて修復費をまかなって、2024年3月1日にリニューアルオープンした。2階が全部画廊になっています。そこで、2ヶ月に1回ぐらいのサイクルで漫画家さんの原画を展示するイベントを(やっています)。
下にはショップとカフェを作りました。とにかくお客さんに来てもらって入場料をいただいて、原画を見てカフェでお茶をして、最後にショップでお買い物をして帰ってもらうというビジネスを、山下さんと僕と笹生さんと3人の漫画家がやっているんですよ。
漫画家がそんな商売をやっても絶対にうまくいきっこないじゃないですか。「絶対に失敗するからやめとけ」と周りからすっごい言われましたよ。でも、ここまできたんだからとやってみたら、これが意外や意外、けっこうお客さんがたくさんいらっしゃって。
で、このあいだ月9のドラマ(『続 続 最後から二番目の恋』)でテオドラ邸が舞台になったんですよ。病院のシーンがあるんですけど、そこが我がテオドラ邸なんです。
岡島:へぇー、すごい。
「きみのためなら死ねる!」ユニークなグッズで新展開
三田:今パンフレットをみなさんに差し上げたんですが、やったからにはうまくビジネスとして成功させたいということで、今一番可能性があるのが、先ほど言った原画販売です。我々はいろんな漫画家さんとネットワークがあるので、漫画家さんに頼んで「描いて、描いて」って(笑)。
岡島:すごい。ほかの人には絶対に真似ができない仕入れルートですよね(笑)。
三田:そうです、そうです(笑)。
佐渡島:なので今、三田さんはこのテオドラ邸というかたちで、漫画家とは違う新しい取り組みを(されている)。
三田:そう。今日、グッズもちょっと持ってきたんですけど、「きみのためなら死ねる!」って、わかる人います?
1970年代に
『愛と誠』という超名作があった。その中の岩清水(弘)君というキャラクターが「きみのためなら死ねる!」という名言を残していまして。で、テオドラ邸ではこういうグッズを作って販売しています。
今日はこれを10枚持ってきましたので、最後に特別にみなさんでじゃんけん大会をして、プレゼントしようと思います。あとでちょっとミニイベントを考えていますので、よろしくお願いいたします。
「太陽系の外に行きたい」岡島氏の壮大な夢
佐渡島:もうほぼ(トークが終わる)時間で、じゃんけん大会もあるので、最後に岡島さんからも。今、万博では7月7日に合わせて短冊に夢を書いていて、僕らも先ほど控室で書いたんですけど。最後に、岡島さんのALEとしての夢は何でしょうか。短冊にはもう書いたんですか?
岡島:まだ書いていないんですよ。
佐渡島:じゃあ最後に、何を書こうと思っているかを教えてもらってもいいですか。
岡島:まずは「流れ星を流すぞ」というのが近い夢ですね。
佐渡島:大事です。
岡島:もう10年、20年間。
佐渡島:ずっと言ってますもんね。
岡島:30年ぐらい先(の夢)だと、太陽系の外に行きたいなと思っています(笑)。
佐渡島:なるほど、ぜひ叶えてください。じゃあトークショーはここまでにします。