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漫画が紡ぐ物語とスタートアップの幸せな関係 「ストーリーテリング」が進める新規事業の社会実装(全3記事)

“専門家ではないリーダー”こその強みとは メンバーが「この人と一緒にやれる」と感じられる上司の例

【3行要約】
・「IVS 2025」にて、「漫画が紡ぐ物語とスタートアップの幸せな関係」をテーマにしたトークセッションが実施されました
・漫画家・三田氏はALEの岡島氏に対し、天文学の専門家であり、人工衛星を第三者的に見られることがビジネスにおいて重要だったのではと分析します。
・同氏は読者の共感を重視し、読者アンケート=マーケットの反応を見ながら展開を調整していると語ります。

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読者にとってはキャラクターの魅力が重要

三田紀房氏(以下、三田):(幅広い人に伝わる物語の作り方の話を受けて)物語を作る時に、どうしてもダイレクトに作ろうとするんですよね。何か目的があって、その目標を達成するために一直線に、ダイレクトにキャラクターを立てたがるんですが、意外とうまくいかないんですよ。

なんでかというと、おそらく読者にとっては目的よりキャラクターの魅力が重要であって、そっちがやはり共感を呼ぶんだと思うんですよね。だから先ほどの『インベスターZ』も、投資で漫画を作るからって、とにかく儲けようというキャラクターにすると、読者はあまり魅力を感じないんですよね。

岡島礼奈氏(以下、岡島):どういう主人公に魅力があるんですか? たぶんみなさんも起業家の方々なので、みんな主人公だと思うんですけど。

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):起業家は自分を主人公にして、自分の会社を語らないといけない。三田さんがもしも「流れ星を作る会社をやるぞ」という(主人公を描くなら)……。

三田:先ほど聞いていてなるほどと思ったのは、(岡島さんは)天文学の専門家で、もともと人工衛星の専門家ではないわけですよね。これがすごく大事なポイントで、そっちのほうが絶対、人工衛星を第三者的に見ることができるじゃないですか。

人工衛星の専門家だと、おそらく人工衛星のことばっかりに集中してしまって、周りの人がついていけないんですよね。

岡島:なるほど。

外部の視点を持つ人のほうが人を巻き込みやすい

三田:だから天文学の立場から人工衛星を語ったほうが、絶対に人を巻き込みやすい。周りの人がついてきやすいです。スペシャリストにみんなついていくかというと、意外と「ちょっと疲れる」「圧を感じる」みたいなことになっちゃうんですよね。

で、おそらく人工衛星の専門家だと、周りの人がついてこないとイライラしちゃうと思うんですよ。「俺はこんなにがんばっているのに、なんで周りはわからないんだ」みたいな。

だけどトップが「いや、私は天文学だから」と言ってくれたほうが、周りが「そっか、じゃあ私はぜんぜん違う分野だけど、この人と一緒にやれる」と感じると思うんですよね。

キャラクターの夢や目的に読者が共感できるか

岡島:なるほどですね。投資家にウケるキャラクターと、一般的にウケるキャラクターは違う気もしていて。みなさん日々葛藤していないのかなと思ったりしますけど(笑)、そのあたりはどうですかね。

佐渡島:でも結局、投資家も感情が動かされるということでいうと、一般の人に近かったりするから。投資家は最終的には儲からないといけないから、サクセスストーリーと(感情面の)両方だとは思うんですけど。描き方でいうとストーリーに似ているのかな、とはちょっと思う。

三田:キャラクターってだいたい夢があるんですよ。こういうことをしたい、こういう目的を達成したいという目的の描き方にどれだけ読者が共感するかなので、そこは漫画家がいろんなテクニックで作るわけなんですけどね。

ヒット作家はどうやって漫画のテーマを選んでいるのか

佐渡島:ベンチャーやスタートアップを作ったら、自分の事業領域を決めるじゃないですか。そこでできるだけ杭を打って、新しいベンチャーが出てこないようにとか、自分のところの稼ぎが確定するようにしていくのかなと思うんです。

三田さんの作品の作り方が、『ドラゴン桜』は学園モノに見えて「受験領域は誰も入ってくるな」というかたち。(同じ受験領域を描いた)『二月の勝者 -絶対合格の教室-』という作品は生まれたんですけど、実は『ドラゴン桜』では子育てから中学受験、高3まで全部の教育情報を入れちゃおうというふうにしたりとか。

『インベスターZ』は持ち家か借家のどちらがいいのか、保険は入ったほうがいいのかまで含めて、株とかの投資だけじゃなくて個人が関係する投資の話を全部入れちゃったりとか。

『Dr.Eggs ドクターエッグス』は「医療ものってたくさんあるんだけれども、医学部ものはないね」ということで「医学部ドラマをやりきっちゃおう」みたいなかたちで、三田さんはけっこう「杭を決めて刈り取るぞ」みたいな考え方をいつもしていると思うんです。

三田さんの作品を作る時のジャンルや領域は、どういうふうに考えているんですか?

後発作品を予測して対策しておく

三田:ジャンルは特に決めていないんですよね。これは本当に編集者との雑談から生まれます。編集者と「何をやろうか」みたいな話から始めて、「最近はこんなことが話題だよね、世の中ってこんなことに興味がありそうだよね」みたいな。

そこからジャンルを決めていくんですが、先ほど言った『ドラゴン桜』をやる時に、受験一辺倒の話もできなくはないんですが、そればっかりだと読者もだんだんマンネリ化しちゃうので。例えば子育てだったり、受験に関連する心理状態だったり、そういうものまで(描く)。

編集者はどうしても、「○○さん、今こんなのが流行っているから、あんなふうに描きましょう」みたいな(笑)。先行しているヒット漫画の二番煎じを狙いにくるんですよ。

先行作品があると、そのあとから必ず追いかけてくるので、それをどうやってブロックしていくか。ここがけっこう大事で、そのためにはどんどん先手を打って、いろんなところに杭を打っておくんですね。

あとはもうロープを張って、なるべく入ってこれないようにしてから一気に刈り取るみたいな。あとから追いかけてくる作品がなかなか入り込めないように、最初に領域を確保しておくイメージだと思います。

読者=マーケットの反応で臨機応変に対応

佐渡島:三田さんと僕ら編集チームはけっこうタッグを組んでいて、三田さんに「このジャンル、取材しておいて」と言われて、取材した情報をちょっとだけ先出しして、反応を見て良かったらそれを本編でガッツリやる、みたいな。そういう一定の伏線みたいなのはいっぱいある。

三田:だから僕は基本、アンケートをすごく聞くんですよ。「今どう?」って聞く。で、だいたい(アンケート結果の)グラフが上下するので、落ちてきた時のネタは読者にウケていない。「じゃあもう、こういうのはやめよう」とスパッとやめるんです。

だからそのへんはある程度しっかりと市場調査というか、自分としてはマーケットを重要視している感じですね。

佐渡島:ALEという会社は、初めは「流れ星だ」というところから始まって、けっこう長い時間を経て、自分たちの事業領域をどう広げたり、ずらしたりしていますか?

科学への貢献と楽しさを軸にした事業展開

岡島:まさに先ほどお伝えしたように、流れ星の発生装置が、実は小惑星の探査に使えるみたいなことがあって。でも根底に流れているのは、やはり科学に貢献できるかと、自分たちがやっていて楽しいと感じられるか。そこを非常に重要視して事業領域を選んでいますね。

佐渡島:岡島さんのキャリア的には天文学のあと、ゴールドマン・サックスに行って(いますね)。いろんなスタートアップがある中で「儲かるか」を大事にする人はいても、事業領域を広げていく時に「自分たちが楽しいかどうか」を軸にやれる人はなかなかいない気がしていて。

岡島:そうですね。

佐渡島:でも、いろんな産業にそれが求められる時代が来ていると思うんです。ちょっとこの質問の仕方で答えられるかわからないんですけど、なんでそこにこだわるんですか?

岡島:私は、先ほどご紹介いただいたように、2008年にゴールドマン・サックスに入っていて、それがリーマンショックの時だったんです。しかもいたのがハゲタカ部隊だったんですよ。

佐渡島:(笑)。

楽しく遊ぶためにも、ちゃんと稼ぐ

岡島:だから本当に資本主義の権化の中心に(いました)。でもそれも「どうなっているんだろう」という好奇心なんですよね。「どうなっているか知りたい」みたいな感じで入っていったら、リーマンショックが起きました。

でもそれも好奇心だけじゃなくて、やはり科学を進化させるため。基礎科学はお金がかかるんですね。天文台でも何百億円とか何千億円とかのお金がかかったりして。お金がかかるということは、ちゃんとお金を取ってくる道筋を考えなきゃと思って、一応、真面目に金融機関に入ったんですよ。

佐渡島:じゃあ、そのあと自分が本当にやりたい、ALEみたいなことをやるための勉強だという気持ちもあって入ってきた。

岡島:そうですね。でもやはり楽しく遊ぶためには、ちゃんと稼がないといけないので。だから、おもしろいことをやりたいのはもちろんなんだけれども、「そのために、やらなくてはならないことをちゃんとやる」みたいなスタンスで会社をやっています。

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