【3行要約】
・日本のインフラ老朽化が深刻化する中、点検・整備の人材不足と高齢化が大きな課題となっています。
・マップフォーCTOのアブラハム カノ氏によれば、2040年には54万の橋が50年以上経過し、6,200のトンネルが老朽化する見込み。
・同社は自動運転技術を応用した高効率な地図作成システムで、従来の6分の1のコストでインフラ点検を実現し、日本の社会課題解決に挑戦しています。
人手不足、高齢化、老朽化…日本のインフラ整備の課題
アブラハム カノ氏(以下、アブラハム):みなさん、最近地図を使ったのはいつですか? 今日来た時かもしれないですね。その地図から何を期待しましたか? 正確性、信頼性、迅速さと、安全な道の案内かもしれないですね。
だけど地図は2次元のルートだけではなくて、3次元や複数の次元のいろんな情報が中に入れ込まれているんですね。
例えばメンテナンスについて話しましょうか。日本のインフラの橋だけで、2040年には、およそ54万ヶ所の設備が古くなってしまうんですね。これらは50年以上経っているんです。同じくトンネルは、国交省によると、2040年は6,200ヶ所になります。


日本のインフラはどうやってメンテナンスされているかわかりますか? 大変です。ちゃんと丁寧に確認して修理していらっしゃいますね。そこで人が不足している。みなさん高齢化しているのと、毎年確認するインフラが増えていくからです。
我々マップフォーは大学ベンチャーです。始まったのは自動運転で、最先端の技術で位置推定と環境認識を作っている会社です。
だけど我々が信じているのは、自動運転だけではなくいろんな領域を広げられるということです。例えば鉄道ですね。線路・電線とかインフラを確認しないといけない。同じく、例えば電力です。ここで見ているのは、地図上で電線を認識させて、全部自動でどこが危険なところか探してくれるんですね。
地図を作るコストを6分の1に削減
アブラハム:ただソリューションだけではなくて、地図を作るのは(コストが)高いです。ちょっとここでハードウェアについてお話ししましょう。
一般に使っているシステムは1億円に近いです。我々のソリューションは6倍コストを削減できます。同じく処理時間も、例えば3時間走ったら今は24時間だけど、我々のソフトは8倍速くなっています。

みなさん「どうやってやってるの?」って顔をしていますね。どんなセンサー、どんなOS、どんな処理を使えばいいか、自動運転のノウハウを使ってパッケージして、モバイル型と車載型のデータ収集(機器)を作っております。
ハードウェアだけではなくてソフトもです。センサーフュージョンを行って、場所による適切なアルゴリズムを使った、一番綺麗で正確な地図ソフトを作っております。
地図だけではなくて、認識もしないといけないですね。いろんなアプリケーションにしないといけないので。社内で作っているのはトランスフォーマーネットワークです。それを我々の社内でもデータアノテーション(画像や動画など様々な種類のデータにタグやメタデータといった情報を付けたり、データを分類する作業)して、適切なモデルを作っております。

自動運転にも関係あるんですけど、今はやっているのはバードアイですね。自動運転の死角を減らすための物体認識(技術)です。
CTOとして45人のエンジニアをまとめる
アブラハム:もうちょっと社内のお話をしたいと思います。今のところ6つのチームがあり、45人がエンジニアです。やはり技術の話はちょっと広いですよね。いろんな人がいろんな言語を使っているけど、全部理解するのは難しいです。
そのために私がCTOとしてやったのは、みんなのためのマップフォーAPIを作って、そこでチームごとにやっていることをブラックボックス化させてつなげる。

例えばWebKitを使っているシステムがTensorを可視化したい場合は可視化できる。認識したい場合も使える。そこでいろんな良いことがあって、ソースコードを再利用できるCI/CDや、ライセンスもIPを守ってくれます。
最後にAPIはベースがC++で作っておりますので、ネイティブなツールを使ってネイティブなパフォーマンスを出せるようになっています。技術だけではなくて、やはりお客さんのニーズと良い技術がつながらない場合は良いソリューションが作れないので、そこもCTOとして推進しています。
あとは新しい人が来る時にいろいろ教えてあげて、一緒に失敗して一緒に学びます。まだまだ若い会社なので、いろんなフィードバックが必要です。フィードバックをもらって一緒に大きくしましょう。
会社が大きくなるのに合わせて、何をみんながやっているのかみんなで共有するシステムを作りました。採用。ここは一番大変ですよね。我々も大変なんですけど、そのために大学の研究室とつながって、採用をしています。
R&Dも同じく大学をつないで、そこで論文・特許も作っております。マップフォーでした、ありがとうございました。
(会場拍手)
社員の「学ぶカルチャー」をつくるには
司会者:アブラハムさん、ありがとうございました。(気持ちが)強かったのでちょっとはみ出ちゃいましたけれども、でも完璧なピッチでした。
アブラハム:ごめんなさい(笑)。
司会者:とても良かったです、すばらしいです。では今から質疑応答のお時間とさせていただきます。何かある方は挙手をお願いいたします。……それでは濱さま、よろしくお願いします。
濵真一氏:発表ありがとうございました。ちょっとうかがってみたいんですけども、開発組織に素早く学ばせるというところがあったと思います。
CTOとして、ただ善意でみなさんに「学んでください」って言ってもなかなか学ばない、手を動かさない人も出てくるかもしれないなと思うんです。みんなが学ぶカルチャーとかメカニズムを醸成させるために、CTOとしてどんなことをされましたか?
アブラハム:そこがすごく大事なポイントですね。今のところマップフォーはすごく恵まれていて、そういうケースがまだないんですけど(笑)。失敗したら一緒にやりましょう、固まったら一緒にやりましょう、とフォローしながらやっています。チームリーダーとつないで、学ぶための組織になっております。
濱:ありがとうございます、すばらしいです。
アブラハム:ありがとうございます。
司会者:では藤本さま、お願いします。
藤本真樹氏:はい、ありがとうございます。たぶんみなさんが思うスーパーFAQだと思うんですけど、ディープテックなスタートアップはめっちゃおもしろいし素敵な一方で、絶対に言われるのが、いわゆるビッグテックとのテクノロジーでの競合。
自動運転自体はど真ん中ではないと思うんですけど、じゃあ彼らが来年こういうのをやってきたら……みたいなところはすごくよく聞かれると思うんです。
ペラペラしゃべりましたがシンプルに、いわゆるビッグテックとのテクノロジーにおける戦略上の戦い方。こういうふうに考えています、みたいなのがあったら教えていただけるとうれしいです。
アブラハム:ありがとうございます。先ほどちょっと触れましたけど、R&Dがすごく大事ですね。特にディープテックの企業だと技術が古くなったら負けるので、そこで学会、論文、勉強会を社内でも行っていて「これからこうなりそう」とみんなで議論して、次の時代のシステムを作りましょうという雰囲気になっています。
1人でマネジメントできる限界を迎えた時、組織に必要なもの
司会者:ありがとうございます。それでは最後に山﨑さま、お願いします。
山﨑賢氏:ありがとうございます。開発の組織が45人くらいいるっていう話だったので、わりとその45人って1つの壁だなと思っています。1人のヒーローがマネジメントできる限界を超え始めるところなのかなと思うんですよね。
そういった中でたぶん必要になってくるのが、開発組織に根付かせるカルチャーとか。実際に自分が言わなくても、みんなが意思統一できる文化みたいなものが必要だと思うんですけど。
実際今の会社の中で、そういうみんなを一体化させて同じ方向に進むために、CTOとしてどういうことにチャレンジしているのかを教えてください。
アブラハム:おっしゃるとおり、それがすごく大変です。人が多くなったら層が増えるので、上が言っていることと下で言っていることが異なる可能性がある。マネジメントに関してはミドルマネジメントと、1on1を最低1ヶ月に1回やっておりまして、それでみんな同じ方向に進んでいるのを確認しています。
司会者:ありがとうございます。以上で質疑応答は終了となります。アブラハムさま、いかがだったでしょうか。
アブラハム:めっちゃ緊張していました。初めて日本語でやりました(笑)。
司会者:(笑)。日本語もすばらしいです。ということでアブラハムさま、ありがとうございました。