【3行要約】・SaaS企業などで一般的な「顧客ナーチャリング」の概念に対し、コミューンは「信頼を育む」という新たな経営アプローチを提唱しています。
・コミューンの高田氏は「ファンコミュニティ」の限界を指摘し、多様な顧客との関係性構築が企業成長のカギだと語ります。
・人口減少社会の日本では丁寧な信頼構築が不可欠であり、コミューンは「第二創業」として信頼起点経営の実現支援へと事業領域を拡大しています。
前回の記事はこちら マーケティングにおける「ナーチャリング」
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):すごく個人的な感想というか質問なんですけど、SaaS系の会社って、お客さんを育成するみたいな、引っ張り上げるみたいなニュアンスがすごい強いなと思っていたんですけど。コミューンさんは、お客さんを育成するというよりかは、信頼を育成するという視点の湧き方が、より人らしくていいなというか。
これはもはやただの感想に近いんですけど、「偉そうぶってなくていいな」みたいなことを個人的に思っていて。このあたりは、どんなところからきているんだろうなと。
高田優哉氏(以下、高田):ありがとうございます。よくマーケティングで「ナーチャリングする」って言うじゃないですか。
稲荷田:いやぁ、まさに。
高田:「ナーチャリングされたことあります?」って思っちゃって(笑)。
稲荷田:(笑)。
岩澤脩氏(以下、岩澤):(笑)。
高田:企業が、そんなうまいこと(ナーチャリング)できないのかなっていう感覚が自分の中でありますね。
メインストリームとは外れたことを信念持ってやる
高田:それからコミュニティ領域だと、よく「ファンコミュニティ」という言葉が使われるんですよね。
我々が「あらゆる組織とひとが融け合う」というビジョンを掲げているというのもあるんですけど、冷静に考えて、お客さまが100人いたら、ファンって数人じゃないですか。5人、10人いたらすごいブランド、化け物ブランドだと思うんですけど。そういう中で、ファンコミュニティって95人ぐらいを無視することになるじゃないですか。ファンであるかどうかは、どちらかというと感情的な部分なんですよね。
感情的には別にそういう感じじゃないけど、機能的にはすごく評価をしていて、何か足りなくなったら迷わずそこの製品を買うよみたいな人って、たくさんいると思うんですよ。でもその人たちに「あなたってファンですよね!?」って言ったら「いや、違います」ってなると思うんですね。
お客さんっていうのは、100人いたら100人の多様な方々がいて、多様なかたちで企業と関わっていて。企業はそのお客さん全員の力をうまく使えるようになるべきだし、ある種、果たす役割もちょっと違ったりもすると思うんですよ。
例えばあるBtoBのメーカーさんの例ですけど、複雑性のあるテクニカルなプロダクトの事例なので、ファンの方に超知見があるわけじゃないんですよ。
だけど、そこのスペシャリストみたいな、ギークみたいな人は、別にファンとかじゃないけどめちゃくちゃ知見があって。その方の力をうまくお借りできると、めちゃくちゃカスタマーサクセスサポートのクオリティが上がるんですよね。
稲荷田:確かに。
高田:ファンコミュニティをやっていたら、たぶんその人の知見って活かせない。
稲荷田:ぜんぜん違いそうですね。
高田:ファンじゃないから。なので、その方にもうまく乗っていただけるようなことをやらなきゃいけないよねというふうに、ある種、我々は「この領域って、こういうものだよね」って思われているものとか、当時のメインストリームとはちょっと外れたこととかを信念持ってやっている。
結果として、それが今は普通になっているみたいなところは多くあるかなと思いますね。今お話がありましたけど、コンシューマー向けサービスのコミュニティも、その1つかなと思います。
日本はバリューギャップに対して丁寧に対応していく必要がある
稲荷田:SaaS系の会社さんだと、先行モデルがありすぎて、たいていそれに倣っていくみたいなところがありますけど。そこも一定倣いつつ、ちゃんと否定するところもあってというところが独自性なのかなとも思いました。岩澤さんの視点ではこういうふうに捉えていらっしゃるとかありましたら、ぜひ教えてください。
岩澤:今回のリリースで「信頼」っていうキーワードが上がってきていると思うんですけど、ちょっとわかりにくいなというリスナーさんもいらっしゃる気もしていて。私なりの理解をお伝えさせていただくと、SaaS的なところでいくとバリューギャップというんですけど、お客さんが……。
高田:もっとわかりづらくなっちゃった(笑)。
岩澤:(笑)。わかりづらくなっちゃいました?
高田:もっと難しくなってきた(笑)。
岩澤:もっと難しくなっちゃった? 簡単に言うと、何か物を買いたいとなった時の期待値ってあるじゃないですか。「この商品とかこの商材って、これだけの価値があるかなと思って買ってみたら、ぜんぜん価値が違う」。これがバリューギャップと言われたりするんですけど。
そこのギャップが生まれた瞬間にみんな離脱するじゃないですか。アメリカのデータを見ると、80パーセントはもう戻ってこないんですよね。
稲荷田:「信じてたのに裏切られた!」みたいな、そんな感覚ですね。
岩澤:そうです。なので、ある意味で焼畑になっちゃうわけですよね。日本は人も減っているし、企業も減っていっているじゃないですか。そんな焼畑をやっちゃったら、もう経済活動が成り立たないというところまで追い込まれているわけですよね。
なので、そこのギャップを埋めていくために、このコミューンがさまざまなプロダクトを提供して支えていく。そういう世界観を実現していくというメッセージだと思うんですよね。
稲荷田:確かにtoCでも、ことtoBで言っても、お客さんの見込み顧客とかターゲットとかが限られちゃっているのに雑な営業をしていたら、まさに焼畑みたいになっちゃって。どんなにいいプロダクトをリリースしても、見向きもしてくれないみたいな状態なのかなとも。
岩澤:海外だと(その状態でも)いいと思うんですよね。アメリカとか、いまだに人口が伸びてるじゃないですか。アジアも伸びてるじゃないですか。でも日本ってそうじゃないので、一つひとつ丁寧にやっていかなきゃいけないっていう環境だと思います。
「いい会社=儲かっている会社」ではない
岩澤:実際に今、いろいろな株主だったり従業員だったりに対する信頼を損なうというところが、企業としての活動が止まってしまう1つの要因にもなっていると思うので。ある意味、その信頼というのが今後、経営においても大きなキーワードになってきそうですよね。
高田:と、我々は思っていますね。もちろん「売上を伸ばします」「利益を伸ばします」「時価総額を伸ばします」っていうのも、結果としては当然目指すべきだとは思うんですけれども、我々が果たすべき社会的役割が何かっていうと、お客さんとか従業員に誠実に向き合って、信頼を得ている会社ってあるじゃないですか。そういう会社って「いい会社」って言われるじゃないですか。
稲荷田:はい。
高田:今って、いい会社であるということと、めちゃくちゃ儲かっている会社であるというのが、イコールじゃないと思っているんですよ。
稲荷田:そうですね。
高田:もちろん両立している会社もぜんぜんあると思うんですけど。いい会社だからって儲かるわけじゃないし、いい会社じゃなくたって儲かっていたりもするというのが現実かなと思っていて。それが変わってきていると私は思っているんですよ。マクロの変化もあって変わってきていると思うんですけど。
その変わっていることとか、「そういうのってなんとなく大事だよね」っていうことをはるかに超えて、そこに投資しなきゃいけない。信頼に投資をすることが経済合理的なんだってすべての経営者が思うようになるべきだと私は思っていて。そのためには信頼に投資することが経済合理的だという証明が必要だと思うんですよね。
あるいはすごくインパクトのあるものなんだっていうことをみんなが思えるような定量的な証明を我々ができると、社会において果たす役割が大きいのかなと思っています。
稲荷田:ありがとうございます。