【3行要約】・ AIの画像認識は2013年のディープラーニング登場で飛躍的に進化し、「機械が目を持つ」という革命的変化をもたらしました。
・FiNC共同創業者の南野充則氏は、エネルギー最適化の研究からヘルスケア分野へ転身し、科学的アプローチの欠如という課題に着目しました。
・南野氏は食事記録の自動化など画像認識技術をヘルスケアに活用することで、面倒な健康管理を簡便にし、科学的根拠に基づくサービス提供を目指しています。
前回の記事はこちら 松尾豊教授が語った、ディープラーニング出現の衝撃
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):そのタイミングでAIは、世間的にもけっこう知られ始めたりしていたんですか?
南野充則氏(以下、南野):いや、当時は2010年とかなんですけど、AIの前身でディープラーニングが出始めたのが2013年とかなんですよ。
稲荷田:おぉ。
南野:なので、情報とかビッグデータとかは、けっこうキーワードとしてあったんですけど、その先の解析のAIの技術はぜんぜんでてきていなくて。でもWeb工学とか、Webとか、そういったのはけっこうキーワードとして出ていたような感じですね。
稲荷田:それでなぜ、AIにより注目したかは覚えていますか?
南野:エネルギーがすごく楽しいなと思ったんですよね。その情報の中でもエネルギーをどんどん突き詰めていくのっておもしろいなと思って、エネルギーを作ったり溜めたりするような研究をしている研究室に行ったんです。
すると、その研究室で、どれだけ電力が使われるかを予測することと、その予測した電力において、どういう発電をするのが一番効率がいいのかみたいなのを、風力発電とか火力発電とか太陽光とか、再エネも含めて最適化するみたいな研究をしていたんですね。
その時に、やはり予測するのは、アルゴリズムをけっこう作らなきゃいけないんですよね。そこでAIや前身で言うとニューラルネットワークとか。そういったようなアルゴリズムを作って、明日の日射量を予測するとか、この1ヶ月の電力需要を予測するとか。そういったことをしていたんですよ。なので、そこでAIと触れ合っていて、ずっとAIを使っていろいろ開発していたんですけど。
2013年ぐらいにディープラーニングという、そのニューラルネットワークを重ね合わせて多層にする技術が出てきたんですよ。今まで画像認識はぜんぜんできなかったんですよね。情報量が多すぎて、今までのアルゴリズムと認識精度が悪い。でもディープラーニングを使うと「ついにコンピュータが猫を認識できた!」「これはすごい!」となったんですよ。
稲荷田:ちなみに当時は、何がどう画期的だったんですか?
南野:今までテキストの分析や数字の計算とかはできたんですけど、画像を「これが何か」と捉えることはできなかったんです。東大の松尾(豊)教授という、ディープラーニング協会の理事を一緒にやっている理事長の先生が、僕の研究室の恩師でもあるんですけど。
稲荷田:そうなんですね。
南野:(先生が)言っていたのは「目ができた」と。今までのレベルで言うと、昔は目がない状態でいろいろ探索していた。人間で考えても、目がない状態でけっこういろんな情報が入ってくるけど、何かは認識できていない状態だと。
でもディープラーニングが出て、ついに目を手に入れた。ロボットとかも今まで画像を認識できていなかったから、どこに何があるかわからなかったことが、ディープラーニングが出たことによって、ロボットも目を手に入れた。いろんな職種に一気に広がって、より効率化されていく第一歩が切り開かれたというのが、そのディープラーニングの登場で起こった。
要するに機械が目を使えるようになったということなんですけど。それはすごく果てしなくイノベーションが起こったよね、みたいなところでした。
ヘルスケアのスタートアップを始めた理由
稲荷田:じゃあ、それを持ってして、こういうアクションをしたとかはあるんですか?
南野:それで言うと僕は大学の時に書いた、エネルギーを最適化した論文が世界一の論文になって、賞をもらいました。それで、研究はいったん「もういいかな」と思ったんです。
稲荷田:へー。そのままその道で突き進むとは、ならなかったんですか?
南野:はい。やはり「会社を作りたいな」というのがあったので。大学3年生ぐらいの時から会社を作ったり、ちょっとビジネスを始めたりしました。それで大学4年生の時、卒業するぐらいにFiNCというヘルスケアのスタートアップを共同で作ったのが、そもそもの始まりなんです。2012年だとまだディープラーニングが出ていない状態で、(ディープラーニングは)2013年に出たので。
FiNCで何をやるか。僕は今までエネルギーを科学して最適化した。それで次にやりたいことは、人間の体をデータ化して、何を食べたらその人は健康になるのかとか、何をしたら痩せるのかとか、何をしたら病気が治るのか(ということでした)。例えば「息を吐くだけダイエット」とか「胡瓜ダイエット」とか、いろんなダイエットがあるじゃないですか。
稲荷田:ありますね。
南野:でもみんな、やったあとにリバウンドするじゃないですか。これって、おかしい話で。もう絶対にルールが決まっているから、ちゃんと科学的にやればうまくいくはずなのに、マーケティングのよさもあって、わかりやすいものばかり流行るんですよね。
これをちゃんとゼロから解明したらいいんじゃないかと思いました。今後、高齢化で医療費が上がっていくので、それができることでめちゃくちゃ日本のためにもなるし。日本でできたモデルを例えば中国とか、これからまた高齢化していくところにどんどん持っていけば日本モデルを展開できるな、というのでFiNCを作りました。
稲荷田:ちなみにそのタイミングで、エネルギーをやっていたわけじゃないですか。エネルギーからヘルスケア領域に行くって、またちょっと興味領域としては違う気もするんですけど。どうしてなんですか?
南野:それで言うと、全部最適化というのに括れると思っていたんですよね。データ化して、それを組み替えて計算したらアウトプットが変わる。これは要するに、何かを最適化しているわけなんですよ。それでエネルギーをやっていたんですけど、エネルギーで起業しようと思ったら、やはり発電所を作るとか、「これはまた初期投資がめちゃくちゃかかるやん」と思ったんですよ。
でも健康データは別にいろんなアプリから取れるし、自分も使えるし。健康領域は高齢化していく、医療費が上がっていくという日本の課題にもフィットしているし、かつ初期投資も少なくできる。
かつそのデータの組み換え・最適化によって課題が解決できるというところで、「今までやってきたことにもつながってくるなぁ」みたいにすごくストーリー性もある。ヘルスケア領域で(課題を)解きたいなと思ったのが、その時ですね。
共同創業した溝口勇児氏との出会い
稲荷田:FiNCのタイミングで初めてヘルスケア領域をされたわけではないんですよね? その前身の、ご自身の会社でもヘルスケア領域を(やられていた)?
南野:いや、自分の会社では、オンプレをクラウドに変えてあげるサービスの企業と一緒にやっていたりして。それで研究室のメンバーとかと一緒に受託開発みたいなことをしていたのが最初です。
稲荷田:じゃあFiNCさんは、共同創業みたいなかたちになるんですか?
南野:そうですね。
稲荷田:その時のエピソードと言いますか、どういう感じでご一緒されたのですか?
南野:「健康をやりたいな」と思った時に、共同創業した溝口(勇児)さんと出会って。溝口さんはジムを持っていたり、もともとトレーナーだったり、プロの野球選手のトレーナーをしていたりして、栄養と運動の知識がすごくあったんですよ。僕はどちらかというと、今から栄養と運動の知識を勉強しながらアルゴリズムを作っていこうと思っていたので。
専門家の人もいるし、僕はシステムを作れるから「一緒にやったら、すごく速く進みそうだな」と思って、「一緒に作ろう」と。向こうからもお誘いが来たし、僕も「一緒にやりましょう」となって、最初に一緒に作ったのがFiNCの前身です。
稲荷田:そもそもの出会いは、どんな感じだったんですか?
南野:出会いは共通の友人がいまして。僕が中高大で同級生だったオクムラくんという人がいるんですけど。そのオクムラくんが溝口さんとフットサル仲間で。その時に「南野、お前ヘルスケアをやるって言ってたよね」「溝口さんという人もヘルスケアでアプリを作りたいと言っていて、たぶんお前とやろうとしている仕事が一緒だから、一緒にやったらいいんじゃない?」というので紹介してもらった記憶があります。
稲荷田:当時の溝口さんの印象はどうですか?
南野:まぁ、背が高いんですけど。
稲荷田:ガタイがすごく良いですよね。
南野:大きいし、トレーニングもすごく詳しいし、栄養も詳しいし、やりたい課題も解く課題も一緒だったので。これはすごくおもしろいなと思って「一緒にやろう!」みたいな話になった記憶があります。
稲荷田:その時は溝口さんがCEO?
南野:そうですね。溝口さんがCEOで、僕はCTOで、やり始めたという感じです。
稲荷田:おぉ。創業でいくと何年になるんでしたっけ?
南野:創業が2012年。
面倒な「食事記録」の自動化を目指して
稲荷田:2012年。それで、結果的にバトンタッチをされたのはいつですか?
南野:バトンタッチは2020年ですね。
稲荷田:あぁ、そうなんですね。余談すぎてちょっと言おうか迷いましたけど、僕は2019年ぐらい、まさに新卒ぐらいの時に、スタートアップやベンチャーに入って「バキバキやっていくぞ!」とアプリとかいろんなのを触っていた時があって、FiNCさんをダウンロードしてですね。
南野:ありがとうございます。
稲荷田:しかも有料会員にもならせていただいて(笑)。当時、体重計……。
南野:体重計、あれがやはり一番みんな使ってくれていましたね。
稲荷田:そうですよね。あれはアプリと連携していてよかったなというのと。あと、今も自宅でFiNCさんのヨガマットを使わせていただいたりしています。
南野:あぁ、ありがとうございます。
稲荷田:今溝口さんも別のかたちで、経営者という意味ですごく有名でいらっしゃいますけども。
南野:そうですね(笑)。
稲荷田:引き継ぎのところにももうちょっと触れたいんですが。その前段で、AIのラボも途中で作られたりもしていたと思うんですけど。これがどういうものだったのかも教えてもらえますか?
南野:まさにそのディープラーニングが出たこととすごく紐づくんですけど。やはり普通に健康センサーを使って、例えば体重計とかFitbitと連携してデータを集めていくこともやっていました。やはりディープラーニングで一番インパクトが大きいのは、その時は画像を認識できることだったんですよね。
すると、やはり食事画像を認識したい。食事記録って面倒くさいじゃないですか。でも写真をパシッと撮っておけば、めちゃくちゃ簡単に記録ができて、しかもカロリーも計算してくれたら便利だなと思って。その食事画像の認識をまず進めていきたいなと考えていました。その成果、僕たちも痩せたり。健康になるために大事なのは、実は運動より食事なんですよ。
稲荷田:へー! そうなんですね。
南野:食事8割、運動2割ぐらいな。
稲荷田:8割もあるんですね。
南野:食事で何を食べているのかが一番インパクトが大きくて。僕は栄養士さんが2ヶ月帯同して、一緒に食事指導とか、運動も教えてくれて、それで体質改善するみたいなことを有料サービスでやっていたんですが。
その時に、やはり何を食べたかの写真をお客さんに送ってもらって、それを栄養士の人が見て「これはいいです」「これとこれは組み合わせが悪いので、これとこれを食べましょう」「量がちょっと多すぎる」とかをやっていたんですけど。これを自動化したらすごくおもしろいなと思っていて。
FiNCのラボでは、その食事の画像解析から始まって、どういう人が、何を食べて、どう体質が変わるのかみたいなことを研究していきたいなというところで、立ち上げて作ったという感じですね。