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#109 StoryHub株式会社 代表取締役CEO 田島将太 氏(全4記事)

“AIに自社を学習されたくない”という考えの落とし穴 深津貴之氏が指摘する、企業がAIに与えるべき情報 [2/2]

メディアが捨てていた情報をコンテンツにできないか

稲荷田:今はコンテンツをリッチにするということですね。前編でも、スマートニュース時代は触れられなかったコンテンツ作りのところに課題感があられた(ということでした)。ちなみに最初のお客さんはメディア企業さんだと思うんですけど、コンテンツ作りにおいて何を課題に感じていらっしゃるのかをもう少し(詳しく教えて)いただけますか?

田島:そうですね。メディア企業という点で考えると、今は労働力不足であったり、オーディエンスに届くチャンネルがすごく複雑化していたりします。なので、記事を1個作って終わりではありません。例えば動画を作ったり、ショート(動画)を作ったり、テキストを作ったり、ダイジェストを作ったり、投稿したりします。

1つのトピックを何度も再編集しなきゃいけない。しかも競争は激化している中で、どうしても経済合理性の高い、みんなが気になるコンテンツだけにトピックが偏ってしまいます。そういった、作る効率や求められるコンテンツの数に対する労働力不足、あとは経済合理的に、みんなが見たいコンテンツに偏ってしまうことが課題かなと思っています。

ただ一方で、メディア企業には世に出ていない情報がすごくたくさんあるんですよね。テレビ局であれば、取材した情報の8割ぐらいは尺の都合上で捨てざるを得ない。出版社も紙では出しているけどWebに出していないコンテンツが大量にある。ここをうまくコンテンツ化できると、今までの取材量は同じでも出せるコンテンツがたくさん増えていくなという感じです。

逆に、後半の(執筆・編集の)工程が効率化することで、より取材に力をかけられるという、いい循環が生まれるなと思いました。今のメディア企業は(そこに)課題があります。ただ、コンテンツを作って課題を解決するのは、一般企業でも同じだと思っています。

(一般企業でも)会社の魅力を伝えるために採用コンテンツを作ったり、商品を売るためのコンテンツマーケティングをしたりします。今までは虚空に消えていたおもしろい会話や、社内に埋もれているおもしろいトピックがすごくたくさんあると思います。

そういったものを伝えられていないのが、一般的なほぼすべての企業の課題かなと思います。それをうまくすくい取ってかたちにするようなサービスにしたいなと当面は考えていますね。

多角化するコンテンツ需要をAIで支える

稲荷田:メディア企業さんの話でいけば、ビューやアテンションが取れる記事は、当然釣りでなければ価値はあるから続けてほしい。けれども、どちらかというと経済合理性が低いような、ロングテールというか、よりニッチな分野でも、必要としている方々がいるんだったら本来は届けるべきだと。

そういう情報が活用できるようになってくるかもしれない。ないしは前後の省工数によって、そのあたりのコンテンツをよりリッチに届けることができるんじゃないか。そこのお手伝いもしたいということなんですね?

田島:そうですね。PV(に応じて利益を得る無料)広告モデルでは経済合理性が低くても、サブスクモデルだと価値があるコンテンツってけっこうたくさんあるんですよね。

やはりWebメディアのビジネスモデルが多様化していく中で、「PVを取るためにはこういったもの」「サブスクを取るためにはこういったもの」「コミュニティを築くにはこういったもの」というふうに、作るコンテンツの性質はけっこう変わってきます。(それを)一編集部で全部やるには、たぶんAIの助けを借りないとけっこう難しいんじゃないかなという課題感がありました。

AIをブロックしたら起こること

稲荷田:深津さんはこれまでに、企業のコンテンツ制作にアドバイスされたり、携わられたりしたこともあると思います。このあたりがAIの活用によってどう効率化できるのか、ないしはコンテンツの質を良くしていくのか。(また、そこで)StoryHubさんはどういう貢献や活躍ができるか。そういったところの視点をいただけますか?

深津:そこについては、AIに対して今企業が考えていることを1個逆転させないといけないなと僕は思っています。今はみんな、「AIが(Web上の)データをクロールしている。うちの記事も学習されて盗まれちゃう。どうしよう?」と思っているじゃないですか。あれをブロックしようとしているけれども、ブロックした後にどういう社会や時代が来るかを想定すると、あれは(やるべき対応として)逆だと思うんですよね。

つまり、AIを完全にブロックしたメディアや企業に何が起きるかっていうと、AIはその会社のことを知らないので、AIに聞いても紹介や言及してくれないということが起きると考えています。

かつての「右クリック禁止」問題の再来

深津:なので今やるべきことは、逆にAIがうちの会社を理解してくれるための解像度の高い情報やエピソード、(また、)どういう時にこの会社を紹介すればいいか、どういうことが得意なのかという情報を、いかにたくさんちゃんと増やして、今のうちにAIに学習しておいてもらうかが重要です。

要はSEOと同じですよね。AIがその会社を詳しく知っていれば、AIに対して困り事を相談した時に、「それなら〇〇社さんのなになにっていうサービスを使うといいですよ」とか「〇〇社さんはこういう会社ですよ」っていうのを、解像度高く答えられます。

今はみんな、10年前、20年前でいうところの「JavaScriptで右クリック禁止」とか「SNSでの見出し・タイトル共有禁止」に近いことをやっていると思うんです。けれども、むしろ読まれた時の利益を最大化するために、どういう設計をしたほうがいいかを考えるべきです。

むしろ、読まれてウェルカムな我が社のいろんなエピソードや、重要な意思決定の考え方。社員にどういうことを求めているか。うちの会社はどういう沿革で、どういう魅力があるのか。StoryHubを使うのであれば、(そういったものを)どんどん増やしていくべきフェーズではないかなと思っています。

AIがアクセスできる情報を担保しておく

稲荷田:確かに。AIの性能がすごく進化した時に、何が体験(価値)を上げてくれるかっていうと、アクセスできる情報量だったりしますよね。

深津:そう。AIが知っていてくれるか、知らないかっていうのは、けっこう重要です。

田島:確かに。ちょっと細かい話になっちゃうんですけど(笑)、深津さんはけっこうよく体の調子をモニタリングしてデータを溜めていますよね。「いつかAIに(データを)食わせよう」みたいな(笑)。

深津:あぁ、そうですね(笑)。人間ドックのデータをちゃんと溜めておくと、いつかAIに「10年分の人間ドックです」と渡せる人と、「10年前のデータは持っていないので、今年のデータだけです」と渡す人で、たぶん寿命や健康にいろいろとずれが生じてくる気がするんですよね。

田島:同じことがけっこう企業にも言えそうだなと思っていて。

稲荷田:おぉ、どういうことですか?

田島:いざAIがすごく進化して「自分たちに超おすすめの採用候補者を連れてきてくれますか?」と頼んだとします。その時に、過去10年間にその企業が思想を(Webに情報として)出しているとすごくいい人を持ってきてくれるけど、そういうのをぜんぜん出していないと、AIは企業のことを何も知らないのでうまくレコメンドできないみたいな。

(なので、)AIの性能がすごく上がることを事前に見越した準備をしておくのが大事なのかなという気がしています。

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