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#107 株式会社ヘンリー 代表取締役 逆瀬川光人氏(全4記事)

リリース直前でサービスの作り直し発生… 難易度の高い医療DXに若手起業家が挑む理由

【3行要約】
・医療現場では電子カルテの導入率が50パーセント程度にとどまり、業務効率化が遅れているという課題が存在します。
・ヘンリー社は「社会課題が大きく、継続的なビジネスで解決できる」医療領域に参入し、特に競合の少ない病院向け市場を狙っています。
・逆瀬川氏は開発の難しさに直面しながらも「コアだからやりきる」という覚悟で、多職種連携の複雑さに対応した新世代の電子カルテシステムの構築に挑んでいます。

前回の記事はこちら

ビジネスと開発の側面から迫るヘンリーの魅力

稲荷田和也氏(以下、稲荷田):声で届ける起業家の物語、『Startup Now』。MCの、おいなりです。株式会社ヘンリー代表取締役、逆瀬川光人さんへのインタビューの続きをお送りいたします。

後編からは同社のVPoE(Vice President of Engineering)兼VPoT(Vice President of Technology)でいらっしゃいますKengo TODAさんにもご出演いただきまして、ビジネスと開発の2つの側面から、ヘンリーさんの魅力に迫っていきたいと思っております。

それではTODAさん、まずは1分程度で自己紹介をお願いできますでしょうか。

Kengo TODA氏(以下、TODA):株式会社ヘンリーのTODAと申します。前職は、人事や給与の基幹システムをパッケージしているワークスアプリケーションズで、プログラマーとして働いていました。

パッケージもおもしろいんですけど、その延長線としてSaaSも良さそうだなと思って、SaaSを中心に転職活動していた時にヘンリーに声をかけてもらって、これはおもしろそうだなと。私は医療のバックグラウンドはそんなになかったんですけど、(いろいろと)調べてジョインさせていただいたというところです。

今もやっているんですけど、もともとSRE(Site Reliability Engineering サイト信頼性エンジニアリング)をやっておりまして。2025年からVPoTとVPoEとして、対外発信などをやらせていただいています。よろしくお願いします。

次回のゲストは逆瀬川氏のお母さん?

稲荷田:お願いいたします。前編もご同席いただいておりましたけれども、聞かれていた中でのご感想を教えていただけますか?

TODA:(逆瀬川氏の母親が起業家であるというエピソードを踏まえて)『Startup Now』の次のゲストはたぶん、逆さん(逆瀬川さんのニックネーム)のお母さんがいいんじゃないですか(笑)。

稲荷田:(笑)。まさにそれ、僕も先ほど言おうか迷ったんですよ。「お母さん、会いたいっす」って。良いお母さんでしたね。

TODA:逆さんご自身が非常に魅力的な方なんですけど、それはご家族に魅力があったんだなと。

稲荷田:確かに、同じ感想です。ありがとうございます。たぶんリスナーさんもそう思っているんじゃないかなと思いますけどね。

創業領域を医療に定めた理由

稲荷田:そして前編で「なんで医療なのか」みたいなことを聞けなかったので、そこをお二人に少しずつ聞きたいなと思います。逆瀬川さんは、言うのが難しいかもしれないですけど、なんでここの領域にしたのか? みたいなところを少しいただいてもいいですか?

逆瀬川光人氏(以下、逆瀬川):医療領域を選んだところで言いますと、ちょうど起業した時に「社会課題が大きい」こと。あと「継続的なビジネスでより大きい課題が解決できる」こと。そこの2つにピン留めしていました。

そうなってくると日本で大きく残っているアジェンダ、当時の僕らが良さそうだなと思ったところが、物流とか小売とか医療とか。お金稼ぎもちゃんとできて、大きい課題が残っているところは限られているということで、その中で医療を選ばせていただいた感じですね。

稲荷田:その中で、なぜ医療だったんですか?

逆瀬川:海外のサイトやサービスをいろいろ調べる中で、どうやら医療の業務の生産性にけっこう課題があるんじゃないかというところも見えてきて。

実際に、お医者さん20~30人ぐらいにヒアリングさせていただくと、基幹システムである電子カルテの使い勝手がなかなか良くないとか、業務で「カルテばっかり入れています」「書類ばっかり作っています」みたいな声も多かったんです。そういったペインを聞いて、じゃあ我々で何かをやってみようかというのでやらせていただきました。

もう1個は(医療機関に)いらっしゃる方はけっこう志の高い方が多くて。「日本の医療を良くしたい」とか、「地域の住民の方々にどうにか健康になってほしい」みたいな思いが強い方が多かったので、そこでモチベーションもグッと上がりました。

最後に初期ユーザーとして、自分の大学時代の友だちが医者で、「電子カルテを入れてあげるよ」と言ってくれたので、顧客も見つかって決めたかたちです。

稲荷田:すごい。じゃあ市場性と、最後は人みたいなところだったんですね。

逆瀬川:そうですね。

技術視点で見た医療DXの魅力

稲荷田:いいですね。ちなみにTODAさん、先ほどお声がけいただいたあとに「医療、アリだな」と思われた、みたいな話をいただきました。TODAさんの視点だと、どんなところが魅力に映ったんですか?

TODA:まずタイムマシン(経営)じゃないですけど、やはり、よそで成功している事例がたくさんある。国外もそうですし、ほかの業界に目を向けた時に、すでに成功事例があることも医療業界ではできていないというのが1個あります。

自分の経験はパッケージで積み上げてきたんですけど、そのパッケージ自体もそんなにうまく(医療業界に)入っていないんですよね。

稲荷田:あ、そうなんですね。

TODA:そう。なので当たり前のことを愚直にやるだけでかなり勝てると、まず思ったということですね。

稲荷田:ちなみに今の「パッケージさえも入っていない」というのは、(医療業界の)みなさんは、手書きとかExcelとか、そういう領域でやられているということなんですか?

TODA:そうですね。今、電子カルテの浸透率というか導入率は良くて50パーセントとかなので、そもそも「紙でやっています」みたいな医療機関さんは多いです。あとは自分の母親が医療関係者だったので。

稲荷田:ああ、そうなんですか。

TODA:あと自分も、持病まではいかないんですけど、ずっと通院していたので、患者としてのバックグラウンドはまあまああって、これだったらいけるんじゃないかなと思えたんです。

電子カルテ×レセコンで狙うポジション

稲荷田:なるほど、ありがとうございます。ちょっとまたビジネス側面で逆瀬川さんにも聞いてみたいなと思うんですけど。

この電子カルテ、レセコンの領域のスタートアップはちょくちょく増えているなと感じます。その中で今、ヘンリーさんはどんなポジションを取っていらっしゃるのか。ないしは、取りにいこうとしているのかを教えていただけますか。

逆瀬川:今、大きく分類で言うと、診療所と病院があって。ざっくり、病院はベッドがあって入院ができる。診療所は特に無床診療所がメインで、僕らが風邪をひいて、受付して診察して帰るというかたちで、外来業務だけなんですよ。

かなり増えてきている領域で言うと診療所向けのサービスで、そこはベンチャーもけっこう多く入ってきています。もちろん、我々も始めはそちらから入ったんですけども、病院向けの領域だと入院の業務があって算定も複雑です。

稲荷田:ややこしそうですね。

空白地帯をどう突くか

逆瀬川:かつ外来だと基本は受付の方とお医者さんだけなんですけど、病院の中には看護師さんとかリハビリの方とか、めちゃくちゃいろんな職種の方がいらっしゃるんです。いろんな職種の方が1人の患者さんにいろいろ治療したり、コラボレーションしたりしながらやっていきますので、業務の依存関係とかがめちゃくちゃ複雑でして。

そこの複雑性と算定がかなり大変ということで、クラウドだとプレイヤーがぜんぜんいないというところです。

なのでオンプレミスが多くて、基本的に競合はSIerになるんですけども、こちらだと20~30年前に作られたパッケージシステムで。それこそコロナとか、少子高齢化が予想より早く進んでいるみたいな、今の時代の変化に合わせた業務の提案がなかなか難しいと思っています。

我々はそこをクラウドで、しっかり時代にも合った状態で提供しますし、何よりパッケージのソフトよりも安く提供できるというところで、市場に受け入れられつつあるのが今ですね。

あえて難易度の高い領域に挑む

稲荷田:なるほど。今の話を聞いていると、すごく難易度が高い領域を攻められているなという気がしていて。ある意味ではスタートアップとしては挑まないほうがいいかも、ないしは、すごく時間がかかるんじゃないか、みたいな発想もあると思うんですけど。

これはもしかしたら市場規模の話なのか、ペインの深さなのかわからないですけど、いろんな観点がある気がしていて。あえてそこにピン留めをした理由を教えていただけますか?

逆瀬川:やはり社会課題を解決し続けたいということをベースとして考えているので、ど真ん中の領域をやりたくて、それが電子カルテだったのがあります。ある種のビギナーズラックじゃないですけど、そういう部分はあって。レセコンは知れば知るほどめちゃくちゃ難しいんですけども。

稲荷田:怖すぎて知りたくもないぐらい(笑)。

逆瀬川:そうですね(笑)。当時は私も新規事業の経験が10年あって、林(太郎)さんもいろいろやっていて。

稲荷田:共同創業者(の林太郎さん)。

逆瀬川:いけるんじゃないかと、けっこう見切り発車で始めた部分もあって(笑)。そこで知れば知るほど難しいんだが、そこがコアであるということもわかってきた。で、もう始めているし、コアでもあるからやりきろうと言って、今に至っていますね。

リリース直前に作り直しが発生

稲荷田:とはいえ、ぶつかった壁が無限にある気がするんですけど。「これはきつかったな」とか、そういうのはあります?

逆瀬川:そうですね、何個もあるんですけど……。

稲荷田:何個も、そうですよね(笑)。

逆瀬川:それこそ前回の資金調達のタイミング、ちょうど病院版が出来上がる前、最初に入れるはずだったユーザーさんにお披露目をするタイミングだったんですけども。

難しい領域だったので品質がかなり低くて、そこから正直にその状況をお伝えして仕切り直して。半年から9ヶ月ぐらい、完全に会社全体を開発に寄せた舵切りをして作りきったのはすごく大変でした。ある種のリリース直前に作り直しが発覚して。

稲荷田:ヤバいですね……。

逆瀬川:営業も、もともとクリニックとかにも売っていたんですけど全部止めて、とにかく作るところに全員でフォーカスしたのがかなりハードシングスというか、大変でしたね。

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