【3行要約】・スタートアップの資金調達では「何を見られているか」が不明確で、適切な準備がしづらいことがあります。
・グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮氏は、newmoへの投資事例を元に解説します。
・高宮氏は、投資判断では「ブレない大局観」「柔軟な戦略性」「正しい時間軸設定」が大事だと語ります。
前回の記事はこちら newmoに投資した経緯
矢澤麻里子氏(以下、矢澤):ありがとうございます。今、(井上)加奈子さんと関さんのお話を聞いていると、ファウンダーマーケットフィットとかがキーワードとして挙がってくるのかなと思う中で高宮さん、いかがでしょうか?
高宮慎一氏(以下、高宮):そうですね。では、ファウンダー・マーケット・フィットというところを受けてお話ししたいと思います。イチオシの起業家と言われると、「お子さんの中で、どのお子さんが一番好きですか?」と聞かれるぐらい実は難しい質問なので(笑)。
矢澤:確かに(笑)。
高宮:ファウンダー・マーケット・フィットという観点と、昨日プレスリリースが出たばかりでホットな話題でみなさん興味あるかもなみたいな話で言うと、newmo。青柳(直樹)さんの会社に投資をしました。そして、昨日ちょうどシリーズAが179億円でクローズしました。
矢澤:すごい(笑)。
高宮:それで、それをリードで投資した背景なんですが。まさに、ファウンダー・マーケット・フィットという観点で言うと、実は青柳さんはもともとグリーの1桁番目の社員で、グリーを上場時のCFOで、グリーの海外事業を率いてアメリカ事業のトップを勤め、アメリカで買収とかもしていました。
その後メルカリで、ジャパンCEOに就任し、メルペイを立ち上げたというキャリアの方です。もともと青柳さんは、グリーの時から、うちの投資先だったので知っていました。かつ実はあまり知られていないと思うんですけど、子供の幼稚園のパパ友なんです。
矢澤:なるほど(笑)。
VCは投資する時「人」を見ている
高宮:しかも僕の投資先だったメルカリにもジョインしてくれていて、めちゃくちゃ前から仕事ぶりも人柄も知っていました。1つそこであるのは、僕らVCは投資する時、「人が大事ですよね」ということで投資をしますし。「人って何ですか?」「人のこういうところを見ています」というのがキャピタリストごとに違うところで、アートな部分で芸風が出るところだったりすると思います。
いきなり「資金調達します。3ヶ月後にクローズするので、話を聞いてください」と言っても、もうそのタイミングは利害が発生してしまい、お互いにお化粧し合うタイミングとなってしまい、なかなか本音の部分が見えない。人と人との相性の部分に関しては、助走期間がないと起業家と投資家の両方ともわかりにくいと思います。まぁ、「グリー時代から15年知っています」みたいなのも、なかなかご縁がないと難しいと思うんですけども、少なくとも数年来の関係性がありますという方が、信頼関係ができていて、お互いに投資されやすい、投資しやすいというのはあります。
実際の資金調達のラウンドが見えてくる前に、1年越し、2年越しぐらいに「この投資家、いいかも」という仮説をもって、実際に接点をもってみるというのが重要だと思います。前のラウンド、シードの投資家とかに「合いそうなVC、合いそうな担当キャピタリストは誰ですか?」と紹介してもらって、相性を確認しておきながら、事業のディスカッションを重ねていくのがいいと思います。ファウンダーVC担当者フィットみたいなのがあると思っています。
矢澤:ファウンダーVC担当者フィット(笑)。
事業を始める前から「相性の良さそうなVC」と話をしておく
高宮:長期的にリレーションを築くと、たぶんいい形になるんじゃないかなというのが、みなさんにテイクアウェイしていただける点かなと思います。

ちょっと脇道に逸れちゃってごめんなさい。ファウンダーマーケットフィットで言うと、青柳さんの経歴でいうと、インターネットの人みたいに思われがちなんですけども。オープンになっていると思うのでたぶん言って大丈夫だと思うのですが、実は、メルカリにジョインする前に1回、ライドシェア、タクシー会社をやりかけています。
その時点でタクシーを運転できる2種免許を自分で取って、自らがタクシードライバーになれるようなところまでやって、コミットしてやっていたんですよ。当時、お金も集まりかけていたんですが、その時はタイミングが合わず始めなかったんで、実は2回目のチャレンジなんです。
矢澤:そうだったんですね。
高宮:その領域にずっとコミットして、ファウンダーとしてこの領域にパッションを持って、ずっと思い続けたみたいなことがあります。それで自分でタクシーを運転するぐらい、その業界に入りこんだという意味で言うと、もうめちゃくちゃこの領域にフィット感があります。
矢澤:それは、すごいですね。その領域に興味があって、どこまでそれをパッションを持ってやれているかどうかも含めて、高宮さんは長期にわたって見られてきた。そうやって信頼関係があったからこそ、迷いがなく投資を(できた)。もちろん実績もあるからかもしれないんですけど。
高宮:そうですね。例えば2024年に規制緩和の議論が始まったタイミングで、ライドシェアをやりますというのは、誰でも言えます。でも、ライドシェアの議論も始まっておらず、規制でガチガチに守られた7年ぐらい前のタイミングからやりたいというのは、パッションがあることの証明です。
だから、起業家としては、まだその領域で会社を設立すらしていない状況から、自分と合いそうだと思うVCとそういう話をしておくと、VCに対して「自分はこの領域に、こんなにパッションがある。パッションがあるからこそ、こんなに詳しいし、領域にフィット感があるよ」ということを利害のない状態でフラットに見せることができるので、それはいいのかなと思いますね。
投資判断時に見るのは「ステージ相応かどうか」
矢澤:ありがとうございます。その信頼関係もすごく重要ですね。ただ、起業家からすると「こんな生煮えの状態で投資家に持っていって大丈夫なのか?」を心配する方もいると思います。場合によってはピボットの可能性もあるとすると、「自分たちがここの領域に興味を持ってやっています」ということが変わる可能性から、信頼してもらえない怖さもあるのかな? そこはどう見られますか?
高宮:それはまさに3点目の質問の、投資判断時にどこを厳しく見て、どこを許容するかに関連すると思うんですけど。僕が個人的に見ているのは、ステージ相応かという点です。
矢澤:ステージですね。
高宮:はい。結局投資って、リスクがあるからリターンがあって、リスクがないところでリターンはないという話でいくと、シードならシード、シリーズAならシリーズAなりに、リスクがあること自体はしょうがない。すべてが順調である必要はないし、すべてがわかっている必要もない。「ここは検証できているけど、ここはまだアンノウンです」みたいなところがあってもいいと思っているんですよ。
逆に、事業の展開のクリティカルなマイルストーンとか、道筋はあると思っています。シード期だったらそもそも受容性があるかどうかをPDCAを回して確認する。例えば、早期のシード期であれば必ずしも具体的にトラクションがなくてもいいと思います。トラクションがないからといって、マイナスのマーケティングになっちゃうんじゃないかというのは気にする必要はないと思います。
数社にしかヒアリングをしていなくて、「N数が少ないんだけど、受容性があるのはヒアリングで確認できます。次のステップとしては、こういう実験をしようと思っています」みたいな。わからないところがわかっていて、わからないところをわかるようにするためにこういうことをやろうと思っています、みたいな組み立てそのものが、投資家向けにはポジティブなメッセージになります。経営者として戦略的、合理的に動けるというサインになると思うので。
すべてのタイミングで、すべての答えがある必要はないと思っています。合理的にこういう活動をすれば正しいであろう方向に近づくんじゃないかという仮説さえあればいいと思っています。
大事なのは「ブレない大局観」「柔軟な戦略性」「正しい時間軸設定」
矢澤:ありがとうございます。そうすると次の質問テーマのところの、どの起業家に投資したくなるかとか、好きな起業家の特徴みたいなものも、この流れでおうかがいしていきたいなと思うんですけど。そうすると高宮さんは、信頼関係とかそういったところを重視されて、どういう行動を取られるかとかを見られると思うんですが、他に「こんな起業家だったら好き」というのはありますか?
高宮:まさに先ほどおっしゃっていた、「投資家は人を見ますよね」のところで、「じゃあ、人の何を見るんですか?」というと、それぞれ芸風が違うし、アートの部分だと思います。個人的には、まず先ほど言った信頼関係みたいなのも大前提になると思います。
矢澤:そうですね。
高宮:その上で僕がよく言うのが3つあって。ブレない大局観と、柔軟な戦略性と、正しい時間軸設定。
大局観を例えばnewmoの例で言うと、ライドシェアがくるのか、自動運転がくるのかわからないけど、このままで見るとタクシーの数、ドライバーの数が足りなさすぎて、どう考えてもタクシー難民すぎて、世の中が困っているよねという大局観。
柔軟な戦略性みたいな話でいくと、一時ライドシェアの規制緩和の議論が盛り上がって、ライドシェアを志向していたけど、ちょっと規制緩和がトーンダウンしちゃったから自動運転のほうに張りますみたいな、柔軟性。
ライドシェアか自動運転かは、手段、HOWにすぎないじゃないですか。WHATは、あまりにもタクシーの需給が悪いとか、モビリティの課題が地方にあるというところなので。
この大局観と柔軟性で、戦略は柔軟に外部環境に合わせて変える。変えるけど、大きな波は捉えて離さない。正しい時間軸設定はというと、イーロン・マスクだったら実現しちゃうかもしれないんですが。
「人類はいずれ火星に移住する」って、1,000年の時間軸を持つと正しいかもしれないんですけど。起業家の今回のチャレンジの時間軸で収まるか、火星移住はベンチャーキャピタルファンドのファンド期限が10年に収まるか、というと微妙じゃないですか。
一方でタクシーやモビリティの変革は、「10年あればくるでしょう」という時間軸です。もしかすると7年前だと10年に収まらないかもしれないけど、今から10年だったら収まるかもしれない、その時間軸の感覚が正しいか、同じ目線かということです。
矢澤:めちゃくちゃ大事。
高宮:この3つを個人的には思っていますね。