【3行要約】・LGBTQコミュニティの中でも、Z世代は世代間のギャップを感じており、「LGBTQ当事者は身近にいる存在だ」という感覚を持つことが特徴です。
・多様性を“腫れ物扱い”せず、リアルな声に耳を傾け、自然に対話できる環境づくりが大切です。
・発信への不安を抱えながらも、Z世代起業家たちは、世代を超えて理解し合える社会を目指しています。
前回の記事はこちら “居場所のはず”のLGBTQコミュニティで感じたギャップ
椎木里佳氏(以下、椎木):じゃあ、生駒さんにもちょっとお話を聞いていきたいと思います。レイブリ自体が「LGBTQと社会をつなげる」というテーマでやっていると思います。LGBTQに関して、それこそ本当にSNSでいろんな考え方があると思うんですけど、Z世代的にはざくっとどういう思いがあるなと今感じていますか?
生駒萌杏氏(以下、生駒):そうですね。けっこう感覚みたいな話にはなると思うんですけど、Z世代的にどういう思いがあるかというよりかは、やはりコミュニティの中でもジェネレーションギャップを感じることはすごくあります。
やはり私たちの世代って、「社会化ネイティブ」みたいに言われることもあります。学生時代がコロナで潰されたりとか、やはり生まれた時からそういう当たり前のものが当たり前じゃなくなった世代だからこそ、けっこういろんな社会問題に対して自分事と思って活動している方が多いと思うんですね。
私はジェンダーやセクシュアリティのことに関心があったから、その分野で起業してみようと思ったんです。けれども同世代の他の起業家の方たちって、けっこう自分の原体験から社会に対して問題意識を持って起業しようと思っている方がすごく増えてきているというか、多いなと思っています。
まずそもそも、植え付けられている(社会問題への)認識として自分事として捉えられているのは、LGBTQに限らずなんですけど、やはり上の世代の方よりかはすごく大きいんじゃないかなとは思います。
椎木:先ほど冒頭にも「コミュニティの中のジェネレーションギャップ」と言っていただいたんですけど、そこに関してはどうですか? LGBTQのコミュニティの中でもジェネレーションギャップを感じるということですかね?
生駒:そうですね。両方ある気がします。それこそさっき山本さんが、こういう業界に入ってすぐの何もわからない状態で受けるハラスメントみたいなお話をされていたと思うんですけど、実際にそれは私もすごく何個か受けたことがあります。
LGBTQのコミュニティって、自分が心地良いと思って入ったはずなのに、その中でもギャップがあって、「こんなふうに言われるんだ」と悲しい思いをした経験がいくつかあったりしますね。
椎木:きっと「教えてあげるよ」みたいなことですよね。
生駒:そうですね。「教えてあげるよ」と言ってくださる大人はすごくたくさんいて、それはすごく善意でやってくださる方もいっぱいいるとは思うんです。けれども私の場合は、本当に右も左もわからないような状態で「どうしたらいいんだろう?」となった時に、ある方に……ご自身のセクシュアリティで言うとゲイの方だったんですけど、その方に言われて傷ついた言葉がありました。
「ゲイはLGBTQのコミュニティの中だったら優位なほうだからね」みたいなことを言われたんです。「あれ? この業界で何年もやっている方なのに、そういうことを私に言ってきちゃうんだ」と、それにすごくショックを受けたことがあったので、ジェネレーションギャップは感じましたね。
椎木:LGBTQという、いわゆる世間の中から言うとマイノリティのコミュニティの中で、本当は支え合わなきゃいけないのに、そういったある意味潰し合いみたいなことをちょっとやってしまっている大人たちがいるということですよね。
生駒:潰し合いというよりかは、たぶんその世代の方々にとって、本当に「ゲイはまだ優位だよね」というのは、たぶんあるんだと思います。感覚として「オープンにできるもの」と認識している方が多くて。ただ、「じゃあ、レズビアンの方は隠れて生きなきゃいけないよね」みたいな感覚が上の世代の方にはちょっとあって、そこがズレているなと思ったりはします。
“隣にいるのが当たり前”の感覚がZ世代にはある
椎木:話をもうちょっと広くしちゃうんですけど、LGBTQへの考え方って、上の世代とZ世代で言うと違いがあったりするんですか? ちょっと当たり前のことなのか、もうちょっと違う考え方なのかで言うと。
生駒:やはり時代の変化はすごく大きくて、ここ10年でめちゃめちゃ世の中のLGBTQに対しての捉え方は変わっているので、そこは仕方がないのは大前提としてあります。
やはり私たちの世代の子たちって、当たり前に「自分の隣に当事者の子たちがいるよね」っていうことを前提として考えることができている感覚はあります。やはり普通に今、10人に1人当事者がいると言われていて、それって左利きの人の割合と同じぐらい、ぜんぜん世の中にはいるんですね。
でも、やはりそれを想定できていないからこそ、いろんな言い争いが生まれてしまうところがあります。なので、「いるよね」というのを当たり前の感覚として日常の会話の中でも思いやれる部分は、私たちの世代としての特徴なんじゃないかなと思います。
企業は“腫れ物扱い”しないダイバーシティを
椎木:そういったいろんな背景がある方たちが増えていっているというか、オープンにしていっている中で、LGBTQの当事者の方や、いわゆるマイノリティと呼ばれている方たちとどう接していけばいいのか。特に企業は、社員としてどう接していけばいいのかで言うと、どういう考え方を持たれていますか?
生駒:(自分のマイノリティをオープンにする方が)増えてきてはいるんですけど、そういった研修などで基礎知識として認識を持つことがやはり一番大事だと思います。今は企業さんでもダイバーシティ&インクルージョンとかの意味合いで、すごく研修を取り入れたり、そういった当事者の話を聞く機会を設けたりしている会社さんってすごく増えてきてはいます。
けれども、やはり当事者のリアルな声を聞かないとわからないところってあると思うんですよね。実際に会って話を聞かないと、「あれ? もっとぜんぜん遠い世界の人だと思っていた」とか「自分とは関係ないことだと思っていた」という感覚は絶対にやはり持っちゃうものだと思います。なのでそういった機会を増やすことは、やはり一番大事なんじゃないかなと思います。
椎木:実際に当事者の方たちと関わっていく中で、「こういう言葉を本当はかけてほしい」「世の中がこういう雰囲気になってほしい」という(話で)言うと、どうしていけばいいんですかね?
生駒:でも、やはり一番は腫れ物扱いしないことだと思います。それが当たり前の存在となって、当たり前の光景として日常に馴染んで、それが「もう当たり前だよね」という感覚が植え付けられるのがやはり一番のゴールだと思っています。その過程で今、私たちはいろいろ争ってしまっている部分だと思うので。
でも、それが続いた先の10年後には当たり前の存在として受け入れられているものだと絶対に思うので、そこを順番に理解していくことがやはり大事なんじゃないですかね。
椎木:ありがとうございます。今の話で言うと、LGBTQの考え方を日常に馴染ませるというふうに考えると、「ちょっとハードルが高そうだな」と思う方も多いと思います。でも、女性が活躍していくと考えると、ぜんぜん当たり前の話だと思います。
そういったかたちで、どんどん世の中として当たり前に変化していくという流れは、可能性としてはぜんぜんあるんじゃないかなと思うので、萌杏ちゃんにはぜひがんばってほしいなと思っています。
“発信する怖さ”とどう向き合うか
椎木:今の話で言うと、山本さんはどうですか? 実際にマイノリティの方たちと一緒に企業として活動したりとか、スタートアップとしてどう巻き込んでいくかみたいなところで言うと、何か思われることはあったりしますか?
山本愛優美氏(以下、山本):ありがとうございます。この一連の話を聞いて、また、先ほど「スタートアップとジャーナリズム」という別のセッションを見て、自分がすごく感じたことがあります。私たちは自分がこれから未来を作っていくZ世代なんだという年齢的な話と、自分自身が会社経営をしているという2つの文脈で、社会的な責任を非常に負っている立場だなという感覚があるんですね。
だから、さまざまな多様性にもちろん配慮していく必要がありますし、そこでハラスメントが起きたら、それは絶対になくしていかなければいけないというスタンスで向き合っています。
とはいえ、こういった多様性に1個1個配慮していく必要はあるけれど、それを完全にできていない時に発信したら、果たしてどのくらいの批判が来るんだろうかという発信への怖さももちろんありますね。自分たちがそのスタンスを取ることと発信するところに乖離はちょっとあるなと思います。
ただし、そこをどこかで乗り越えなければいけない。まず第一歩として自分のスタンスを変える。それをこういったオフラインの場でみなさんに少しお話ししてみる。その先に、よりもっと大きな発信をしていく。そういった段階を踏んでいきながら自分たちの責任を果たしていきたいなと、総括として考えていました。
椎木:いいですね。社会的責任のところで言うと、今SNSで言われていることって、多様性反対派と多様性賛成派でけっこう対立している構造があったりすると思うんですよね。
山本:そうなんですよ。だから「何かを言うだけですごく叩かれちゃうんじゃないか。でも、何か言わなきゃ」みたいな葛藤の中で日々生きています。でも、結局そこで心が消耗して事業が継続しなかったら意味がないので、そういった意味では、ソーシャルメディアでの発信は自分がほどほどだと思う距離感で発信するようにしていますね。
SNS時代の起業家に求められる“スタンスの切り分け”
椎木:ありがとうございます。山口さんはこの中では最年少です。SNSネイティブの身からして、起業家がどういうふうにそういった批判と向き合っていけばいいかというあたりをちょっと最後にうかがえたらなと思います。
山口由人氏(以下、山口):ありがとうございます。実際、僕の友人や僕自身も、たまにめちゃくちゃヘイトを受けたりします。SNSは難しいですね(笑)。
僕はかなりドライに「仕事だから使っている」というスタンスでやっています。ただ、それがだんだん日常の一部になっている方もいます。(僕は)今地方に住んでいるんですけど、特に大分とかにいると、やはり「X」がある意味社会と(自分を)つなぐ命綱みたいなかたちで、自分の人生の一部としてすごく大事にしている方もいらっしゃったりします。
そうなるとダメージを受けるとすごく大きいよなとか、まさにスタンスと発信の切り分けがめちゃくちゃ大事だとすごく感じているので、ちょっとこれは逆に教えていただきたいなと思っています。
椎木:ありがとうございます。そういったビジネスとして割り切ってSNSを使っているという考え方は、けっこうZ世代としては意外と思われる方もいるんじゃないかなと思いました。ありがとうございます。
じゃあ、後ろにあるレイブリのアーティストが作った作品についても、ちょっと今回、ぜひ触れていただきたいなと思うんですけど、そこは萌杏ちゃんに説明していただいてもいいですか?
生駒:はい、もちろんです。6月は「プライド月間」といって、世界的にもLGBTQコミュニティの権利を啓発しようという月間で、京都市さんの中でもすごくいろんな取り組みが行われています。
一応、今回持ってきたのは、その一環として大丸京都さんでレイブリがライブペインティングのイベントをさせていただいた時の作品です。本当に1時間ぐらいで描き上げた作品なんですけど……ここにいたら見えないですよね(笑)。
椎木:これは大学生が描いたんですね。どういう思いで描かれたんですか?
生駒:イベントとしての私たちの思いとしては、「自分らしく生きること」をテーマに作品を描かせていただきました。
孔雀というのが大丸京都さんの象徴で、入口のところにも孔雀のオブジェが建っていたりするんですけど、やはり孔雀って、すごく傷つきながらももがいて苦しんで、それでも生きようとしている存在だと思っています。そこをZ世代のペインみたいな部分とかけ合わせて、カラフルな孔雀として表現したというかたちになります。
椎木:生駒さんの中で、Z世代のペインや共感がキーワードなのかなと思うんですけど、そこを軸にしているのはなんでなんですか?
生駒:そうですね、私たちが契約しているアーティストでもいろんなバックグラウンドを持っている子がいます。彼らのバックグラウンドを聞いて、そこを吸い上げてメッセージとして世の中に思いを届けていくというのは、自分の中でもすごく一番大切にしている部分ではあります。
「アーティストとして活躍や活動をしていきたい。お金を稼ぎたい。食っていきたい」という思いがありながらも、まだ作品の発表の場がなくてできない。そういうアーティストの子たちって、やはりみんなすごく強いメッセージを持っています。
それは例えばジェンダーのこととか他の社会課題のこととか、ある特定の分野に限った話ではないんです。けれども、彼らのバックグラウンドだとか、そうやって生きてきた中で感じた不条理だとかを原動力に、作品に乗せて世の中に届けているみたいなところ。そこのメッセージってめちゃめちゃ熱くて、世の中に届けるべきだなと私は本当に心から思っているので、そこをすごく大切にしているという部分はあります。
“怒っている”わけじゃない 伝え方を模索しているだけ
椎木:ありがとうございます。ちょっと最後に、みなさんお一人ずつ、ちょっとU25の起業家として、オーバー25の方たちにちょっと伝えたいことを一言ずつ。山本さんからお願いしてもいいですか?
山本:ありがとうございます。私がこのお題をもらった時に、同時にお話ししたいなと思ったことがあります。(世代間で違いがある)とはいえ、いわゆる我々Z世代とのコミュニケーションを怖がらないでいただきたいというのは前提として伝えておきたいと思っています。「今のZ世代は交流するにも、何でもハラスメントになってしまって怖い」とは決して思わないでいただきたいんですね。
本当にみなさんと仲良くなっていきたいと思いますし、ぜひコラボレーションしていきたいと思っています。ただ、その中で誰かを傷つけてしまう発言があった時に、そこに対して、そのスタンスは変えていかなければいけないと思っているからこその振る舞いをしているだけなので、ぜひ怖がらずにお話ししていただきたいです。
あと、あくまで同意のお話だと思っています。ハラスメントって一方的な距離感の近さや、本当に上から下に向けて高圧的な態度によって生まれてしまうことも多々あります。そこをぜひ配慮していただいて、場面をちゃんと意識していただければ、ぜんぜん怖がらずに私たちとコラボできていけると思いますし、ぜひ仲良くしていきたいと思います。というのが私からのメッセージです。ありがとうございます。
椎木:ありがとうございます。山口さん、お願いします。
山口:そうですね、めちゃくちゃ同じなんですけども、ぜんぜん僕はどんな年代でも話すのが好きですし、なんなら年齢が上の方と話すほうが好きだったりします。
なので、これからのコミュニケーションの場ですごく大事だなと思うのは、お互いがお互いの状況を理解しようとするスタンス(だと思います)。あとは、良くも悪くもちゃんとフラットに話すことによって気づけるところってすごくたくさんあると思います。それを私としても場としてより作っていきたいなとすごく思っています。ありがとうございました。
椎木:ありがとうございます。じゃあ、最後に生駒さんからお願いします。
生駒:本当によく、「世の中に対してめっちゃ怒っているよね」みたいに言われることがすごく多かったりするんです。けれどもそれって、私の中での逆張りみたいなところがどうしてもあるんです。めちゃめちゃ怒っているというよりかは、ただそれを伝えたい。でも、その伝え方のコミュニケーションが私もまだうまくできなくて、うまく伝えられない人みたいな状況になっているだけだと思います。
本当に私たちもやはり下駄を履かせてもらっている部分は絶対にあるとは思うので、そこをうまく上の世代の方ともコミュニケーションを取りながら、お互いに教え合いながらいい世の中にできたらいいなとは思っています。ありがとうございました。
椎木:ありがとうございます。本当に双方向でコミュニケーションを取っていって、いい社会を作っていこうねという話で、最終的にいいのかなと思いました。本当に、本日はみなさん、ありがとうございました。
(会場拍手)