【3行要約】・ドイツ育ちの山口氏がドイツと日本のスタートアップを比較し、年齢層や同調性の違い、多様性を巡る制度の差に言及。
・8か国籍のチームを率いる山口氏は、宗教・文化の“ズレ”を前提とした対話と共生の重要性を語りました。
・外国人採用に必要なのは「背景ごと理解する姿勢」と話しました。
前回の記事はこちら 日本とドイツのスタートアップ比較
椎木里佳氏(以下、椎木):じゃあ、ちょっと山口さんにもお話をおうかがいしたいなと思うんですけど。
山口由人氏(以下、山口):はい。
椎木:山口さんは先ほどの自己紹介にもあったようにドイツに長年住まれていたということで、ドイツのスタートアップ業界と日本のスタートアップ業界って違いがあるのかなというのを、まずざっくりおうかがいしたいです。
山口:そうですね。正直、僕がドイツにいた時は、もう5、6年前になってしまうので、そことのギャップがけっこうあると思います。
印象としては、やはりハードテックやスタートアップをやる方も、年齢として若い人たちというよりかはちょっと年齢層が上でした。25歳、26歳以降ぐらいの方から40代ぐらいの方まで幅広く、年齢だけで言うとちょっと日本よりも年齢層が上の方がスタートアップをけっこうやっているなという印象はありますね。
椎木:業界の体質的に言うと、わりと日本だと同じようなメンバーで、同じような年代の方たちがちょっと集まっているみたいなことも指摘されていますけど、そういうところはやはりドイツも同じという感じなんですか?
山口:そうですね。スタートアップはやはり、なんだかんだ同調性や同一性をすごく大事にしている印象はあります。僕自身もすごく現地で感じたところで言うと、がんばってドイツ語をしゃべってコミュニティに入ろうとしても英語で返されるとか(笑)。やはり同じ言語の人たちで固まってしまうところは、ドイツ自体がけっこう日本と近いところがあります。
一方で、ガバナンスという観点で言うと、新しい政策が2021年ぐらいから進んでいて、(特定の上場企業で)取締役会が3人以上のところは女性を1人(以上)入れないといけないという、「FüPoG II」という法律があったりします。
つまり、どうしたらよりガバナンスを改善して経営的にいろんな人たちを巻き込めて、かつイノベーティブなものを作れる経営ができるか。(こういったことは)もうすでに、いわゆるけっこうエスタブリッシュな感じの会社に関してはすごくセンシティブに議論されているなと感じていますね。
椎木:今のはクォーター制の話だったと思うんですけど、そういった多様性を会社の中にも入れ込むみたいな考え方って、山口さんの会社でも実際に実践されているところはあるんですか?
山口:そうですね。国籍で言うと弊社は今8ヶ国のメンバーがいる会社になっています。住んでいる地域や年齢も(異なっており)、僕が一番最年少で、一番上が56歳だったりします。ジェンダーで言ってもちょっとまだ半々になっていないんですけど、ちょっとずつ増やしていこうみたいな動きはけっこうあります。
どちらかというと私たち自身が提供しているプロダクト自体も外国籍の人たちに向けて提供しています。そこに関しては、ある意味でそこがズレてしまうとリスクになってしまいます。なので、かなりいろんな目が入るようなかたちで、ユーザーに対してフレンドリーなものが作れるように、かなり考えながら事業というかチームの設計をしているなと思っています。
多国籍メンバーと“文化のズレ”をどう越えるか
椎木:今のは国籍の多様性だったと思うんですけど、今だともうちょっと先にある多様性が求められていると思います。そのあたりはどういった工夫をされているとかはありますか?
山口:そうですね。正直そこまで工夫ができていないのが我々の現状だなと思っているんです。文化や性別とかを超えてお互いを理解しようとするマインドを、どう組織の中で醸成するかが本質的に一番大事だなと思っています。
我々だと、ある国籍の人が、オフィスでパキスタンカレーやバングラデシュカレーを作ってくれたりします。それをみんなで、彼らと同じ(ように)手を使ったりとか……まぁ、パキスタンはスプーンで食べるんですけど、スプーンで食べて、同じ文化を体験しながら「あ、こういう感じなんだね」みたいなことを理解したりします。
あと、よくあるのは、宗教に関しても「一緒に温泉へ行こう」「あ、イスラム教だから行けない」っていうところも、ある程度みんなでけっこうフラットに話します。「確かにそれは難しいから別の方法を考えようか」みたいな。そういうある意味ではフラットに、お互いの状況を知らないということを前提に、ちゃんと(共に)生きる。
その組織の中でも意外とわかっているような気持ちになっちゃうことが多いと思うんです。けれども、「ぜんぜんわからないよね」という前提の中で、みんなでちゃんと聞いてチェックしながら話し合い、コミュニケーションの回数を増やしていく。そういうことが、これからそういったチームを運営する上で大事だなと思っています。
ドイツの事例から得たヒント
椎木:今のお話だと、日本で今かなり議論されている移民の話にもつながってくるかなと思います。ドイツはものすごく移民を受け入れてきた国だと思うんですけど、(移民問題について考える際に、ドイツの事例から得られる)ヒントとかってあったりするんですか?
山口:そうですね。ドイツは本当に移民や難民をめちゃくちゃ受け入れている国ではあるんです。僕自身が当時いた頃は、シリア難民のコミュニティがドッと来ている時期でした。(彼らの住むエリアと)自分が(住んで)いたところが重なっていまして、家の近所でもシリア難民のコミュニティとドイツの右翼勢力が衝突して銃撃事件が起きることもよくありました。
そういった意味でドイツでは、ある意味経済的に少し所得が低い方に移民が多いんですけど、その方々が住むエリアとネイティブな方々が住むエリアがどんどん分かれてきてしまったんです。そうするとソーシャルメディアで煽られると、ちょっとした内容でもすぐにお互いが「ヤバいことをあそこでやっているんじゃないか?」と思ってしまって、攻撃的になってしまう傾向がありました。
そういうのがあって、ある意味でちょっと失敗だったかなとは考えています。日本の社会で外国籍の方がけっこう増えているのは実際にそうなんですけど、けれども日本ってうまく混ざり合っているところがあるなと思っています。
だからこそ、こういったイベントでもそうですけれども、うまくそこがちゃんと機能して、国籍や年齢は関係なくちゃんとコミュニケーションをみんなで取ろうというスタンスを大事にするのはすごく大事だなと思っています。
外国人採用の鍵は“背景への理解”
椎木:これから外国人の人材をどんどん入れていかなきゃいけない、外に目を向けていかなきゃいけないとは、たぶんみなさんもお思いだと思います。そういった外国籍の人材を入れるに当たって気をつけたほうがいいことって、パッと思い浮かぶものはありますか?
山口:そうですね。正直、日本人に対してやっていることと同じなのかもしれないです。でも、さっきの繰り返しにはなりますが、日本人ってけっこうみんな、「なんとなく同じだよね」だとか、空気を読むところがやはり圧倒的に強いんです。なので、「いや、(日本人以外は)そうじゃないよ」というところはすごく意識したほうがいいなとは思っています。
退職理由や在留資格の期限みたいなところを1つ取っても、すぐに辞めやすい方、あるいはあまりうまくいかない方って、各国共通でけっこういろんな要素から何かしらわかると思うんです。
けれども、そこをちゃんと入社前にゆっくりと時間を取って話す。「なんでここで前の会社を辞めたの?」とか「なんで逆に今転職したいの?」とか、お互いの価値観とか、あとはバックグラウンドとか。僕とかだと(候補者の)母国へ行って、実際に親御さんに会ったりするんですけど、そういうところまでけっこうちゃんと深く入ったりすると、すごく良い関係性を築けるなと思っています。
男性であるがゆえに押しつけられる価値観
椎木:ありがとうございます。性別のところで言うと、このメンバーの中だと唯一の男性です。私たちはいつも逆のパターンが多いというか、「女性1人でポツン」という場合が多かったりします。
そこのジェンダーに関して、Z世代は「女性だから」とか「男性だから」といった括りで考えていないのか。それとも、SNSでも最近は散々目にしますけど、「下駄を履いているような状態にいるな」と周りの女子を見て思うのかで言うと、山口さんの考え方的にはどうですか?
山口:ありがとうございます。そうですね、そこで言うと、僕もけっこう違和感をおぼえることはすごくあります。逆に男子だからこそ、僕が中高生とか大学生とかで起業しているという立場というのもあると思うんです。
ちょっと年齢が上の方に、「僕が中高生の時は、ずっと女の子を追っかけているだけだったよ」的なことを、「当たり前だよね。君もそうだよね」みたいな感じですごく押し付けられることがあります。もっとセクシュアルな感じのことを言われることもあったんですけど、そういうのはけっこう多くて、月に5、6回ぐらいはあるんです(笑)。
それこそ(その場に)女性が一緒にいるパターンもあるので、自分がそういうシチュエーションになった時に、これに対して急に同意を無理やり求め(られ)て、同意をしないと議論が前に進まない。(そういう)シチュエーションってちょっと嫌だなと思うことはけっこうあるなと思っています。別にスルーすればいい話なのかもしれないですけど。
また加えて、男性だけがいる会食で、前にいた女性の方についていろいろ言っちゃう方々がいるシーンがけっこうあります。そういう時に自分としては、「いや、ちょっと違うんじゃないですか」って言いたいですけどなかなか言えないということはめちゃくちゃあるので、すごく心苦しいところはありますね。
「直さないといけないな」と思いつつ、年齢と立場と仕事上、「これはどうしたらいいんだろう?」というシーンはすごくいっぱいありますね。
椎木:ありがとうございます。男性から女性へのそういったハラスメントは聞いたりすると思うんですけど、そういったかたちでの男性から男性へのハラスメントも今後は考えていかなきゃいけないのかなとも思いました。
山口:ありがとうございます。