【3行要約】・株式会社スーパーワームは昆虫から搾った油からバイオ燃料を製造し、量産化の準備を進めています。
・VCの北原氏は同社をクライメートテックではなく「エネルギーテック」として捉えることで、エネルギー安全保障とコスト削減の両面から大きな事業機会があると評価しています。
・育てやすさと高品質な油の生成能力を武器に、株式会社スーパーワーム代表の古賀氏は「1年でユニコーン企業になる」という大胆な目標を掲げています。
前回の記事はこちら エネルギーテックとしての可能性に着目
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):ありがとうございます。食じゃなくて油に使うみたいな話を北原さんも聞かれて、「これはビジネス的なオポチュニティもありそうだ、投資領域としても検討できそうだ」みたいなことを思われたんでしょうか?
北原宏和氏(以下、北原):そうですね。大きく言うと2つあります。まず1点目が、今、クライメートテックは逆風が吹いていると思うんですよね。トランプ政権が出てきたりとかで、海外の投資家を見てもけっこう厳しくなっている。
クライメートテックと捉えると、ちょっとスーパーワームのことを見誤るな、という感覚があります。やはりエネルギーテックの会社なんだなということで、まずはエネルギーの安全保障、コストもさらに下がってくると、そもそもの市場が相当に大きいなと。
その上でLCA(ライフサイクルアセスメント 製品やサービスの原材料の調達から製造、使用、廃棄に至るまでの環境影響を評価する手法)みたいなかたちで、CO2のトータルの排出量が減るところが、そもそもの見方として必要なのかなと思ったのが1つです。
事業構築にスピード感が出せる要因
北原:2つ目が、今回投資させていただくにあたって、海外の昆虫をベースにした油脂みたいなものをいろいろと調べて、いくつかの会社にヒアリングをしたんですね。
例えば、アメリカとイスラエルから作られたBugEraというスタートアップの人たちとも話をしていて。彼らはブラックソルジャーフライというハエに着目して、遺伝子ゲノム編集とかをやって油が取れる量を増やしていたりするんです。
ただハンドリングの難しさであるとか、いろいろ組成のかたちでちょっと難しそうだなと判断したりして。スーパーワームはシーズとしても、けっこうおもしろい可能性があるなと思ったのが1つです。
最後に同じ事業文脈ではあったりするんですけど、さっきあったように廃食油を使ってジェット燃料を作るので、バリューチェーンの川下のクラッキング、精製のほうの設備がある。
そういったところで、これはすぐに使えるかたちに流し込める、思ったよりも事業を作っていくスピード感を出せそうだなと。シーズのおもしろさと、事業構築スピードを速くできる可能性みたいなところで、おもしろいなと思ったところがポイントですね。
「育てやすさ」も昆虫によって違う
稲荷田:2つ目のところで、これまた古賀さんに聞きたいんですが。組成のしやすさ、育てやすさみたいな話だと思うんですけど。これはスーパーワームはかなり秀でている、あるいは自社で開発した方法でかなりハックできているんですか?
古賀勇太朗氏(以下、古賀):そもそもスーパーワームという昆虫自体はすごく育てやすい昆虫です。例えばコオロギだったらぴょんぴょん飛び跳ねますとか、カイコだったらクワしか食べませんとか。
あとは先ほどのブラックソルジャーフライだったら、そもそも成虫が空を飛ぶ。しかも受精卵を取るのが難しいんですよね。もっと細かいところだとブラックソルジャーフライの幼虫は飼育カゴのプラスチックの壁を登っちゃうので、管理がなかなか難しい。
従来の育て方で言うと、スーパーワームは飼育トレーに入れて、そこに床剤と呼ばれる餌とベッドの両方を兼ね備えている粉みたいなものを入れて、基本的に水さえあげれば育っていく。という観点で言うと、工業的生産ができる可能性がすごくある、そんな昆虫ですね。
軽油や重油の代替など、幅広い可能性も
稲荷田:なるほど、ありがとうございます。実際に油も取れ始めていて、これはバイオジェットの燃料という話を先ほどいただきましたが、基本的にはその用途なんですか? それともほかにもいろんな用途があるんですか?
古賀:基本は燃料用途なんですけど、バイオジェットの燃料もそうですし、バイオディーゼル燃料、いわゆる軽油の代替ですね。トラックとか建設機械とか農機具とか、そういったところに使われる。
あとは原料油の段階で重油の代替になることも最近わかってきて、重油とJIS規格みたいなものがほぼ一致している。というところで、重油と言えば船舶、船なんですよ。船で大量に重油が使われていて、それの代替が搾った油のままできる可能性も秘めているので、本当にいろんな用途が広がっています。
市場の急拡大が予想されるも、競合が少ない
稲荷田:代替燃料系の領域は、かなり審査基準が厳しいというか、相当ピュアな油じゃないと使えないみたいなことも聞いたことがあります。そのあたりはどうなんですか?
古賀:そもそもバイオ燃料の原料油は廃食油が使われている観点で言うと、もともと廃食油は天ぷら油なので、すごく汚いですよね。そういうものでも前処理とか精製のプロセスを経れば、ちゃんと燃料として使えます。
それに比べるとスーパーワームの油は廃食油よりもはるかに品質が良い。オーバースペックなくらい良いんですね。
稲荷田:ありがとうございます。まさにエネルギーの領域になってくると、いよいよ市場も大きそうだな、みたいなことをなんとなく思ったりもするんです。そのあたりの市場感というか、マーケットのポテンシャルも教えてもらえますか。
古賀:先ほど私が申し上げた数字がすべてを物語っている気もしますが、弊社の油はいろんな用途に使えるけれども、特にバイオジェット燃料という領域に絞ったとしても現状30万キロリットルが、2050年には4.5億キロリットル。市場が1,500倍に広がる。
ただその原料油はまったく足りていない。そして今、プレイヤーとしてもそんなにめちゃくちゃいるわけではないので、スタートアップが入り込むべき、すごく急成長する領域にもかかわらず、言ってみたらブルーオーシャンに近いと思っております。