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#106 株式会社スーパーワーム 古賀勇太朗 氏(全4記事)

脱・石油依存のカギは“昆虫から作った油”? 日本発スタートアップが挑む、次世代バイオ燃料の原料油開発

【3行要約】
・環境問題が深刻化する中、従来のバイオ燃料では需要に追いつかない――そんな危機感から昆虫を活用した新たな燃料源が注目されています。
・スーパーワーム代表の古賀氏は「現在の石油には二酸化炭素排出と資源枯渇という2つの大きな課題がある」と指摘し、昆虫を「油製造装置」と位置づけています。
・循環型社会の実現に貢献するアプローチは、持続可能なエネルギー社会への可能性を示しています。

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“ジャズとアウフヘーベンのVC”?

稲荷田和也氏(以下、稲荷田):声で届ける起業家の物語、『Startup Now』。株式会社スーパーワーム代表取締役、古賀勇太朗さんへのインタビューの続きをお送りいたします。

後編では投資家でいらっしゃいます、Archetype Ventures Partnerの北原宏和さんを交えながら、スーパーワームさんの魅力に迫っていきたいと思っております。

それでは北原さん、まずは1分程度でファンドおよび自己紹介をいただけますでしょうか。

北原宏和氏(以下、北原):ありがとうございます。前編も聞いていたんですけど、古賀さんから、僕が投資検討の時に聞けていなかったような深い情報が出てきていたようで。おいなりさんのナレーション力というか、このポッドキャストの威力みたいなものを痛感しながら聞いていました。

稲荷田:うれしいです、ありがとうございます。

北原:弊社の紹介なんですけど、堅く言うと、シード・アーリーステージのBtoBテックスタートアップに投資をしているVCになっています。柔らかく言うと、ジャズとアウフヘーベンのVCみたいな感じになっていて……。

稲荷田:どういうことですか?

(一同笑)

プロボクサーからコンサルへ異例の転身

北原:逆にわかりづらくてすみません(笑)。そもそもバックグラウンドが多様なメンバーが多方面から議論して、異なる見方をどうやってつなぎ合わせるとおもしろくなるかを即興的に創発していくVCになっています。

ただ、みんなが違うことだけをやっているとまとまらずに終わっていくので、やはり対立する考え方や違う見方をどうやって昇華させて、自分たちなりの仮説にたどり着くかをけっこう重視しています。そういう意味で、アウフヘーベンみたいなことが社内で言われていたりする感じですね。

あと僕自身の最初のキャリアとしては、プロボクサーをやっていました。

稲荷田:えっ、そうなんですか。

北原:そうなんです。そのあとに官僚として総務省で働いていました。で、留学をして戻ってきて、コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)で働いて、2019年に今のArchetype Venturesにジョインしたという感じです。(現在は)ディープテックの領域で投資をさせていただいています。よろしくお願いします。

稲荷田:お願いします。ちょっとプロボクサーの経歴を聞きたすぎますけど、ぐっとこらえますね。すごくおもしろいなと思っています。

第一印象は"いい意味でネジが外れている人"

稲荷田:あと、BtoBに特化のファンドと聞くと、少し前だとSaaSばかりのイメージもあったんですけど、今ディープテックとおっしゃっていただきましたし、けっこうそれぞれ別の領域を見ていらっしゃる状況なんですか?

北原:そうですね。2013年に設立されているんですけど、そもそもBtoB Techという言い方をしています。その頃からSaaSもAIも、こういうディープテックもやるかたちで広く見ています。

稲荷田:なるほど。そしてスーパーワームさんへの投資は、どんな切り口で興味を持ち始めたのでしょうか。

北原:じゃあ、そもそも出会いのところにさかのぼらせてもらうと……。

稲荷田:ぜひぜひ、お願いします。

北原:私がBCGで働いていた時の知り合いがスーパーワームさんを手伝っていて、「ちょっとおもしろい起業家がいます。ただ、ほかのキャピタリストに持っていっても刺さるかわからないので、北原さんが1回会ってもらえますか?」と言われて、お会いして、「なんかおもしろい人だな」というところがあって。良い意味でちょっとネジが外れているというか、ピントがズレてるなって……あっ、「ピントがズレてる」は、ちょっと(笑)。

(一同笑)

ネジが外れているところがあって、おもしろいなと思ったのがまず第一印象ですね。事業についてはどちらかというと、あとから頭を回していって「あ、これはおもしろいな」と思ったところがありました。

なぜ燃料事業にフォーカスしているのか

北原:さっき前編でもおっしゃっていましたけど、やはりまず昆虫だとタンパク質だよねと。で、タンパク質はどこもだいたい失敗しているなと思ったので、ちょっと難しいかなと思いながら聞いていたんですけど。

そこから思考を転換させて、油に注目するとか、なんで(拠点が)宮崎なんだっけ、みたいなところとか。普通だったら採らないいろいろな選択肢がパッと出されていて、だけど背景にある考え方を聞いていくとけっこうロジックがちゃんと立っている。「これ、なんかおもしろいな」という感じでしたね。

稲荷田:ありがとうございます。そうしたら、いったん古賀さんにもお戻ししたいなと思うんですけれども。あらためて今の事業内容において、いわゆる解決している課題。「こういうところにアプローチしているんです」みたいなところの解像度をもう少し上げたいんですけど、そのあたりを話していただけますか?

古賀勇太朗氏(以下、古賀):今、私たちが取り組んでいるのはエネルギー、特に燃料の領域なんですけれども。燃料の原料となっている石油の課題が2つあります。

1つは燃やすと二酸化炭素が発生して、地球温暖化につながる。もう1つは、その石油自体が枯渇していく可能性が高い。(ある説では)50年後には枯渇しているとも言われています。そういった中で石油に頼らないというか、ほかの燃料源、原料油がどんどん必要になっているところがあります。

その原料油がどのぐらい必要かと言うと、特にバイオ燃料(政策)は各国で進められているのですが、今だとバイオ燃料はぜんぜん使われていないんです。

バイオジェット燃料の導入も調達も進んでいない現状

古賀:例えば航空領域のSAF(Sustainable Aviation Fuel 持続可能な航空燃料)と呼ばれるバイオジェット燃料だと、世界中でだいたい30万キロリットル。世界のジェット燃料の0.1パーセントしか使われていないんです。

ただ2050年までの目標値としては4.5億キロリットルと、その1,500倍ぐらい必要とされているんですよ。それはけっこう業界では固い目標というか、本気で目指さないといけない目標でして。

ただ1,500倍のバイオジェット燃料を作るには、1,500倍以上の原料となる油、もしくはバイオマスみたいなものが必要です。ただそういうのは、現状ある油とかをどんなにかき集めたとしても、なかなか集まるものではないんですね。

というのも、今のバイオ燃料の主な原料油には、廃食油と呼ばれる天ぷら油が使われています。それをいろんな飲食店からかき集めてバイオ燃料にしているのが現状なんですけれども、世界的に見ても1,000万キロリットルぐらいしか供給がなくて。

稲荷田:けっこうありそうな気がするんですけど、意外と少ないんですね。

古賀:そうなんですよ。1,000万キロリットルぐらいしかないのに、4.5億キロリットル作らないといけない。ぜんぜん足りないよねと。

それ以外に植物油も、パーム油とか菜種油とか大豆油とかいろいろありますけれども、そういうのをどんなにかき集めても……すべて集めても、やはり2億キロリットルしかない。そういった中で、原料油が圧倒的に足りていない市場がまずあります。

なので油以外の何かから油を作る、油製造機みたいなものが絶対必要で、それにいろんな会社が取り組んでいるけれども、うちは昆虫だと思っている。

世界中で大量の廃棄物、例えば家畜の糞尿とか下水汚泥とかいろんなものがありますが、そういうものを油に転換する装置としての昆虫に注目して、今、事業をやっている。そんな感じです。

昆虫油というポテンシャルに早期から注目

稲荷田:僕はまず、昆虫から油がそんなに出るイメージがないんですけど。ほかの昆虫とかで、すでに油にしているケースはあったりするものなんですか?

古賀:なくはないんですけど、まず2013年に国連が「今後、タンパク質として昆虫を食べていこう、もしくは飼料にしよう」と始めたのが最初なので、昆虫というシーズ自体がタンパク質文脈で注目されているんですよ。

なので、けっこう油の多い昆虫もいるんですけど、なかなかそういう文脈でとらえられていなかった。そこに対して弊社はタンパク質の領域ではなく、油の観点から昆虫を見たらすごく有望だよねということに、世界でもけっこう早めに気づいたのでこの事業をやっています。

稲荷田:ちなみに(社名の)「スーパーワーム」は、造語ではなく固有名詞なんですか?

古賀:ゴミムシダマシという甲虫の幼虫の名前が俗称として「スーパーワーム」と呼ばれている感じですね。日本だと「ジャイアントミルワーム」という名前で呼ばれているんですよ。

それはなんでかと言えば、ミルワームという昆虫がいて、それの大きい版なのでジャイアントミルワームと呼ばれているんですが、海外だとミルワームにホルモン注射してわざわざ大きくしたやつをジャイアントミルワームと呼ぶんですよ。

稲荷田:えぇっ、そんなのがあるんですね(笑)。

油を搾った後は飼料に使える可能性も

古賀:はい(笑)。なのでうちは海外で呼ばれている名前であるスーパーワームと呼んでいます。

稲荷田:スーパーワームはタンパク質ではなく、完全に油だけに使い切っているんですか? それとも、その余ったものは別で使ったりもされているんですか?

古賀:スーパーワームのタンパク質含有量と油含有量はどっちも20パーセントずつあるんですけど。油を搾ったあとの残りカスは、将来的には飼料とかに使える可能性もありますが、今はスーパーワームに与える餌の一部として回している感じですね。

なので本当に食品残渣とか家畜の糞尿といった廃棄物と、(搾ったあとの残りカスなど)自分自身のタンパク質みたいなものも食べて、スーパーワームがひたすら油を作ることができる。いわゆる油製造装置、そういう感じで見ています。

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