【3行要約】 ・株式会社スーパーワーム 代表取締役の古賀勇太朗氏は学生時代に起業し、事業譲渡までのサイクルを経験したことで、ビジネスのおもしろさに目覚めたと語ります。
・同氏が昆虫事業に集中したきっかけのひとつに、起業家である祖父の助言がありました。
・昆虫食事業も検討したものの、結果的に飼料・燃料分野に可能性を見出しました。
前回の記事はこちら 最初の起業で事業譲渡までを経験
稲荷田和也氏(以下、稲荷田):最初の起業がブロックチェーンとかDAOだったんですよね。生物じゃなくて、そっちで起業したのは、またもう1段階アクセルを踏んでいる感じがするんですけど、どうしてなんですか? ないしは、その領域だった理由とか。
古賀勇太朗氏(以下、古賀):まず、大学2年生までは研究者になりたかったんですよ。ただ同時に、やはりどうせ何かをするのであれば、世界一になりたいという思いがありました。研究者で世界一と言えば、ノーベル賞が頭に浮かんで。ただ、その時の仮説として、ノーベル賞を穫るのって、けっこう偶然の要素が大きいんじゃないかと思って。
そうであれば、身近にある起業という選択肢のほうが、より自分の意志とか行動によって、世界一をつかみ取る可能性が上がるんじゃないかと。そんなところで、起業しようと決めたんですよ。
私が起業しようと思ったのが10年ぐらい前なので、当時は「起業と言えばIT」みたいな感じだったので、その中でもブロックチェーン、仮想通貨がトレンドだったので。学生って新しいものが好きじゃないですか。
だからそこに飛びついて、望月と一緒に、仮想通貨で売買できるメルカリみたいなものを作りました。2,000ユーザーくらい集まって、本当に小さい額ですけど、数百万円くらいで事業譲渡する一連のサイクルを学生時代に回せたので、そこで起業というか、「事業を作るっておもしろいな」って思った感じですかね。
タイから帰国しインプットの日々
稲荷田:ブロックチェーンって、2021年とか2022年ぐらいに社会的にリブランディングされて、当時はWeb3というか、DAO、NFTみたいなので、まるっと盛り上がったイメージがありますけど、もっと前ってことですよね。
古賀:そうですね、2017年、2018年とか。
稲荷田:すごいですね。めっちゃ先進的な。
古賀:「CryptoKitties」によって、初めてNFTという概念が出てきたタイミングでしたね。
稲荷田:「CryptoKitties」とか言われると、僕の中ではもう歴史ですよ。じゃあ、事業譲渡まで経験をされて、その後にタイに行っている?
古賀:そうですね。タイに行って、それも半年ぐらいの話なので、基本はシステムエンジニアみたいなかたちで働いていましたね。
稲荷田:帰国されたタイミングでは、昆虫みたいな領域は定まり切っていたんですか? それとも、(世界一周で)いろんな課題を感じられていて、「ここでやりたいな」ぐらいのぼやっと感だったのかとか、その時の解像度ってどうだったんですか?
古賀:タイから帰国したタイミングでは、何をするかはまだぜんぜん(構想が)なくて。本当に何でしょうね、その時は半分ニートというか。自分が理系なので、歴史とか地理とか地政学とか、そういった文系領域をまったく知らなかったので、勉強しようと思って半年ぐらい図書館にこもって勉強していた時期がありました。
その時に、アウトプットの機会がないと記憶に定着しないということで、YouTubeを始めてみたんですよ。
稲荷田:そうなんですね。
勉強の一環で始めたYouTubeチャンネルが成功
古賀:YouTubeで何をしていたかというと、勉強した内容を解説するみたいなことをやって、2ヶ月くらいで3万人ほどサブスクライバーが集まって。
稲荷田:めっちゃすごいですね。
古賀:ニートなのに、月数十万円稼げる状況になってしまった。それで別に使い道もまったくないので、貯まる一方だったんですが、そのタイミングで、がんになったんですね。
稲荷田:その原資があったから、ギリギリ世界一周にも行けたんですね。
古賀:そうですね。
稲荷田:帰ってきた時に、いろいろとリサーチした結果、今の領域(を選んだ)という話をいただきました。当時、どんなリサーチをされたのかとか、この領域に着目した一押しが何かあったのかとか、そのあたりを教えてもらえますか。
古賀:その時は「食」に特に興味があったので、例えば「キクラゲを育ててみようかな」とか、「ニワトリをどこかの国で育ててみようかな」とか。そういうランダムな、ロジックがあるわけでもない手がいっぱいあったんですけど、さっきのロジックによって(選んだ事業が)昆虫になった理由は、私の祖父の助言だったんですよね。
起業家である祖父からもらった一言
古賀:祖父はどういう人間かというと、さっきも申したように造園業で起業して。というのも、昔、日本列島改造論があった時に、日本中に高速道路が張り巡らされるタイミングがあって。
その時に、「これから伸びる事業は何だ?」って祖父が考えたら、間違いなく街路樹というか、道に木を植える事業が伸びると確信したらしくて、「造園業を立ち上げるぞ」と言って。その時はもちろんお金もない状態だったので、親戚とかから一生懸命に数百万円をかき集めて、事業を立ち上げたという人間なんですけど。
稲荷田:めちゃめちゃ起業家ですね。
古賀:そうなんですよ。今やっている事業も造園だけじゃなくて、例えば「産業廃棄物がくるぞ」となったらその領域に手を出して、今もうまくいっていたりとか。あとは、太陽光発電が叫ばれていた最初の時、売電価格が一番高い時にパッと参入して、それが事業の柱になっていたりとか、そういう祖父なんです。
私がそういった「次にどういう事業をしようかな」と考えていた時に、「昆虫事業をやろうという1つのアイデアがあるんだ。これはこういう理由で、世界にインパクトを与えるはずだ」みたいな話をしたら、「それをやれ。中途半端にいろいろやるよりも、昆虫にフォーカスしてその事業を始めろ」という後押しがあって。
小学校しか卒業していない祖父なんですが、そういう勘はすごく鋭いので、自分は祖父にけっこう信頼を置いているんです。そういった後押しもあって、この事業にバッといったんです。
昆虫食事業はスケールしないだろう予測した根拠
稲荷田:昆虫も用途がいくつかある気がしていて。僕みたいにあまりディープテックの領域を知らないと、いわゆる昆虫食とか、toCをイメージするんですけど、最初から事業領域はtoB寄りで見ていたんですか?
古賀:「マーケットイン的に、食、飼料とかエネルギー領域で昆虫」という切り口もあれば、「プロダクトアウト的に昆虫がおもしろい」という見方の両方を当時から持っていました。プロダクトアウト的に見た時には、やはり最初に昆虫食が出てくるわけじゃないですか。
そういった時に、昆虫食をけっこう一生懸命に調べたんですよ。僕の中では昆虫食って、本質的に意味がないと思いました。というのも、昆虫ってタンパク質の組成でアミノ酸がありますが、どうしてもメチオニン(必須アミノ酸の一種)が少ないんですよ。大豆とかもメチオニンは少なくて……例えば(土地の)同じ面積があった時に、カイコを育てる時には、最初にクワを育てて、クワを昆虫に食べさせなければいけない。
だとしたら、どうしてもクワを育てるための面積が必要だよねとなってしまう。じゃあ、最初からそのクワを育てる面積で大豆とかを栽培すればいいんじゃない? みたいな。
他の視点もあるかもしれないけども、当時はそういうロジックで考えて。あとは昆虫食がそんなにスケールするイメージもなかったんですね。食べたいかというと、「お肉の方が食べたいな」みたいな。
稲荷田:そうですねぇ。
同じ昆虫でも、違う可能性がある
古賀:僕もそう思っていたので、いったんは寝かしておいたんです。
ただ、もう1回マーケットインの視点で考えた時に、飼料や燃料の観点だとすごく有望で、いわゆるバイオマス増幅装置みたいな見え方をしたんですね。そうすると、自分の中で「これはかなりいけるんではないか」という確信に変わって、飼料や燃料の領域に飛び込んだという感じです。
稲荷田:なるほど。本当にじゃあ、プロダクトアウトとマーケットインを行き来しながら。非常にユニークでおもしろいと思いました。「プロダクトがどういう課題を解決しているか」だとか、「マーケットってどんなマーケットなんだろう?」みたいなところは、たぶん後編で扱ったほうがいいかなと思いますので、前編はここまでとさせていただきます。
後編では、そんな古賀さんが展開されている事業について、担当の投資家さんを交えながら、魅力に迫っていきたいと思います。古賀さん、そしてお聴きいただいたあなたも、ありがとうございました。
古賀:ありがとうございました。