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株式会社neoAI 代表取締役 千葉 駿介氏(全1記事)

「今からAI?」とVCに一蹴された創業期 “ChatGPT登場前”の逆風を乗り越えた松尾研発スタートアップ・neoAIの軌跡 [2/2]

「今からAI?」営業を断られ続けた創業期

——創業から今に至るまでの間で、特に苦労された部分などあれば教えてください。

千葉:neoAIの立ち上げメンバーは6名。東大の同じ科の同期仲間で始めたので、全員がテクノロジーには強いものの、ビジネス経験はまったくありませんでした。そこで最初のメンバーは業務委託としてジョインしてもらい、役員は無給という状態から始めました。

幸い固定費はほとんどかからなかったため、支出は非常に少なくすみました。問題は収入のほうです。最初の半年間で受注した案件はごくわずか。営業に行ってもまったく相手にされず、ベンチャーキャピタルの方からは、「今からAI? Web3.0をやりなよ(笑)」と冷ややかな反応を受けました。

なぜなら、当時はChatGPTがまだ世に出ておらず、AI業界はすでにディープラーニングの成熟期に入っていたため、新しいAI企業を立ち上げても、簡単には注目されない時代だったからです。

既存のプレイヤーが市場を押さえていたため、当時は「AIのビジネスチャンスはもうない」 という空気さえ漂っていました。「何のためにあなた達はその事業をやっているのか」と質問され、言葉に詰まる日々。アポのたびに断られ続け、自分たちが必要とされていないという感覚に陥っていくのは、本当に苦しかったです。

画像生成AIに活路を見出すも、収益構造に限界が

千葉:半年間続いた無風状態を打破するきっかけになったのが、 画像生成AI でした。2022年の秋に、Stable Diffusion が登場。ちょうどChatGPTが脚光を浴びる前のタイミングで、画像生成AIが先に注目を集め始めていました。

「この技術を使って、何かビジネスにできないか」と考え、みんなで作り上げたのが、AIによる顔アイコン生成サービス「DreamIcon」です。これは自分の顔写真を送ると、AIがさまざまなイラスト風に変換してくれるという toC向け画像生成サービスだったのですが、犬や猫のバージョンも後に作りました。

とにかく生成AIで何が出来るのかを模索しながら、小さなビジネスを試し続けた時期でした。とはいえ、toCサービスの限界にもすぐに突き当たりました。一時的に人気が出ても、すぐに類似サービスが登場するので、差別化が難しく、しかも単発の売上が中心になってしまうため、継続的な収益が生まれにくいという欠点がありました。

月売上100万円未満で決断した、5,500万円の調達

千葉:2023年当初の風潮として、2022年11月にChatGPTが公開されたものの、その真価に対して多くの人は懐疑的な状態でした。しかし、私たちは すでに画像生成AIを手がけていたこともあり、その技術の可能性をすでに肌で感じていたのです。

今こそ、生成AIの方向で事業をもっと本格的に進めるべきだ。そう考えた私は、2023年初頭に シードラウンドで5,500万円の資金調達を実施。当時の売上が月100万円を満たない中で、思い切った決断ではありましたが、資金調達をしたことで覚悟が固まりました。

toCサービスは厳しい。でもそこで培った生成AIの経験を、toB向けに転用していければ、ビジネスチャンスがあるのではないか。そこで、企業が抱える業務課題に対して、生成AIを組み込み効率化していくための取り組みを始めました。

幸運なことに、シードラウンドの資金調達をプレスリリースで発表したタイミングで、ゆうちょ銀行の方からお問い合わせをいただき、社内データとChatGPTを組み合わせたサービスを作ることになりました。

大手と比べ、私たちneoAIは組織が小さい分、圧倒的なスピードでシステムの開発・納品が出来る点が強みでした。ゆうちょ銀行さまのプロジェクトに人生のすべてを賭ける勢いで、全員で開発に集中した結果、わずか1ヶ月での一次納品を達成できました。

お客さまにご満足いただけるレベルのシステムを無事に完成させることができ、2023年中盤にはプレスリリースを発表。当時としては 金融機関での生成AI活用は非常に珍しかったため、大きな注目を集め、他の金融機関からも次々にお問い合わせをいただくことができました。

ChatGPTブーム下で選んだ独自路線

千葉:ゆうちょ銀行さまとのプロジェクトを機に、neoAIの成長は一気に加速しました。ゆうちょ銀行の方々には、今でも大変お世話になっており、感謝しかありません。

ChatGPTが話題になった当時、世間の注目は「プロンプトの工夫」に集まっていました。しかし私たちは、企業が持つ膨大なデータと生成AIを組み合わせたサービス構築の方がよりお客さまのお役に立てるのではないかと考えました。

検討を重ねた結果、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用した企業向けAIソリューションへのシフトを決めました。RAGを用いることで、生成AIに企業独自のデータを組み込み、実際の業務に即した回答を提供できるようになります。そのほうが、さまざまな業界の課題解決に貢献できると考えたのです。

ありがたいことに、三井不動産から転職してきてくれた正社員第一号の藤本泰成をはじめ、このタイミングから優秀な人材もneoAIに参画してきてくれました。おかげで組織がどんどん強化されていき、変化の激しい生成AI市場でも戦える体制を整えることができました。

企業のAI導入の課題“共通基盤”の解消へ

千葉:これから企業ごとに業務特化型のAIエージェントが導入され、各従業員がAIを「部下」として指示・管理する世界が訪れるのではないかと考えています。そうなれば、企業が 「AIをどうマネジメントするか」 が新たな課題として浮かび上がってくるでしょう。

現状、多くの企業が セキュリティの兼ね合いからAIシステムをフルスクラッチに近い状態で開発せざるを得ないため、開発コストが膨らんでしまっています。しかし、このままだと非効率ですし、導入スピードも遅くなってしまいます。企業ごとのAIシステムを個別に開発するのではなく、共通のソフトウェアをSaaS型で利用するかたちが理想です。

ただ、セキュリティ要件が厳格な業界だと、クラウドベースのAIを全面導入できないため、既存の社内システムとAIをどう統合していくかが、エンジニアリング上の大きな課題です。既存システムとクラウドのシステムを滑らかに連携させるための共通基盤の開発がこれから必要になってくると思います。

neoAIでは、現在、複数の企業とのプロジェクトを通じて、ノウハウを集約し、効率的なAI基盤を構築できるように取り組みを進めています。特に金融機関向けには、セキュリティ要件を満たしたかたちでAIを統合するソリューションを開発し、各社に適用できるモデルを提供できるようにしています。

企業ごとのバラバラなAI導入を防ぎ、よりスピーディかつ低コストでの導入が可能な仕組み を作れれば、日本企業のDXは間違いなく加速していきます。生成AI技術を駆使して、日本のビジネスの仕組みを根本から変えていけるように、neoAIはこれからも最先端を走り続けます。

先駆者として「マグロのように常に泳ぎ続ける」

千葉:生成AI市場は、今時点で最先端の技術が1年後にはあっという間に普及し、当たり前になってしまう世界です。RAGにしても、最初に着目したのは当社を含めごく少数の企業だけでしたが、1年も経たないうちに広まり「特別な技術」ではなくなりました。

だからこそ、neoAIでは「R&D(研究開発)チーム」と「ソリューション(社会実装PJ)チーム」、「ソフトウェア開発チーム」という 3つの専門チーム を構成し、研究・社会実装・ソフトウェア化のサイクルを高速で回す仕組みを採用しています。

いかに早くシーズを見つけ、実装し、システムとしてのクオリティを高めるか。もちろんすべての技術が技術化できるわけではなく、成功したサービスの裏側には多数の失敗事例があるのですが、それでもマグロのように常に泳ぎ続けていなければ、あっという間に置いていかれてしまいます。そのため、常に危機感を持ちながら、事業を展開しています。

スタートアップならではのスピード感で未来へ向かう

千葉:ただ、neoAIは、業務委託を入れれば70名規模の小さな組織ですが、優秀な人材にも恵まれていますし、組織力と実行力次第で十分に大手とも勝負していけるとは思っています。最近50代や60代の方も正社員としてジョインしてくれたのですが、みんな「ギークに仕事をする」という指針のもと、楽しそうに目を輝かせながら日々業務に取り組んでくれています。

neoAIの組織は、同心円の中央に経営陣がいて、そこから部長・メンバーというかたちで輪が広がっていくような構造を意識して作っています。それぞれがそれぞれの場で円の中心にもなれるし、同心円全体の中央に入りこんできてくれれば、会社全体の意思決定にも関与できる割合も増えていきます。

neoAIはまだまだ正社員15名の規模なので、経営陣との距離も近く、意思決定に関わるチャンスはたくさんあります。また、事業自体はすでに黒字化しており、しっかりと利益も出ているので、「最先端のAIサービスを自らの手で作りたい」「腰を据えてチャレンジしたい」という人には最高の環境だと自負しています。生成AIの先駆者として、私たちと一緒に未来へ向かって駆け抜けていく仲間と新たに出会えることを、今から楽しみにしています。

——本日は貴重なお話をありがとうございました。

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