【3行要約】
・ 日本のアニメ業界は世界的に注目されているが、アニメーターは低賃金で働く人も多く、深刻な人手不足に直面しています。
・Creator's X代表の藤原俊輔氏は、大手制作会社は3〜4年先まで仕事が埋まり、AI活用も技術と現場の壁で進まない現状を指摘。
・同社はAI活用で制作時間を2日から3時間に短縮し、M&Aで規模拡大を進めながら、次世代の東映アニメーションを目指すと語ります。
40歳・年収270万円…アニメーターの給与の実態
藤原俊輔氏:Creator's X 代表の藤原です。よろしくお願いします。30分のテレビアニメ×12話、1クールで描く絵の枚数。その数は7万枚にも及びます。パラパラ漫画のように、1枚1枚絵を描いていくのが日本のアニメのスタイルです。

そんな環境下で働くアニメーター。実は最低賃金ギリギリで働かれている方も多く見かけられます。結婚・出産を機に転職を考えるのは、女性だけではありません。ゲーム業界に転職できればまだいいですが、絵とは関係のない、工場勤務やトラックドライバーとなる方もいます。
いずれにせよ、今、結果として人手不足が大きく加速しています。実際、大手のアニメ制作会社は、3~4年先まで仕事が埋まってしまっています。今アニメを企画しても、放送は2030年。5年後のトレンドは誰も読めないので、作るに作れない状況です。
企業経営の視点で見ても、課題は多くあります。アニメの制作会社は、プロデューサー・監督が社長業を兼務することが多いです。目の前の制作案件が忙しい中で、企業経営にまで手が回っていません。
業界最大手は時価総額7,000億円
そんな業界ですが、ポテンシャルは非常に大きいです。業界最大手の東映アニメーションは、時価総額7,000億円に上ります。これはメルカリやU-NEXTの1.5倍以上の規模です。

我々は、次世代の東映アニメーションを創ることをコンセプトに掲げて、2つのテーマに取り組んできました。1つ目が、AIの補助的な活用です。今、アニメ制作業界の中でも、AI活用は賛成派と慎重派に分かれています。大手のアニメ制作会社では、PoCはできるが、現場実装ができない。技術と現場の壁が厚く、身動きが取りにくい状況になっています。

そこで我々は、ツールの提供ではなく、実業としてスタジオ立ち上げから行ってこそ、AI活用を推進できると思うに至りました。当社は昨年(2024年)の9月に本格始動し、そこから約10ヶ月間、M&Aを2件行い、従業員数は70名規模、売上は8億円規模に拡大してまいりました。AIを活用する体制が整ってきています。
制作の手間を2日→3時間に圧縮
背景美術にAIを活用しているデモになります。アニメでは構図の指定がありますので、いきなりAIで絵を出すということではなく、まずは手描きでラフを描くところから始まります。その上で、塗りと描き込みをAIにサポートしてもらい、さらにそこから演出に沿った表現に仕上げていくため、人の手で仕上げ作業を行っていきます。あくまで中間工程の、部分的な効率化であるというのがポイントです。
とはいえ、効果は絶大です。例えばこちらの絵、通常2日間かけて作るような絵ですが、3時間で制作が完了しています。そうなると、単純に生産性は5倍になるという計算です。これは実案件でも実証済みです。
当社は守りも重視していまして、森・濱田松本法律事務所に顧問弁護士に入ってもらい、データはグループ保有のものを活用。AI利用者も限定して運用しています。
多くのアニメ会社から提供・協業を依頼、売上は前期比2倍
続いて、企業経営のアップデートです。前述のとおり、クリエイター社長の企業経営には限界があります。当社はM&A先のK&Kデザインにおいて、一つひとつ地道に、徹底的に見直しをかけてきました。正直、突飛なことは1つもしていません。それでも販管費は15パーセント削減され、利益の拡大に大きく寄与しています。

事業サイドにおいても、この度、有名タイトルを受注することができまして、売上は前期比2倍を見込んでいます。営業においても、人脈に依存せず、きちんとやり切ることができれば、いい案件を獲得できる。そういった環境にあることが見通せてきました。
この2つのテーマで、今、多くのアニメ会社から、提供・協業を依頼されています。そこで我々は、AIと新しい制作の型、そして企業経営を1つの支援パッケージとして、アニメ制作会社へ提供し始めています。実際、「当社グループに入りたい」という声もいただいている状況です。
結果として、我々にはアニメのデータと、現場のノウハウがたまっていきますので、さらなる支援が可能になっていくという構図です。

今、我々と同じ動きをしている会社は1社もありません。我々は、次のアニメ制作のデファクトスタンダードを作りにいきたいと考えています。
グローバルトップIP企業へ
とはいえ、アニメ制作は「人数×単価」の制作ビジネス。アップサイドを狙っていくためには、IPホルダー側へ回っていく必要があります。我々は制作受託をきっかけに、有名タイトルの製作委員会への出資参画が決定しました。出資のみならず、商品化権・イベント化権も獲得見込みです。

我々は、制作機能をきっかけに、他の機能へと展開していくことで、IPホルダーとしての価値も高めていきたいと考えています。これらの機能がそろっていけば、東映アニメーションだけでなく、ピクサーやウォルト・ディズニーも、追いつけ追い越せで事業を展開できると考えています。

IP別の累計売上高を見ていくと、「ポケモン」が13兆円、「ハローキティ」は11兆円、「アンパンマン」は8兆円。間違いなく、アニメは世界に誇る重要な産業の1つだと思います。我々はサステナブルなかたちで、グローバルトップIP企業を目指していきます。以上となります。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)