【3行要約】・靴のサイズが左右で異なる人々向けの市場はグローバルで2兆円規模の潜在性を持ち、高齢社会日本の社会課題解決にも貢献します。
・ミズノからの出向起業で挑戦する清水氏は、初期の失敗を乗り越え、「替えの利かないシューズになった」と喜ぶユーザーの声に支えられて事業を発展させてきました。
・企業内で失敗を恐れず挑戦する文化を育むには、個人の挑戦を支える社外コミュニティと、「探索」と「営利活動」を区別する明確な組織ルールの両輪が必要です。
前回の記事はこちら 新規事業におけるマーケット戦略
大長伸行氏(以下、大長):ありがとうございます。ここからはちょっと「Slido」に移っていきたいと思うんですけど、清水さんも見られていますかね?
清水雄一氏(以下、清水):はい、見られています。
大長:ちょっと(質問リストの)上からいきつつ、もし補足でコメントしてもらえるのであれば、投稿してくれた方にしゃべってほしいなと思っています。1個目にいきましょうか。

「サイズの外れ値でニーズを持っている人のマーケットってどれぐらいあるんですか? けっこうグローバルでもありそうだなと思い、ポテンシャルがあるか興味があります」。ということなんですけど、もし質問を入れてくださった方は、補足で解説したいことや伝えたいことがあれば音出しでコメントをお願いしてもいいでしょうか?
質問者1:すごく勉強になる話をありがとうございます。書いてあるとおりなんですけど、ニッチなマーケットと思いつつお話を聞いている中で、スポーツに限らず糖尿病もそうですけど、こういう課題って実はいろんなところでニーズがあるんだろうなと思いながら聞いていました。
それで、マーケットポテンシャルというか、どれぐらいの市場規模があるのかの予測を取られていたら、ちょっとおうかがいできればなと思いました。
グローバルな市場とともに、日本の社会課題も視野に
清水:ありがとうございます。「グローバルのマーケットはあるだろうな」というのはまさにそのとおりだなと思っています。

左右別サイズというかなり絞ったマイノリティの課題だとしても、グローバルなら2兆円弱ぐらいだなと思っています。糖尿病の話も含めて考えると、オーバーラップするところはあるとしても、数兆円の規模の市場がそれぞれの課題の中に眠っていると思います。
また、「高齢になって外反母趾が進んで足が痛い」「足・腰・膝が痛い」みたいな課題が靴から発生しているところも含めると、3Dプリントのシューズって、日本国内が先端を走っている高齢社会に対する貢献にもなるんじゃないかなと思います。
なので、ここを面でカバーできると大きい市場を狙っていけるんじゃないかなと捉えています。
質問者1:ありがとうございます。また詳しくおうかがいできたらうれしいです。ありがとうございました。
清水:ありがとうございます。
“小さく始めて仮説検証”が必要なはずが……
大長:じゃあ、次にいきましょうか。「大小さまざまな失敗やピボットをしていると思いますが、事業をドライブしていく中で一番学びの大きかった失敗があれば」ということなんですけど、これも書いてくださった方から、もし補足があればお願いします。
守屋日南子氏(以下、守屋):すいません、これは私なんですけど。失敗をどう捉えて進めてこられたかも併せてうかがえるとうれしいなと思い投稿させていただきました。
清水:ありがとうございます。やはり一番大きい失敗は、最初に作ったプロダクトがぜんぜん芯を食っていなかったことだと思っています。
やはり「(もっと多くの種類からシューズを)選びたい」みたいな話や、ユーザーさんが達成したいことが見え切れていなかったなというところです。
「まず、本当に左右別サイズで買ってくれる人がいるのか?」を小さく作って試すための1モデルだったはずなのに、引っ張っちゃったなみたいな。
そこから試し方や失敗の仕方に関しては、それでわりと少しうまくなったかなと思っています。今も日々失敗しまくるので、ずっと痛い思いをしながらですけれども、一番出だしの一歩の部分が失敗として大きかったかなと思いますね。
大長:ありがとうございます。何なんでしょうね? 事務局の時も「仮説検証を小さくやるぞ!」ってあれだけみんなで一緒に号令をかけていたのに、いざやろうとすると、めちゃ格好いいサイトをしっかり作っちゃう。
清水:いやぁ、本当にね。
大長:この人間の心理はどういうことなんですか(笑)?
清水:何なんでしょうね? 呪いじゃないですか(笑)?
大長:(笑)。
清水:相当な修業をして禅の心を開いておかないとついうっかりやっちゃう(笑)。サイトの出来栄えは良かったですね。
大長:ミズノのものも扱うから、ミズノが最低限出していいクオリティを求めてしまうというか、そういう心理はあるのかもしれないですね。
清水:ですかね。いろいろあったなと思います。ものすごい裏側の話で言うと、出向起業って補助金が出るんですよ。補助金って使ったものに対しての話になろうかなと思うんですけれども。
そのあたりの補助金に対して「補助金を使い切らねば」みたいな話も含めて、金回りの浮かれ具合もあったなと思いますね。
ユーザーの反応があったから続けられた
大長:なるほど。ありがとうございます。じゃあ、次にいきます。「『失敗を乗り越え、成功し始める』の期間まで、当時はどういうふうに捉えていましたか? 『必ずやり遂げればうまくいく』『どこかで撤退基準を設けなければならない』など……」。
グッと離陸するまで長かったという話をされたと思うので、「それはどういうことですか?」というご質問かと思います。もし質問者の方から補足があればお願いします。大丈夫ですかね? じゃあ、ちょっと回答をお願いしてもいいですか?
清水:どう捉えていたか? 「日々つらかったですね」という感じですけどね(笑)。「必ずやり遂げればうまくいく」「どこかで撤退基準を設けなければ」みたいな話に関しては、「スタートアップでやっているのでお金がなくなったらゲームオーバーですね」という話です。また、どうしても次回の調達とのバランスを見ながらになりますね。
そういうところも含めて、「これがうまくいくはずなんだ」というところに関しては、やはり目の前で喜んでくれている人が少なからずいるなというところは見えている。「もう替えの利かないシューズになった」とおっしゃる方がいる。
写真でお示ししたように「こんな足の方がいらっしゃるんや」という特別な足の方は当然そうなんです。けれどそうじゃない、1サイズぐらい違われるだけの方でもそう言っていただける方がたくさんいらっしゃるのを見ている。これを広めるところをクリアさえしたらどうにかなると思ったのがまず1つです。
左右別サイズで履いていただける人の数さえ増やしていけば、事業的には成立するのが数字ベースでは見えているので、これを前に進めていくことさえできたらうまくいくんじゃないのかと思いました。
プロダクトとしてあらためて、「じゃあ、人の数を増やしていきましょう」となった時には何が求められるのか。ある程度の取り扱い品数も必要になってくるので、「こういうようなサイズがあったらどうなのか?」というヒアリングとかも情報的に随分持っている中で、あらためてセカンドの開発にも進んでいきました。
ちょっとずつ情報が積み上げられていく中で、「まだいけるんじゃないか?」という話があったので、成功をつかまえにいくためにがんばった感じですね。
撤退基準は、銀行残高が減っていくので、撤退せざるを得ないタイミングはもう目に見えていました。そこまでいかない中で何ができるのかでもがき苦しむという話かなと思います。