イチゴの植物工場を運営するOishii Farmの古賀大貴氏と、海藻テックを駆使し話題の商品を手がけるAqua Theonの三木アリッサ氏が起業家目線で見た日本とアメリカの違いを語ります。日本の強みと弱み、アメリカ市場で挑戦する意義を紹介しながら、世界へ飛び出す日本の起業家にメッセージを贈ります。
トレンドの発信地だからこそアメリカで勝負する
有馬暁澄氏(以下、有馬):お二人とも、今後の構想はどうなんですか? 古賀さんは今、アメリカのニューヨークでやっていて、次に日本でやる。アリッサさんは、今はロサンゼルス中心にやっていて、今後5年、10年でどう展開していきたいみたいなものが、もしあればぜひ。あと、コラボレーションの話も含めて、ちょっとアリッサさんから。
三木アリッサ氏(以下、三木):私たちは「ずっとアメリカで挑戦」で十分だと思っております。というのも、先ほど申し上げたとおり、ドリンクだけで6億ドルとか9億ドルの売上が立つと。
ありがたいことに、海藻はいろんなものが作れるんですね。お菓子も最大4億ドルぐらい。またサプリメントも9億ドル。プラスチックの代替品になると10億ドルで、医療用のカプセルはもっと。なのでどちらかというと私たちはアメリカを主軸に、海藻でいろんなものを作っていくと。
それで勝手ながらすごくリスペクトしている会社さんがあります。卵で言ったらキユーピーさん。カゴメさんでしたら、トマトだったら何でも作れますみたいな、定番と言われる会社です。私たちはそれの海藻版になりたいと。
「拠点はずっとアメリカ」にこだわりたいのは、やはり世界のトレンドがアメリカからスタートして、その3年後にヨーロッパに流れ、さらにその5年後にアジアに流れています。なので、まずはトレンド最先端のアメリカでやっていく。
技術を持っていますから、そういった技術はフランチャイズあるいはパートナーシップで他の国々にどんどん展開していきたいなとは思っていますね。
起業をやり直すなら日本か、アメリカか
有馬:ちょっとごめんなさい。続きの話で申し訳ないんですけど、今回の「SusHi Tech」でもアグリテックやフードテックというテーマが1つあります。
やはりフードテック大国ってアメリカなので、アグリテックやフードテックのスタートアップはDay1からアメリカでやったほうがいいのか、日本でやったほうがいいのか。ここらへんって意思決定がむずいなと思うんですけど、どうですか?
ご自身はアメリカでやってみていろいろ感じている部分があると思うんですけど、もう1回起業し直すとして、またアメリカでやります?
三木:絶対にアメリカです。やはり規制の部分もそうですが、フードカルチャーがぜんぜん違うんですね。
例えば我々のドリンクもそうですけど、一番人気はストロベリーハイビスカスなんです。日本のマーケットだとだいたいイチゴ味やブドウ味のワンフレーバーで終わっちゃうんですけど、それはアメリカで売れないんです。
私はカルチャーを超えて初めて食に価値が生まれると思っているので、そうすると、そういった部分を日本から遠隔でアジャストするのは、やはり私には難しいかなと。
ただ、これをもっと機能に振り切ったもの、例えば医療用カプセルだけでしたら、確かに日本でやってもいいと思います。ですが、ブランドを作るという概念においては、日本はいい意味でも悪い意味でも、人々の共通価値が圧倒的にガラパゴスすぎるので。
そこを、その感覚でアメリカに来たらそりゃあ全滅しちゃいます。だから私は最初からアメリカで挑戦してよかったなと。逆に、アメリカから日本に持ってくるのはすごく簡単なんです。
有馬:そうなんですね。
三木:アメリカからヨーロッパに持っていくのもすごく簡単なんです。
有馬:逆がむずい?
三木:逆がすごく難しいなと私は思うんですけど、古賀さんはどうです?
日本の消費者は食べ物に世界一厳しい
古賀大貴氏(以下、古賀):非常に近い感覚を持っています。結局、僕らが日本で始めていない理由って、それなんです。

要はアメリカがいいのかどうかは別として、そもそも始める時に、どこに一番プロダクトマーケットフィットがあるのかという観点をグローバルかつゼロベースで考えて始めないと、まず日本のマーケットに特化し始めますから。
特に食べ物って、日本の消費者が世界一厳しいです。そこで勝ち残るためにやらなきゃいけないことって、下手したらアメリカより難しいわけですよね。
僕らがもしDay1で日本で起業していたらここまでブランド認知もなかったかもしれないし、そこまで物珍しくもなかったかもしれないし、うまくいっていなかった可能性がありました。
だからこそ「おいしいイチゴがないけれども、そういったものに対してお金を払う金持ちがいる場所」ということでニューヨークを選んでいるというカスタマーサイドの話が1つ。
あとはやはりグローバルスタンダードのチームを最初のDay1から作っておくことです。やはり日本人だけのチームを最初に作っちゃうと、どうしても世界に行く時にアジャストメントが必要になってきちゃいますよね。
僕らは最初からアメリカでやっているので、日本もOne of many marketsとして捉えています。世界中のどこのマーケットへ次に進出するかみたいな感じをフラットに見られるので、その後の展開がしやすいですよね。
グローバルな人材の「巻き込み力」が重要
古賀:ただ、我々みたいな非アメリカ人がアメリカで立ち上げるということはもう本当に丸裸で戦うような状態でした。
有馬:本当に、超すごいですよ。
古賀:周りにはアイビー・リーグを出た白人男性がものすごい武装で解き放たれている中、我々だけ真っ裸で金棒を持って野に放たれるみたいな状態なので。
有馬:すごい。
三木:特にうちは古賀さんと違って、最初のチームは全員日本人だったわけですよ。だからそのハードシングスは半端なかったですね。
有馬:やはり、2人ともチームがすごいですよね。人の巻き込みも含めて今もきちっとされている感じですね。
古賀:1人だけじゃ到底戦えないから、我々よりすごい人たちを横につけていかなきゃいけないわけですよね。
有馬:日本のスタートアップとの違いでいくと、たぶんそこかもしれないですね。特にボードメンバーのチーム力がけっこう大事ですし、マネージャーやディレクター以上の質も大事だなと思います。
三木:特にアジア人のアメリカのスタートアップの多いところは、アジア人同士で固まっちゃうんですよ。その点、古賀さんも弊社もけっこうダイバーシティにやっているのは、アジア人ファウンダーのスタートアップとしてかなり珍しいと思いますね。
日本の強みは“変な技術の研究者”
有馬:いろんな方がいますもんね。すごいですよね。ありがとうございます。一応今日のテーマは「ギガコーン」なんです。だからお二人とも必ずギガコーンになるのが必須になっちゃっているんですけど、最後に「ギガコーンになるために、これだけは伝えたい」みたいなのがあれば(笑)。ぜひおうかがいしたいなと。
古賀:やはりこの10年、20年はSaaSやITが主流でした。けれども今は「ディープテック、ディープテック」と声高に言われています。ここは日本に相当な勝ち筋がある領域だと思っています。やはりディープテックってサイエンス×マニュファクチャリングなんですよね。
サイエンスだけあっても、最後に製造を量産化できないと意味がない。サイエンスは当然、アメリカとか中国もすごいですけど、日本にもけっこういろんなサイエンスがあるんです。

しかも今まではまったく価値がないと思われていたものなんだけど、サステナビリティの文脈が入った瞬間にいきなり価値が出てくるような、変な技術の研究をしている研究者がたくさんいるんですよ。
それを、世界的な文脈に照らし合わせてどこにニーズがあるのかを探すわけです。だから、日本でただ商用化することをゴールとするんじゃなくて、世界の文脈の中で見た時に、実は世界のニーズにマッチしているという発見が必要です。植物工場は、その最たる例だったわけですよね。
10年前に日本でやった時は、にっちもさっちもいかなくて「何だこれ? 儲からない産業だ」というレッテルを貼られちゃったものが、今、10年、15年、20年経って、ぜんぜん違う文脈で見直された時に「何だこれ? 100兆円産業がここにあるじゃないか」という状態になっているわけです。
なので、どこにそういういいシーズがあって、グローバルでどういうニーズがあるのかを認識していれば、日本の強い技術を使えます。そうすればアメリカや中国、ロシアとよーいドンじゃなくて、かなりいい貯金を持った状態で勝負にいけます。そこが日本のデカコーン戦略の明確な勝ち筋かなと思いますね。
日本人のコツコツがんばる力が価値になる
有馬:マーケットと技術のバランスはめっちゃ大事ですよね。だから、技術だけあってもマーケットを捉えていないとやはりなかなか売れないですし、でも、マーケットだけで技術がないと後からやはり参入障壁を築きづらくなるので。
古賀:そのとおりですよね。テスラみたいな会社ですら、今はBYDに負けつつある、だいぶ厳しい状態なわけじゃないですか。あれはやはり、アメリカは物作りが決定的に弱い。0→1のインベンションは強いけど、ちゃんと作って量産化していくところがぜんぜん弱いという。
有馬:だからそういう意味でいくと、もともと日本はものづくりのトップランナーなので、チャンスがすごくありますよね。
古賀:すごくあると思う。
有馬:あとは、お二人みたいな経営者の方々がマーケットを捉えてうまく融合すれば、それこそギガコーンになるチャンスということですよね。
三木:まさにそうだと思っています。もうプレイヤーがいないだけだと思っています。特にフードテックやディープテック業界は、正直なところ、愚直にがんばるしかないんです。
例えばAIみたいにワッと瞬間風速的なものができないので、本当にコツコツやっていくと。その点、日本人は最強じゃないですか。さらにアメリカで挑戦している人がほぼいないので、あなたがアメリカに来るだけで価値になっちゃうんです。
本当にみなさんに伝えたいのは、みなさんの「好き」がアメリカでめちゃくちゃお金になります。めちゃくちゃ味方になります。どうかアメリカに来てほしい。本当にそんな感じです。
有馬:なんか選挙みたいですね(笑)。
三木:(笑)。清き1票を!
有馬:「投票してください」みたいな(笑)。
世界で戦う日本人プレイヤーが増えることを願って
三木:本当にもっとプレイヤーが増えてほしいんです。やはり私は、古賀さんがいたおかげで今の私があります。ふと後ろを見たら、今はまだあんまり挑戦者がいないんですよ。
有馬:そうですね。ちょっとね。
三木:この2人ってたぶんエベレストで言うシェルパだと思っています。古賀さんが踏み固めてくださった足跡がせっかくこんなにあるのに、もったいないです。
有馬:「まだまだ登るぞ」って顔をしていますけど(笑)。
三木:そうそう。私は4合目でもうヘロヘロなんですけど、(古賀さんは)本当に「もうあとちょっとで頂上」みたいなところにいらっしゃいます。でも、足で踏み固めた(道の)あとにまだ来れる道はあると思うので、多くの挑戦者に来てほしいなとは思います。
有馬:ありがとうございます。結論、日本はチャンスがいっぱいありますというのと、ぜひ世界で起業に挑戦してほしいということですね。
古賀:ディープテックにおいては、もうチャンスの宝庫だと思いますね。
有馬:ありがとうございます。めちゃくちゃお時間が過ぎ始めているので、ここで終わらせていただきますけど、ぜひこの後、舞台の右袖で名刺交換等ができればと思います。
じゃあ、ここで終わらせていただきます。ありがとうございました。