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日本のディープテックデカコーン戦略~グローバル市場で輝く日本の強みとは?~(全4記事)

高級イチゴで“植物工場のテスラ”を目指す 日本発スタートアップがアメリカで仕掛けたブランド戦略

イチゴの植物工場を運営するOishii Farmの古賀大貴氏と、海藻テックを駆使し話題の商品を手がけるAqua Theonの三木アリッサ氏が、それぞれのブランド戦略を紹介します。競争が激しいアメリカ市場でのポジショニングや、マーケット選びの重要性を語ります。

起業のバックグラウンドに「日本が大好き」

有馬暁澄氏(以下、有馬):(Oishii Farmの起業エピソードを聞いて)ありがとうございます。そんな古賀さんに劣らない圧倒的なパッションのアリッサさん。なんでそんなに元気なんですか?(笑)。

三木アリッサ氏(以下、三木):なんでですかね? 

有馬:会った時からずっと元気で。

三木:(笑)。

有馬:でも乙女な時もありますから。なのでそんなアリッサさんから自信を持って日本の海藻をめちゃくちゃ熱弁していただいたと思うんですけど、どういういきさつでアメリカで勝負することになったのか、ちょっとぜひ。

三木:いや、正直、私は海藻テックのスタートアップになるとはもともと思っていなかったんですね。古賀さんと違って、本当にアメリカの大学にも行っていませんし。もちろん幼少期は(アメリカに)いたものの、早稲田大学を出て、日本の会社に勤めていましたので、起業はぜんぜん考えていませんでした。

ただ、幼少期にアメリカと日本を行き来している中で、いじめを受けた影響でアイデンティティクライシスを経て、やはり私は日本が大好きだなと。だから「せっかく日本人として生まれたなら、この美しい文化をどうやって守ればいいんだろう?」とずっと考えていたんです。

ですから21歳の時にお花屋さんの立ち上げに参画したりとか、その後に日本酒ベンチャーに移ったりとか、伝統工芸系のeコマースの一番大きいところでやったりとか。もうずっとやってきた中で自信をつけてきました。

自宅のキッチンで研究を開始

三木:もう自分の人生の半分以上、「日本の伝統(的な文化に関係する)、いいものを何かやんなきゃ」と思い続けて今があるので、誰とでも一緒にされるのは、ちょっと納得いかないなと思いながら(笑)。

有馬:いいですね。おもしろい。

三木:ただ、やはり和菓子からスタートしました。ちょっと古賀さんと似ているのも、実は私の家のキッチンから1個1個、特許を作っていたんですよね。

私は社長なんですが、やはり(実験機器など)何がどういう仕組みで作られているのかを知っているのは、確かに強いのかもなと思っていたりしますね。

有馬:実際、最初はめちゃくちゃ泥臭いですよね。さっきの話で、古賀さんはみなさんで共同生活をしていましたし。でも2人とも日本が結局大好きですよね。そういう意味でいくと、日本のプロダクトやサービスや技術もいいなと思いました。

この後のスライドでブランドが一瞬見えたんですけど、その中で2人とも自分たちのプロダクトを作ってブランドをやっていますと。

古賀さんはイチゴじゃないですか。「イチゴのブランドって何ですか? これはどうやって売っているんですか?」というのをちょっとお聞きしたいです。

植物工場は既存の農業よりも安価になる

古賀大貴氏(以下、古賀):僕らがイチゴをやっている理由っていくつかあるんです。一番大きな理由は、今後数十年のスパンで考えると、植物工場業界は確実に既存農業よりも安くなっていくからなんですね。これはなぜかというと、農業には土地や水、人、安定した気候が必要で、これらの供給がもうほぼ全部、人口の増加に対して間に合わなくなっていく。

植物工場では、今言った4つがもうほとんど必要なくなっていきます。このファンダメンタルズ(指標)を見ると、地域や作物によって違うんですけど、そのうち植物工場のほうが安くなって、メインになっていく。

そういうことを考えた時に、自動車で何が起こったかを考えてほしいんです。ガソリンから電気にいって、テスラは2008年に「Roadster」というプロダクトを出しました。1,000台しか作れず、しかも3,000万円ぐらいしました。だけどポルシェよりも速い電気自動車を出したわけですよね。

同じ年に日産は「日産リーフ」というプロダクトを出しました。これはたぶん100倍ぐらい売れて、値段も10分の1ぐらいだったんです。けれども、電気で走る以外には既存の車と比べて何がいいのかよくわからないものを出してしまった。

その結果、10年経って何が起きたかというと、テスラはテスラというブランドを作れた。今はちょっと、いろんな政治的な問題もありますけども。

要は植物工場がこれからメインストリームになっていき、世界最大の農業生産者をゴールに目指す時に、ブランドを作ることが何よりも重要。

技術がコモディティ化する前にブランドを作る

古賀:最初は当然品質や価格、あとは技術の優位はあるんですけど、そのうちみんなができるようになるはずなんですよ。今はうちしかできていないですけども、それができるようになる。

そう考えた時に、それまでに圧倒的なブランドを作っておくことが重要です。「じゃあ、ブランドを作れる農作物って何だろう?」と考えた時に、レタスだとなかなか難しい。イチゴだとみなさんも「あまおう」や「とちおとめ」を知っていますよね?

なのでそもそも、そういった観点でいろんな作物の中から、ブランディングができるからイチゴを選んだ。

かつ、そのブランディングの仕方も、今までの「あまおう」や「とちおとめ」みたいなブランディングの仕方ではありません。もっとハイエンドな(価格帯に適したブランディングをしており)、テスラのモデルを踏襲しています。

まずは50ドルという超高価格帯で、ミシュランのレストランやセレブにしか買えないイチゴ(を売り出しました)。普通の人はそもそも買いたくても買えない状態を作ったんです。

有馬:イチゴですよ。イチゴが(普通の人には)買えないんですよ。すごい(笑)。

古賀:だから、最初の1~2年間は、誰でも知っているようなセレブの家に自分で届けに行く、みたいなことをやっていました。

そこから「どうしても欲しい!」という人たちをたくさん作っておいて、4年目ぐらいにホールフーズでようやく販売する時には「あの幻の50ドルのイチゴが、お近くのホールフーズで10ドルで買えます!」という戦略を取りました。逆に言うと、最初の3年間はそこを目指してブランディングをしていったという感じですね。

有馬:ここまでちゃんと戦略立ててやっているのはすごいですよね。あと、「Oishii Berry(オイシイベリー)」という(商品の)名前がいいですね。

古賀:いろんな候補があったんですけど、ちょっとこれは日本人として譲れないなと、Oishii Farmという(会社の)名前にしました。

有馬:おしゃれ! こんなおしゃれにイチゴをパッケージにするのはなかなかないですよね。

古賀:ありがとうございます。これにはけっこう命をかけています。

日本らしさとアメリカナイズのバランス

有馬:すごい。一方でアリッサさんは、要は海藻ってアメリカでけっこう新しいジャンルじゃないですか。

イチゴは言うても農作物の1つなので、(マーケットが)わかっているというか、もともとあるマーケットの王者になっていく戦略が取りやすいのかなと思っているんですけど。

海藻という新しいものを売る難しさとか、その海藻、このドリンクもそうですし、その前の和菓子も含めて、どういうふうに普及していくのかみたいな(ところで)工夫や苦労はありました? 

三木:実は、我々のブランド戦略はOishii Berryをかなり勉強させていただきましたよ。

有馬:みんな真似ているんですよ。

三木:ごめんなさい。本当にありがとうございます(笑)。

古賀:役に立つのならもう何でもパクっていただいて。

三木:でも本当に「Misaky Tokyo」もまったくそうでして。もうOishii Farmさんがすごいハイエンドで、(そこから)徐々に単価が下がっていくのは見えていたと。

同時に、今、さらっとブランディングとおっしゃっていましたけど、「Oishii」という名前からイメージされる日本風味を若干残しながら(テイストの)8割をアメリカ(向け)のデザインに持っていくのはめちゃくちゃ難しいんですよ。Oishiiさんって、すごいことをやっていらっしゃっています。

古賀:うれしいですね。

有馬:いい通訳者ですね。めちゃくちゃいい(笑)。

古賀:何も仕込んでいないですよ。

三木:あとでお金をくださいね(笑)。

有馬:イチゴをいっぱい、後でお渡ししてはどうでしょうか。

三木:イチゴ、すごくうれしい(笑)! でも、その変遷を我々なりに全部言語化していきまして、同じように「Misaky Tokyo」という名前にして、色合いを決めました。

そこからオーセンティックなコミュニケーションと、アメリカナイズのバランスを完全に決め切ってやっていったのがスタートではありました。

マーケットに限界を感じ新商品を開発

三木:ただ、我々とOishiiさんの違いは、やはり(Oishiiさんには)すでにマーケットがある。我々はないところから作ったというところです。そこで「Misaky Tokyo」にある意味で限界を感じてしまったのは、本音ではあるんですね。

というのも、安くし切ると今度は(市場が)グミとかの世界になってしまうので、「そこに入りたいか?」と。

それはやはり不毛な感じがしたので、マーケットがもっと大きい(ところを狙うことにしました)。ちなみにアメリカではドリンク市場って「コンブチャ(アメリカでは発酵飲料のことを指す)」だけで1兆円以上のマーケットサイズがあります。

有馬:すごい。コンブチャで1兆円?

三木:はい。ついこの間、我々の友人の経営しているPoppiというプレバイオティクス(健康に有益な働きがある難消化性の成分)の会社がペプシコに買収されました。

有馬:16億ドルですかね。

三木:19.5億ドルです。売上が6億ドル以上あるんですね。なので、お菓子がどんなに大成功しても売上が1~2億ドルぐらいしか見えないのではやはりつまらないなと。

その点、ドリンクだったら最低でも6億ドル、もう少しがんばれば9億ドルぐらいを描けます。なので「Misaky Tokyo」の技術をもう1回「OoMee」で作り直そうよということでやったのがちょっとチャレンジングな部分ではありました。

ブランディングと機能性の両立が鍵

有馬:だから、また大きなマーケットにプロダクトとして海藻で挑戦しているということですよね。

三木:そうですね。その中でもなるべく「OoMee」は、単にすでにあるプレバイオティクスで勝負するのではなく、また半歩ずらしたSeabioticsとか、あとはお腹がいっぱいになるGLP-1、オゼンピック(食欲を抑え、血糖値のコントロールを助ける薬品)のマーケットが伸びているので、そこに当て込んでいくみたいな。その機能性とブランディングのバランスを見続けていますね。

有馬:Seabioticsも自分で作った造語ですよね。

三木:そうです。TM(商標)を取っています。今、Seabioticsというワードがひとり歩きして、いろんなメディアさんに取材をいただいています。やはり業界のトレンドを作るところにおいては、どう半歩ずらしていくかはなるべく考えておくことが重要です。やはり私たちはすでにある市場のどこかへスイッチングすることができないので。

Aqua Theonの戦略は、こういうところがOishiiとちょっと違うかなとは思いますね。

有馬:こんなに宣伝しているんだから、これはみんなで飲みたい。

古賀:(笑)。

三木:飲む~(笑)?

有馬:日本で購入するにはどうすればいいんですか? もうアメリカに行くしかない?

三木:そうですね。ちょっとまだ日本では販売しておりません。日本のメーカーさんでやりたい方がいらっしゃいましたら。

有馬:そうですね。共同研究版で日本バージョンを一緒に作るというね。確かに。ありがとうございます。

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