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キリンホールディングス株式会社 兼 Cowellnex株式会社 田中吉隆 氏ピッチ(全1記事)

"薬局なのに薬がない"をAIで解決 日本新規事業大賞「premedi」が目指す2兆円市場への挑戦

日本新規事業大賞 by Startup JAPAN 2025は、事業会社内で挑戦する起業家マインドを持つ人々を応援するアワードです。本記事では第二回日本新規事業大賞で大賞を受賞した、キリンホールディングス株式会社 兼 Cowellnex株式会社の田中吉隆氏による、薬局の在庫管理を効率化するソリューション「premedi」のプレゼンをお届けします。

約50%が薬局で薬をもらえなかった経験がある

田中吉隆氏:私たちは「薬局の未来を仕組みで支える」をミッションに掲げ、キリンでAIを使った置き薬を展開しているpremedi(プリメディ)です。事業の代表をしている田中と申します。

みなさん、いきなりですが薬局に処方箋を持っていったけど、在庫がなくて薬をすぐもらえなかった経験をされた方はいらっしゃいますか。もしよければ手を挙げてください。

(会場挙手)

ありがとうございます。ちょこちょこ手が挙がっていますが、今日は若い方も多いので少ないかなとも思います。実は調査すると約半数の方がそういったご経験をされているんです。

薬を飲みたい時にすぐもらえないというのは、本来はあってはいけないことだと思うんですが、今日、薬局のことを少し知っていただくと、みなさん「しょうがない」と思っていただけるんじゃないかなと思います。

薬を取りに行く作業が年間3,000万回も発生

薬局の在庫管理って難しすぎるんですよ。そもそも薬品は2万種類あります。それを処方箋どおりに出さなきゃいけません。そして、さらに細かく見ていくと、医薬品ってベストセラーとロングテールの2つに分けられます。

薬局は病院の目の前に建てられることが多いですが、そこから来る患者さんはある程度、処方の予測がつきます。なのでこっち(ベストセラー)は問題ないんですが、一方でいろんな病院からさまざまな処方箋を持ってくる患者さんが2割から3割と、思った以上にいるんです。

その人たちのために薄く広く在庫を持たなきゃいけないのが難しかったんです。さまざまな処方が来るので、予測がまったくできません。そんな中で在庫を卸から買ってしまうと、なんと箱で届いてしまうんです。ロングテールのような医薬品をすべて使い切るのは至難の業です。

じゃあ在庫を買わないとどうなるかというと、いざという時にお渡しできませんよね。しかし医薬品は命に関わったりします。「渡せない」じゃ済まされません。

なので薬剤師さんが近隣の薬局まで薬を分けてもらいに、走って取りに行っている。こんなことが年間3,000万回、地球を225周してしまうほど起こっているんです。もったいないですよね。

“患者さんの安心した顔を忘れられません”

なので私たちは、薬局に置き薬を置くことにしました。卸からは箱でしか買えないような医薬品に独自の梱包を施し、10錠、20錠といった小ロットで買えるようにします。そしてそれを専用棚に配置し、使わなかったら返せるような、リスクのない置き薬として提供するんです。

それだけじゃありません。そもそもどんな薬の処方箋が来るのかわからないのが問題でした。なのでAIを使って「あなたの薬局にはこんな薬を置いておいたほうがいいですよ」というのをご提供します。

これはキリンのマーケティングリサーチ技術を使い、独自のAIによって1万店舗の処方データを機械学習させて作られています。私たちは置き薬とAIを提供します。薬局は月額利用料と医薬品代を支払います。

1つ事例をお話しさせてください。私たちがpremediを導入するまさにその場で、ちょうどアタラックスという医薬品が欠品していたんです。

アタラックスは皮膚の強いかゆみを抑えるような薬です。すぐにでも飲み始めたい、でも在庫がなくて今日お渡しできないかもしれない。患者さんはすごく不安そうにされていました。

でもpremediに在庫があったんです。事前のAI予測で、57パーセントの確率で処方が出ることがわかっていました。これは、今までまったく見えなかった数字です。そして、置き薬なら気兼ねなく置くことができます。

今日から薬を飲めるとわかった患者さんの安心した顔を、私は忘れられません。これは医薬品へのアクセスという、本当に重要な課題をpremediが解決しているということです。

薬局側の売上や業務効率もアップ

そしてこれは薬局にもすごく大きなメリットがありました。すぐ薬をもらえる場所ということで、患者さんが安心してリピートしてくれたんです。でもすぐに薬を渡せるので業務は減るし、廃棄も減ります。

そういった活動を続けてきて、すでに1.4億円の経済価値を加盟企業さまにお出ししています。そしてSMB事業としてはものすごく低い、8パーセントという解約率を誇っています。

2025年から問い合わせが止まらない状況になっていまして、ありがたいことに毎月30件のお客さまが増えています。毎月ですよ。毎月10パーセントというすばらしい成長率でpremediは広がっております。

premediは2025年、3倍の600店舗になります。そして2029年には20億円のストックビジネスになります。その成長を支えるすばらしいチームもすでに出来上がっています。元薬局経営者や薬剤師、薬局営業のスペシャリストといったすばらしいメンバーが9人、フルコミットで事業を運営しています。

キリンのパッケージング技術を活用

またグロースドライバーもあります。ジェネリック医薬品大手の高田製薬と提携しており、MR(医薬情報担当者)が全国でpremediを案内してくれているんです。

また。今日はお名前を言えないのがちょっと残念なんですが、日本最大手のドラッグストアでも採用されており、ドラッグストアの調剤スペースでもpremediが広がっていくことが確実です。

でも、それだけじゃありません。そのさらに先、私たちは医薬品流通の仕組みそのものを変革するという野望を持っています。

ロングテール医薬品は2兆円の流通市場になっています。それをキリンのパッケージング技術で小ロットで販売するというのを工業化して当たり前にし、800億円の事業にします。

これは日本有数の医薬品メーカーであり、パッケージングの技術も持つキリンにしかできないことです。

医薬品が当たり前に手に入る未来を目指して

みなさん、「医薬品がすぐに薬局でもらえる」って当たり前のことでしょうか。これはたくさんの人の努力によって支えられている奇跡みたいなことなんです。でも少子高齢化で、これが当たり前じゃなくなる未来が来るかもしれません。

でもpremediは仕組みによってそれを支え、当たり前が当たり前であり続けることを支援していきます。

そして今日この場なので、最後に1つだけ言わせてください。私はキリンという大企業にいたからこの薬局の課題に出会い、そして新規事業コンテストがあったから事業化して、薬剤師さんと一緒に日本を良くしようという夢を持つことができました。

そして私は(新規事業を)やる側もやっていますが、大企業のたくさんの新規事業を支援してきて心から思うのは、大企業の社員にはものすごく大きな可能性があるということです。でもさっき「新しいことはベンチャーがやることだ、大企業は新しいことができない」なんて言われたりしていて、正直悔しいです。

そうじゃないですよね、できます。私たち大企業の社員からでも社会は変えられるんです。それを私はこの事業で証明したいと思っています。ありがとうございました。

(会場拍手)

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