社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では6人目のプレゼンターである大阪体育大学4年生の定久勇吾氏が、相対的貧困率の高い沖縄で、子どもの体験機会を増やすプランを紹介します。
沖縄の相対的貧困率は全国平均の約2倍
司会者:それでは6人目の方にご登場いただきます。定久勇吾さんです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。定久さん、準備はよろしいでしょうか?
定久勇吾氏(以下、貞久):はい、大丈夫です。
司会者:はい。それではピッチスタート。
定久:沖縄の未来を子どもたちとともに。定久勇吾です。今日は沖縄県を代表して沖縄の社会課題のリアルと、子ども支援領域に日々アプローチする人々の奮闘をお伝えします。
さっそくですが、みなさん沖縄県を訪れたことはありますか? 観光地として非常に魅力を感じている方は多いかと思います。私の母が沖縄県出身ということもあり、幼少期からよく沖縄に行く機会がありました。
私もみなさんと同様に沖縄に魅力を感じていたものの、約9年前、この数字と出会いました。29.9パーセント。これは沖縄の相対的貧困率を表した数字です。この数字は全国平均の約2倍です。貧困が原因、または関連して、さまざまな社会課題が沖縄で顕在化しています。

一方、さまざまな課題が見える化されたことにより、子ども支援領域にアプローチする人は非常に増えています。実際に子ども食堂の充足率は全国トップ。居場所の利用者数も年々最多を更新しています。


しかし「マイナスを0にはできるが、0からプラスにはできていない」。これはNPOの代表、金城さんにいただいた言葉でした。金城さんは子ども支援領域で10年間活動しています。

当初は貧困に対して子ども食堂を中心とした食事のサポートを行っていました。お腹を満たして笑顔になる子どもたち、元気に居場所に来る子ども。そんな子どもたちの笑顔を見て当初はやりがいを感じていましたが、徐々に違和感を感じ始めます。
それは一時的なアプローチでしかないということです。従来の支援では社会的自立までのハードルが非常に高く、貧困の連鎖を抜本的に解決する方法にはならないことに気づきました。金城さんは頭を悩ませました。


しかしこれは金城さんが例外なのではありません。他のNPOや子ども食堂のみなさんも同様の感覚を抱いています。そんな沖縄に必要なのは、衣食住にアドオンする形で自立に向けての体験機会です。
沖縄振興予算が大幅に減額され、さらなる問題悪化の可能性も
定久:「自分はできる」という自己効力感、やりたいことにチャレンジできる環境。それをもって初めて社会的自立が促されます。実際、沖縄ではNPOが提供している体験機会が増えてきました。子どもたちに日々体験を提供する魅力的なみなさんがたくさんいらっしゃいます。


しかし、まだまだ体験を届けられていない子どもがいる。これはNPOのみなさんが口を揃えておっしゃることです。ではなぜ体験機会の実現、そして拡大が難しいのか? 私は沖縄のNPO約20団体にヒアリングしました。
「お金のやりくりがとにかくしんどい」「身銭を切って運営している人もいる」。さまざまな課題を聞く中で、私はNPOの資金不足に目をつけました。資金がないがゆえに人材を獲得できず、発展的な活動ができない。よって資金を作ることができない。このようなループに陥っています。

また、団体の増加に伴うサポートの希薄化や、今後、沖縄振興予算は大幅に減額されるとも言われています。体験機会を広げることが難しい今、体験を作るには民間主導の新たな資金調達の形が必要です。
そこをアプローチするのが私たち「ゆいシフト」です。私たちは子ども支援の財団を設立します。企業とNPOのハブに入り、両者が担うべきリソースを私たちが担います。

企業の寄付を募り、自社で管理しNPOとともに体験機会の中長期計画を作ります。実際に体験機会を実行し、企業に効果測定としてレビューを開示していきます。ただ寄付をする、ただ社会貢献をするのではなく、企業寄付の価値がどのように効果として現れているのか、それを可視化していきます。

それでは既存の財団との違いは何か。私たちは体験機会専門財団として、0から1を作る部分にフルベットしていきます。まずは体験事業を提供しているみなさんにサポートを始めていきます。
30万円で年間240人が体験機会を得られる
定久:実際に寄付してくれる企業さまの声です。「沖縄の子どもたちに弊社のプロダクトを知ってほしい」「中長期目線で効果のある寄付をしていきたい」。また「過去に寄付をしていたが、寄付が本当に効果があるのかわからず、検討後、結局寄付することをやめた」。このようなお話を聞きました。

私たちは、社会貢献の意識が高く、子どもとの接点を作りたい、食品や日用品、子ども用品等を扱っている企業さまをターゲットに、私たちのスキームを訴求していきます。

私たちの強みです。1つ目に企業認知の獲得、2つ目に中長期の効果測定です。まず1つ目からです。単なる普通の寄付のあり方と比べ、体験機会の寄付は非常にメリットがあります。
口コミシェアの促進や持続的な印象等。みなさんも過去を振り返ってもらえるとわかると思いますが、何かの体験をすると、それが非常に頭の中に残っていると思います。中長期で子どもと企業が接点を取ることができます。

体験機会への寄付を通して、自社の企業認知を親、子ども、団体に直接訴求し、企業信頼の向上や商品のPRを進めていきます。
続いて中長期の効果測定です。体験機会を提供するNPOが30万円の寄付を受け取った場合、スポーツイベント体験の場合は30万円の寄付が年間あれば月に20人、そして年間240人の子どもたちが新しい体験を得ることができます。

また寄付に対してどのような内容で、かつどのように使われたのか、そして何人の子どもたちに体験が提供できたのかを、インパクトレポートという形で可視化していきます。

また、支援の妥当性や初期アウトカム、長期アウトカムという形で、貧困の連鎖に本当にアプローチができているのか、それを徹底的に可視化し、寄付の要素と中長期効果を企業に訴求していきます。
2033年には15,000人に支援を
定久:行政リソースの限界から、社会課題解決に非常に時間がかかっています。そこを企業寄付や個人寄付を用いて、小さく早く体験機会の検証を行い、民間の成功事例を増やしていきます。公的資金で居場所の充実を図り、私たち民間で体験機会の充実を測っていきます。
今後の事業展開です。まずは今年、3団体に300万円の寄付を促そうと考えています。そして2030年には県内50団体、5000万円の寄付を子ども支援に循環させていきます。

続いて、ソーシャルインパクトです。2025年には600人、そして2030年には1万人。今沖縄では1万5,000人の子どもたちが体験機会を得ることができないと言われています。2033年には1万5,000人すべての子どもたちに、体験を付与していこうと考えています。

また、これだけでは終わりません。私たちは資金調達に加え、収益性のある事業までの伴走サポートもしていきます。沖縄の特徴である補助金ありきの運営から、団体として自走していく力をともにつけていきます。
現在、子どもにまつわる社会課題はたくさん顕在化しています。これは子どもを取り巻く環境のパンクであり、早急に解決する必要があります。私たちゆいシフトは、これからの未来を担う子どもたちを企業、個人、地域、社会で育てる環境を実現していきます。
子どもたちと日々向き合うNPOのみなさんを資金調達の面からサポートし、沖縄の文化である助け合いの文化、新たなゆいまーるの形を実現していきます。沖縄の未来を子どもたちとともに。ゆいシフトの定久勇吾でした。ご清聴ありがとうございました。
司会者:はい。定久さん、ありがとうございました。
「体験」という言葉の解像度が物足りない
司会者:それでは山中さんお願いします。
山中礼二氏(以下、山中):ゆいシフトという名前がいいですね。
定久:ありがとうございます。
山中:体験機会を創出し、そこに企業を巻き込んでいくというコンセプトが非常に絶妙だなと思いました。1個質問したいんですが、実際に何かテスト、トライアル的にやってみましたか? 何かの企業を巻き込んでとか。
定久:今はちょっとヒアリング段階です。企業に「これぐらいの金額があれば、これぐらいの子どもたちに体験を提供できます」というヒアリングをして、非常にポジティブな印象を持っていただいている段階です。今後NPOさんと検討しながら進めていくというふうに考えています。
山中:いいですね。どこかのNPOと組んで、どこかの企業を巻き込みながら小規模にまずは実験をしてみると、今後さらにビジネスの解像度が上がっていくのかなと思いました。
僕が今のままだと、ちょっと解像度が物足りないなと思った理由は……「体験」ってすごく大きい言葉で、いろいろな体験が含まれると思うんですよね。自然を体験する、起業家的な行動をして「何かやったぞ!」という自己効力感を持つのも体験だし、いろいろな体験があると思うんですよね。
なので、どういう企業を巻き込んで、どういうタイプの「体験」を与えるかについては、何か起業家として戦略があったほうが良い。その戦略がビジネスプランの中に組み込まれているとさらに解像度が高く、より説得力のあるピッチになったかなと思いました。
でも方向性としては本当に素晴らしいので、がんばっていただきたいですし、ぜひ諦めずに粘り強く追求していただきたいです。
定久:はい。ありがとうございます。
企業寄付の総量を増やせるかが課題
安部敏樹氏(以下、安部):発表ありがとうございました。
定久:ありがとうございます。
安部:体験格差という言葉づくりから、そこに出てきた(NPO法人)ちゅらゆいの金城さんと一緒に、「Arch to Hoop 沖縄(アーチ トゥ フープ オキナワ)」」という団体をモルテンさんと一緒に作ったりということで、沖縄の体験格差の問題はある程度理解していると認識しています。
その意味で、課題の解像度はすごく高いんじゃないかなと思っている一方で、今山中さんもおっしゃっていたみたいに、ソリューションに対する解像度はやっぱりまだかなり足りないところが大きいかなと思いました。
個人的に、今の話の中に足らなかった1つのポイントは、「これは企業寄付の総量を増やすのに貢献するのか?」ということだと思うんですね。
つまり、今ある企業がしている寄付に対して、その寄付を何かどこかにスイッチしますよ、という話を今貞久さんはしたのか。
それとも貞久さんたちの仕組みが入ることによって、企業がもっと寄付をするインセンティブができるということなのか。これによって話がだいぶ変わってくると思います。そうじゃない限りは、この限られた寄付というパイを、別の団体とか別のテーマからも常に奪い合いをすることになるので、このループから抜け出していけると、より良いだろうなと思ったのがの1個と。
子どもが自立するまでのプロセスとは
安部:もう1個はやっぱり基本的に、子どもの支援って貧困対策の文脈で語られることが多くなっており、そこにすごく課題があるよってことなんですよね。
本当は、その体験自体は子どもたちが自立して意欲を持っていくために必要なものであり、これが社会の活性化を促すための1つの大きなポイントになってくるという意味で、とても大事なんですけど。
一方で、自立がなされていくための体験とはどのように定義されるのか。もし仮説を持っているのであれば、ちょっと教えてほしいんですけど、その辺はいかがでしょうか?
定久:はい、ありがとうございます。これは自分の経験にもなるんですけど、ずっとサッカー選手を目指して、サッカーに取り組んできて、これも1個の体験だと思っています。
何かに挑戦して、失敗する。うまくいかないところに対して自分でまたプランを考えてまた実行していく、そういったPDCAサイクルみたいなところは、体験機会を作っていくことで子どもたちが(自立への体験を)育むことができる1つのポイントだと思っています。そういった経験を、いろいろな子どもたちに提供できたらな、と考えています。
安部:まさに今みたいな話が、実は体験サプライヤーの中ではめちゃくちゃ多様なんですよ。つまりその体験に、そもそも目的がないことがいいと言う人もいれば、大人が伴走したほうがいいと言う人もいれば、しないほうがいいと言う人もいる。
その時において挑戦の度合いはどれぐらい、ストレッチポイントはどれぐらいなのか、そうじゃないのかみたいな話とか。あるいはそれは体験のカテゴリーが芸術なのか、身体的なものなのか、あるいは別の読書体験なのかみたいな話でもぜんぜん違うよねとなってきていて。
無数にある体験をどのように整理して、特にその自立していくプロセスにおいて「こういう体験がこれだけ効くので、ここにこう投資をすることで寄付をお願いします」と言っていくのが、やっぱり必要になってくるかなと思ったんです。
この辺の部分を、沖縄というフィールドにしっかり焦点を当てる中で、1個ずつデータを出してこられるといいんだろうなと思いました。でも、やっぱりこういうリスクを取るやつが必要だから。がんばってほしいな。俺も一緒にやりたいと思うので、応援しています。
(会場拍手)