社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では5人目のプレゼンター、九州大学2年生の西村齊明氏が、ドローンを使用した新製品で世界の地雷撤去を進めるプランを紹介します。
毎年5,000人が地雷の被害に遭っている
司会者:5人目は西村齊明さんです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。西村さん、よろしくお願いします。
西村齊明氏(以下、西村):よろしくお願いします。
司会者:ご準備よろしいでしょうか?
西村:はい。
司会者:それではピッチスタート。
西村:地雷除去を加速させる。西村齊明です。みなさんもまだ記憶に新しいかもしれませんが、3年前のこの時期(2022年2月24日)、ロシアがウクライナに侵攻しました。私は地雷とは過去のもので、もう使われることはないと思っていました。しかし実際には今もこの地で地雷が使用され、ウクライナの国土の3分の1程度が地雷によって汚染されていると言われています。
「僕の足はどこ?」。この発言は決して本の中の世界ではありません。日本に住む我々にとって想像のしがたい現実かもしれませんが、実際にこのような現実は、世界の60ヶ国以上で起こっています。

地雷の被害に遭っている方は、毎年5,000人もいます。そのうちの40パーセントは子どもという統計が出ています。つまり、この戦争や紛争とは直接関係のない世代。第2世代、第3世代の子どもたちが被害に遭っているということが言えます。


このような悲惨な状況にも関わらず、地雷の除去には1,000年程度かかると言われています。私たちはこの10世紀もの間ずっと、この現実に指をくわえ続け、ただ見つめることしかできないのでしょうか?

なぜ1,000年程度かかるのか。私はこの問いを明らかにするために、カンボジアに渡航して実際の地雷の除去の現場を見てきました。地雷除去の先進国と呼ばれるカンボジアにおいても、未だに手作業による除去作業が進んでいました。

実際の除去工程を見てみると、除草から地雷の探知、そして掘削、誘爆まで、今でも基本的にすべて手作業で行われています。作業員は自らの安全性を確保するため、作業はどうしても慎重にならざるを得ません。
日本のドローンメーカーと共同開発
西村:また地雷の探知も非常に問題です。この地雷の探知率はおよそ0.01パーセントと言われています。どういうことかと申しますと、基本的に地雷は金属を含んでいますので、金属探知機によって地雷を探知しようとします。しかし、地雷原にはもちろん地雷以外の金属片も多数残っており、そのようなエラーによって0.01パーセント程度の割合になっている現実があります。

彼らは地雷かどうか判別するために、それぞれ反応があった地点を掘削して確かめるほかありません。従って探知と掘削において、(探知率は)0.01パーセント程度でありますので、99パーセントほどは金属クズをただ掘っているという、無意味な時間が生まれています。
そう、除去作業の効率化と自動化が今求められています。私はこの問題を解決するために、ドローンによる除草、探知、及びその後マイクロ波での処理による解決策を提案します。
ファーストステップとしてドローンを使って地雷を探知します。みなさんがご想像いただくように、上空からドローンを滑空させていって、反応があったポイントを地図上にマーキングします。現在、埼玉に拠点を置くドローンメーカーと共同開発を進めており、彼らがすでに開発していた草刈りを行うドローンの機体は、地面すれすれを飛ぶことができます。

ここの草刈りを行う先端のアタッチメントをハンディタイプの金属探知機にリプレイスすることによって、地雷の探知が可能になります。その後発見された地雷を、電子レンジと同じ環境に入れてあげます。電子レンジで地雷を温めるということを、いったん想像いただきます。


ただ、その状況を再現するためにもう1つ楕円の性質を使います。焦点が2つあることを利用して、一方の焦点からマイクロ波を照射し、そしてその楕円ミラーによって、マイクロ波を反射させ、1つの焦点にエネルギーを集中させます。
ステップですが、この地雷の信管、今赤で示しているところがほとんど金属のみで作られている性質を利用し、ここにマイクロ波を集中させます。それによってスパークがパチッと起き、ブースターに着火することによって、爆薬が爆発し無力化することができます。
この 指向性を持ったマイクロ波の焦点を当てて地雷を無力化する方法で行うと、およそ1.5kW程度の出力においても、30秒ほどで地雷が無力化できるというシミュレーション結果を得ています。
地雷除去の市場は年6パーセントで成長中
西村:プラスチック製のプロトタイプ版ではありますが、これをプラスチックから今のアルミに変換することによって、すでにある程度有効なものができると考えています。専門家であるカンボジア地雷対策センターの研究開発部チーフからは「全体のコストの低減につながる」「圧倒的なコストパフォーマンスを実現させる」という評価をいただいております。

また防衛装備庁の関係者からは「究極的にはこのマイクロ波による処理は、今の面倒な探知のステップをスキップできるため、非常に有用な解決策である」というコメントをいただいております。
実際の工程を見てみると、除草、地雷探知においてドローンを使い、その後の掘削のステップを飛ばし、マイクロ波によって爆発させます。これらのソリューションによって、現在1ヘクタールあたり3ヶ月かかっていたところを10日に、コストもおよそ3分の1程度まで削減できると考えています。

ビジネスモデルです。行政やNPOなどの地雷除去団体に対して、自分たちは技術の提供を行っていきます。ファーストターゲットとしては、ウクライナやミャンマーなど直近で地雷が埋設されて非常にニーズが高いところ。
2026年からカンボジアで実証実験スタート
西村:それから地雷が埋設されて数十年経って被害者が減少しているが、それでもなお貧困者層に一定程度の被害が出ているところ(カンボジア、ラオス)です。ここは地雷除去に対するニーズがそこまで強烈ではないので、地雷除去後の土地のコンサルティングサービスによって除去を進めていきます。

販売価格ですが、地雷除去の緊急度によって販売価格を変えていきます(低い場合は20万円/月額のサブスク型、高い場合は500万円〜/機体の買い切り型)。

競合分析です。今のところ実用化されている段階においては、自分たちの競合は存在しておりません。ですが、地雷の探知においても誘爆においても、研究開発段階にあるメーカーさんはいくつかおられます。
私は競合という考え方ではなく、今行っている手作業をいかに自動化、リプレイスできるかという観点で事業を展開していきたいと考えています。市場規模は年6パーセントで成長しております(Serviceable Obtainable Market25億円、Serviceable Available Market 450億円、Total Addressable Market 1500億円)。

今後の展望です。1年以内に技術開発を行い、カンボジアにおいて実証実験を2026年から開始させます。そして2028年程度から全世界にテストローンチを行っていきます。

地雷は、悔しくも人間が開発してしまい、それによって多くの犠牲者を出しています。しかしながら私はこの技術開発、そして技術の実装によって、社会を変革していきたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。
司会者:はい、西村さんありがとうございました。
NGOとパートナーシップを組むべき理由
司会者:それでは中村さんお願いします。
中村多伽氏(以下、中村):はい、発表ありがとうございました。すごく違う角度でとても重要な課題に取り組んでらっしゃって、素晴らしいなと思いました。私はちょっと技術の専門家じゃないので、詳しい正当性はわからないんですけれど。
例えば探知犬や金属じゃなくて爆薬に反応できるラットとか、いろいろな代替手段がすでにあるかなと思っていて。だけどコストの面で、アナログ(な除去作業)が代替されてない現状もあるかなと思うんです。
この技術を選択した理由と、それがアナログよりもコストが安くなる、結果的に安くなるとされてるのはなぜなのか、お聞きしてもいいですか?
西村:この分野においては、究極、万能な地雷探知の方法は存在してないと言われていて。ラットや犬は、非常に限定された領域において、ものすごく優位性を発揮すると言われています。
ただ、一部しかまだ導入が進んでいないのは、手作業より、そのラットや犬を使うほうが今はコストが高くなってしまっていると言われています。
中村:あ、そのコストが安い・高いは、何をもってそういう表現になってるのかを、ちょっと伺いたいです。勉強不足ですみません。
西村:除去作業(のコスト)はほとんど人件費に当てられているんですが、この除去の時間が圧倒的に短縮されるため、コストを削減できると試算しています。
中村:じゃあ、ラットや犬の時間が、人間よりかかってるからコストが高いっていう。
西村:えっとですね、それは前段の(犬やラットの)トレーニングのほうにものすごく時間とコストをかけているので。
中村:なるほど、わかりました。私は手段としての正当性を評価ができるほどの知識がないんですけどどう広げるか、最後のここと組みますかみたいなやつ(流れ)が、より具体的になるといいなと思っていて。
例えば私は先々週ぐらいにUNHCRの難民会議に参加してきたんですけど、いろいろな国のいろいろなNGOがいろいろな手段を開発して、戦争当事者の方々を助けようとしている。
ちゃんとそこにアクセスできたら、いろいろな実証が進むんじゃないかなって思いました。競合に勝って売り待ちですみたいな感じよりは、パートナーシップを積極的に組んでいくのがいいかなって、伺っていて思いました。応援してます。
西村:ありがとうございました。
開発中の新しい地雷探知機の精度とは
司会者:それでは田口さんお願いします。
田口一成氏 (以下、田口):はい、ありがとうございました。(ゼロイチが始まった当初から)今みたいなアイデアがもともとあったけど、それを実装できる技術がなくて、結局どういうモデルにしていいかですごく悩んでたところから一転、一気に(現在のビジネスアイデアまで)いった感がある。
今日のプレゼンで、この技術に関しては、すごく自信を持っていたかなと思っています。そこで質問です。(以前、この技術が)いつ(実現)できるかわからないみたいな話をしてたと思うんだけど。仮に(地雷が)あった時に、あのやり方で探知したり爆破できる精度って実際どのぐらいありますか。
精度が何パーセントっていう形でもいいし、あと2年ぐらいでできるとか、そこらへんをまず1回知りたいので、ちょっと教えてもらっていいですか?
西村:正直なところ、その実証をこれから進めていく段階にあります。なので数年単位でかかってくるのですが、今パートナーを組んでいるドローンに関しては、ドローンの機体とロボティクスの分野で国内でも有数の技術を持っている会社さんと認識しています。
マイクロ波による除去に関しては、けっこうアイデアドリブンなところはあります。これまで誰も目をつけていなかった一方で、ものすごく可能性がある手法になっているかと評価しています。
田口:ノリが変わった、なんかいけるなって思った理由は何なのか知りたいな。
西村:この社会課題に向かっているところもそうなんですけど、民間企業さんが乗ってくださらないという認識があったんです。でも実際に打診をしてみると、お断りされるところもあるんですが、お話をしていく中で共感いただいて、一緒にやっていこうと(いう会社がありました)。しかも技術を持っているところで、探知に関してはものすごく可能性があるんじゃないかと、今感じているところではありますね。
田口:なるほど。そこはすごく学びが多いなと。やっぱりそこはゼロイチとしても重要なんじゃないかなと思っていて。解決されてない課題に向かっていこうとする時に、こういう技術的なアプローチもめちゃくちゃあって、既存の組み合わせでできることもあれば、基礎的な技術としてまだ追いついてない時もある。
その中で諦めちゃうのか、それでもやっぱり続けていくのかって時に、何があって続けようって思えたのかなってのはすごく知りたかったです。
探知の精度にフォーカスして実証実験を繰り返すべき
田口:それでビジネスモデルの話をすると、探知と除去っていう大きく2つの話があって。まあ草刈りとか細かいところもありますけど。普通は今の技術的な状況としてたぶん探知から始めましょうってなると思うんですよね。
でも探知できる確率が99.9パーセントぐらいないと、実際にドローンで探知してここだよって言って売ったんだけども、結局探知できてない場所があって、「ここ掘れワンワン」ってやり始めて、そこで爆発が起きましたって言った時に。
この信頼性への揺らぎが起こった結果、いったんマーキングはできるんだけど、その後どう掘りに行くのかっていうところ。
これはやっぱりドローンで除去までやらないと、結局人間に対するリスクが排除できないっていう話になって、探知から始めることができないんじゃないか。ここがワンセットになっちゃうと、だいぶ稼働が遅れるのが唯一というか、一番大きい問題だなって思います。
そこへの精度がどのぐらい上がっていくのかにむっちゃフォーカスして検証しまくって。いったん「ここ掘れワンワン」ってマーキングの精度だけをもう100パーセントだよっていうぐらいの実証研究を繰り返す。まずここにフォーカスしたほうがいいんじゃないかなって思いました。がんばってください。
西村:ありがとうございます。
司会者:ありがとうございました。それでは発表いただきました西村齊明さんに、どうぞ大きな拍手をお送りください。
(会場拍手)